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告白
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「雪村さん、具合はいかがですか?」
翌朝の7時に客室まで朝食を運んで来た長谷部に聞かれて、めぐは笑顔で頷く。
「ぐっすり眠れて元気いっぱいです。足の痛みもないですし」
「そうですか、良かった。あ、待って。一人で歩かないでください」
そう言うと長谷部は、立ち上がっためぐの手を取ってテーブルまで寄り添う。
「ありがとうございます」
「いいえ、ごゆっくり。食べ終えたらそのままにしておいてくださいね。あとで下げに来ますから」
「あの、長谷部さんはもう勤務時間外なのではないですか?どうぞお構いなく」
「あと1時間で夜勤明けです。そのあとは別のスタッフに引き継ぎますね」
「はい、分かりました。長谷部さん、本当に色々とありがとうございました」
「どういたしまして」
長谷部が出て行くと、めぐはホテルの朝食をゆったりと味わった。
(うーん、優雅なのはいいけど、1週間も滞在したらすごい金額になりそうだわ)
せいぜい5日間にしておこうと思いながら食事を終えてのんびりしていると、ドアのチャイムのあと環奈の声がした。
「雪村さーん!環奈です。入ってもいいですか?」
どうぞ、と答えるとピッとドアロックが解除されて環奈が姿を現した。
「おはようございます。長谷部さんにお願いして、カードキーお借りしました。雪村さん、具合はどうですか?」
「おはよう、環奈ちゃん。わざわざ出社前に来てくれたの?ありがとう。もう痛みもないし大丈夫よ」
「良かった!でもまだ極力歩いたりしないでくださいね。これ、差し入れです。コンビニデザートと雑誌です」
「わあ、ありがとう!なんて気が利くの、環奈ちゃん。すごく嬉しい」
「ふふっ、喜んでもらえて何よりです。じゃあまた顔出しますね、お大事に」
「うん、ありがとね」
笑顔で手を振って環奈を見送ると、めぐは仕事のスケジュールを思い出す。
(氷室くんに事情を話しておかないと。もう出社してるかな?)
プライベートの時間に連絡することはなるべく避けたい。
時計の針が9時を回ったのを見てから、メッセージを送った。
『お疲れ様です。環奈ちゃんから聞いたと思いますが、昨日私の不注意で足を捻挫してしまいました。全治1週間で、その期間はテレワークさせてもらうことになりました。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします』
送信すると、すぐに既読になる。
だが一向に返事は返って来なかった。
(なんだろう、どうしてひと言も返事がないのかな)
時間が経てば経つほど不安になってくる。
(メッセージしたらいけなかった?でも、電話するのもなんだか……)
恋人同盟を解消してから、めぐはどう弦と接していいのか分からなくなっていた。
以前はなんでも気兼ねなく話していたのに、今となればどうやって会話していたのかも分からない。
(どうしよう、これからどうすればいいの?どこで間違えたんだろう。あんなにいつも近くにいて、心から氷室くんを信頼してたのに。今は氷室くんのこと、ものすごく遠くに感じる。でもようやく好きな人が出来た氷室くんを応援したい。幸せになって欲しい)
邪魔をしたくない。
それならやはり、距離を置くしかないのだ。
どんなに寂しくなっても、もう元の関係には戻れない。
そう思うと、涙が込み上げてきた。
窓の外に広がる景色を見ると、ランタンフェスティバルを思い出した。
あの時、心を癒やしてくれたランタンはもう見えない。
そしていつも胸に咲いていたブルースターのネックレスも……。
胸元に手をやり、ギュッと拳を握りしめる。
堪えていた涙が一気に溢れてきた。
(私が失くしたものって何?心の支え?友情?癒やし?……きっと全部だ)
ぽたぽたと手の甲に涙のしずくが落ち、また新たな涙を誘う。
肩を震わせて泣き続けていると、ふいにチャイムが鳴った。
えっ?とめぐは顔を上げる。
(あ、そうか。スタッフが食器を下げに来てくれたのね)
長谷部の言葉を思い出し、慌てて涙を拭ってから「どうぞ」と声をかけた。
ピッとロックが解除されてドアが開く。
と、めぐは驚いて息を呑んだ。
「氷室くん!?」
「めぐ……」
ドアを開けて入って来た弦は、めぐを見るなり動きを止めた。
「めぐ、どうした?なんで泣いてる?」
「え、あの、これは別に」
うつむいて必死に涙を拭っていると、弦は駆け寄って来て顔を覗き込む。
「目が真っ赤だ。随分泣いただろ?何があった?」
「あの、だからこれは。えっと、そう!痛くて、ちょっと」
「足の怪我?見せて」
「いや、ギプスで固定されてるから」
「ああ、そうか。痛み止めの薬とかない?」
「飲むほどじゃないから、大丈夫」
「そんなに泣いてるのに?」
うっ、とめぐは言葉に詰まる。
「ほんとに大した痛みじゃないの。なんか少し、心細くなっただけ。みんなお仕事どうしてるかなーって思って。氷室くん、ごめんね。色々と迷惑かけちゃって。様子見に来てくれたの?」
取り繕うように一気にしゃべると、弦はやおらめぐの前にひざまずいた。
「めぐのパソコンを持って来たんだ。ここで仕事がしやすいように。けど、その前に話をさせてほしい」
「うん、何?」
真剣な表情の弦に、めぐも居住まいを正す。
「めぐ、ごめん。俺、恋人同盟を解消したいっていきなり言い出して、めぐのことを散々振り回してしまった。突然のことでめぐは気持ちがついていかなかったと思う。本当に悪かった」
「ううん、そもそもどちらかに好きな人が出来るまでの関係だったもん。分かってたことだし、氷室くんは何も悪くないよ」
「違うんだ。俺、自分の気持ちをごまかしてた」
「え?どういうこと?」
「それを今からめぐに伝えたい。言えばまためぐの気持ちをかき乱してしまうと思う。それでも言わせてほしい」
一体、何を?とめぐは戸惑いつつも頷いた。
「恋人同盟を解消する時、俺、好きな人が出来たって言ったよな?だけどあの時は嘘だったんだ。本当はめぐに、恋愛をして幸せになってほしいから解消を申し出た。俺とつき合ってるフリをしていたら、いつまで経ってもめぐは誰からも声をかけられない。俺がめぐの恋愛を邪魔してるんだってようやく気づいたんだ。だからこの関係を終わらせなきゃと思ってそう言った。だけど……、めぐと離れてみて初めて分かった。俺はめぐのことが誰よりも好きだ」
めぐはハッと目を見開く。
どういうことなのかと、まじまじと弦を見つめた。
「俺の身勝手でまためぐを困惑させてしまうと分かってる。本当にごめん。だけどめぐ、この気持ちに嘘は微塵もない。俺はめぐのことを心から想っている。もう2度とめぐを手放したりしない。どうかずっと、俺のそばにいてほしい」
信じられない気持ちでめぐはじっと弦の言葉を聞いていた。
何を言われているのか、どういう状況なのか、まるで頭がついていかない。
嬉しいのか悲しいのか、全く自分の感情が実感出来なかった。
「……めぐ?」
心配そうに弦が顔を覗き込んでくる。
めぐは考えがまとまらないまま口を開いた。
「ごめん、氷室くん。私、何も考えられない」
「……そうだよな、ごめん。全部俺のせいだ。すぐに返事がほしいとは思ってない。めぐの気持ちが落ち着いてからゆっくり考えてくれて構わない。本当は今めぐを一人にしたくない。けど……、俺はいない方がいいよな?」
「うん、ごめん。少し一人にさせて」
「分かった。でも何かあったらいつでも連絡してくれ」
そう言われてもすぐには頷けない。
これまでよりももっと連絡しづらくなってしまった。
「あの、しばらく一人で考えさせて。仕事に関しては公私混同せずに、ちゃんと連絡しますから」
「……分かった。じゃあ、これ」
弦はめぐのパソコンをテーブルに置くと、しばらくその場に立ち尽くす。
「……ほんとに自分が情けない。誰よりもめぐを守りたいのに、今の俺ではそばにいる資格もない。こんなに不安そうで、今にも泣き出しそうなめぐに触れる資格もない。ごめんな」
そう言うと迷いを振り切るように、弦はめぐに背を向けて部屋を出て行った。
◇
「雪村さーん、入りますよー。って、うわ!真っ暗」
環奈の声がして、めぐはゆっくり顔を上げる。
「どうしたんですか?電気もつけないで。ええっ?ちょっと、雪村さん?泣いてました?」
「え、どうだろう。分かんない」
「何言ってるんですか、号泣したでしょ?目が腫れ上がって美人が台無しですよ?それにすごい鼻声」
「そうかな?ところで環奈ちゃん、今何時?」
「夜の7時半です。仕事終わったので様子見に来ました。ばったり長谷部さんに会ったので、ついでに夕食も預かってきましたよ。ほら、食べてくださいね」
環奈はめぐの前のテーブルにトレイを置いた。
「今夜はビーフシチューですって。赤ワインを入れて煮込んだホテルの看板メニューだそうですよ。熱いうちに召し上がれ」
「ありがとう。でも、あんまり食欲なくて」
「だめです。心はいらないって思ってても、身体は食べたーいって思ってますよ?きっと」
「そうかな?」
「そうです。ひと口だけでも食べてみてください」
スプーンを手渡され、めぐはゆっくりとシチューを口に運ぶ。
「うん、美味しい」
「でしょ?じゃあどうぞ、たんと召し上がれ」
「はい、いただきます」
ぱくぱくと食べ始めためぐに満足気に頷いて、環奈はポットのお湯で紅茶を淹れる。
ぺろりとシチューを平らげためぐに紅茶を出すと、環奈は向かい側に座って話しかけた。
「ね、雪村さん。昨日私、言ったでしょ?これからは何でも話してほしいですって。雪村さんの力になりたいのでって」
「うん」
「そしたら雪村さん、色々相談させてねって言ってくれたじゃないですか」
「うん」
「だから、話してください。何があったんですか?」
めぐは紅茶のカップに目を落とし、しばらく考えてから顔を上げた。
「環奈ちゃん、あのね。今朝氷室くんがここに来て言われたの。恋人同士のフリを解消したのは、そのままだと私が恋愛出来ないと思ったからだって。でも離れてみて、私への気持ちに気づいたって」
「え……、それってまさか、告白されたってことですか?」
めぐはうつむいてコクリと頷く。
環奈は仰け反って声を上げた。
「ええー!?今さら?もう氷室さんたら、なんでそんなにこじらせちゃったんですか。あんなにお二人ともいい雰囲気だったんですから、フリなんかやめてほんとにつき合おう!で良かったのに。離れてみて気づくなんて、もう……、こじらせ過ぎです!」
勢いに任せてそう言うと、環奈はため息をつく。
「って、雪村さんに言っても仕方ないですよね。でもこんなに雪村さんを戸惑わせるなんて、氷室さんたらもう……。それにタイミングも悪すぎます。私、長谷部さんの様子が気になってて。きっと長谷部さん、雪村さんのこと好きなんじゃないかなって」
めぐが黙ってうつむいたままでいると、環奈は、えっ!とまたしても驚きの声を上げた。
「もしかして!雪村さん、既に長谷部さんに告白されました?」
「いや、えっと。告白の、予告?みたいな」
「なんですか?それ」
「長谷部さんも、私と氷室くんがつき合ってて最近別れたと思い込んでて……。そのあと言われたの。少しずつ氷室くんから心が離れたら、自分のことを思い出してくださいって。ずっと、いつまででも待ちますって」
「うっわー、優しい!私ならコロッと行っちゃう」
うん、優しいよね、とめぐは小さく呟く。
環奈はまたため息をついた。
「雪村さん。今はもう、なんだかコジコジにこじれちゃってますけど、これだけは言わせてください。たくさん悩んで時間をかけて迷ってもいいです。だけどいつか、この人が好きって思えたら、その時は素直に真っ直ぐにそう相手に伝えてくださいね」
めぐは顔を上げて環奈をじっと見つめる。
「素直に、真っ直ぐに……?」
「そうです。そしていつもの明るい雪村さんに戻ってくださいね。長谷部さんじゃないけど、私もずっと待ってますから」
「うん、ありがとう環奈ちゃん。私、環奈ちゃんが一番好き」
「いやいや、嬉しいけどそれも違いますって」
「だって素直に伝えてって言われたから。私、今は本当に環奈ちゃんが好きなの」
「やややめてください。キュンキュンしちゃうじゃないですか」
環奈は視線をそらし、「あー、ハンパない。美女に上目遣いで『好きなの』言われたら、もう」と胸に手を当てて必死に気持ちを落ち着かせる。
「雪村さん、いつか自分の本当の気持ちに気づいたら、きっと幸せになれますよ。だからそんなに悲しまないで。ね?」
「……うん、分かった。ありがとう、環奈ちゃん」
ようやく笑顔を見せるめぐに、環奈も笑って頷いた。
◇
「え?帰るって、ひとり暮らしのマンションにですか?」
環奈が帰ったあと食器を下げに来た長谷部は、めぐの言葉を聞き返す。
「はい。明日病院の診察の日なので、そこからは自宅に帰ります。食事はネットスーパーでお惣菜を届けてもらえばいいし、足首ももう痛みはないので大丈夫ですから」
「でも何かあれば困りますし、せめてもう少しだけでも……」
「お気持ちはありがたいですが、ずっとここにいるのも気が滅入ってしまうので」
本音は宿泊代がかさんでしまうのが理由だが、そう言うと長谷部は気を遣ってしまうかもしれない。
「長谷部さん、本当に色々とありがとうございました。自宅に帰って一人で気持ちを落ち着かせたくて」
「……そうですか、そういうことなら分かりました。では明日、病院まで車でお送りしますね。そのあとご自宅にも」
「いいえ、タクシーを使います」
きっぱりそう言うと長谷部はそれ以上押しつけるようなことは言わなかった。
「分かりました。もし何かありましたら、夜中でもいつでもご連絡ください。ここに私のプライベートの携帯番号が書いてありますので」
差し出された名刺を、めぐはありがたく受け取る。
翌朝。
ホテルのロータリーに止まっているタクシーの前で、改めて長谷部に頭を下げた。
「長谷部さん、本当にお世話になりました」
「いえ、お役に立てたなら良かったです。どうぞお大事に」
「はい、ありがとうございます」
笑顔でお礼を言い、めぐはタクシーに乗り込んだ。
◇
病院での診察も終わり、そのままタクシーで自宅に帰る。
ギプスは外れてサポーターだけになった為、動きやすくなった。
「やっぱり自分の部屋は落ち着くな。ホテルに比べたら質素だけどね」
ふふっと笑ってから紅茶を淹れてソファに座る。
会社のパソコンを取り出して、やり残してある作業に取りかかった。
弦との共有フォルダに入っているファイルを開くと、やりかけの状態になっているのに気づく。
(これって、このまま氷室くんが作業するつもりなのかな?私で良ければ代わるけど……)
うーん、と少し迷ってから、めぐは電話をかけてみることにした。
「もしもし、氷室くん?」
『めぐ?もうマンションに帰ったのか?足の具合は?病院ではなんて言われた?』
矢継ぎ早に質問されて、めぐは苦笑いを浮かべる。
「大丈夫だよ。順調に回復してギプスも取れたから。今はサポーターをつけてて、無茶しなければ普通に歩いて構わないって。来週からは仕事に行くね」
『そうか、無理しなくていいからな』
「うん、ありがとう。それで今、氷室くんがやりかけてるファイルを開いてるんだけど。これって残りは私がやっても構わない?」
『あー、えっと、クリスマスイベントの紹介原稿?締め切りまでまだ時間あるから、後回しにしてたんだけど』
「そっか。私、時間持て余してるからやっておくね。出来上がったら調整をお願いしていいかな?」
『ああ、分かった。無理しなくていいからな』
そればっかり、とめぐは思わず笑みをもらす。
『めぐ、環奈が仕事終わったらそっちに寄るって言ってる。何か欲しいものあるか?って』
「ええ?そんな、気を遣わなくていいよって言っておいて。お仕事のあとに寄るなんて疲れるでしょ?って」
『うん、まあ、一応伝える』
「じゃあね、氷室くん。何かあったら連絡ください」
『分かった。くれぐれも気をつけてな、めぐ』
電話を切ると、「なんだかみんな大げさだな」とひとりごちる。
だが、弦と普通に会話出来たことは嬉しかった。
◇
「雪村さーん!お届け物でーす!」
夜の7時半に玄関から環奈の声が聞こえてきて、めぐは思わず笑い出す。
「はーい、環奈ちゃん。今開けるね」
ドアを開けると、環奈は大きなエコバッグを抱えていた。
「わっ、すごい荷物ね。重いでしょ?」
受け取ろうとすると、「あー、だめだめ!」と環奈が身をよじる。
「雪村さん、怪我してるんですよ?持っちゃだめ!はい、ソファに座ってて」
環奈は靴を脱ぐと早速キッチンに立ち、買って来た惣菜をお皿に載せてローテーブルに運んだ。
「こんなにたくさん買って来てくれたの?仕事上がりに大変だったでしょ。気を遣わないでって氷室くんに伝えてもらったのに……」
「それが氷室さんに頼まれたんです。すぐ下まで一緒に来てたんですよ、氷室さん」
えっ?とめぐは驚く。
「ここに?」
「そうです。スーパーで手当り次第に食材買い込んでここまで持って来て、私に託して帰って行きました」
「……そうだったの」
うつむくめぐに、環奈はため息をつく。
「ほんとにもう、こじれまくりですよね。ラブラブカップルがコジコジカップルになっちゃった」
「うん、どうしてこうなっちゃったんだろうね。友達だった頃に戻りたい」
「恋人じゃなくて友達に、ですか?」
「そう。だってあの頃すごく楽しかったから。恋愛とかややこしいこと考えないで済んだし」
「雪村さん、恋愛はややこしくないですよ?」
「ややこしいよ。今の私にとったら、ややこし過ぎて悩みの種でしかないもん」
ふう、と環奈は大きく息をつく。
「幸せって人それぞれですね。私なんて恋愛はずっとご無沙汰だから、告白されただけで舞い上がっちゃうけどなあ」
なんと答えていいのか分からず、めぐは視線を落とす。
贅沢な悩みだと言われれば返す言葉がない。
それでもどうしても、明るく割り切ることが出来なかった。
「私が一番望んでるのは、雪村さんの幸せですからね?氷室さんを選んでも長谷部さんを選んでも、なんならどっちも選ばなくても、私は雪村さんが決めたことが一番だと思います。自分の本心が分かるといいですね」
「……私の、本心?」
「そう。素直な気持ちです」
「素直な気持ち……。今の私は、氷室くんと友達に戻りたいの」
「なるほど。それならそう伝えてみてもいいと思いますよ?氷室さんに」
えっ、とめぐは顔を上げて環奈を見る。
「いいの?そう伝えても。告白の返事にはならないのに?」
「私はいいと思います。避けられるよりは、今の気持ちを伝えてほしいって思うから」
「そう、かな。うん。そうだね。私、氷室くんに話してみる」
「はい。応援してます」
「ありがとう、環奈ちゃん」
めぐはようやく笑顔を浮かべた。
翌朝の7時に客室まで朝食を運んで来た長谷部に聞かれて、めぐは笑顔で頷く。
「ぐっすり眠れて元気いっぱいです。足の痛みもないですし」
「そうですか、良かった。あ、待って。一人で歩かないでください」
そう言うと長谷部は、立ち上がっためぐの手を取ってテーブルまで寄り添う。
「ありがとうございます」
「いいえ、ごゆっくり。食べ終えたらそのままにしておいてくださいね。あとで下げに来ますから」
「あの、長谷部さんはもう勤務時間外なのではないですか?どうぞお構いなく」
「あと1時間で夜勤明けです。そのあとは別のスタッフに引き継ぎますね」
「はい、分かりました。長谷部さん、本当に色々とありがとうございました」
「どういたしまして」
長谷部が出て行くと、めぐはホテルの朝食をゆったりと味わった。
(うーん、優雅なのはいいけど、1週間も滞在したらすごい金額になりそうだわ)
せいぜい5日間にしておこうと思いながら食事を終えてのんびりしていると、ドアのチャイムのあと環奈の声がした。
「雪村さーん!環奈です。入ってもいいですか?」
どうぞ、と答えるとピッとドアロックが解除されて環奈が姿を現した。
「おはようございます。長谷部さんにお願いして、カードキーお借りしました。雪村さん、具合はどうですか?」
「おはよう、環奈ちゃん。わざわざ出社前に来てくれたの?ありがとう。もう痛みもないし大丈夫よ」
「良かった!でもまだ極力歩いたりしないでくださいね。これ、差し入れです。コンビニデザートと雑誌です」
「わあ、ありがとう!なんて気が利くの、環奈ちゃん。すごく嬉しい」
「ふふっ、喜んでもらえて何よりです。じゃあまた顔出しますね、お大事に」
「うん、ありがとね」
笑顔で手を振って環奈を見送ると、めぐは仕事のスケジュールを思い出す。
(氷室くんに事情を話しておかないと。もう出社してるかな?)
プライベートの時間に連絡することはなるべく避けたい。
時計の針が9時を回ったのを見てから、メッセージを送った。
『お疲れ様です。環奈ちゃんから聞いたと思いますが、昨日私の不注意で足を捻挫してしまいました。全治1週間で、その期間はテレワークさせてもらうことになりました。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします』
送信すると、すぐに既読になる。
だが一向に返事は返って来なかった。
(なんだろう、どうしてひと言も返事がないのかな)
時間が経てば経つほど不安になってくる。
(メッセージしたらいけなかった?でも、電話するのもなんだか……)
恋人同盟を解消してから、めぐはどう弦と接していいのか分からなくなっていた。
以前はなんでも気兼ねなく話していたのに、今となればどうやって会話していたのかも分からない。
(どうしよう、これからどうすればいいの?どこで間違えたんだろう。あんなにいつも近くにいて、心から氷室くんを信頼してたのに。今は氷室くんのこと、ものすごく遠くに感じる。でもようやく好きな人が出来た氷室くんを応援したい。幸せになって欲しい)
邪魔をしたくない。
それならやはり、距離を置くしかないのだ。
どんなに寂しくなっても、もう元の関係には戻れない。
そう思うと、涙が込み上げてきた。
窓の外に広がる景色を見ると、ランタンフェスティバルを思い出した。
あの時、心を癒やしてくれたランタンはもう見えない。
そしていつも胸に咲いていたブルースターのネックレスも……。
胸元に手をやり、ギュッと拳を握りしめる。
堪えていた涙が一気に溢れてきた。
(私が失くしたものって何?心の支え?友情?癒やし?……きっと全部だ)
ぽたぽたと手の甲に涙のしずくが落ち、また新たな涙を誘う。
肩を震わせて泣き続けていると、ふいにチャイムが鳴った。
えっ?とめぐは顔を上げる。
(あ、そうか。スタッフが食器を下げに来てくれたのね)
長谷部の言葉を思い出し、慌てて涙を拭ってから「どうぞ」と声をかけた。
ピッとロックが解除されてドアが開く。
と、めぐは驚いて息を呑んだ。
「氷室くん!?」
「めぐ……」
ドアを開けて入って来た弦は、めぐを見るなり動きを止めた。
「めぐ、どうした?なんで泣いてる?」
「え、あの、これは別に」
うつむいて必死に涙を拭っていると、弦は駆け寄って来て顔を覗き込む。
「目が真っ赤だ。随分泣いただろ?何があった?」
「あの、だからこれは。えっと、そう!痛くて、ちょっと」
「足の怪我?見せて」
「いや、ギプスで固定されてるから」
「ああ、そうか。痛み止めの薬とかない?」
「飲むほどじゃないから、大丈夫」
「そんなに泣いてるのに?」
うっ、とめぐは言葉に詰まる。
「ほんとに大した痛みじゃないの。なんか少し、心細くなっただけ。みんなお仕事どうしてるかなーって思って。氷室くん、ごめんね。色々と迷惑かけちゃって。様子見に来てくれたの?」
取り繕うように一気にしゃべると、弦はやおらめぐの前にひざまずいた。
「めぐのパソコンを持って来たんだ。ここで仕事がしやすいように。けど、その前に話をさせてほしい」
「うん、何?」
真剣な表情の弦に、めぐも居住まいを正す。
「めぐ、ごめん。俺、恋人同盟を解消したいっていきなり言い出して、めぐのことを散々振り回してしまった。突然のことでめぐは気持ちがついていかなかったと思う。本当に悪かった」
「ううん、そもそもどちらかに好きな人が出来るまでの関係だったもん。分かってたことだし、氷室くんは何も悪くないよ」
「違うんだ。俺、自分の気持ちをごまかしてた」
「え?どういうこと?」
「それを今からめぐに伝えたい。言えばまためぐの気持ちをかき乱してしまうと思う。それでも言わせてほしい」
一体、何を?とめぐは戸惑いつつも頷いた。
「恋人同盟を解消する時、俺、好きな人が出来たって言ったよな?だけどあの時は嘘だったんだ。本当はめぐに、恋愛をして幸せになってほしいから解消を申し出た。俺とつき合ってるフリをしていたら、いつまで経ってもめぐは誰からも声をかけられない。俺がめぐの恋愛を邪魔してるんだってようやく気づいたんだ。だからこの関係を終わらせなきゃと思ってそう言った。だけど……、めぐと離れてみて初めて分かった。俺はめぐのことが誰よりも好きだ」
めぐはハッと目を見開く。
どういうことなのかと、まじまじと弦を見つめた。
「俺の身勝手でまためぐを困惑させてしまうと分かってる。本当にごめん。だけどめぐ、この気持ちに嘘は微塵もない。俺はめぐのことを心から想っている。もう2度とめぐを手放したりしない。どうかずっと、俺のそばにいてほしい」
信じられない気持ちでめぐはじっと弦の言葉を聞いていた。
何を言われているのか、どういう状況なのか、まるで頭がついていかない。
嬉しいのか悲しいのか、全く自分の感情が実感出来なかった。
「……めぐ?」
心配そうに弦が顔を覗き込んでくる。
めぐは考えがまとまらないまま口を開いた。
「ごめん、氷室くん。私、何も考えられない」
「……そうだよな、ごめん。全部俺のせいだ。すぐに返事がほしいとは思ってない。めぐの気持ちが落ち着いてからゆっくり考えてくれて構わない。本当は今めぐを一人にしたくない。けど……、俺はいない方がいいよな?」
「うん、ごめん。少し一人にさせて」
「分かった。でも何かあったらいつでも連絡してくれ」
そう言われてもすぐには頷けない。
これまでよりももっと連絡しづらくなってしまった。
「あの、しばらく一人で考えさせて。仕事に関しては公私混同せずに、ちゃんと連絡しますから」
「……分かった。じゃあ、これ」
弦はめぐのパソコンをテーブルに置くと、しばらくその場に立ち尽くす。
「……ほんとに自分が情けない。誰よりもめぐを守りたいのに、今の俺ではそばにいる資格もない。こんなに不安そうで、今にも泣き出しそうなめぐに触れる資格もない。ごめんな」
そう言うと迷いを振り切るように、弦はめぐに背を向けて部屋を出て行った。
◇
「雪村さーん、入りますよー。って、うわ!真っ暗」
環奈の声がして、めぐはゆっくり顔を上げる。
「どうしたんですか?電気もつけないで。ええっ?ちょっと、雪村さん?泣いてました?」
「え、どうだろう。分かんない」
「何言ってるんですか、号泣したでしょ?目が腫れ上がって美人が台無しですよ?それにすごい鼻声」
「そうかな?ところで環奈ちゃん、今何時?」
「夜の7時半です。仕事終わったので様子見に来ました。ばったり長谷部さんに会ったので、ついでに夕食も預かってきましたよ。ほら、食べてくださいね」
環奈はめぐの前のテーブルにトレイを置いた。
「今夜はビーフシチューですって。赤ワインを入れて煮込んだホテルの看板メニューだそうですよ。熱いうちに召し上がれ」
「ありがとう。でも、あんまり食欲なくて」
「だめです。心はいらないって思ってても、身体は食べたーいって思ってますよ?きっと」
「そうかな?」
「そうです。ひと口だけでも食べてみてください」
スプーンを手渡され、めぐはゆっくりとシチューを口に運ぶ。
「うん、美味しい」
「でしょ?じゃあどうぞ、たんと召し上がれ」
「はい、いただきます」
ぱくぱくと食べ始めためぐに満足気に頷いて、環奈はポットのお湯で紅茶を淹れる。
ぺろりとシチューを平らげためぐに紅茶を出すと、環奈は向かい側に座って話しかけた。
「ね、雪村さん。昨日私、言ったでしょ?これからは何でも話してほしいですって。雪村さんの力になりたいのでって」
「うん」
「そしたら雪村さん、色々相談させてねって言ってくれたじゃないですか」
「うん」
「だから、話してください。何があったんですか?」
めぐは紅茶のカップに目を落とし、しばらく考えてから顔を上げた。
「環奈ちゃん、あのね。今朝氷室くんがここに来て言われたの。恋人同士のフリを解消したのは、そのままだと私が恋愛出来ないと思ったからだって。でも離れてみて、私への気持ちに気づいたって」
「え……、それってまさか、告白されたってことですか?」
めぐはうつむいてコクリと頷く。
環奈は仰け反って声を上げた。
「ええー!?今さら?もう氷室さんたら、なんでそんなにこじらせちゃったんですか。あんなにお二人ともいい雰囲気だったんですから、フリなんかやめてほんとにつき合おう!で良かったのに。離れてみて気づくなんて、もう……、こじらせ過ぎです!」
勢いに任せてそう言うと、環奈はため息をつく。
「って、雪村さんに言っても仕方ないですよね。でもこんなに雪村さんを戸惑わせるなんて、氷室さんたらもう……。それにタイミングも悪すぎます。私、長谷部さんの様子が気になってて。きっと長谷部さん、雪村さんのこと好きなんじゃないかなって」
めぐが黙ってうつむいたままでいると、環奈は、えっ!とまたしても驚きの声を上げた。
「もしかして!雪村さん、既に長谷部さんに告白されました?」
「いや、えっと。告白の、予告?みたいな」
「なんですか?それ」
「長谷部さんも、私と氷室くんがつき合ってて最近別れたと思い込んでて……。そのあと言われたの。少しずつ氷室くんから心が離れたら、自分のことを思い出してくださいって。ずっと、いつまででも待ちますって」
「うっわー、優しい!私ならコロッと行っちゃう」
うん、優しいよね、とめぐは小さく呟く。
環奈はまたため息をついた。
「雪村さん。今はもう、なんだかコジコジにこじれちゃってますけど、これだけは言わせてください。たくさん悩んで時間をかけて迷ってもいいです。だけどいつか、この人が好きって思えたら、その時は素直に真っ直ぐにそう相手に伝えてくださいね」
めぐは顔を上げて環奈をじっと見つめる。
「素直に、真っ直ぐに……?」
「そうです。そしていつもの明るい雪村さんに戻ってくださいね。長谷部さんじゃないけど、私もずっと待ってますから」
「うん、ありがとう環奈ちゃん。私、環奈ちゃんが一番好き」
「いやいや、嬉しいけどそれも違いますって」
「だって素直に伝えてって言われたから。私、今は本当に環奈ちゃんが好きなの」
「やややめてください。キュンキュンしちゃうじゃないですか」
環奈は視線をそらし、「あー、ハンパない。美女に上目遣いで『好きなの』言われたら、もう」と胸に手を当てて必死に気持ちを落ち着かせる。
「雪村さん、いつか自分の本当の気持ちに気づいたら、きっと幸せになれますよ。だからそんなに悲しまないで。ね?」
「……うん、分かった。ありがとう、環奈ちゃん」
ようやく笑顔を見せるめぐに、環奈も笑って頷いた。
◇
「え?帰るって、ひとり暮らしのマンションにですか?」
環奈が帰ったあと食器を下げに来た長谷部は、めぐの言葉を聞き返す。
「はい。明日病院の診察の日なので、そこからは自宅に帰ります。食事はネットスーパーでお惣菜を届けてもらえばいいし、足首ももう痛みはないので大丈夫ですから」
「でも何かあれば困りますし、せめてもう少しだけでも……」
「お気持ちはありがたいですが、ずっとここにいるのも気が滅入ってしまうので」
本音は宿泊代がかさんでしまうのが理由だが、そう言うと長谷部は気を遣ってしまうかもしれない。
「長谷部さん、本当に色々とありがとうございました。自宅に帰って一人で気持ちを落ち着かせたくて」
「……そうですか、そういうことなら分かりました。では明日、病院まで車でお送りしますね。そのあとご自宅にも」
「いいえ、タクシーを使います」
きっぱりそう言うと長谷部はそれ以上押しつけるようなことは言わなかった。
「分かりました。もし何かありましたら、夜中でもいつでもご連絡ください。ここに私のプライベートの携帯番号が書いてありますので」
差し出された名刺を、めぐはありがたく受け取る。
翌朝。
ホテルのロータリーに止まっているタクシーの前で、改めて長谷部に頭を下げた。
「長谷部さん、本当にお世話になりました」
「いえ、お役に立てたなら良かったです。どうぞお大事に」
「はい、ありがとうございます」
笑顔でお礼を言い、めぐはタクシーに乗り込んだ。
◇
病院での診察も終わり、そのままタクシーで自宅に帰る。
ギプスは外れてサポーターだけになった為、動きやすくなった。
「やっぱり自分の部屋は落ち着くな。ホテルに比べたら質素だけどね」
ふふっと笑ってから紅茶を淹れてソファに座る。
会社のパソコンを取り出して、やり残してある作業に取りかかった。
弦との共有フォルダに入っているファイルを開くと、やりかけの状態になっているのに気づく。
(これって、このまま氷室くんが作業するつもりなのかな?私で良ければ代わるけど……)
うーん、と少し迷ってから、めぐは電話をかけてみることにした。
「もしもし、氷室くん?」
『めぐ?もうマンションに帰ったのか?足の具合は?病院ではなんて言われた?』
矢継ぎ早に質問されて、めぐは苦笑いを浮かべる。
「大丈夫だよ。順調に回復してギプスも取れたから。今はサポーターをつけてて、無茶しなければ普通に歩いて構わないって。来週からは仕事に行くね」
『そうか、無理しなくていいからな』
「うん、ありがとう。それで今、氷室くんがやりかけてるファイルを開いてるんだけど。これって残りは私がやっても構わない?」
『あー、えっと、クリスマスイベントの紹介原稿?締め切りまでまだ時間あるから、後回しにしてたんだけど』
「そっか。私、時間持て余してるからやっておくね。出来上がったら調整をお願いしていいかな?」
『ああ、分かった。無理しなくていいからな』
そればっかり、とめぐは思わず笑みをもらす。
『めぐ、環奈が仕事終わったらそっちに寄るって言ってる。何か欲しいものあるか?って』
「ええ?そんな、気を遣わなくていいよって言っておいて。お仕事のあとに寄るなんて疲れるでしょ?って」
『うん、まあ、一応伝える』
「じゃあね、氷室くん。何かあったら連絡ください」
『分かった。くれぐれも気をつけてな、めぐ』
電話を切ると、「なんだかみんな大げさだな」とひとりごちる。
だが、弦と普通に会話出来たことは嬉しかった。
◇
「雪村さーん!お届け物でーす!」
夜の7時半に玄関から環奈の声が聞こえてきて、めぐは思わず笑い出す。
「はーい、環奈ちゃん。今開けるね」
ドアを開けると、環奈は大きなエコバッグを抱えていた。
「わっ、すごい荷物ね。重いでしょ?」
受け取ろうとすると、「あー、だめだめ!」と環奈が身をよじる。
「雪村さん、怪我してるんですよ?持っちゃだめ!はい、ソファに座ってて」
環奈は靴を脱ぐと早速キッチンに立ち、買って来た惣菜をお皿に載せてローテーブルに運んだ。
「こんなにたくさん買って来てくれたの?仕事上がりに大変だったでしょ。気を遣わないでって氷室くんに伝えてもらったのに……」
「それが氷室さんに頼まれたんです。すぐ下まで一緒に来てたんですよ、氷室さん」
えっ?とめぐは驚く。
「ここに?」
「そうです。スーパーで手当り次第に食材買い込んでここまで持って来て、私に託して帰って行きました」
「……そうだったの」
うつむくめぐに、環奈はため息をつく。
「ほんとにもう、こじれまくりですよね。ラブラブカップルがコジコジカップルになっちゃった」
「うん、どうしてこうなっちゃったんだろうね。友達だった頃に戻りたい」
「恋人じゃなくて友達に、ですか?」
「そう。だってあの頃すごく楽しかったから。恋愛とかややこしいこと考えないで済んだし」
「雪村さん、恋愛はややこしくないですよ?」
「ややこしいよ。今の私にとったら、ややこし過ぎて悩みの種でしかないもん」
ふう、と環奈は大きく息をつく。
「幸せって人それぞれですね。私なんて恋愛はずっとご無沙汰だから、告白されただけで舞い上がっちゃうけどなあ」
なんと答えていいのか分からず、めぐは視線を落とす。
贅沢な悩みだと言われれば返す言葉がない。
それでもどうしても、明るく割り切ることが出来なかった。
「私が一番望んでるのは、雪村さんの幸せですからね?氷室さんを選んでも長谷部さんを選んでも、なんならどっちも選ばなくても、私は雪村さんが決めたことが一番だと思います。自分の本心が分かるといいですね」
「……私の、本心?」
「そう。素直な気持ちです」
「素直な気持ち……。今の私は、氷室くんと友達に戻りたいの」
「なるほど。それならそう伝えてみてもいいと思いますよ?氷室さんに」
えっ、とめぐは顔を上げて環奈を見る。
「いいの?そう伝えても。告白の返事にはならないのに?」
「私はいいと思います。避けられるよりは、今の気持ちを伝えてほしいって思うから」
「そう、かな。うん。そうだね。私、氷室くんに話してみる」
「はい。応援してます」
「ありがとう、環奈ちゃん」
めぐはようやく笑顔を浮かべた。
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