年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜

ひなた翠

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第一章:幼馴染の距離

アルファの海斗

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 海斗が中学二年生になった春、変化は突然訪れた。

 二次分化。アルファ、ベータ、オメガという三つの性別が、思春期に発現する現象。海斗がアルファとして覚醒した日のことを、僕は鮮明に覚えている。

 あれは四月の終わり頃だった。学校から帰ってきた海斗の様子が、いつもと違っていた。フェンス越しに見える海斗の部屋の窓が閉まっていて、カーテンも閉じられていた。いつもなら窓を開けて、僕に手を振ってくれるのに。

 心配になって、海斗の家のインターホンを押した。海斗の母親が出てきて、困ったような顔をしていた。

「遥くん、ごめんなさい。海斗、今日は少し体調が悪くて」

 声のトーンが、いつもより低かった。何か隠しているような、そんな雰囲気があった。僕は頷き、お大事にと伝えて自分の家に戻った。胸の奥に、不安が広がっていく。海斗に何かあったのだろうか。

 翌日、学校から帰ると海斗が庭に立っていた。元気になったのかと安心して近づくと、海斗の匂いが変わっていることに気づいた。

 今までとは違う、濃厚で甘い匂い。夏の夜の深い青を思わせる、どこか甘くて妖艶な香りだった。アルファ特有のフェロモンが、鼻腔を刺激してくる。

(海ちゃんは、アルファなんだ――)

 僕は高校二年生のときに、オメガだと診断されていた。まだヒートは来てないけど、いつきてもおかしくないらしい。僕の体内で、妊娠の準備が整えば自ずとヒートが来るようになると言われた。

「はーちゃん」

 海斗が呼びかけてくる。声も、さらに低くなっていた。昨日までは、少年に見えていた海斗が『男』に変化していると現実を突きつけられる。

 確か、海斗の父親もアルファだった。僕の両親はどちらもベータで、僕がオメガの診断結果が出たときはひどく動揺していた。

 親の様子を見て、僕はオメガであることを他人にあまり知られてはいけないのだと察知した。だから僕は誰にも言っていない。幼馴染である海斗にもベータだと嘘をついている。

「海ちゃん、もう大丈夫なの? 調子が悪いって聞いてたけど」

 僕は動揺を胸の奥に隠し、努めて明るく声をかけた。海斗は頷き、照れくさそうに笑った。

「うん。昨日、朝から熱っぽくて病院に行って検査したら、ヒートだった。アルファの――」

 淡々と告げられた言葉に、僕の心臓が大きく跳ねた。

 海斗がアルファとして覚醒した。ヒートも来たというのなら、すでにオメガを妊娠させられる身体になったということだ。

 法律上、結婚はできないが――。運命の番と出会えば、オメガの身体に刻み込むことはできる。
 たった一日で、幼くて弟のような存在だった海斗が、僕を追い越して大人になったような感じがした。

「そっか。良かったね」

 僕は笑顔を作った。心の中では、複雑な感情が渦巻いていた。嬉しいような、寂しいような、感情を言葉にできない。

 海斗がアルファになったということは、これから女性にモテるようになるだろう。アルファは魅力的で、オメガやベータから求められる存在だ。

(僕とは生きる世界が違ってくる)

 ゴールデンウィークが明けた頃、海斗の周りに女子生徒が集まるようになった。街中や駅で見かけるたびに、海斗の周りに数人の女子が囲んでいる。

「藤堂くん、一緒に帰ろう」
「藤堂くん、今度の休みに遊ばない?」

 明るい声が、次々と海斗に投げかけられていく。海斗は困ったような笑顔を浮かべながら、女子生徒たちに応えていた。背が伸びて、顔立ちも整ってきた海斗は、確かに女子にモテるタイプの容姿だ。

 家に帰る途中に海斗を見かけるが僕は足を止めることなく、そのまま通り過ぎた。胸の奥に、何かが引っかかる。嫌な感情が、じわりと広がっていく。

 家に帰ると、海斗から電話がかかってきた。

「はーちゃん、俺の前通ったでしょ。何で声かけてくれなかったの?」
 少し不満そうな声。僕は曖昧に笑って、ごまかした。

「女の子たちと楽しそうだったから、邪魔しちゃ悪いと思って」
 電話の向こうで、海斗が息を呑む音が聞こえた。

「別に楽しくなんか……はーちゃんと一緒に帰りたかった」

 小さく呟かれた言葉に、胸が締め付けられた。海斗はまだ、僕に甘えてくれる。僕を頼ってくれる。でも、それがいつまで続くのだろうか。

 夏休みが過ぎ、秋になった頃には、海斗の周りの女子生徒はさらに増えていた。休日に海斗と買い物に出かけると、道ですれ違う女性たちが海斗を振り返って見ていく。海斗のフェロモンが、周囲の人々を惹きつけているのが分かった。

「海ちゃん、モテるようになったね」
 僕が冗談めかして言うと、海斗は顔をしかめた。

「別に。面倒臭いよ」
 不機嫌そうに呟く海斗の横顔を見つめながら、僕は胸が痛くなる。

(海ちゃんはいつかは、誰かと恋愛をする)
 それはきっと僕じゃないのはわかっている。そのとき僕は、笑顔で祝福してあげられるだろうか。
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