Good day ! 6

葉月 まい

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出会い

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「あ、お父さん!」

フライトを終えてオフィスに向かっていた舞は、廊下の先に背の高い後ろ姿を見つけて、笑顔で駆け寄った。

「今帰り?  私もデブリ終わったら帰れるから、途中まで一緒に……」

そこまで言うと、舞の顔から笑みが消える。 

覗き込んで見上げた顔は、確かに父に似ているが、全くの別人だった。

おまけにどう見ても若い。

(え、だ、誰?)

思わず後ずさると、同じ便に乗務していた機長の伊沢が「わー、舞ちゃん!」と慌てて割って入った。

「ごめんね、相澤あいざわくん。ほら、行こう、舞ちゃん」
「あ、はい。すみませんでした」

伊沢に促され、舞は男性に頭を下げてからオフィスに戻った。



「まあまあ、そんなに落ち込まないでよ。ね? 舞ちゃん」

なんとかデブリーフィングを終え、「ありがとうございました」と挨拶してからガックリ肩を落とした舞に、伊沢が苦笑いする。

「確かに相澤くんは、佐倉さんに似てるもんね。でも娘の舞ちゃんまで間違えるなんて。『第二の佐倉 大和』って言われるのも、無理ないか」

え?と、舞は顔を上げた。

「あの方、そんなふうに言われてるんですか?」
「そうだよ。知らなかったの? イケメン機長が新しく入って来たって、噂になってたのに」
「えっ、あの方、パイロットなんですか? しかも機長?」

私服姿でフライトバッグも持っておらず、てっきりオフィスの社員かと思っていたのに、まさか機長とは……。

「ほんとに知らないんだね、舞ちゃん。相澤くんは日本生まれのアメリカ育ちで、向こうでパイロットになったんだ。アメリカのエアラインで機長になって、日本に移住するのを機に、JWAに入ったんだよ。ちょうど佐倉さんがラストフライトを迎えて、みんなで寂しがってた時に入れ違いみたいに入って来たから、余計に話題になったんだ。身長180 cm超えのイケメン機長なんて、そうそういないもんね」

そう言って伊沢は、手にしていたタブレットで社員名簿を検索した。

「ほら。ちゃんと載ってるよ、相澤 大翔ひろとくん。俺や恵真と同じ、運行乗務第7課所属」

舞はタブレットに表示された顔写真をじっと見つめる。

整った顔立ちや切れ長の目元は父にそっくりだが、やはりどう見ても若い。

「機長ってことは、40歳くらいですよね? もっと若く見えます」
「いや、確か35とか言ってたかな? 向こうのエアラインでは、珍しくないよ。でもまあ、間違いなくエリートだろうね。操縦の腕前はピカイチだから。うちに入社してすぐに機長訓練やった時、俺も恵真も指導したんだよ。恵真から聞いてない?」
「はい、なにも」
「ふうん。まあ、恵真にとったら佐倉さん以外、みんな霞んで見えるんだろうな。ははは!」

それは否定出来ない、と舞は頷いた。

両親は何年経っても、夫婦というより恋人同士のような雰囲気で、いつも微笑んで互いに見つめ合う仲なのだ。

まさに運命の相手という言葉がぴったりで、舞の憧れでもあったが、果たして自分はここまでの人に出会えるのだろうかとも思う。

ましてや今は、パイロットとして学ぶことが多く、恋愛とも無縁の日々。

新しくやって来た機長の噂も、全く耳に入らなかった。

「伊沢キャプテン。この方も機長ということは、私はこの先フライトでご一緒させていただくかもしれませんよね?」
「うん、遅かれ早かれね。帰ったら美羽に聞いてごらんよ、相澤くんのこと。CAの間でも、かなり騒がれてたみたいだから」
「はい」

次にお会いした時にはきちんと謝らないと、と思い、舞は神妙に頷いた。



「舞ー、お帰り!」

美羽と二人で住むマンションの部屋に帰ると、美羽が笑顔で出迎えてくれた。

「ただいま、美羽」
「フライトお疲れ様。パパから聞いたよー、ぐふふ」

え?と、舞は首をかしげる。

「聞いたって、なにを? フライトのこと?」
「ちがーう! イケメンエリート機長を『お父さん!』って呼んだこと」

うぐっ、と舞は言葉を詰まらせた。

「そりゃ、舞のお父さんはかっこいいけどさ。相澤キャプテンは35だよ? お父さんなんて呼ばれたの、初めてだろうね。どんな反応されたの? 驚いてたでしょ」
「いや、私の方が驚いてたかも。だってお父さんだと思い込んで、話しかけちゃったから」
「あはは! そうなんだ。でも絶対相澤キャプテンもびっくりしただろうな。『好きです』とか『つき合ってください』って声かけられることはあっても『お父さん!』って言われるなんてね。ふふふ」
「もう、美羽ったら。こう見えて私、落ち込んでるのに」

すると美羽はキョトンとする。

「え? なんで?」
「だって、キャプテンにそんな失礼なことしちゃって。乗務で一緒になったら、謝らないと」
「えー、舞ってば、ほんとに真面目。相澤キャプテンを狙ってる女の子だったら、話すきっかけが出来たと思って嬉しくなるんじゃない? フライトで一緒になるのを待たずに、探し出して声かけに行っちゃったりして。『私のこと、覚えてますか? あの時はすみませんでした』って」

可愛らしく小首をかしげる美羽に、舞は唇をとがらせた。

「全然そんなふうに思えないし、美羽みたいに可愛く出来ない。それに私、別に相澤キャプテンを狙ってないもん。怒ってらっしゃるかなって、今から気が重いよ」
「ふうん。確かに相澤キャプテン、フレンドリーな性格じゃなさそうだもんね。ヘーイ、ワッツアップ? って話しかけたら、真顔でシーンって沈黙されそう。アメリカに住んでたのにね?」
「いやいや。それは誰でもそうなるよ」
「そう? 私なら、イエーイ! ってハイタッチするけど」
「それは美羽だからだよ」

そうかな?と美羽は、人差し指を唇に当てて首をかしげる。

そんな仕草は、同性から見ても可愛らしい。

「美羽はいつも可愛いね。うらやましよ」
「なんで? 舞だって美人だし可愛いよ。どうして自信なさそうなの?」
「だって自信ないんだもん」
「えー、もったいない。私が自信つけさせてあげる。舞は可愛いよー、とってもキュートだよー」
「やだ、催眠術みたい」
「どうしてよ、魔法の呪文でしょ? そーれ! ちちんぷいぷい」
「あはは! やめてよ、もう」

二人で顔を見合わせて笑う。

いつも気持ちを明るくさせてくれる美羽のことが、舞は大好きだった。
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