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クリスマスの王子様
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「こんばんは。お邪魔します」
菜乃花は小児科病棟のナースステーションに、小声で挨拶に行く。
子ども達は1時間前に就寝時間となり、病室は暗く静まり返っていた。
「鈴原さん、こんばんは。クリスマスイブなのに、ありがとう」
ベテランのナースが、声を潜めながら笑いかけてくれる。
菜乃花は、30分程で終わりますから、と断ってプレイルームに行った。
「さてと!まずはこのカードと本をツリーの下に並べて…」
持って来た紙袋からクリスマスカードを取り出すと、ラッピングした10冊の本と一緒にツリーの近くに置いた。
カードには、『メリークリスマス』の言葉と共に、クリスマスに関するクイズがいくつか書かれている。
そしてその答えは、ラッピングされた本の中に書かれていた。
子ども達が自然と本を手に取りたくなるように、そして興味を持って本を読んでくれるようにと考えて、菜乃花は今夜の為に準備していた。
「これでよし!みんなクイズ、楽しく考えてくれるかな?あとは壁の飾りと…」
明日、目を覚ました子ども達がここに来て、わあ!と喜んでくれるように、飾り付けも華やかにしようとあれこれ持って来ていた。
部屋の片隅にあるパイプ椅子を持ってくると、壁際に広げてからよいしょっと座面に乗って立ち上がる。
ガーランドを手に視線を上げた時、天井の明かりが目に入ってくらっとめまいがした。
「危ない!」
誰かの声が聞こえたと思った次の瞬間、菜乃花の身体はふわりと宙に浮いた。
(…え?)
何が起こったのかと瞬きを繰り返していると、すぐ目の前に颯真の顔が現れた。
「なんてことをするんだ。また頭を打ったらどうする?!」
「え、ど、どうして…」
「君は一度大ケガをしてるんだよ?もっと自分の身体を大切にしないとダメだ」
「あ、あの…私?」
菜乃花は必死で考えを巡らせ、どうやら椅子から落ちそうになったところを颯真に抱き留められたらしいと分かる。
その途端、菜乃花は一気に顔を赤くした。
「もしかしてどこか具合が悪い?だから椅子から落ちそうになったの?」
「いえ、単に眩しくて目がくらんで…」
「でも顔が真っ赤だよ。目も潤んでるし。熱があるんじゃない?」
「これは、その…。宮瀬さんの顔が目の前に迫っていて、それで」
「…は?」
「ですから、恥ずかしくて顔が…」
「そうなの?」
「そ、そんなふうに聞き返されるとますます恥ずかしいです」
「ああ、ごめん」
颯真は菜乃花をそっと床に下ろすと、椅子に座らせてから跪く。
そして菜乃花の額に手を当てた。
「本当に熱はない?やっぱり少し熱いけど」
「大丈夫です!あの、少し離れてください。そうすれば落ち着きますから」
「本当に?」
どういう現象かと思いながら、颯真は立ち上がって後ずさった。
菜乃花は手を胸に当てて深呼吸を繰り返す。
ようやく気持ちが落ち着いて、顔の火照りも治まってきた。
「ふう。ああ、びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだよ。一体、何をしようとしていたの?」
「あ、クリスマスの飾り付けです」
菜乃花は手にしていたガーランドを颯真に見せる。
「これを窓に飾りたくて。明日のクリスマス、子ども達がここでパーティーをするらしいので」
「そうだったんだ。貸して」
颯真は菜乃花からガーランドを受け取ると、椅子に上がる。
「どこにつければいい?」
「あ、カーテンレールに。少したゆませて半円になるように」
菜乃花の指示を聞きながら、颯真はガーランドをテープで留めていく。
「これでどう?」
「バッチリです!ありがとうございます」
「他には?」
「えっと、壁にこの星の折り紙とサンタさんとトナカイの絵を貼って、あとは綿を雪みたいに飾るのと…」
菜乃花が紙袋から次々と取り出し、二人であちこちに飾った。
「出来た!これで終了です」
「うわー、豪華だね。子ども達、喜ぶだろうな」
「ふふ、そうだといいですけど」
「絶対喜ぶよ。ん?これは何?」
颯真はツリーの下に置かれたカードに目をやる。
「クリスマスのクイズ?えーっと、『クリスマスツリーのてっぺんに輝く星の名前は?』え!分かんない!」
真顔で答える颯真に、菜乃花は思わず吹き出した。
「正解は、このラッピングされた本に書いてあるんです」
「そうなんだ!見てもいい?」
「ダメ!子ども達へのプレゼントですよ?」
「えー、気になるんだもん」
「じゃあ宮瀬さんも、明日子ども達と一緒に本で調べてください」
「うん、分かった」
またしても真面目に答える颯真に、菜乃花は堪え切れずに笑い出す。
「宮瀬さん、子どもみたい。あはは!」
途端に颯真は眉根を寄せた。
「子どもみたいなのは君の方でしょ?」
「え?どうして?」
菜乃花はキョトンと首を傾げる。
「気づいてないの?君、酔っ払ったらどうなるか」
「は?!宮瀬さん、私が酔っ払ったところを見たことあるんですか?」
「ええ?!覚えてないの?」
「何を?」
颯真はやれやれと脱力する。
「春樹の家で飲み過ぎて、酔っ払った君を部屋まで送っていったんだよ。そしたら『お風呂に入りたい!』って駄々こねて大変だったんだから」
「はい?!宮瀬さん、私の部屋に入ったんですか?」
「うん、そうだよ」
「そうだよって…。な、何か見ました?」
菜乃花は思わず自分の身体を隠すように両手で抱きしめる。
すると颯真は、思い出したと言わんばかりにニヤリと笑った。
「見たよ」
「な、何を?」
「全く…。あれだけ隠してって言ったのに」
ヒエッ!と菜乃花は、ますます両手を胸の前で交差して身をよじる。
「あの、宮瀬さん?その…、見なかったことにしていただけませんか?」
「無理だね」
「そんなことおっしゃらずに。どうかお忘れください」
「じゃあ、君の部屋に行ってもいい?自分で回収するから」
「は?何を?」
「ほら、そうやってとぼける。やっぱり信用出来ないな。もう一度部屋に行かせて」
そう言うと、颯真は菜乃花が床に広げていた荷物をまとめ始めた。
「飾り付けが終わったら帰るつもりだったんでしょ?」
「はい、そうですけど」
「車で送っていくよ。俺も勤務時間は終わってるから」
「あ、はい。ありがとうございます」
腑に落ちないながらも、菜乃花はありがたく送ってもらうことにした。
◇
「ここで待っててくれる?着替えて荷物を取ってくるから」
「はい。あ、じゃあコンビニで待ってますね」
「了解」
1階に下りると、エレベーターの前で一旦別れた。
菜乃花はすぐ横にあるコンビニに入り、缶コーヒーを2つ手に取る。
レジに向かおうとすると、テーブルの上にたくさんのチキンやオードブル、お酒やケーキが並んでいるのが目についた。
(わあ!クリスマスのご馳走ね)
どれもこれも美味しそう、と真剣に見比べていると、颯真が戻ってきた。
「お待たせ。ん?おお!クリスマスメニューか」
「ええ。せっかくだから買って帰ろうかなと思って。宮瀬さん、うちで食べていきませんか?」
「いいの?」
「はい。どれがいいですか?」
「んー、やっぱりチキンは外せないでしょ。ケーキと、あ!お酒も買う?」
また酔っ払った菜乃花のおかしな姿が見られるかも?と、イタズラ心で言ってみる。
すると菜乃花は、驚いたように目を丸くした後、満面の笑みで頷いた。
「はい!買いましょう」
あれ?と颯真は拍子抜けする。
一方で菜乃花は、やっとお酒を飲む気になってくれたんだ!と嬉しそうに微笑んでいた。
◇
「それでは、メリークリスマス!」
菜乃花のマンションに着くと、ローテーブルに料理を並べて二人で乾杯する。
グラスの中身はジンジャエール。
菜乃花が、買ってきたワインを注ごうとすると、颯真はまたもやそれを拒んだ。
(もう、どうして?)
そう思いつつ、菜乃花は仕方なく諦めることにした。
二人で他愛もない話をしながら、料理を味わう。
「コンビニのチキンも結構美味しいな」
「本当ですね。それに今夜はどこのレストランも混んでるでしょ?おうちでのんびりするのもいいですね」
「確かに。でも良かったの?せっかくのクリスマスイブなのに、子ども達の為に飾り付けして。何か予定あったんじゃないの?」
「特にないですよ。それに子ども達の為じゃなくて、自分が嬉しいだけなんです」
ん?どういうこと?と颯真は首を傾げる。
「子ども達、喜んでくれるかなー?って思いながらあれこれ準備するのって、とっても楽しいんです。今日も、飾り付けしながらワクワクしました。明日、子ども達の反応は見られないけど、喜んでくれるといいな」
そう言ってふふっと笑う。
そんな菜乃花に一瞬見とれてから、颯真はうつむいて小さく呟く。
「参ったな。本当に君は…」
「え?何ですか?」
「いや、どうしてそこまで出来るのかなと思って。君は子ども達の主治医でも担当ナースでもない。ましてや、ボランティアであって仕事でもない。なのにどうして?」
うーん、と菜乃花は考える。
「そんなに変ですか?私のしてることって」
「変だなんて、そんなことはないよ。ただ、単純に不思議なんだ。それと少し心配でもある」
「心配、ですか?」
「ああ。君はプライベートを犠牲にしてるんじゃない?今夜だって、本当は街で素敵なクリスマスイブを過ごすことだって出来たはずなのに」
「それを言ったら、宮瀬さんの方こそ心配です」
「は、俺?どうして?」
「だって、いつも頑なにお酒を飲まないでしょう?非番の時でも」
何の話かと、颯真は目をしばたかせた。
「宮瀬さん。聞いてもいいですか?どうして救急医になろうと?」
「え?どうしたの、急に」
「前から聞いてみたかったんです。救急の現場って厳しいですよね?きっと1分1秒が勝負、ほんの少しのことが生死を分ける、そんな世界じゃないですか?」
「ああ、うん」
「そんな現場で毎日神経をすり減らして、宮瀬さん自身は大丈夫ですか?重荷を背負い過ぎていませんか?宮瀬さんこそ、プライベートを犠牲にしていると私は思います」
真っ直ぐに自分を見つめて静かに語りかける菜乃花に、颯真は言葉を失う。
「俺は別に…。そんなつもりは」
「では、せっかく買ったお酒を飲みましょう」
「いや、俺はいいよ」
「呼び出されるかもしれないから?」
「まあ、うん」
「今、みなと医療センターのERにいる夜勤のスタッフは、そんなに信頼出来ない方々なのですか?」
「まさか!俺なんかよりよっぽど腕のいいドクターばかりだよ」
「でしたらその方々にお任せして、宮瀬さんはちゃんとプライベートを楽しみましょう。心も身体もしっかり休んで、元気満タンにしてから仕事に行きましょう。それも大切な仕事のうちの一つです」
「いや、俺はいつもちゃんと休んでるよ?」
「気づいてないのですか?ご自分が知らず知らずのうちに疲弊していることに。色々なことを抱え込んで、心が疲れていることに」
菜乃花は、あの日菜の花畑で肩を震わせて辛い心情を吐露していた颯真を思い出す。
あの時の颯真は限界ギリギリだった。
いつまたあんなふうに辛い状況に追い込まれるかもしれない。
「宮瀬さん。私はあなたのことを素晴らしいドクターだと思っています。人の心に寄り添うことが出来る優しい人です。あなたには、これからもたくさんの患者さんを救って欲しい、そう願っています。だからどうか、宮瀬さん自身が元気でいてください」
菜乃花の言葉にじっと耳を傾けていた颯真は、やがてゆっくり頷いた。
「ああ、分かった」
菜乃花は頬を緩める。
「では、改めて乾杯しましょ!」
グラスに注いだスパークリングワインで、二人は二度目の乾杯をする。
「メリークリスマス!」
ゆっくりと口をつけた颯真は、ふうと息をつく。
「美味しいな。ジンジャエールとは違う」
「ふふっ、それはそうですよ。宮瀬さん、お酒はどれくらいぶり?」
「最後に飲んだのは学生の時だったから…、何年だ?」
ええ?!と菜乃花は驚いて仰け反る。
「そんなに?!じゃあ、すぐに酔っ払っちゃうかも?」
「どうだろう?」
「まあ、いいですよ。宮瀬さんが酔っ払ったら、私が介抱しますから」
「それは無理だと思うよ」
「え?どうして?」
颯真は、くくっと笑いを堪える。
「なあに?」
「いや、思い出しちゃってさ」
「何を?」
するとますます颯真は笑い出す。
「君こそもっと飲みなよ。俺が介抱するからさ」
「結構です!」
ひとしきり笑ったあと、颯真はふと真顔になる。
「誰かと話すってこんなに楽しいんだな。いや、相手が君だから、なのか」
「ん?またダジャレ?」
「違うって!」
あはは!と笑ってから、颯真は顔を上げて菜乃花を正面から見つめた。
「君は俺の主治医だね。俺よりも俺のことをよく分かってくれている。そしていつも俺の心を癒やしてくれる。俺はどんなに君に救われたか分からない。ありがとう」
菜乃花は微笑んで首を振る。
「私の方こそ。宮瀬さん、いつも私を心配して、そばで守ってくださってありがとうございます。入院中、私はあなたの温もりに触れて、その心強さに安心しました。今日も危ないところを助けてくださって…。本当にありがとうございます」
颯真も菜乃花に微笑みかける。
そしてふと真剣な表情で口を開いた。
「君がそばにいてくれたら、俺は毎日楽しく笑って暮らせる気がする。君がいてくれるだけで心が癒やされてホッとする。君が微笑んでくれたら、それだけで幸せな気持ちになるんだ」
菜乃花ははにかんだ笑みでうつむく。
「私もです。宮瀬さんとなら、何でもない会話も楽しくて。大きな手で守ってくれると心の底から安心して。何も飾らずに、そのままの私でいてもいいんだなって思えます」
「そのままの君が一番いい。顔に似合わず肝が据わっていて、子ども達には優しくて。人の痛みに気づいて、寄り添って、心を癒やしてくれる。そんな君が、俺は誰よりも好きだ」
颯真は、自然に口をついて出た自分の言葉に、驚きつつも納得していた。
(そうだ。俺はいつの間にかこんなにも彼女のことを大切に想っていたんだ)
「ずっとそばにいて欲しい。いつも明るく笑っていて欲しい。俺が必ず君の笑顔を守っていく。だから、俺に君を守らせてくれないか?君のそばで、この先もずっと」
その言葉に、菜乃花はまるで花開くように微笑んだ。
「はい。私もずっとあなたのそばで、あなたの笑顔を守りたいです。優しくて温かいあなたを、誰よりも近くで支えていきたいです」
颯真は喜びに胸が震えるのを感じながら、菜乃花を腕に抱きしめた。
「ありがとう。大好きだよ、…菜乃花」
「私も。あなたのことが大好きです」
互いの耳元で囁くと、少し身体を離して見つめ合う。
と、二人は同時に照れてうつむいた。
「菜乃花」
「はい」
優しい声で名前を呼ばれ、菜乃花は顔を上げる。
なんて愛おしそうに見つめてくれるのだろう。
颯真の真っ直ぐな視線に射抜かれて、菜乃花は目を逸らせない。
やがて颯真の大きな右手が菜乃花の左頬を包み込む。
その手に甘えるようにそっと顔を寄せると、颯真はふっと微笑んで、親指を菜乃花の頬に滑らせた。
そしてゆっくり目を閉じると、優しく菜乃花にキスをする。
ふわっと風が吹いたような、花を揺らすような優しいキス。
だが唇を離すと、菜乃花に潤んだ瞳で見上げられ、颯真は堰を切ったように今度は熱く口づけた。
込み上げる想いをぶつけるように、何度もキスを繰り返す。
菜乃花の柔らかく温かい身体を、強く胸に抱きしめながら。
いつの間にこんなにも想いを募らせ、そして求め合っていたのだろう。
もう二度と離れることなんて出来ない。
そう思いながら二人はいつまでも抱きしめ合い、互いの温もりに幸せを感じていた。
◇
「おはよう、菜乃花」
翌朝、ぼんやりと目を開けた菜乃花は、ぱちぱちと瞬きしてからハッと大きく目を見開く。
「お、おはよう、ございます…」
消え入りそうな声でそう言うと、そっと胸元に視線を動かした。
(ちゃんと服は着たままよね?)
シングルベッドに並んで横になり、菜乃花は颯真の大きな腕に包まれていた。
その温もりに安心して、胸いっぱいに幸せを感じながら眠りについたのは覚えている。
だが、そのあとは…?
「大丈夫、まだ手は出してないよ」
「はっ?手?!」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「だって菜乃花が『そんなことしたらお嫁に行けないー』って泣くからな」
「え?な、何のお話?」
それには答えず、んー…と伸びをしてから半身を起こすと、颯真は色気たっぷりに菜乃花に囁いた。
「でもそんなに待てそうにない。菜乃花、早くお嫁においで」
菜乃花は顔から火が出そうな程、真っ赤になる。
「あはは!可愛いな。さてと、そろそろ起きよう。もう6時だよ」
颯真はベッドから降りると、ジャケットを羽織りながら菜乃花に尋ねた。
「菜乃花、今日の仕事何時上がり?」
「えっと、早番だから17時です」
「俺も早番なんだ。19時には出られると思う。迎えに来るから、部屋で待ってて」
「え、あの…」
颯真はさっさと身支度を整えると、最後に菜乃花を抱き寄せた。
「泊まりだから、着替えも用意しておいて」
「は?!」
目を丸くする菜乃花にクスッと笑ってから、チュッと軽くキスをする。
「じゃあね!」
軽く手を挙げて颯真は玄関を出て行った。
呆然とする菜乃花の後ろで、颯真のサイン本が忘れられたように飾られていた。
◇
その頃、みなと医療センターの小児科病棟では、目を覚ました子ども達の嬉しそうな声が響き渡っていた。
「わー、サンタさんからのプレゼントだ!」
枕元に置かれたプレゼントに、どの子も目を輝かせている。
「サンタさん、来てくれたんだ!」
「先生、見て!プレゼントだよ!」
朝から興奮気味の子ども達に、三浦も目を細めて頷く。
「良かったな、みんな」
すると5歳の女の子が、三浦の白衣の袖を引っ張った。
「ん?どうしたの?ももちゃん」
しゃがんで視線を合わせると、女の子は小さな声で話し出す。
「あのね、きのうの夜、王子様を見たの」
「王子様?サンタさんじゃなくて?」
「うん。夜、トイレに行こうとしたら、プレイルームに背の高い王子様がいたの。ピンクのスカートの女の子をお姫様だっこしてたよ」
へえー!と三浦は声を上げる。
「かっこよかった?その王子様」
「うん!かっこよかった。お姫様もかわいかったよ」
「そうなんだー。それは先生も見たかったな」
女の子に笑いかけると立ち上がり、ふっと小さく笑みをもらす。
(ようやくだな、やれやれ。クリスマスの王子様か…。粋なことするな)
そしてもう一度、頬を緩めて微笑んだ。
菜乃花は小児科病棟のナースステーションに、小声で挨拶に行く。
子ども達は1時間前に就寝時間となり、病室は暗く静まり返っていた。
「鈴原さん、こんばんは。クリスマスイブなのに、ありがとう」
ベテランのナースが、声を潜めながら笑いかけてくれる。
菜乃花は、30分程で終わりますから、と断ってプレイルームに行った。
「さてと!まずはこのカードと本をツリーの下に並べて…」
持って来た紙袋からクリスマスカードを取り出すと、ラッピングした10冊の本と一緒にツリーの近くに置いた。
カードには、『メリークリスマス』の言葉と共に、クリスマスに関するクイズがいくつか書かれている。
そしてその答えは、ラッピングされた本の中に書かれていた。
子ども達が自然と本を手に取りたくなるように、そして興味を持って本を読んでくれるようにと考えて、菜乃花は今夜の為に準備していた。
「これでよし!みんなクイズ、楽しく考えてくれるかな?あとは壁の飾りと…」
明日、目を覚ました子ども達がここに来て、わあ!と喜んでくれるように、飾り付けも華やかにしようとあれこれ持って来ていた。
部屋の片隅にあるパイプ椅子を持ってくると、壁際に広げてからよいしょっと座面に乗って立ち上がる。
ガーランドを手に視線を上げた時、天井の明かりが目に入ってくらっとめまいがした。
「危ない!」
誰かの声が聞こえたと思った次の瞬間、菜乃花の身体はふわりと宙に浮いた。
(…え?)
何が起こったのかと瞬きを繰り返していると、すぐ目の前に颯真の顔が現れた。
「なんてことをするんだ。また頭を打ったらどうする?!」
「え、ど、どうして…」
「君は一度大ケガをしてるんだよ?もっと自分の身体を大切にしないとダメだ」
「あ、あの…私?」
菜乃花は必死で考えを巡らせ、どうやら椅子から落ちそうになったところを颯真に抱き留められたらしいと分かる。
その途端、菜乃花は一気に顔を赤くした。
「もしかしてどこか具合が悪い?だから椅子から落ちそうになったの?」
「いえ、単に眩しくて目がくらんで…」
「でも顔が真っ赤だよ。目も潤んでるし。熱があるんじゃない?」
「これは、その…。宮瀬さんの顔が目の前に迫っていて、それで」
「…は?」
「ですから、恥ずかしくて顔が…」
「そうなの?」
「そ、そんなふうに聞き返されるとますます恥ずかしいです」
「ああ、ごめん」
颯真は菜乃花をそっと床に下ろすと、椅子に座らせてから跪く。
そして菜乃花の額に手を当てた。
「本当に熱はない?やっぱり少し熱いけど」
「大丈夫です!あの、少し離れてください。そうすれば落ち着きますから」
「本当に?」
どういう現象かと思いながら、颯真は立ち上がって後ずさった。
菜乃花は手を胸に当てて深呼吸を繰り返す。
ようやく気持ちが落ち着いて、顔の火照りも治まってきた。
「ふう。ああ、びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだよ。一体、何をしようとしていたの?」
「あ、クリスマスの飾り付けです」
菜乃花は手にしていたガーランドを颯真に見せる。
「これを窓に飾りたくて。明日のクリスマス、子ども達がここでパーティーをするらしいので」
「そうだったんだ。貸して」
颯真は菜乃花からガーランドを受け取ると、椅子に上がる。
「どこにつければいい?」
「あ、カーテンレールに。少したゆませて半円になるように」
菜乃花の指示を聞きながら、颯真はガーランドをテープで留めていく。
「これでどう?」
「バッチリです!ありがとうございます」
「他には?」
「えっと、壁にこの星の折り紙とサンタさんとトナカイの絵を貼って、あとは綿を雪みたいに飾るのと…」
菜乃花が紙袋から次々と取り出し、二人であちこちに飾った。
「出来た!これで終了です」
「うわー、豪華だね。子ども達、喜ぶだろうな」
「ふふ、そうだといいですけど」
「絶対喜ぶよ。ん?これは何?」
颯真はツリーの下に置かれたカードに目をやる。
「クリスマスのクイズ?えーっと、『クリスマスツリーのてっぺんに輝く星の名前は?』え!分かんない!」
真顔で答える颯真に、菜乃花は思わず吹き出した。
「正解は、このラッピングされた本に書いてあるんです」
「そうなんだ!見てもいい?」
「ダメ!子ども達へのプレゼントですよ?」
「えー、気になるんだもん」
「じゃあ宮瀬さんも、明日子ども達と一緒に本で調べてください」
「うん、分かった」
またしても真面目に答える颯真に、菜乃花は堪え切れずに笑い出す。
「宮瀬さん、子どもみたい。あはは!」
途端に颯真は眉根を寄せた。
「子どもみたいなのは君の方でしょ?」
「え?どうして?」
菜乃花はキョトンと首を傾げる。
「気づいてないの?君、酔っ払ったらどうなるか」
「は?!宮瀬さん、私が酔っ払ったところを見たことあるんですか?」
「ええ?!覚えてないの?」
「何を?」
颯真はやれやれと脱力する。
「春樹の家で飲み過ぎて、酔っ払った君を部屋まで送っていったんだよ。そしたら『お風呂に入りたい!』って駄々こねて大変だったんだから」
「はい?!宮瀬さん、私の部屋に入ったんですか?」
「うん、そうだよ」
「そうだよって…。な、何か見ました?」
菜乃花は思わず自分の身体を隠すように両手で抱きしめる。
すると颯真は、思い出したと言わんばかりにニヤリと笑った。
「見たよ」
「な、何を?」
「全く…。あれだけ隠してって言ったのに」
ヒエッ!と菜乃花は、ますます両手を胸の前で交差して身をよじる。
「あの、宮瀬さん?その…、見なかったことにしていただけませんか?」
「無理だね」
「そんなことおっしゃらずに。どうかお忘れください」
「じゃあ、君の部屋に行ってもいい?自分で回収するから」
「は?何を?」
「ほら、そうやってとぼける。やっぱり信用出来ないな。もう一度部屋に行かせて」
そう言うと、颯真は菜乃花が床に広げていた荷物をまとめ始めた。
「飾り付けが終わったら帰るつもりだったんでしょ?」
「はい、そうですけど」
「車で送っていくよ。俺も勤務時間は終わってるから」
「あ、はい。ありがとうございます」
腑に落ちないながらも、菜乃花はありがたく送ってもらうことにした。
◇
「ここで待っててくれる?着替えて荷物を取ってくるから」
「はい。あ、じゃあコンビニで待ってますね」
「了解」
1階に下りると、エレベーターの前で一旦別れた。
菜乃花はすぐ横にあるコンビニに入り、缶コーヒーを2つ手に取る。
レジに向かおうとすると、テーブルの上にたくさんのチキンやオードブル、お酒やケーキが並んでいるのが目についた。
(わあ!クリスマスのご馳走ね)
どれもこれも美味しそう、と真剣に見比べていると、颯真が戻ってきた。
「お待たせ。ん?おお!クリスマスメニューか」
「ええ。せっかくだから買って帰ろうかなと思って。宮瀬さん、うちで食べていきませんか?」
「いいの?」
「はい。どれがいいですか?」
「んー、やっぱりチキンは外せないでしょ。ケーキと、あ!お酒も買う?」
また酔っ払った菜乃花のおかしな姿が見られるかも?と、イタズラ心で言ってみる。
すると菜乃花は、驚いたように目を丸くした後、満面の笑みで頷いた。
「はい!買いましょう」
あれ?と颯真は拍子抜けする。
一方で菜乃花は、やっとお酒を飲む気になってくれたんだ!と嬉しそうに微笑んでいた。
◇
「それでは、メリークリスマス!」
菜乃花のマンションに着くと、ローテーブルに料理を並べて二人で乾杯する。
グラスの中身はジンジャエール。
菜乃花が、買ってきたワインを注ごうとすると、颯真はまたもやそれを拒んだ。
(もう、どうして?)
そう思いつつ、菜乃花は仕方なく諦めることにした。
二人で他愛もない話をしながら、料理を味わう。
「コンビニのチキンも結構美味しいな」
「本当ですね。それに今夜はどこのレストランも混んでるでしょ?おうちでのんびりするのもいいですね」
「確かに。でも良かったの?せっかくのクリスマスイブなのに、子ども達の為に飾り付けして。何か予定あったんじゃないの?」
「特にないですよ。それに子ども達の為じゃなくて、自分が嬉しいだけなんです」
ん?どういうこと?と颯真は首を傾げる。
「子ども達、喜んでくれるかなー?って思いながらあれこれ準備するのって、とっても楽しいんです。今日も、飾り付けしながらワクワクしました。明日、子ども達の反応は見られないけど、喜んでくれるといいな」
そう言ってふふっと笑う。
そんな菜乃花に一瞬見とれてから、颯真はうつむいて小さく呟く。
「参ったな。本当に君は…」
「え?何ですか?」
「いや、どうしてそこまで出来るのかなと思って。君は子ども達の主治医でも担当ナースでもない。ましてや、ボランティアであって仕事でもない。なのにどうして?」
うーん、と菜乃花は考える。
「そんなに変ですか?私のしてることって」
「変だなんて、そんなことはないよ。ただ、単純に不思議なんだ。それと少し心配でもある」
「心配、ですか?」
「ああ。君はプライベートを犠牲にしてるんじゃない?今夜だって、本当は街で素敵なクリスマスイブを過ごすことだって出来たはずなのに」
「それを言ったら、宮瀬さんの方こそ心配です」
「は、俺?どうして?」
「だって、いつも頑なにお酒を飲まないでしょう?非番の時でも」
何の話かと、颯真は目をしばたかせた。
「宮瀬さん。聞いてもいいですか?どうして救急医になろうと?」
「え?どうしたの、急に」
「前から聞いてみたかったんです。救急の現場って厳しいですよね?きっと1分1秒が勝負、ほんの少しのことが生死を分ける、そんな世界じゃないですか?」
「ああ、うん」
「そんな現場で毎日神経をすり減らして、宮瀬さん自身は大丈夫ですか?重荷を背負い過ぎていませんか?宮瀬さんこそ、プライベートを犠牲にしていると私は思います」
真っ直ぐに自分を見つめて静かに語りかける菜乃花に、颯真は言葉を失う。
「俺は別に…。そんなつもりは」
「では、せっかく買ったお酒を飲みましょう」
「いや、俺はいいよ」
「呼び出されるかもしれないから?」
「まあ、うん」
「今、みなと医療センターのERにいる夜勤のスタッフは、そんなに信頼出来ない方々なのですか?」
「まさか!俺なんかよりよっぽど腕のいいドクターばかりだよ」
「でしたらその方々にお任せして、宮瀬さんはちゃんとプライベートを楽しみましょう。心も身体もしっかり休んで、元気満タンにしてから仕事に行きましょう。それも大切な仕事のうちの一つです」
「いや、俺はいつもちゃんと休んでるよ?」
「気づいてないのですか?ご自分が知らず知らずのうちに疲弊していることに。色々なことを抱え込んで、心が疲れていることに」
菜乃花は、あの日菜の花畑で肩を震わせて辛い心情を吐露していた颯真を思い出す。
あの時の颯真は限界ギリギリだった。
いつまたあんなふうに辛い状況に追い込まれるかもしれない。
「宮瀬さん。私はあなたのことを素晴らしいドクターだと思っています。人の心に寄り添うことが出来る優しい人です。あなたには、これからもたくさんの患者さんを救って欲しい、そう願っています。だからどうか、宮瀬さん自身が元気でいてください」
菜乃花の言葉にじっと耳を傾けていた颯真は、やがてゆっくり頷いた。
「ああ、分かった」
菜乃花は頬を緩める。
「では、改めて乾杯しましょ!」
グラスに注いだスパークリングワインで、二人は二度目の乾杯をする。
「メリークリスマス!」
ゆっくりと口をつけた颯真は、ふうと息をつく。
「美味しいな。ジンジャエールとは違う」
「ふふっ、それはそうですよ。宮瀬さん、お酒はどれくらいぶり?」
「最後に飲んだのは学生の時だったから…、何年だ?」
ええ?!と菜乃花は驚いて仰け反る。
「そんなに?!じゃあ、すぐに酔っ払っちゃうかも?」
「どうだろう?」
「まあ、いいですよ。宮瀬さんが酔っ払ったら、私が介抱しますから」
「それは無理だと思うよ」
「え?どうして?」
颯真は、くくっと笑いを堪える。
「なあに?」
「いや、思い出しちゃってさ」
「何を?」
するとますます颯真は笑い出す。
「君こそもっと飲みなよ。俺が介抱するからさ」
「結構です!」
ひとしきり笑ったあと、颯真はふと真顔になる。
「誰かと話すってこんなに楽しいんだな。いや、相手が君だから、なのか」
「ん?またダジャレ?」
「違うって!」
あはは!と笑ってから、颯真は顔を上げて菜乃花を正面から見つめた。
「君は俺の主治医だね。俺よりも俺のことをよく分かってくれている。そしていつも俺の心を癒やしてくれる。俺はどんなに君に救われたか分からない。ありがとう」
菜乃花は微笑んで首を振る。
「私の方こそ。宮瀬さん、いつも私を心配して、そばで守ってくださってありがとうございます。入院中、私はあなたの温もりに触れて、その心強さに安心しました。今日も危ないところを助けてくださって…。本当にありがとうございます」
颯真も菜乃花に微笑みかける。
そしてふと真剣な表情で口を開いた。
「君がそばにいてくれたら、俺は毎日楽しく笑って暮らせる気がする。君がいてくれるだけで心が癒やされてホッとする。君が微笑んでくれたら、それだけで幸せな気持ちになるんだ」
菜乃花ははにかんだ笑みでうつむく。
「私もです。宮瀬さんとなら、何でもない会話も楽しくて。大きな手で守ってくれると心の底から安心して。何も飾らずに、そのままの私でいてもいいんだなって思えます」
「そのままの君が一番いい。顔に似合わず肝が据わっていて、子ども達には優しくて。人の痛みに気づいて、寄り添って、心を癒やしてくれる。そんな君が、俺は誰よりも好きだ」
颯真は、自然に口をついて出た自分の言葉に、驚きつつも納得していた。
(そうだ。俺はいつの間にかこんなにも彼女のことを大切に想っていたんだ)
「ずっとそばにいて欲しい。いつも明るく笑っていて欲しい。俺が必ず君の笑顔を守っていく。だから、俺に君を守らせてくれないか?君のそばで、この先もずっと」
その言葉に、菜乃花はまるで花開くように微笑んだ。
「はい。私もずっとあなたのそばで、あなたの笑顔を守りたいです。優しくて温かいあなたを、誰よりも近くで支えていきたいです」
颯真は喜びに胸が震えるのを感じながら、菜乃花を腕に抱きしめた。
「ありがとう。大好きだよ、…菜乃花」
「私も。あなたのことが大好きです」
互いの耳元で囁くと、少し身体を離して見つめ合う。
と、二人は同時に照れてうつむいた。
「菜乃花」
「はい」
優しい声で名前を呼ばれ、菜乃花は顔を上げる。
なんて愛おしそうに見つめてくれるのだろう。
颯真の真っ直ぐな視線に射抜かれて、菜乃花は目を逸らせない。
やがて颯真の大きな右手が菜乃花の左頬を包み込む。
その手に甘えるようにそっと顔を寄せると、颯真はふっと微笑んで、親指を菜乃花の頬に滑らせた。
そしてゆっくり目を閉じると、優しく菜乃花にキスをする。
ふわっと風が吹いたような、花を揺らすような優しいキス。
だが唇を離すと、菜乃花に潤んだ瞳で見上げられ、颯真は堰を切ったように今度は熱く口づけた。
込み上げる想いをぶつけるように、何度もキスを繰り返す。
菜乃花の柔らかく温かい身体を、強く胸に抱きしめながら。
いつの間にこんなにも想いを募らせ、そして求め合っていたのだろう。
もう二度と離れることなんて出来ない。
そう思いながら二人はいつまでも抱きしめ合い、互いの温もりに幸せを感じていた。
◇
「おはよう、菜乃花」
翌朝、ぼんやりと目を開けた菜乃花は、ぱちぱちと瞬きしてからハッと大きく目を見開く。
「お、おはよう、ございます…」
消え入りそうな声でそう言うと、そっと胸元に視線を動かした。
(ちゃんと服は着たままよね?)
シングルベッドに並んで横になり、菜乃花は颯真の大きな腕に包まれていた。
その温もりに安心して、胸いっぱいに幸せを感じながら眠りについたのは覚えている。
だが、そのあとは…?
「大丈夫、まだ手は出してないよ」
「はっ?手?!」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「だって菜乃花が『そんなことしたらお嫁に行けないー』って泣くからな」
「え?な、何のお話?」
それには答えず、んー…と伸びをしてから半身を起こすと、颯真は色気たっぷりに菜乃花に囁いた。
「でもそんなに待てそうにない。菜乃花、早くお嫁においで」
菜乃花は顔から火が出そうな程、真っ赤になる。
「あはは!可愛いな。さてと、そろそろ起きよう。もう6時だよ」
颯真はベッドから降りると、ジャケットを羽織りながら菜乃花に尋ねた。
「菜乃花、今日の仕事何時上がり?」
「えっと、早番だから17時です」
「俺も早番なんだ。19時には出られると思う。迎えに来るから、部屋で待ってて」
「え、あの…」
颯真はさっさと身支度を整えると、最後に菜乃花を抱き寄せた。
「泊まりだから、着替えも用意しておいて」
「は?!」
目を丸くする菜乃花にクスッと笑ってから、チュッと軽くキスをする。
「じゃあね!」
軽く手を挙げて颯真は玄関を出て行った。
呆然とする菜乃花の後ろで、颯真のサイン本が忘れられたように飾られていた。
◇
その頃、みなと医療センターの小児科病棟では、目を覚ました子ども達の嬉しそうな声が響き渡っていた。
「わー、サンタさんからのプレゼントだ!」
枕元に置かれたプレゼントに、どの子も目を輝かせている。
「サンタさん、来てくれたんだ!」
「先生、見て!プレゼントだよ!」
朝から興奮気味の子ども達に、三浦も目を細めて頷く。
「良かったな、みんな」
すると5歳の女の子が、三浦の白衣の袖を引っ張った。
「ん?どうしたの?ももちゃん」
しゃがんで視線を合わせると、女の子は小さな声で話し出す。
「あのね、きのうの夜、王子様を見たの」
「王子様?サンタさんじゃなくて?」
「うん。夜、トイレに行こうとしたら、プレイルームに背の高い王子様がいたの。ピンクのスカートの女の子をお姫様だっこしてたよ」
へえー!と三浦は声を上げる。
「かっこよかった?その王子様」
「うん!かっこよかった。お姫様もかわいかったよ」
「そうなんだー。それは先生も見たかったな」
女の子に笑いかけると立ち上がり、ふっと小さく笑みをもらす。
(ようやくだな、やれやれ。クリスマスの王子様か…。粋なことするな)
そしてもう一度、頬を緩めて微笑んだ。
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