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第四章・それぞれの想い
20・忘れ得ぬ人
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皇帝陛下というこの帝国最大の権力者に、信頼と理解を得られた私は、その密命を胸に暗躍することを決める。親愛なるキャロラインを守り、そして帝国の未来をも左右するという大切なお役目を胸に。そしてまず、一つだけ確認しなくてはならないのは、スティーブ殿下の本心を探ること…
あの金髪キザ野郎と心の中で呼んでいた私は、ルーシーに相当に執心で盲目的になったことが、その心や行動に影響を及ぼしているのだと思っていた。だけど皇帝陛下から伝えられた新事実…そのことが、私のその確信を黒から灰色に変えた。それが白に近付いていくかどうかは、スティーブ殿下次第だと思う。そして最終的にはどちらの色になるのかも…
皇帝陛下の仲間になって一週間、私は守るべき親友キャロラインの側で変わらずに過ごしている。秘密の仲間になった後でも、基本やることは同じだからね?そう思っていると…
「これから体力強化の授業があるじゃない?面倒よねぇ…」
そう言って机に突っ伏すのは、クリスティーヌだ。どうも運動が苦手らしい。それにブリジットも同意して…
「私も~!何故貴族の令嬢が、走らないといけないのかしら?そんなの実生活で活かせる場面なんてあると思う?」
そう疑問を口にしてブーブー言っている。確かにそうだけどね…
学園では週に二回、体力強化を目的とした授業がある。それは学年合同で行われ、おまけに令嬢だといっても対象外になる訳でもない。ドレスを脱いで体操着に着替え、それから走ったり歩いたりするが、その後は決まって…筋肉痛になる。
「そうよね~この前なんて、運動場で繰り返しダッシュさせられて、もう脚、動かなかったわ!酷くない?」
「そう、そーっ!」
そう言って文句が止まらない私達だが、授業が無くなる訳はなく渋々着替え始める。サックス色のシャツに茶のズボン、それにふくらはぎまでの黒いブーツを履いた。このシャツの色は全員同じと決まっていて、高等部はサックスブルー、中等部はイエローグリーンに統一されている。運動場は共同の為に、一目でどちらの生徒なのか見分ける為に色分けされているようだ。便利といえば便利!
それから身軽な恰好になった私達は、嫌々ながらも運動場へと向かう。そしてそれは他の令嬢達も同じ気持ちのようで、やる気がなさそうだ。その中にはもちろんルーシーの姿も…。私は唯でさえ面倒な運動の時間に、更に面倒なことは避けたいと、今日は近付かないことに決める。
「今日は少し暑いので、この帝都学園の敷地をぐるりと一周歩くだけでいいぞ!そして歩いた者から順に解散だ!」
「ええーっ!そんな…」
そんな教師の言葉に、男女問わず一気にやる気を失う。この暑い中を、おまけにこのだだっ広い学園を一周するなんて、考えただけでも鬼の所業だ!
「ハハハ…もう笑うしかないわね?体力温存で、ゆっくり歩きましょうか…」
私がそう言って提案すると、あとの三人は苦笑いで頷く。それから私達は、トボトボと歩き出す。と、その横をビュンとスピードを上げて、通り過ぎて行く一団が。騎士教科を学ぶ体力のある生徒達が走り出したようだ。それにスティーブ殿下やロブ達も、負けじと続いて走って行くのが見える。おっ、令息達はまた違う闘いがあるようだわね?負けては沽券に関わる…ってやつかしら?そんなの無駄な闘いだと思うけど…
そうして全員が出発した。まずは運動場から正面玄関へ出て、この辺でふくらはぎが張ってくる。それから高等部の校舎の裏を進むと今度は足首が痛くて…。それを我慢しながら講堂から中等部の校舎へと向かうと、太腿がパンパンに!それを何とか引きずりながら進んで、やっと運動場へ戻って来た時には、生まれたての子鹿のように脚がガックガク!疲労困憊で歩くのもままならなくなって…
「も、もうダメ!誰か手を引いて~」
ブリジットがそう言って手を前に差し出すと…それを意外な人物が握る。
「えっ…アンドリュー!?」
ブリジットの双子の片割れアンドリューが、運動場に残っていたようだ。ぶっきらぼうにぎゅっと手を握ってブリジットを引っ張って行く。
──あれっ…走ってたし、もうとっくに着いてた筈だけど?喧嘩ばかりしていると言っても、やっぱり兄妹なのね!
そう微笑ましい気持ちになった。ブリジットはさして抵抗もせずに、そのまま連れられて行く。それをフフッと笑いながら見つめる私達。それに続いて歩こうとすると、キャロラインが驚いて声を上げる。
「あら、見て!今度は中等部の生徒達が一周するみたい。おまけに念入りに準備運動してるから、全員走るんじゃない?」
その声に再び運動場を見ると、中等部の校舎からぞろぞろと生徒達が出てくる。体格はそれほど変わらない感じだけど、顔はどこかあどけない。私も病気にさえならなかったら、ああして中等部から通っていたのかしら?と微笑ましく見ていると、突然一人の男子生徒から目を離せなくなる。
──あれ…あの人、見覚えがなかったかしら?
イエローグリーンの若葉のようなシャツを着て、颯爽と運動場へと歩いて来るその人。中等部の生徒にしてはかなり背が高いようだ。そして運動場の中程まで進むと、他の生徒と同じように準備運動を始めた。友人達と何やら話している様子だったが、私のそんな視線を感じたのか、スッとこちらに目を向けて…
それからじっと見つめ合う二人。何故か、その目を離してはいけないような気がする。それは向こうも同じようで、二人して不思議な感覚に囚われて…
すると突然、その男子生徒がこちらに向かって駆け出した。ええっ…どうして!
猛スピードと言っていいくらいに、みるみる近くなる。広い運動場のほぼ端から端までと言っていいほどの相当な距離を、あっという間に縮めて!それには恐怖さえ感じて…だけど私は、何故かその場から離れられない。そして至近距離まで来ると…
「ア、アリシア?君は、アリシアなんじゃないか?ランドン家の…」
その男子生徒は、太陽に透ける朱色の髪を揺らし、まるで黒水晶のような瞳でじっと私を見ている。そしてここまで全速力で走った為に、流れる汗を煌めかせて…
──あ、あなたは?
あの金髪キザ野郎と心の中で呼んでいた私は、ルーシーに相当に執心で盲目的になったことが、その心や行動に影響を及ぼしているのだと思っていた。だけど皇帝陛下から伝えられた新事実…そのことが、私のその確信を黒から灰色に変えた。それが白に近付いていくかどうかは、スティーブ殿下次第だと思う。そして最終的にはどちらの色になるのかも…
皇帝陛下の仲間になって一週間、私は守るべき親友キャロラインの側で変わらずに過ごしている。秘密の仲間になった後でも、基本やることは同じだからね?そう思っていると…
「これから体力強化の授業があるじゃない?面倒よねぇ…」
そう言って机に突っ伏すのは、クリスティーヌだ。どうも運動が苦手らしい。それにブリジットも同意して…
「私も~!何故貴族の令嬢が、走らないといけないのかしら?そんなの実生活で活かせる場面なんてあると思う?」
そう疑問を口にしてブーブー言っている。確かにそうだけどね…
学園では週に二回、体力強化を目的とした授業がある。それは学年合同で行われ、おまけに令嬢だといっても対象外になる訳でもない。ドレスを脱いで体操着に着替え、それから走ったり歩いたりするが、その後は決まって…筋肉痛になる。
「そうよね~この前なんて、運動場で繰り返しダッシュさせられて、もう脚、動かなかったわ!酷くない?」
「そう、そーっ!」
そう言って文句が止まらない私達だが、授業が無くなる訳はなく渋々着替え始める。サックス色のシャツに茶のズボン、それにふくらはぎまでの黒いブーツを履いた。このシャツの色は全員同じと決まっていて、高等部はサックスブルー、中等部はイエローグリーンに統一されている。運動場は共同の為に、一目でどちらの生徒なのか見分ける為に色分けされているようだ。便利といえば便利!
それから身軽な恰好になった私達は、嫌々ながらも運動場へと向かう。そしてそれは他の令嬢達も同じ気持ちのようで、やる気がなさそうだ。その中にはもちろんルーシーの姿も…。私は唯でさえ面倒な運動の時間に、更に面倒なことは避けたいと、今日は近付かないことに決める。
「今日は少し暑いので、この帝都学園の敷地をぐるりと一周歩くだけでいいぞ!そして歩いた者から順に解散だ!」
「ええーっ!そんな…」
そんな教師の言葉に、男女問わず一気にやる気を失う。この暑い中を、おまけにこのだだっ広い学園を一周するなんて、考えただけでも鬼の所業だ!
「ハハハ…もう笑うしかないわね?体力温存で、ゆっくり歩きましょうか…」
私がそう言って提案すると、あとの三人は苦笑いで頷く。それから私達は、トボトボと歩き出す。と、その横をビュンとスピードを上げて、通り過ぎて行く一団が。騎士教科を学ぶ体力のある生徒達が走り出したようだ。それにスティーブ殿下やロブ達も、負けじと続いて走って行くのが見える。おっ、令息達はまた違う闘いがあるようだわね?負けては沽券に関わる…ってやつかしら?そんなの無駄な闘いだと思うけど…
そうして全員が出発した。まずは運動場から正面玄関へ出て、この辺でふくらはぎが張ってくる。それから高等部の校舎の裏を進むと今度は足首が痛くて…。それを我慢しながら講堂から中等部の校舎へと向かうと、太腿がパンパンに!それを何とか引きずりながら進んで、やっと運動場へ戻って来た時には、生まれたての子鹿のように脚がガックガク!疲労困憊で歩くのもままならなくなって…
「も、もうダメ!誰か手を引いて~」
ブリジットがそう言って手を前に差し出すと…それを意外な人物が握る。
「えっ…アンドリュー!?」
ブリジットの双子の片割れアンドリューが、運動場に残っていたようだ。ぶっきらぼうにぎゅっと手を握ってブリジットを引っ張って行く。
──あれっ…走ってたし、もうとっくに着いてた筈だけど?喧嘩ばかりしていると言っても、やっぱり兄妹なのね!
そう微笑ましい気持ちになった。ブリジットはさして抵抗もせずに、そのまま連れられて行く。それをフフッと笑いながら見つめる私達。それに続いて歩こうとすると、キャロラインが驚いて声を上げる。
「あら、見て!今度は中等部の生徒達が一周するみたい。おまけに念入りに準備運動してるから、全員走るんじゃない?」
その声に再び運動場を見ると、中等部の校舎からぞろぞろと生徒達が出てくる。体格はそれほど変わらない感じだけど、顔はどこかあどけない。私も病気にさえならなかったら、ああして中等部から通っていたのかしら?と微笑ましく見ていると、突然一人の男子生徒から目を離せなくなる。
──あれ…あの人、見覚えがなかったかしら?
イエローグリーンの若葉のようなシャツを着て、颯爽と運動場へと歩いて来るその人。中等部の生徒にしてはかなり背が高いようだ。そして運動場の中程まで進むと、他の生徒と同じように準備運動を始めた。友人達と何やら話している様子だったが、私のそんな視線を感じたのか、スッとこちらに目を向けて…
それからじっと見つめ合う二人。何故か、その目を離してはいけないような気がする。それは向こうも同じようで、二人して不思議な感覚に囚われて…
すると突然、その男子生徒がこちらに向かって駆け出した。ええっ…どうして!
猛スピードと言っていいくらいに、みるみる近くなる。広い運動場のほぼ端から端までと言っていいほどの相当な距離を、あっという間に縮めて!それには恐怖さえ感じて…だけど私は、何故かその場から離れられない。そして至近距離まで来ると…
「ア、アリシア?君は、アリシアなんじゃないか?ランドン家の…」
その男子生徒は、太陽に透ける朱色の髪を揺らし、まるで黒水晶のような瞳でじっと私を見ている。そしてここまで全速力で走った為に、流れる汗を煌めかせて…
──あ、あなたは?
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200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
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