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幼馴染の突然の訪問
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ピンポーン、と無機質な電子音が部屋に響いた。
誰だろう、と首を傾げながら玄関へと向かう。友人が来る予定はなかったし、宅配便が来る予定もない。きっと何かの勧誘だろうと思いモニターを確認することなく、ドアチェーンをかけたまま扉を少しだけ開けた。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた栗茶色の髪と、深い黒瞳だった。
心臓が、一拍飛んだ。
「海ちゃん……なんで」
声が震えた。初恋であり、片想いの相手である海斗が立っていた。大きなリュックを背負い、Tシャツとジーンズという軽装で、汗ばんだ額を手の甲で拭っている。真夏の日差しを浴びてきたのだろう、頬が少し赤くなっていた。
「大学のオープンキャンパス行くのに、はーちゃんの部屋からだと近いから」
(連絡なかったのに……なんで)
海斗が真っ直ぐと僕を見つめて言ってくる。
「ちょっと待ってね」
僕は一度ドアを閉めると、ドアチェーンを外してから再びドアを開けた。
海斗がにっこりと嬉しそうに笑うと、靴を脱いで家の中に入っていく。
「連絡くれれば」
リビングに向かって歩くカイトの背中を見ながら、僕はようやく言葉を搾り出した。心臓が早鐘を打ち、手のひらが汗ばんでいく。
「連絡したら、逃げるだろ」
海斗がじろりと振り返った。深い黒瞳が、僕を真っ直ぐに捉えている。視線が絡み合い、僕は言葉を失った。
(確かに……)
喉が詰まり、何も言えなくなる。海斗の視線は鋭く、まるで僕の心の内を全て見透かしているようだった。
いや、きっとバレてるんだ。海斗から距離を置こうとしていることを。
去年、僕が長期の出張だと言って嘘をついて、海斗の訪問を断った。だから今年は、なんの連絡もなしに来たんだろう。
最後に会ったのは、僕が二十二歳の春だった。一年という時間は、海斗をさらに大人へと成長させていた。背がさらに伸びて、肩幅も広くなっている。
Tシャツから覗く腕は筋肉がついて太くなり、首筋には汗が光っている。無造作に掻き上げた栗茶色の髪が、落ちてきて色っぽさを醸し出す。
リビングに案内すると、海斗は荷物を床に置いてソファに腰を下ろした。
リュックからペットボトルを取り出し、喉を鳴らして水を飲んでいる。喉仏が上下に動き、その動きに目が釘付けになってしまう。慌てて視線を逸らすと、海斗の視線が僕を追いかけ、そしてふっと口元を緩めて笑っていた。
夕方になり、部屋の空気が少しずつ変わっていく。外の蝉の声が遠くに聞こえ、西日がカーテン越しに差し込んでいた。海斗は相変わらずソファに座り、スマホを眺めている。僕はキッチンで夕食の準備をしながら、海斗の存在を意識せずにはいられなかった。
――夜。
時計の針が十時を回った頃、異変が起きた。
「どうして、こんな時に」
身体が熱い。喉が渇き、肌が火照っていく。いつもよりも早くヒートの兆候が現れている。心拍数が上がり、呼吸が荒くなっていく。身体の芯から熱が湧き上がり、汗が額に滲んだ。
(こんなはずでは――)
寝室で横になっていた僕は、ベッドから起き上がろうとした。身体が重くて、力が入らない。ヒートの熱に浮かされながら、なんとか立ち上がる。抑制剤を飲まなければ。薬を飲んで、熱を抑えなければ。海斗に気づかれる前に――。
(海ちゃんは、アルファだから。オメガのフェロモンで迷惑をかけたくない)
ふらつく足取りでキッチンへと向かった。薄暗い廊下を進み、リビングを抜ける。食器棚の引き出しに手をかけようとした瞬間、背後から腕が伸びてきた。
「はーちゃん、俺がいるだろ」
低い声が耳元で囁かれた。
背中に海斗の体温が伝わってくる。熱い。海斗の身体は、僕よりもずっと熱かった。アルファ特有の高い体温が、薄い寝間着越しに伝わってくる。腕が僕の腰を掴み、そのまま持ち上げられた。視界が回転し、気がつけばベッドに押し倒されていた。
柔らかいシーツの感触が背中に伝わる。海斗が覆い被さるように上から見下ろしてきた。月明かりが窓から差し込み、海斗の顔を照らしている。瞳が、いつもより暗い色をしていた。深い黒が、僕を映し込んでいる。
「だめだって」
声が震えた。拒絶の言葉を口にしながらも、身体は正直だった。海斗の匂いを嗅ぐだけで、身体が反応してしまう。夏の夜の深い青を思わせる、アルファ特有のフェロモンが鼻腔を刺激する。心地よい安心感と、妖艶な甘さが混ざり合った匂い。幼い頃から慣れ親しんだ匂いなのに、今は僕の性欲を強く刺激してくる。
大好きな海斗に迫られて、抗えるはずがない。
海斗の唇が、僕の唇に重ねられた。柔らかく、温かい感触。思わず目を閉じると、舌が唇をなぞってきた。口を開けるように促され、従ってしまう。舌が侵入してきて、口内を蹂躙していく。甘く濃厚なキスが、何度も繰り返された。
息が苦しくなり、唇が離れる。糸を引く唾液が、二人を繋いでいた。海斗が僕の頬を撫で、額にキスを落としてくる。首筋を舐められ、鎖骨を甘噛みされた。身体が跳ね、声が漏れそうになる。
「海ちゃん、抱いて」
思わず口から懇願の言葉が零れ落ちた。理性が溶けていき、本能だけが残っている。
オメガとしての本能が、アルファである海斗を求めていた。身体が、心が、全てが海斗を欲していた。
海斗の瞳が、僅かに見開かれた。驚きの色が浮かび、すぐに熱を帯びた色へと変わっていく。唇が弧を描き、優しく微笑んだ――。
誰だろう、と首を傾げながら玄関へと向かう。友人が来る予定はなかったし、宅配便が来る予定もない。きっと何かの勧誘だろうと思いモニターを確認することなく、ドアチェーンをかけたまま扉を少しだけ開けた。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた栗茶色の髪と、深い黒瞳だった。
心臓が、一拍飛んだ。
「海ちゃん……なんで」
声が震えた。初恋であり、片想いの相手である海斗が立っていた。大きなリュックを背負い、Tシャツとジーンズという軽装で、汗ばんだ額を手の甲で拭っている。真夏の日差しを浴びてきたのだろう、頬が少し赤くなっていた。
「大学のオープンキャンパス行くのに、はーちゃんの部屋からだと近いから」
(連絡なかったのに……なんで)
海斗が真っ直ぐと僕を見つめて言ってくる。
「ちょっと待ってね」
僕は一度ドアを閉めると、ドアチェーンを外してから再びドアを開けた。
海斗がにっこりと嬉しそうに笑うと、靴を脱いで家の中に入っていく。
「連絡くれれば」
リビングに向かって歩くカイトの背中を見ながら、僕はようやく言葉を搾り出した。心臓が早鐘を打ち、手のひらが汗ばんでいく。
「連絡したら、逃げるだろ」
海斗がじろりと振り返った。深い黒瞳が、僕を真っ直ぐに捉えている。視線が絡み合い、僕は言葉を失った。
(確かに……)
喉が詰まり、何も言えなくなる。海斗の視線は鋭く、まるで僕の心の内を全て見透かしているようだった。
いや、きっとバレてるんだ。海斗から距離を置こうとしていることを。
去年、僕が長期の出張だと言って嘘をついて、海斗の訪問を断った。だから今年は、なんの連絡もなしに来たんだろう。
最後に会ったのは、僕が二十二歳の春だった。一年という時間は、海斗をさらに大人へと成長させていた。背がさらに伸びて、肩幅も広くなっている。
Tシャツから覗く腕は筋肉がついて太くなり、首筋には汗が光っている。無造作に掻き上げた栗茶色の髪が、落ちてきて色っぽさを醸し出す。
リビングに案内すると、海斗は荷物を床に置いてソファに腰を下ろした。
リュックからペットボトルを取り出し、喉を鳴らして水を飲んでいる。喉仏が上下に動き、その動きに目が釘付けになってしまう。慌てて視線を逸らすと、海斗の視線が僕を追いかけ、そしてふっと口元を緩めて笑っていた。
夕方になり、部屋の空気が少しずつ変わっていく。外の蝉の声が遠くに聞こえ、西日がカーテン越しに差し込んでいた。海斗は相変わらずソファに座り、スマホを眺めている。僕はキッチンで夕食の準備をしながら、海斗の存在を意識せずにはいられなかった。
――夜。
時計の針が十時を回った頃、異変が起きた。
「どうして、こんな時に」
身体が熱い。喉が渇き、肌が火照っていく。いつもよりも早くヒートの兆候が現れている。心拍数が上がり、呼吸が荒くなっていく。身体の芯から熱が湧き上がり、汗が額に滲んだ。
(こんなはずでは――)
寝室で横になっていた僕は、ベッドから起き上がろうとした。身体が重くて、力が入らない。ヒートの熱に浮かされながら、なんとか立ち上がる。抑制剤を飲まなければ。薬を飲んで、熱を抑えなければ。海斗に気づかれる前に――。
(海ちゃんは、アルファだから。オメガのフェロモンで迷惑をかけたくない)
ふらつく足取りでキッチンへと向かった。薄暗い廊下を進み、リビングを抜ける。食器棚の引き出しに手をかけようとした瞬間、背後から腕が伸びてきた。
「はーちゃん、俺がいるだろ」
低い声が耳元で囁かれた。
背中に海斗の体温が伝わってくる。熱い。海斗の身体は、僕よりもずっと熱かった。アルファ特有の高い体温が、薄い寝間着越しに伝わってくる。腕が僕の腰を掴み、そのまま持ち上げられた。視界が回転し、気がつけばベッドに押し倒されていた。
柔らかいシーツの感触が背中に伝わる。海斗が覆い被さるように上から見下ろしてきた。月明かりが窓から差し込み、海斗の顔を照らしている。瞳が、いつもより暗い色をしていた。深い黒が、僕を映し込んでいる。
「だめだって」
声が震えた。拒絶の言葉を口にしながらも、身体は正直だった。海斗の匂いを嗅ぐだけで、身体が反応してしまう。夏の夜の深い青を思わせる、アルファ特有のフェロモンが鼻腔を刺激する。心地よい安心感と、妖艶な甘さが混ざり合った匂い。幼い頃から慣れ親しんだ匂いなのに、今は僕の性欲を強く刺激してくる。
大好きな海斗に迫られて、抗えるはずがない。
海斗の唇が、僕の唇に重ねられた。柔らかく、温かい感触。思わず目を閉じると、舌が唇をなぞってきた。口を開けるように促され、従ってしまう。舌が侵入してきて、口内を蹂躙していく。甘く濃厚なキスが、何度も繰り返された。
息が苦しくなり、唇が離れる。糸を引く唾液が、二人を繋いでいた。海斗が僕の頬を撫で、額にキスを落としてくる。首筋を舐められ、鎖骨を甘噛みされた。身体が跳ね、声が漏れそうになる。
「海ちゃん、抱いて」
思わず口から懇願の言葉が零れ落ちた。理性が溶けていき、本能だけが残っている。
オメガとしての本能が、アルファである海斗を求めていた。身体が、心が、全てが海斗を欲していた。
海斗の瞳が、僅かに見開かれた。驚きの色が浮かび、すぐに熱を帯びた色へと変わっていく。唇が弧を描き、優しく微笑んだ――。
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