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第一章:幼馴染の距離
二次性分化前の僕たち
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まだ僕が高校三年生で、海斗が中学一年生だった。僕たちの家は隣同士で、庭を隔てる低い塀越しに互いの生活が見えていた。朝、窓を開けると海斗の部屋の窓も開いていて、カーテンが風に揺れている光景を何度見ただろうか。
物心ついた時から、海斗は僕の隣にいた。
僕の両親と海斗の両親は仲が良く、週末には互いの家を行き来していた。夕食を一緒に食べることも珍しくなく、僕と海斗は兄弟のように育てられた。
海斗が生まれた時、僕はまだ五歳だった。赤ん坊の海斗を抱かせてもらった記憶は朧げだが、柔らかくて温かかったことだけは覚えている。
小学生の頃、海斗はいつも僕の後をついてきた。
「はーちゃん、待ってよ」
甘えた声で呼びかけてくる海斗の姿が、可愛かった。ランドセルを背負った小さな背中が、必死に僕を追いかけてくる。
僕が学校から帰ると、海斗が庭で待っていた。手を振り、笑顔を向けてくる。その笑顔を見ると、疲れも吹き飛んでいった。
「はーちゃん、今日も一緒に遊ぼう」
海斗の明るい声が、夕暮れの住宅街に響いていた。僕は頷き、ランドセルを家に置いてから海斗の家へと向かった。海斗の母親が優しく迎えてくれて、おやつを出してくれる。
クッキーと牛乳を受け取り、海斗の部屋へと上がっていく。階段を上る足音が、懐かしい記憶として胸に残っている。
海斗の部屋は、いつも綺麗に片付いていた。窓際に勉強机があり、壁には海斗が描いた絵が貼ってある。ベッドの上にはぬいぐるみが並び、本棚には図鑑や漫画が詰まっていた。僕たちは床に座り、カードゲームをしたり、漫画を読んだりして時間を過ごした。
「はーちゃん、これ見て」
海斗が新しく買ってもらったゲームソフトを見せてくれる。目を輝かせながら、ゲームの説明をしてくれた。僕は頷きながら聞いていて、海斗の嬉しそうな顔を見ているだけで幸せな気持ちになった。
夏休みには、二人で近くの公園に行った。蝉の声が響き渡る中、海斗と一緒に虫取りをした。海斗が網を持ち、僕が虫かごを持つ。
木の幹を登ろうとする海斗を支え、転ばないように手を添える。汗だくになりながら、カブトムシやクワガタを探し回った。
「はーちゃん、見て見て! 捕まえたよ!」
海斗が興奮した声を上げる。網の中で暴れているカブトムシを、目を輝かせながら見つめていた。僕は虫かごを開け、海斗が慎重にカブトムシを入れるのを手伝う。海斗の小さな手が僕の手に触れ、温かさが伝わってくる。
冬には、二人で雪だるまを作った。庭に積もった雪を丸めて、大きな雪玉を作っていく。海斗の手袋は濡れてしまい、冷たくなった手を僕の手で温めてあげた。鼻が赤くなった海斗が、くしゃみをしながら笑っていた。雪だるまが完成すると、海斗は嬉しそうに抱きついてきた。
「はーちゃん、ありがとう」
小さな声で囁かれた言葉が、胸に染み込んでいく。海斗の温もりが、冷えた身体を温めてくれた。
中学生になった海斗は、少しずつ背が伸びていった。僕の肩くらいだった身長が、気がつけば僕の身長を追い越していた。
声変わりも始まり、時々声が裏返って恥ずかしそうにしていた。幼かった顔立ちが、少しずつ大人びていく。
「はーちゃん、勉強教えて」
海斗が教科書とノートを持ってやってくる。僕の部屋で、並んで机に向かった。海斗の横顔を見ながら、数学の問題を説明していく。海斗は真剣な表情で聞いていて、時折質問をしてくる。
夕食の時間になると、海斗の母親が呼びに来る。海斗は名残惜しそうに荷物をまとめて、帰っていく。玄関まで見送ると、海斗が振り返って手を振ってくれた。
「また明日ね、はーちゃん」
笑顔で言われた言葉に、僕も笑顔で応えた。海斗の後ろ姿を見送りながら、明日もまた会えることが嬉しかった。当たり前のように毎日会えることが、どれほど幸せなことなのか、僕はまだ気づいていなかった。
一緒にいることが当たり前で、一緒にいることが幸せだった。それだけで十分だった。
物心ついた時から、海斗は僕の隣にいた。
僕の両親と海斗の両親は仲が良く、週末には互いの家を行き来していた。夕食を一緒に食べることも珍しくなく、僕と海斗は兄弟のように育てられた。
海斗が生まれた時、僕はまだ五歳だった。赤ん坊の海斗を抱かせてもらった記憶は朧げだが、柔らかくて温かかったことだけは覚えている。
小学生の頃、海斗はいつも僕の後をついてきた。
「はーちゃん、待ってよ」
甘えた声で呼びかけてくる海斗の姿が、可愛かった。ランドセルを背負った小さな背中が、必死に僕を追いかけてくる。
僕が学校から帰ると、海斗が庭で待っていた。手を振り、笑顔を向けてくる。その笑顔を見ると、疲れも吹き飛んでいった。
「はーちゃん、今日も一緒に遊ぼう」
海斗の明るい声が、夕暮れの住宅街に響いていた。僕は頷き、ランドセルを家に置いてから海斗の家へと向かった。海斗の母親が優しく迎えてくれて、おやつを出してくれる。
クッキーと牛乳を受け取り、海斗の部屋へと上がっていく。階段を上る足音が、懐かしい記憶として胸に残っている。
海斗の部屋は、いつも綺麗に片付いていた。窓際に勉強机があり、壁には海斗が描いた絵が貼ってある。ベッドの上にはぬいぐるみが並び、本棚には図鑑や漫画が詰まっていた。僕たちは床に座り、カードゲームをしたり、漫画を読んだりして時間を過ごした。
「はーちゃん、これ見て」
海斗が新しく買ってもらったゲームソフトを見せてくれる。目を輝かせながら、ゲームの説明をしてくれた。僕は頷きながら聞いていて、海斗の嬉しそうな顔を見ているだけで幸せな気持ちになった。
夏休みには、二人で近くの公園に行った。蝉の声が響き渡る中、海斗と一緒に虫取りをした。海斗が網を持ち、僕が虫かごを持つ。
木の幹を登ろうとする海斗を支え、転ばないように手を添える。汗だくになりながら、カブトムシやクワガタを探し回った。
「はーちゃん、見て見て! 捕まえたよ!」
海斗が興奮した声を上げる。網の中で暴れているカブトムシを、目を輝かせながら見つめていた。僕は虫かごを開け、海斗が慎重にカブトムシを入れるのを手伝う。海斗の小さな手が僕の手に触れ、温かさが伝わってくる。
冬には、二人で雪だるまを作った。庭に積もった雪を丸めて、大きな雪玉を作っていく。海斗の手袋は濡れてしまい、冷たくなった手を僕の手で温めてあげた。鼻が赤くなった海斗が、くしゃみをしながら笑っていた。雪だるまが完成すると、海斗は嬉しそうに抱きついてきた。
「はーちゃん、ありがとう」
小さな声で囁かれた言葉が、胸に染み込んでいく。海斗の温もりが、冷えた身体を温めてくれた。
中学生になった海斗は、少しずつ背が伸びていった。僕の肩くらいだった身長が、気がつけば僕の身長を追い越していた。
声変わりも始まり、時々声が裏返って恥ずかしそうにしていた。幼かった顔立ちが、少しずつ大人びていく。
「はーちゃん、勉強教えて」
海斗が教科書とノートを持ってやってくる。僕の部屋で、並んで机に向かった。海斗の横顔を見ながら、数学の問題を説明していく。海斗は真剣な表情で聞いていて、時折質問をしてくる。
夕食の時間になると、海斗の母親が呼びに来る。海斗は名残惜しそうに荷物をまとめて、帰っていく。玄関まで見送ると、海斗が振り返って手を振ってくれた。
「また明日ね、はーちゃん」
笑顔で言われた言葉に、僕も笑顔で応えた。海斗の後ろ姿を見送りながら、明日もまた会えることが嬉しかった。当たり前のように毎日会えることが、どれほど幸せなことなのか、僕はまだ気づいていなかった。
一緒にいることが当たり前で、一緒にいることが幸せだった。それだけで十分だった。
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