リアル人狼ゲーム in India〈リターン&リベンジ!〉

大友有無那

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第3章 仲間ではいられない(3日目)

幕間3 鳥(2024ー2025年 ムンバイ)

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 指示された通り知事閣下の秘書の使いと名乗り、
「カナダのナンダさん宛の書類をことづかって来ました」
 と訪問し歓待された。
 品の良い邸宅の居間で食事をと誘われたがジャイナ教徒だと断った。
 代わりにチャイとミタイをごちそうになる。
「アビマニュのこと、どうかよろしくお願いします」
(誰だろう?)
 わからないが適当に話を合わせる。ふと居間の青い壁に貼られた家族の写真に目をやると、
「妻が思い出すと悲しいと泣くものですから……。決してアビマニュをないがしろにしているのでは……私共も心配しておりまして……」
 恰幅の良い家の主人が言い訳めいたセリフで額入りの写真を新たに棚に飾った。家族写真の数々と見比べれば誰が不在だったのかがわかる。黒い巻毛の愛嬌ある青年が「アビマニュ」だろう。同僚にしたいタイプの感じのいい若者だ。


 州知事閣下との面談からひと月ほど。アメリカから連絡が入った。
 知事の秘書から言われていた通りロハンという男は秘匿性の高いSNSアプリへと自分を誘導した。
 州知事の片腕と言われるやり手秘書の息子で現在米国留学中だという。
 ならばおそらく、彼こそが人殺しゲームのサバイバーなのだろう。
 村の娘が迷惑をかけ申し訳ないとの謝罪には何も返さず、彼女が死んだ時期や使用言語など事実関係ばかりを尋ねられた。

『2023年の4月です』
『何日頃?』

『グジャラート語だけです。ヒンディ語は少しだけ。一年生の範囲程度で英語の方がまだわかったと思います』
 自分があの森のそばで教えたから。
『ですがヒンディーも英語も読み書きは駄目でした』

 ロハン自身は何も話せないが、持っている情報を教えてくれたなら役に立つだろう礼を出すと伝えてきた。当事者ならば長く調べた情報を渡すことにも躊躇はない。
 すると奇妙なルートを指示された。
 ムンバイ市内のある家からカナダ経由で文書を送れ、と。


 一家総出で何度も頭を下げられ邸宅を辞してからまたしばらく、ロハンから連絡があったのは2025年に入ってからだった。
 海外向け映像販売会社の情報をカナダ経由で受け取ったことへの礼はこれまた不思議なメッセージだった。

・外資系の動画配信をいくつか
・英語環境で
・次のキーワードで検索してみろ
 「werewolf」「Japan」

 werewolfという単語を彼は知らなかった。人狼という意味でヨーロッパの伝承らしい。
 二つ目の配信サイトで何年か前の日本の映画がヒットした。
 視聴は彼に忍耐を強いるものだった。スプラッター趣味に近い残虐描写、極限状況下で人の心の醜い部分ばかりを強調する徳を減らす類の物語だと思った。この手の話は好きではない。
 時折目を背けながら視聴していたあるシーンで、
「鳥の視点だ」
 ふと気づいた。

 登場人物の少年が、建物から出たら殺されると言い渡されているにも関わらずドアから飛び出していく。瞬間彼は倒れ苦しみ出す。土の上でもがく様は斜め上から映し出されていた。
 映画の「リアル人狼ゲーム」には多くのルールがある。これは建物外への逃亡という違反行為だ。即座に罰するには全体を俯瞰して見ている人物がいなくてはならない。
 空から地上を見下ろす鳥のように。


『お兄ちゃん、あの鳥ははばたかないんです。ほら見て!』
『もうすぐ雨が降る! だってあの鳥が南にー』
 森に入れば多種多様な鳥たちの声が降り注ぐ。
 大地の女神の乾きを潤す雨季の如く勉学に疲れた心身に沁みて自分を癒した記憶ー

「あ、ああ、あああー」
 指先から強張っていく。
 そのまま頬を覆い、爪が顔に食い込んで血を流し始めたことにも気付かなかった。
 まさか。

 ー誘拐された若者たち。
 ー人殺しのショーの監視。


「わあああああああっっっ!!」


 熟考の後、彼は全てをあるジャーナリストに託した。
 州知事周辺ですら手が打てないなら自分が出来ることはもうほとんどない。それよりプロに預けた方がいい。いくつか著書を読み信頼出来ると判断した男は、必ず調べて文章で公表すると約束してくれた。


 その日彼は妻の実家に招待されていた。妻子は先に行っているという。
 職場から直行した彼が居間に入ると、義父母の一族だけではなく自分の両親や兄までもがそこにいた。強張った顔はただごとではない。
 何より、義母の隣の黄色い織のソファーの上で妻が泣いていた。子どもの姿は見えない。
(何があった?!)
「マノルマ?」
 早足で歩み寄り頬を伸ばした彼の手を、
「!」
 妻は殴るように振り払った。
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