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第4章 いつまで耐えねばならないのか(4日目)
4ー1 太陽
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四日目の朝は自身で予言した通りカマリが遺体で見つかった。
だが姿は予想通りとは言えなかった。
絶叫の形に口を開け放った苦悶に満ちた形相、鮮血に染まった姿にマリアが失神しシュルティも倒れた。
ラジューと、イジャイとアッバースとナラヤンで遺体を火葬室前に運んだ。
もうひとり館内から女子が消えた。
昨夜十一時を十分ほど過ぎた頃、ミナはいきなり7号室から出て行った。
あっけに取られていたナイナが自分を取り戻し、
「ミナ! どういうつもり!」
もう一度ドアを開け顔は出さず叫んだが足音は遠ざかり返事はなかった。
ミナは「三日目脱出権」の切り札を持っていたのではと噂された。
「どうして? 逃げられないよ。殺されちゃうんだよ」
サントーシュが殺された今外から戻った唯一の人間となったシュルティの訴えも空しい。
「それでも可能性に賭けてみたかったんでしょ」
ナイナと共にミナの逃亡を目撃したニルマラが返した。
六時半。スティーブンを探しに館内に散っていたアッバースたちも戻りほとんどの人間が広間に集まった。ガラガラとうるさい音を立てて巻き上がるシャッターの向こうにミナはいなかった。代わりにひとりー
「スティーブン!」
アッバースは駆け寄り掛け金を開け、あれだけ何人もに注意したにも関わらず身を乗り出して、
「っく!」
『Warning! Warning! Out of rules!』
警告を刺され窓の下に座り込んだ。
「スティーブンっ!」
「嘘でしょスティーブン!」
「嫌だよお!」
殺到した女子に次々と蹴られうちひとりの靴先がアッバースの腹に決まった。
これは暴力行為には入らないのか、と勿論女子が違反を取られたら困るのに思いつつ横腹を押さえてアッバースは立ち上がった。横のナラヤンが左腕をまっすぐ伸ばし乗り出さないよう牽制してくる。
「俺は大丈夫だ」
彼に頷いてから今度は勢いよく窓の外へ頭を突っ込もうとするクラスメートたちを抑える側に回った。
『Warning! Warning! Out of rules!』
警告は絶え間なく鳴り、押さえきれなかった男女が窓下にしゃがみ込んでは少ししてまた壁を頼りに立ち上がり、窓の外へ絶叫する。
「スティーブン!」
「誰か! 助けてあげられないの?!」
シャキーラが自分に詰め寄る。
「出来るなら俺がそうしてえよ」
低くうなる。
友人は、幕で囲われた土の上で左半身を上に横たわっていた。
ぎゅっと閉じた目と口の前で組んだ手はキリスト教徒の祈りの姿勢だろう。膝が曲がっているのも跪いていたのか。
いくら目を凝らしても体には呼吸の上下も瞬きも動きは全くない。
亡骸になってしまったことをアッバースは認めざるを得なかった。
「どうしてお前が」
ナラヤンのつぶやきはアッバースのほとばしりと同じだ。
窓から少し離れた後ろからルチアーノはスティーブンの姿を認めた。
瞬く間に殺到する人影で見えなくなったが反応から彼は事態を理解した。
(俺のせいなのか?)
絡んだりしなければスティーブンは皆に囲まれて広間にいたのではないか。
教室での笑顔。頬を赤くして上目使いで話す女子にも、荒っぽいヴィノードやガーラブにも、そして自分にも彼は変わらずに接した。奴が教室にいるだけで安心した。
ましてこのようなことになってからはー
(俺に出来ることがまだひとつある)
集まる中から後方に押し出されたマリアの斜め後ろに立ち、小さく名前を呼び注意を引く。腹から大きく息を吸い、
『いと高き神のもとに身を寄せて隠れ
全能の神の陰に宿る人よ
主に申し上げよ』
歌い出した。
気づいたマリアが姿勢を正して声を合わせてくれる。
英語だから皆にも歌詞はわかるだろう。
穏やかな曲調のまま繰り返し部分に入る。
鷲の翼の上、暁に、
君の魂は太陽のように輝き、
そして今神の御手へ引き上げられる
頬に涙が流れるままにルチアーノは声を張った。
みっともなく声が震えるのは、
『舌が動いてしまっている。下顎に着けると安定するから』
努めて舌を下に落とし、
声が小さく絞られてしまうのは、
『パニプリが飲み込めるくらい大きく喉を開けて』
『神様の愛がそのまま体に流れるように』
息継ぎの折に喉を開き、後ろ姿の向こうに見え隠れするスティーブンの遺体から目を離さず歌った。
今君の魂はいと高き所にて、
『主の御手に抱かれる』
歌い終わり、虚脱状態のまま窓の外を見つめていたルチアーノはやがて崩れ落ちた。同じように座り込んでいたマリアが自分の肩に額を寄せしゃくりあげるのを慰めることも出来なかった。
〈注〉
ルチアーノが歌ったのは『On Eagles Wings』
冒頭の聖書詩篇91は新共同訳より引用、その後は英語歌詞より物語内容に合わせてアレンジしています。(カトリック系のクリスチャンソングですが聖歌(讃美歌)ではありません)
だが姿は予想通りとは言えなかった。
絶叫の形に口を開け放った苦悶に満ちた形相、鮮血に染まった姿にマリアが失神しシュルティも倒れた。
ラジューと、イジャイとアッバースとナラヤンで遺体を火葬室前に運んだ。
もうひとり館内から女子が消えた。
昨夜十一時を十分ほど過ぎた頃、ミナはいきなり7号室から出て行った。
あっけに取られていたナイナが自分を取り戻し、
「ミナ! どういうつもり!」
もう一度ドアを開け顔は出さず叫んだが足音は遠ざかり返事はなかった。
ミナは「三日目脱出権」の切り札を持っていたのではと噂された。
「どうして? 逃げられないよ。殺されちゃうんだよ」
サントーシュが殺された今外から戻った唯一の人間となったシュルティの訴えも空しい。
「それでも可能性に賭けてみたかったんでしょ」
ナイナと共にミナの逃亡を目撃したニルマラが返した。
六時半。スティーブンを探しに館内に散っていたアッバースたちも戻りほとんどの人間が広間に集まった。ガラガラとうるさい音を立てて巻き上がるシャッターの向こうにミナはいなかった。代わりにひとりー
「スティーブン!」
アッバースは駆け寄り掛け金を開け、あれだけ何人もに注意したにも関わらず身を乗り出して、
「っく!」
『Warning! Warning! Out of rules!』
警告を刺され窓の下に座り込んだ。
「スティーブンっ!」
「嘘でしょスティーブン!」
「嫌だよお!」
殺到した女子に次々と蹴られうちひとりの靴先がアッバースの腹に決まった。
これは暴力行為には入らないのか、と勿論女子が違反を取られたら困るのに思いつつ横腹を押さえてアッバースは立ち上がった。横のナラヤンが左腕をまっすぐ伸ばし乗り出さないよう牽制してくる。
「俺は大丈夫だ」
彼に頷いてから今度は勢いよく窓の外へ頭を突っ込もうとするクラスメートたちを抑える側に回った。
『Warning! Warning! Out of rules!』
警告は絶え間なく鳴り、押さえきれなかった男女が窓下にしゃがみ込んでは少ししてまた壁を頼りに立ち上がり、窓の外へ絶叫する。
「スティーブン!」
「誰か! 助けてあげられないの?!」
シャキーラが自分に詰め寄る。
「出来るなら俺がそうしてえよ」
低くうなる。
友人は、幕で囲われた土の上で左半身を上に横たわっていた。
ぎゅっと閉じた目と口の前で組んだ手はキリスト教徒の祈りの姿勢だろう。膝が曲がっているのも跪いていたのか。
いくら目を凝らしても体には呼吸の上下も瞬きも動きは全くない。
亡骸になってしまったことをアッバースは認めざるを得なかった。
「どうしてお前が」
ナラヤンのつぶやきはアッバースのほとばしりと同じだ。
窓から少し離れた後ろからルチアーノはスティーブンの姿を認めた。
瞬く間に殺到する人影で見えなくなったが反応から彼は事態を理解した。
(俺のせいなのか?)
絡んだりしなければスティーブンは皆に囲まれて広間にいたのではないか。
教室での笑顔。頬を赤くして上目使いで話す女子にも、荒っぽいヴィノードやガーラブにも、そして自分にも彼は変わらずに接した。奴が教室にいるだけで安心した。
ましてこのようなことになってからはー
(俺に出来ることがまだひとつある)
集まる中から後方に押し出されたマリアの斜め後ろに立ち、小さく名前を呼び注意を引く。腹から大きく息を吸い、
『いと高き神のもとに身を寄せて隠れ
全能の神の陰に宿る人よ
主に申し上げよ』
歌い出した。
気づいたマリアが姿勢を正して声を合わせてくれる。
英語だから皆にも歌詞はわかるだろう。
穏やかな曲調のまま繰り返し部分に入る。
鷲の翼の上、暁に、
君の魂は太陽のように輝き、
そして今神の御手へ引き上げられる
頬に涙が流れるままにルチアーノは声を張った。
みっともなく声が震えるのは、
『舌が動いてしまっている。下顎に着けると安定するから』
努めて舌を下に落とし、
声が小さく絞られてしまうのは、
『パニプリが飲み込めるくらい大きく喉を開けて』
『神様の愛がそのまま体に流れるように』
息継ぎの折に喉を開き、後ろ姿の向こうに見え隠れするスティーブンの遺体から目を離さず歌った。
今君の魂はいと高き所にて、
『主の御手に抱かれる』
歌い終わり、虚脱状態のまま窓の外を見つめていたルチアーノはやがて崩れ落ちた。同じように座り込んでいたマリアが自分の肩に額を寄せしゃくりあげるのを慰めることも出来なかった。
〈注〉
ルチアーノが歌ったのは『On Eagles Wings』
冒頭の聖書詩篇91は新共同訳より引用、その後は英語歌詞より物語内容に合わせてアレンジしています。(カトリック系のクリスチャンソングですが聖歌(讃美歌)ではありません)
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