夕陽を映すあなたの瞳

葉月 まい

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花火大会

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 そして迎えた花火大会当日。

 仕事を終えた心は急いで昴のマンションに行き、サラに浴衣を着付けた。

 「Sarah,ちょっと回ってみて、turn around」

 心がそう言うと、サラはペンギンのようにちょこちょこと小刻みに回る。

 「うふふ、かわいいサラ。うん!良さそうね。So beautifulよ」

 ほら!と、心はサラを鏡の前に連れて行く。

 サラは思わず息を呑んで、驚いたように目を見開く。

 そこには、鮮やかな黄色の浴衣姿のサラが映っていた。

 「Oh my goodness…シンジラレナイ。Is this me?」
 「当たり前でしょ?サラったら…」

 心はふふっと笑って、サラの髪をアップにする。

 そして、先日二人で作ったつまみ細工の髪飾りを付けた。

 「How about this?」

 帯飾りやピアスも、全て二人で作ったつまみ細工のもの。
 サラに選んでもらいながら、心はサラを着飾った。

 サラは、うっとり夢見心地で鏡の中の自分を見つめている。

 「とっても良く似合ってる!じゃあ、行こうか」

 心はサラの手を引いて、昴の待つリビングに行く。

 「Ta-da! Here comes Japanese princess!」

 心が笑顔でサラを振り返ると、昴は驚いて目を見張った。

 「Sarah, you are so beautiful」
 「でしょー?!」

 心が得意げに言ってサラを振り返ると、サラは、はにかんだ笑みを浮かべていた。

 「さあ、じゃあ花火が始まるまで、下の屋台でもぶらぶら見に行こうか」

 心がそう言うと、昴が呼び止めた。

 「久住、これ」
 「ん?何?」

 心は、昴が差し出したものを見て驚く。

 「え、これ浴衣?何、どういうこと?」
 「これは、俺から久住へ。着てみてくれないか?」
 「ええー?!」

 事態が飲み込めず呆然としていると、サラが妙に明るく張り切った声で言う。

 「Wow! Try it on! Come on, quick! Coco.ユカタ、オソロイネ!」
 「う、うん」

 今度はサラが心の手を引く。

 半分ぼーっとしながら、心は浴衣に着替えた。

 サラが、beautiful !と声を上げる。

 心は恐る恐る鏡を覗き込んだ。

 水色の綺麗な色合いの浴衣に、少しオレンジがかった暖かみのある黄色の帯。

 まるで、海に沈むあの夕陽のようだと心は思った。

*****

 混雑した人をかき分けながら、浴衣姿のサラと心は楽しそうに屋台を覗く。

 「Coco, コレナーニ?」
 「ん?ああ、落書きせんべいね」
 「ラクガキ?」
 「えーっとね、なんだろう?drawing  rice cracker、とか?」

 サラは、ますます不思議そうに眉を寄せる。

 「分かんないよね、あはは。じゃあ見ててね。I'll try it」

 そう言って心は、屋台のおじさんにお金を払い、せんべいを受け取る。

 「このおせんべいに絵を描くの。何でも好きなもの、anything you like」

 心は透明のシロップで何かを描くと、おじさんから青のりの缶を受け取る。

 「それで、この青のりを振りかけると…」
 「Wow! It’s a dolphin!」
 「あ、分かった?You’ve got it!」

 シロップに振りかけた青のりが、心の描いたイルカの絵を浮かび上がらせる。

 「サラもやってみなよ!」

 Yes!とサラは嬉しそうに頷き、少し考えてから何かを描いた。

 青のりを振りかけると…

 『I ♡ Coco』の文字が浮かび上がった。

 「うわー、サラ!ありがとう。Me tooよ」

 二人は微笑み合い、美味しそうにせんべいを頬張った。

*****

 やがて花火の開始時間が近づき、3人は部屋に戻る。

 「ここから花火が見られるなんて、凄いね!なんて贅沢!」
 「ホントネー!」

 心とサラは、ワクワクした様子で窓から外を見る。

 「じゃあ、消すよ」

 昴が、部屋の電気を消した。

 しばらくして…

 ヒュー、ドドーン!という大きな音と共に、花火が打ち上がった。

 「うわー、目の前よ!すごーい!」

 次々と夜空に浮かび上がる大きな花火に、心もサラも興奮してはしゃいだ声を上げる。

 「綺麗ねー。あ、ニコちゃんマーク!Sarah, did you see that?」
 「ミター!ニコチャンー!」
 「あはは、ニコちゃんー!」

 そんな二人を、昴は少し後ろから微笑んで見守る。

 「Sarah, is this your first time なの?Japanese fireworks 見るの」
 「ソウナノー!So, I’m so excited!」

 ぷっと昴は小さく吹き出す。

 ("そう"なのか"so"なのか、もう訳分かんないな)

 まるで幼い少女のような笑顔の心とサラ。
そしてそんな二人の横顔を綺麗に彩る花火を、昴も嬉しそうに眺めていた。

*****

 いつしか花火も終わりを告げ、そろそろ帰ろうかと窓の下を見ると、車がびっしり並んで動かないままだった。

 「見て、traffic jam 凄いね」
 「ホント!」
 「もう少しここにstayした方がいいかもね」

 すると少し離れたところから昴の声がした。

 「二人とも、もうこっちにおいでよ」

 どうやら、心とサラが下を覗き込んでいるのを見ているだけでもヒヤヒヤするらしい。
 必死で手招きしている。

 「Sarah, do you know this? 彼ね、acrophobia なの。He is afraid of heights」
 「エー、ホント?ジャア why did you choose this room?」
 「でしょー?そう思うよね。なんと、misunderstanding だったんだって。
 second or fifth floorだと思ったの。25thなのに」
 「エエー?!シンジラレナイ」

 昴は、バツが悪そうに頬をポリポリと掻いてから、キッチンへ向かう。

 「ほら、座ってて。コーヒー淹れるから」

 はーい!と、心とサラはダイニングテーブルに向かった。

 渋滞が解消されるのを待ちながらコーヒーを飲んでいると、サラが Well…と口を開いた。

 「What’s the relationship between you two?」
 「え、どういう関係って…。だからhigh school classmateよ」

 心がそう答えると、サラは「I know that !」と言って聞き直す。

 「Are you guys seeing each other?」

 (え?このseeの意味って…)

 心がチラリと隣を見ると、昴はコーヒーを手に固まっている。

 (やっぱり…)

 そう思ってサラに聞いてみる。

 「You mean…つまり、are we dating or not?ってこと?」

 サラはUh-huhと頷く。

 Never!と心が答えると、サラは「ホント?」と昴を見る。

 昴はプルプルと頭を振った。

 「Not yet」

 (は?何言ってんの、伊吹くん)

 心は慌てて「No way!」とかぶせるように言った。

 「ニホンジン、スナオジャナイネー」

 サラは、やれやれと両手を広げてみせた。

*****

 しばらくすると渋滞は落ち着き、昴は、サラと心を車で送ると言って3人で部屋を出る。

 マンスリーマンションに着くと、サラは二人に笑顔でハグをし、何度も礼を言う。

 エントランスに入って行くのを見届けてから、昴は次に心のマンションへと車を走らせた。

 「久住、今日は本当にありがとうな。サラ、もの凄く楽しそうだった」
 「本当だね。浴衣もとっても喜んでくれて、花火も興奮して見てたし。日本を楽しんでくれたのなら、良かったなー」
 「ああ、そうだな。あんなに嬉しそうなサラは初めて見たよ」
 「それに伊吹くん。私にまで浴衣をありがとう!びっくりしてお礼も言えてなかったけど、本当に嬉しかった。いつの間に用意してくれたの?」
 「ん?まあ、休みの日にね」

 昴は、照れたように短く言う。

 「わざわざまたあのお店に行ってくれたの?本当にありがとう」
 「いや、いいんだ。俺が勝手にやったことだしね」

 やがて心のマンションに着くと、昴は先に車を降り、助手席のドアを開けて心に手を差し伸べる。

 「足元気をつけて」
 「ありがとう!」

 髪を結い上げた浴衣姿の心に笑顔を向けられ、ぼーっと見とれた昴は、知らぬ間に心を胸に抱き寄せていた。

 心の綺麗なうなじが目に入り、思わずドキッとした時、胸の前でくぐもった声がした。

 「伊吹くん、私日本人だから。別にハグしなくていいよ」
 「あっ!そ、そうだな。ごめん」

 我に返り、慌てて身体を離す。

 「じゃあ、送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね。お休みなさい」
 「あ、こちらこそ、ありがとう。お休み」

 そそくさと車に戻り、昴は顔を赤くしながら車を走らせた。

*****

 8月に入り、サラが日本での出向を終え、アメリカに帰る日がやって来た。

 心は仕事の休みをもらい、空港まで見送りに行く。
 昴も仕事を抜け出し、空港に来ていた。

 搭乗手続きを終えたサラは、二人に向き合う。

 「Well, thank you for everything. Coco, Subaru…」

 口を開いたものの、そのあとは言葉にならない。

 心はサラを抱きしめた。

 「I never forget you, Sarah」

 サラは涙をこぼしながら頷く。

 「Take care and keep in touch. OK?」

 Yesとサラは何度も頷き、心の背中をギュッと抱きしめる。

 心も堪えきれず、涙をこぼしながらサラとただひたすら頷き合う。

 そしてゆっくり身体を離し、二人で照れたように笑い合った。

 「またね、Sarah」
 「マタネ、Coco and Subaru」
 「ああ、また会おう。Sarah」
  
 最後は輝くような笑顔で、サラは心と昴に大きく手を振って去って行った。
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