魔法のいらないシンデレラ 3

葉月 まい

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ハッピープロジェクト?

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「すみれちゃーん!」

1週間後、ナーサリーに入って来たすみれを、小雪はギューッと抱き締めて頬ずりする。

「会いたかったー!」
「こゆせんせい!やっとあえた」

すみれも嬉しそうに小雪に笑いかけた。

やがて小雪は立ち上がると、深々と瑠璃に頭を下げる。

「瑠璃さん。何も言わずにいなくなってしまって、本当に申し訳ありませんでした」

ううん、と瑠璃は笑顔で首を振る。

「いいのよ。小雪先生が戻って来てくれて、こんなに嬉しいことはないわ」
「勝手な私をまたここで働かせて下さって、本当にありがとうございます」
「私もすみれも、本当に喜んでるの。今日からまた、蓮も一緒によろしくお願いします」
「はい!」

小雪は、心底嬉しそうに頷いた。



3月下旬に、何度目かの『社員の生活環境整備プロジェクト』リーダーミーティングが開かれた。

小雪は、会議室に入って来た一生にすぐさま近付いて頭を下げる。

一生は、
「またどこかに行かないように、これからは山下くんが見張ってるからね」
と言って、小雪に優しく笑いかけた。

他のメンバーも、温かく小雪を受け入れてくれ、小雪は胸がいっぱいになる。

司会の早瀬がミーティングを始めようとすると、今井が手を上げた。

「その前に、今日は嬉しいニュースがあるんじゃありませんこと?まずは、叶恵ちゃんと早瀬さん」
「あ、はい。私事で恐縮ですが、お陰様で先月末、無事に息子が産まれました」

そう言って早瀬が、パソコンの画面を皆に見せる。

叶恵が手に赤ちゃんを抱いて微笑んでいた。

「皆様~、初めまして。みなとと言います」

可愛いー!と皆は画面を覗き込み、手を振る。

「叶恵ちゃん、本当におめでとう!これはみんなからの花束よ。早瀬さんに持って帰ってもらうわね」

そう言って今井は、画面越しに花束を見せた。

「うわー、綺麗なお花!皆様、ありがとうございます」

早瀬も立ち上がって礼を言い、今井から花束を受け取った。

その後も、まだまだ嬉しい報告が続く。

「えー、営業部企画広報課の加藤くんが、5月に当ホテルで挙式されることになりました」

わぁーと皆が拍手をする中、加藤が立ち上がる。

「皆様、ありがとうございます!一般企業に勤める彼女と、近々入籍致します。5月の結婚式の際は、どうぞよろしくお願い致します」

拍手が収まると、早瀬はまたおめでたい報告をする。

「続いて同じく企画広報課の山下くんが、保育士の小雪先生と結婚される予定だそうです」

ええー?!と、今度は一斉に驚きの声が上がる。

山下と小雪は、おずおずと立ち上がった。

「皆様、色々とご迷惑をおかけしました。今後は二人で、より一層仕事に精進致しますので、何卒よろしくお願い致します」

拍手が起こり、今井が興味津々に質問する。

「ねえ、小雪先生が戻って来てくれたのって、山下さんが迎えに行ったってことなの?その辺の話、詳しく聞きたいわー」
「は、いや、まあ、そうですね。あの、私達もこのホテルで結婚式を挙げさせて頂きたいと思っておりますので、皆様どうぞよろしくお願い致します」

答えを濁しつつ山下がそう言うと、青木が口を開く。

「ちょっとちょっとー、俺達も4月にここで挙式するんだぞ?日取り、被せるんじゃないぞ?」
「そうだぞ、山下。俺は5月で押さえてあるんだからな。被ったらあとでジャンケンするぞ」
「ジャンケン?!加藤、お前ジャンケンで決めるのもおかしいだろうが?」

青木と加藤のやり取りに、皆は苦笑いする。

「何はともあれ、嬉しい限りですな」
「本当に。このプロジェクトのメンバーが次々と幸せになるなんて」

福原と田口がそう言うと、今井も身を乗り出す。

「もはやこれは『ハッピープロジェクト』ですわね」

皆が笑顔になる中、あのー…と白石が手を上げた。

「自分、未だに結婚どころか、彼女も出来なくて…。それに、同じ20代独身だった奈々さんと小雪先生が既婚者になるし、同じく独身男性だった青木さんと加藤さんと山下さんまで既婚者になって…。叶恵さんと早瀬さんも子育て世帯になるし、自分だけがポツンと取り残されて…。お願いですから、一人にしないで下さい~」

もはや半泣きの白石を、皆が、まあまあと慰める。

「白石、お前にだってそのうちいい人が現れて、幸せになれるよ」
「本当ですか?総支配人」

一生が頷くと、今井も笑顔で言う。

「そうよ、白石さん。なんたって、このプロジェクトメンバーの幸せ伝播力ったら、もの凄いんだからね」
「確かに!まさにハッピープロジェクトだね」

田口が笑い、白石も納得したように頷いた。

「そうですね。次は自分が幸せになります!」
「いいぞ!その意気だ」

皆も笑顔で拍手した。

そしてハッピー…ではなく、社宅のプロジェクトも本格始動となり、郊外のファミリー向けの戸建てに青木と奈々が、都内の既婚者向けマンションに加藤夫妻が第1弾として入居する事が決まる。

夏頃には今井達も、郊外のコミュニティマンションへの引っ越しを検討しており、プロジェクトはこの先も続ける事になった。

全ては、ホテルの社員の為に。
一生の挑戦はまだまだ続く…



「お帰りなさーい!」

マンションの玄関を開けた瞬間、小雪が飛びついて来て、山下は思わず後ずさった。

隣の部屋からゴミ袋を持って出て来た奥さんと目が合い、あらあら、ご馳走様と笑われる。

「ど、どうも…」

会釈をすると、山下は急いで玄関に入ってドアを閉める。

「小雪…。頼むからせめてドアが閉まってからにしてくれ。ほら、そこから下りて来ないでいいから」

えー?と口を尖らせながら、小雪は上り框に戻って両手を広げる。

「ここでいいんでしょ?ほらほら」

満面の笑みで、広げた両手をパタパタさせる。

山下は仕方なく、ジワジワと近付いた。

ギリギリ手が届く所まで来ると、小雪はつま先立ちで山下に抱きついた。

「稜さん、お帰りなさーい!」
「ただいま、小雪」

抱きしめて頬にキスをする。

「ちゃんと留守番してたよ」
「そうか、偉い偉い」

なんだか俺が保育士みたいだな、と、小雪の頭をなでながら山下はふっと笑った。

「それでね、夕飯の支度をしてたら、家の電話が鳴ったの。稜さんに、出ないでいいからって言われてたのに、私、うっかり出ちゃって」

小雪の手料理を食べながら、山下は、え?と顔を上げる。

「それで?誰からだったの?」
「それがね、私がもしもしって出たとたん、ワシだワシ!って」
「ワシワシ詐欺?最近はオレオレじゃないのか…って、小雪、大丈夫だったのか?」
「うん。だって、お父さんだったんだもん。家の電話番号、これで合ってるのかなって確かめたんだって」
「ええ?お父さん、あれだけオレオレ詐欺のこと気にしてたのに?」
「でしょー?それで私も、詐欺みたいだから、もう家の電話にかけちゃだめよって言って切ろうとしたの。そしたら、子どもは出来たか?って」
「はやっ!ゴホッ」

山下は、思わず味噌汁にむせ返る。

「大丈夫?稜さん」
「ああ、だ、大丈夫」

お茶を飲んで、ふうとひと息つく。

「なんかさ、俺、今まで周りの人から、お前おもしろいな、とか、陽気な奴だなとか言われてきたんだけど、いやー、小雪ファミリーには敵わないな」
「ん?それ、つまりどういう事?」
「そうだなー、つまり…。俺と小雪の子どもは、最強に陽気でおもしろい子になるって事かな?」
「うふふ、それは楽しみだね!」

ニッコリ笑う小雪の笑顔に不意打ちされ、山下は顔を赤くする。

「よし、お父さんの為にも、早く子ども作るぞー!」

山下がそう言うと、小雪も、おおー!と右手を高く挙げる。

二人は、顔を見合わせて微笑んだ。

やがて季節は変わり…

4月に青木と奈々、5月の加藤夫妻に続き、6月に山下と小雪も、ホテル フォルトゥーナ 東京で結婚式を挙げた。

小雪のお腹に小さな命が宿ったのは、そのすぐ後のことだった。
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