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全て解決!
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「小雪ちゃん、足大丈夫か?」
朝から何度も、山下は小雪のケガを気にかける。
「大丈夫ですってば。稜さんこそ、私のせいで夕べはソファで寝ることになっちゃって…。眠れなかったでしょ?」
「いや、俺よく朝までソファで寝ちゃうことあるから。いつも通りだよ」
ははっと明るく笑う山下に、小雪もなんだか気持ちが軽くなった。
空港から、山下は迷うことなくタクシーに乗る。
「このまま家まで行くと、すごい料金になっちゃいます…」
と囁く小雪の言葉を聞き流し、へえー、のどかないい所だな、と窓からの景色を眺めている。
やがて小雪の実家に着くと、両親が表に出て待っていた。
「お父さん、お母さん、ただいま。黙って東京に行ったりして、ごめんなさい」
「まったくだ。びっくりしたぞ」
「それより足のケガは?大丈夫なの?」
「うん。普通に歩くのは平気」
「そう。それなら良かったけど」
すると、少し離れて様子を見ていた山下が、小雪の隣に並んで頭を下げる。
「初めまして、山下と申します。昨日はお電話で失礼致しました」
「いえ、とんでもない。こちらこそ、娘がご迷惑をおかけしました。さ、中へどうぞ」
小雪の母は、皆を家の中へと促す。
お茶を出され、手土産を渡した後、改めて山下は名刺を差し出した。
昨日電話で話した内容をもう一度説明し、小雪にケガをさせた事を詫びる。
小雪の両親は、いえいえと手を振って恐縮した。
「こちらこそ、わざわざ娘を送って来て下さって、ありがとうございました。大変ご迷惑をおかけしました」
二人揃って頭を下げた後、困ったように話し出す。
「娘は本当に、何をやってもだめな子で…。東京でひとり暮らしするなんてって、最初は大反対したんですよ。危なっかしいし、都会の変な詐欺にも引っかかるんじゃないかって。何でしたっけ?オラオラ詐欺?」
「お父さん、オレオレ詐欺よ」
横から母親が、小声で訂正する。
「そう、それ。だからね、こんな高級なホテルで働くなんてのも、半信半疑で。娘は、ちゃんとやってたんでしょうか?ご迷惑ばかりおかけしたのでは?」
「いえ、とんでもない!」
山下はすぐさま否定する。
「小雪先生は、とても優秀な保育士さんです。僭越ながら、私は小雪先生の仕事ぶりにいつも感心しておりました。どんな時も笑顔を絶やさず、愛情深く、責任を持って子ども達と接しておられる素晴らしい先生でした。ご自分がケガをされても、子どもを不安にさせないようにと笑って痛みを堪え、私が病院に連れて行こうとしても、無事に母親に引き渡すまでは行けないと言って無理をして…。同じ社会人としても、常に尊敬出来る働きぶりでした」
「へっ?あの小雪が?」
両親は、ポカンと山下の話を聞いている。
「はい。ですから私としては、是非とも小雪先生に戻って来て頂きたいと思っております。お許し頂けないでしょうか?」
山下が深々と頭を下げ、小雪も慌ててそれに続く。
「いや、あの、山下さん。うちの娘に…ですか?」
「はい、もちろんです」
頷く山下に、小雪の両親は、しばし無言になる。
「いや、まさかそんな。買い被り過ぎですよ。うちの娘はそんな出来た人間じゃありません。まだまだ言ってる事は幼いし、とてもじゃないけど、東京なんかで働けるような人間じゃあ…。なあ、母さん」
「ええ。それに、こっちに帰って来てからも毎日ボーッとしてばかりで。何枚お皿を割ったか分からないわよ」
(うん、それは確かに想像つく…)
山下は、不覚にも否定出来ずに口ごもる。
「挙げ句の果てには、子ども達にひと目会いたいからって東京に行って、窓の外から様子をうかがうなんて…。もう不審者極まりないぞ?どうするんだ、警察に捕まったりしたら」
すると、それまで黙っていた小雪が、意を決したようにぱっと顔を上げた。
「お父さん、お母さん!私、どうしても東京に戻りたいの。東京で、私とっても幸せだった。仕事も楽しくて毎日充実していて、職場の皆さんもいい人ばかりで。勝手に仕事を辞めて帰ってきた事、ちゃんと謝りたいの。そして、またいつか働かせてもらえるように、私、これから頑張るから!だからお願い。もう一度上京させて下さい!」
深々と頭を下げる小雪に、両親は困ったようにため息をつく。
「そうは言ってもなあ。父さん達、お前のことが心配なんだよ」
「そうよ。東京でひとり暮らしなんて、あなたの性格で今まで何もなかった方が不思議なくらい。これから危険な目に遭うかもしれないのよ?」
「それにお前、もう25だろ?ここらの田舎で25歳っていったら、結婚して子どもの一人や二人いてもいい年齢だ」
「本当よ。東京にいたんじゃ、あなたますます結婚が遠のくわよ?」
「父さんも母さんも、早く孫の顔が見たくてなあ。ご近所さん達、みんな孫の写真を嬉しそうに持ってて、うらやましいったら」
そうよねーと母親も頷き、小雪は言葉に詰まる。
「それは、まあ、確かに結婚は遠のくかもしれないけど…」
そう言って小雪がうつむいた時、山下が急に張りのある声で言った。
「その点ついては、どうぞご心配なく。私は小雪さんとの結婚を真剣に考えております」
は?と、小雪と両親は、鳩が豆鉄砲食ったような顔で山下を見る。
「それに私と結婚すれは、ひとり暮らしの心配もいりません。職場もたいてい同じですし、安心して大好きな保育士の仕事を続けられます。それに私も、早く子どもが欲しいと思っております。問題は全て解決出来るかと」
自信満々で皆の顔を見る山下に、小雪が驚きつつ声をかける。
「りょ、稜さん。私、稜さんと結婚するの?」
「ああ、そうだよ。だめか?」
小雪は、ブワッと目から涙を溢れさせた。
「だめじゃない!結婚する!」
「よし」
山下は小雪に笑って頷くと、両親に向き直る。
「この先もずっと小雪さんをお守りします。彼女が大好きな仕事をするのを、私も全力で応援します。そして必ず小雪さんを幸せに致します。どうか、小雪さんと結婚させて下さい」
山下は、これ以上ないくらい頭を下げる。
「お父さんお母さん。私、稜さんにいつも助けてもらってたの。いつも支えてもらって、守ってもらってたの。だから今度は、私も稜さんを支えたい。稜さんのそばで、ずっと一緒にいたい。そして必ず幸せになる。だからお願い、稜さんと結婚させて下さい」
小雪も山下と並んで頭を下げた。
驚いた両親が、長い沈黙の後、ようやく口を開いた。
「えーっと、結婚したら、ひとり暮らしの心配をしなくていいんだよな?オラオラ詐欺にも引っかからないように、見ていてもらえるんですよね?」
父親がまた間違えてそう言うが、山下は真剣に頷く。
「はい、もちろんです」
母親も、確かめるように呟く。
「小雪も、戻りたがってた東京に戻れるのね?大好きな子ども達にまた会えるのよね?」
「そうなの!お母さん」
だんだんと、父親の顔がほころんでいく。
「それに、結婚したら、孫の顔も見られるんだよな?」
「はい。一人と言わず、二人でも三人でも、早く子どもが欲しいと思っています」
「えっ!稜さんったら」
小雪が照れたように頬に手を当てた。
「そしたら、問題は全て解決…って事だな?」
父親が皆を見渡し、三人は大きく頷く。
「よし!決まりだ」
満面の笑みで父親が高らかにそう言うと、わあっとその場が一気に盛り上がった。
「良かったわねー、小雪」
「うん!ありがとう、お父さん、お母さん」
「山下さん、どうぞ娘をよろしくお願いします」
「はい、必ず幸せに致します。こちらこそ、よろしくお願い致します」
最後に山下と小雪は、見つめ合って微笑んだ。
◇
「うわ、凄い数だな」
実家の2階の小雪の部屋には、東京のアパートから送ったたくさんのダンボール箱が、荷解きされずにそのままの状態で積まれていた。
「そうなのー。ほら、私こっちでは、抜け殻みたいな生活だったから。でも良かった!そのままにしておいて」
「う、うん、まあそうだけど」
山下は、宅配業者に電話して集荷に来てもらうと、全て自分のマンションに送るよう手配した。
「はあー、すっきり!」
ベッドの端に座って、小雪は広くなった部屋に両手を広げて笑う。
山下は、そんな小雪にやれやれと苦笑いしながら隣に腰掛けた。
小雪は嬉しそうにしみじみと言う。
「良かったなあ、私。なんだか一気に幸せになれたシンデレラみたいな気分。ダンボールだらけの部屋から、憧れの東京へ!って」
「そうか、良かったな。こっちは、散々苦労してシンデレラを探し回った王子様の気分だけどね」
「稜さん、私を探してたの?」
キョトンとした顔で、小雪が山下を見上げる。
「ああ。でも君はガラスの靴を残してくれなかった。何も手がかりがなかったんだ」
そしてうつむき加減で話し始める。
「クリスマス・イブに、君のアパートに行ったんだ。加藤さんに、後悔だけはするな、手放したものは戻って来ないんだからなって言われて。でも…遅かった。俺は君を手放してしまったんだ」
小雪は驚きつつ、黙って山下の横顔を見つめる。
「悔やんでも悔みきれなかった。君が故郷に帰る事が分かっていたのに、なぜ俺は引き止めなかったんだって。こんなにも後悔する事になるとは…って、毎日辛かった。だから昨日、偶然君と再会出来て、もう絶対手放さないって心に決めたんだ」
山下に見つめられ、小雪は少し視線を落としてから話し出す。
「私は、ずっと夢を見ていた気がしてたんです。憧れの東京っていうお城で、夢みたいな時間を過ごせて…。でもそれは現実の世界じゃない。私はここで暮らしていくんだって。魔法使いは、現れないんだからって」
でも!と小雪は顔を上げて山下を見る。
「魔法使いはいなくても、王子様が迎えに来てくれたの!素敵な王子様が、また東京に連れ戻してくれる。だから、絶対私は幸せになる!今はもう、嬉しさでいっぱいです」
山下は、優しい眼差しを小雪に向ける。
「魔法使いじゃなく、天使のおかげだな。すみれちゃんと蓮くんっていう、恋のキューピッドの」
「ふふ、そうですね。でも私、これからは何か手がかりを置いて行くようにしますね。ガラスの靴じゃなくて、なんかこう、謎解きのヒントになるような」
「…はあ?なんでそうなるのさ」
山下は、半泣きの表情になる。
「もう絶対、俺のそばからいなくなるな」
小雪を抱きしめ、分かった?と真剣に顔を覗き込むと、小雪は赤くなって頷いた。
山下は、ふっと微笑んでから、そっと小雪の頬に手を添えて、優しくキスをした。
朝から何度も、山下は小雪のケガを気にかける。
「大丈夫ですってば。稜さんこそ、私のせいで夕べはソファで寝ることになっちゃって…。眠れなかったでしょ?」
「いや、俺よく朝までソファで寝ちゃうことあるから。いつも通りだよ」
ははっと明るく笑う山下に、小雪もなんだか気持ちが軽くなった。
空港から、山下は迷うことなくタクシーに乗る。
「このまま家まで行くと、すごい料金になっちゃいます…」
と囁く小雪の言葉を聞き流し、へえー、のどかないい所だな、と窓からの景色を眺めている。
やがて小雪の実家に着くと、両親が表に出て待っていた。
「お父さん、お母さん、ただいま。黙って東京に行ったりして、ごめんなさい」
「まったくだ。びっくりしたぞ」
「それより足のケガは?大丈夫なの?」
「うん。普通に歩くのは平気」
「そう。それなら良かったけど」
すると、少し離れて様子を見ていた山下が、小雪の隣に並んで頭を下げる。
「初めまして、山下と申します。昨日はお電話で失礼致しました」
「いえ、とんでもない。こちらこそ、娘がご迷惑をおかけしました。さ、中へどうぞ」
小雪の母は、皆を家の中へと促す。
お茶を出され、手土産を渡した後、改めて山下は名刺を差し出した。
昨日電話で話した内容をもう一度説明し、小雪にケガをさせた事を詫びる。
小雪の両親は、いえいえと手を振って恐縮した。
「こちらこそ、わざわざ娘を送って来て下さって、ありがとうございました。大変ご迷惑をおかけしました」
二人揃って頭を下げた後、困ったように話し出す。
「娘は本当に、何をやってもだめな子で…。東京でひとり暮らしするなんてって、最初は大反対したんですよ。危なっかしいし、都会の変な詐欺にも引っかかるんじゃないかって。何でしたっけ?オラオラ詐欺?」
「お父さん、オレオレ詐欺よ」
横から母親が、小声で訂正する。
「そう、それ。だからね、こんな高級なホテルで働くなんてのも、半信半疑で。娘は、ちゃんとやってたんでしょうか?ご迷惑ばかりおかけしたのでは?」
「いえ、とんでもない!」
山下はすぐさま否定する。
「小雪先生は、とても優秀な保育士さんです。僭越ながら、私は小雪先生の仕事ぶりにいつも感心しておりました。どんな時も笑顔を絶やさず、愛情深く、責任を持って子ども達と接しておられる素晴らしい先生でした。ご自分がケガをされても、子どもを不安にさせないようにと笑って痛みを堪え、私が病院に連れて行こうとしても、無事に母親に引き渡すまでは行けないと言って無理をして…。同じ社会人としても、常に尊敬出来る働きぶりでした」
「へっ?あの小雪が?」
両親は、ポカンと山下の話を聞いている。
「はい。ですから私としては、是非とも小雪先生に戻って来て頂きたいと思っております。お許し頂けないでしょうか?」
山下が深々と頭を下げ、小雪も慌ててそれに続く。
「いや、あの、山下さん。うちの娘に…ですか?」
「はい、もちろんです」
頷く山下に、小雪の両親は、しばし無言になる。
「いや、まさかそんな。買い被り過ぎですよ。うちの娘はそんな出来た人間じゃありません。まだまだ言ってる事は幼いし、とてもじゃないけど、東京なんかで働けるような人間じゃあ…。なあ、母さん」
「ええ。それに、こっちに帰って来てからも毎日ボーッとしてばかりで。何枚お皿を割ったか分からないわよ」
(うん、それは確かに想像つく…)
山下は、不覚にも否定出来ずに口ごもる。
「挙げ句の果てには、子ども達にひと目会いたいからって東京に行って、窓の外から様子をうかがうなんて…。もう不審者極まりないぞ?どうするんだ、警察に捕まったりしたら」
すると、それまで黙っていた小雪が、意を決したようにぱっと顔を上げた。
「お父さん、お母さん!私、どうしても東京に戻りたいの。東京で、私とっても幸せだった。仕事も楽しくて毎日充実していて、職場の皆さんもいい人ばかりで。勝手に仕事を辞めて帰ってきた事、ちゃんと謝りたいの。そして、またいつか働かせてもらえるように、私、これから頑張るから!だからお願い。もう一度上京させて下さい!」
深々と頭を下げる小雪に、両親は困ったようにため息をつく。
「そうは言ってもなあ。父さん達、お前のことが心配なんだよ」
「そうよ。東京でひとり暮らしなんて、あなたの性格で今まで何もなかった方が不思議なくらい。これから危険な目に遭うかもしれないのよ?」
「それにお前、もう25だろ?ここらの田舎で25歳っていったら、結婚して子どもの一人や二人いてもいい年齢だ」
「本当よ。東京にいたんじゃ、あなたますます結婚が遠のくわよ?」
「父さんも母さんも、早く孫の顔が見たくてなあ。ご近所さん達、みんな孫の写真を嬉しそうに持ってて、うらやましいったら」
そうよねーと母親も頷き、小雪は言葉に詰まる。
「それは、まあ、確かに結婚は遠のくかもしれないけど…」
そう言って小雪がうつむいた時、山下が急に張りのある声で言った。
「その点ついては、どうぞご心配なく。私は小雪さんとの結婚を真剣に考えております」
は?と、小雪と両親は、鳩が豆鉄砲食ったような顔で山下を見る。
「それに私と結婚すれは、ひとり暮らしの心配もいりません。職場もたいてい同じですし、安心して大好きな保育士の仕事を続けられます。それに私も、早く子どもが欲しいと思っております。問題は全て解決出来るかと」
自信満々で皆の顔を見る山下に、小雪が驚きつつ声をかける。
「りょ、稜さん。私、稜さんと結婚するの?」
「ああ、そうだよ。だめか?」
小雪は、ブワッと目から涙を溢れさせた。
「だめじゃない!結婚する!」
「よし」
山下は小雪に笑って頷くと、両親に向き直る。
「この先もずっと小雪さんをお守りします。彼女が大好きな仕事をするのを、私も全力で応援します。そして必ず小雪さんを幸せに致します。どうか、小雪さんと結婚させて下さい」
山下は、これ以上ないくらい頭を下げる。
「お父さんお母さん。私、稜さんにいつも助けてもらってたの。いつも支えてもらって、守ってもらってたの。だから今度は、私も稜さんを支えたい。稜さんのそばで、ずっと一緒にいたい。そして必ず幸せになる。だからお願い、稜さんと結婚させて下さい」
小雪も山下と並んで頭を下げた。
驚いた両親が、長い沈黙の後、ようやく口を開いた。
「えーっと、結婚したら、ひとり暮らしの心配をしなくていいんだよな?オラオラ詐欺にも引っかからないように、見ていてもらえるんですよね?」
父親がまた間違えてそう言うが、山下は真剣に頷く。
「はい、もちろんです」
母親も、確かめるように呟く。
「小雪も、戻りたがってた東京に戻れるのね?大好きな子ども達にまた会えるのよね?」
「そうなの!お母さん」
だんだんと、父親の顔がほころんでいく。
「それに、結婚したら、孫の顔も見られるんだよな?」
「はい。一人と言わず、二人でも三人でも、早く子どもが欲しいと思っています」
「えっ!稜さんったら」
小雪が照れたように頬に手を当てた。
「そしたら、問題は全て解決…って事だな?」
父親が皆を見渡し、三人は大きく頷く。
「よし!決まりだ」
満面の笑みで父親が高らかにそう言うと、わあっとその場が一気に盛り上がった。
「良かったわねー、小雪」
「うん!ありがとう、お父さん、お母さん」
「山下さん、どうぞ娘をよろしくお願いします」
「はい、必ず幸せに致します。こちらこそ、よろしくお願い致します」
最後に山下と小雪は、見つめ合って微笑んだ。
◇
「うわ、凄い数だな」
実家の2階の小雪の部屋には、東京のアパートから送ったたくさんのダンボール箱が、荷解きされずにそのままの状態で積まれていた。
「そうなのー。ほら、私こっちでは、抜け殻みたいな生活だったから。でも良かった!そのままにしておいて」
「う、うん、まあそうだけど」
山下は、宅配業者に電話して集荷に来てもらうと、全て自分のマンションに送るよう手配した。
「はあー、すっきり!」
ベッドの端に座って、小雪は広くなった部屋に両手を広げて笑う。
山下は、そんな小雪にやれやれと苦笑いしながら隣に腰掛けた。
小雪は嬉しそうにしみじみと言う。
「良かったなあ、私。なんだか一気に幸せになれたシンデレラみたいな気分。ダンボールだらけの部屋から、憧れの東京へ!って」
「そうか、良かったな。こっちは、散々苦労してシンデレラを探し回った王子様の気分だけどね」
「稜さん、私を探してたの?」
キョトンとした顔で、小雪が山下を見上げる。
「ああ。でも君はガラスの靴を残してくれなかった。何も手がかりがなかったんだ」
そしてうつむき加減で話し始める。
「クリスマス・イブに、君のアパートに行ったんだ。加藤さんに、後悔だけはするな、手放したものは戻って来ないんだからなって言われて。でも…遅かった。俺は君を手放してしまったんだ」
小雪は驚きつつ、黙って山下の横顔を見つめる。
「悔やんでも悔みきれなかった。君が故郷に帰る事が分かっていたのに、なぜ俺は引き止めなかったんだって。こんなにも後悔する事になるとは…って、毎日辛かった。だから昨日、偶然君と再会出来て、もう絶対手放さないって心に決めたんだ」
山下に見つめられ、小雪は少し視線を落としてから話し出す。
「私は、ずっと夢を見ていた気がしてたんです。憧れの東京っていうお城で、夢みたいな時間を過ごせて…。でもそれは現実の世界じゃない。私はここで暮らしていくんだって。魔法使いは、現れないんだからって」
でも!と小雪は顔を上げて山下を見る。
「魔法使いはいなくても、王子様が迎えに来てくれたの!素敵な王子様が、また東京に連れ戻してくれる。だから、絶対私は幸せになる!今はもう、嬉しさでいっぱいです」
山下は、優しい眼差しを小雪に向ける。
「魔法使いじゃなく、天使のおかげだな。すみれちゃんと蓮くんっていう、恋のキューピッドの」
「ふふ、そうですね。でも私、これからは何か手がかりを置いて行くようにしますね。ガラスの靴じゃなくて、なんかこう、謎解きのヒントになるような」
「…はあ?なんでそうなるのさ」
山下は、半泣きの表情になる。
「もう絶対、俺のそばからいなくなるな」
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