【完結】微笑みを絶やさない王太子殿下の意外な心の声

miniko

文字の大きさ
2 / 4

2 お花畑は排除済み

しおりを挟む
夜会の会場である王宮の巨大なホールには、既に参加者が全員揃っている。
華やかに着飾った彼等は、思い思いに歓談していた。
人々の笑いさざめく声と、むせ返る様な香水の匂い。

その浮ついた空気を切り裂く様に、王族の入場を示すラッパの音が鳴り響く。
緊張を氷の仮面の下へと隠し、セドリック殿下にエスコートされた私は、王族の皆様と共に、煌びやかな会場へと足を踏み入れる。
国王陛下が入場すると、ホールの騒めきが一瞬でピタリと止んだ。

大勢の人間がいるとは思えない程にシンと静まり返った会場に、陛下の声だけが響く。

陛下の開会の言葉を聞いた後は、ダンスタイムだ。

「さあ、アンジェ、行こうか」

差し出されたセドリック殿下の手を取る。
彼の大きな手から、いつもと同じ温もりを感じると、漸く緊張が少し解れた。
手を引かれながらホールの中央へと向かう。

(幼い頃から長く婚約しているのに、アンジェと踊るのは、いつもドキドキするな)

楽団の演奏に合わせて踊り始めると、殿下の心の声が聞こえて来た。

私もですよ、殿下。

(ああ、やっぱりアンジェは可愛い。
小さい。柔らかい。温かい。
しかも、いい匂いがする・・・)

スゥ~~~~~~・・・・・・

ねぇ、めっちゃ吸ってない?

・・・・・・なんだか、聞いちゃいけない事まで聞いてしまった気がする。
匂いを嗅ぐのは是非ともご遠慮頂きたい。
セクハラで訴えますよ?
若干変態っぽい心の声と、キラキラ王子様スマイルのギャップが凄くて、ちょっと引くわ~。


ダンスを終えて、殿下にご挨拶に来る皆様に対応していたのだが・・・・・・

今日の夜会は、いつもと何かが違う気がする。
何だろう?この違和感は・・・・・・
ああ、そうか。

何か物足りないと思ったら、学園でも夜会や茶会でも、図々しく殿下に纏わり付いていた男爵令嬢が、今日は一切姿を見せないのだわ。

数々の不敬を無意識に繰り出す彼女は、居たら居たで胃痛の原因になる煩わしい存在なのだが、居ないと逆に気になってしまう。
キョロキョロと辺りを見回してみるが、見当たらない。
いつも、派手でゴテゴテした趣味の悪いドレスを着ているので、会場に居れば直ぐに気が付くはずなのだが・・・・・・。

「どうかしたのか、アンジェ。
何か気になる事でも?
誰かを探しているのかい?」

殿下が気遣わし気に私の顔を覗き込む。

「何だか静かだなと思ったら、今日はメルロー男爵令嬢がいらっしゃらないのですね。
今迄こういう夜会では必ず殿下に突撃して来ていたのに、どうなさったのでしょうか・・・」

(あんな女の事まで心配するなんて、私のアンジェは本当に心まで美しいな。
排除したと知ったら、同情してしまうだろうか?)

排除って・・・・・・まさか殺・・・っ!?
不穏な空気を感じた私は、思わずゴクリと喉を鳴らした。

「彼女ならば、地下牢に押し込められているのだと思うよ」

・・・されてなかった。
良かった。生きてたわ。
コッソリと安堵の息を吐く。

しかし、何だか聞き捨てならない言葉が飛び出した様な気が・・・・・・

「地下牢、ですか?」

「そうなのだよ。
実は、彼女は隣国のスパイと通じていたみたいでね。
昨日捕縛されて、沙汰を待っている所だ。
今頃は、騎士団が男爵邸の捜索を行っているんじゃないかな?」

「何故、そんな事に・・・」

自分を可愛いと信じているお花畑なだけで、そんなに大胆な事を仕出かすタイプでは無かったと思うのだが。
私は微かに眉根を寄せた。

「どうやらあのご令嬢は、私の寵愛を受けているという嘘を、あちこちで吹聴していたようだ。
幸い、国内貴族にそんな馬鹿な話を信じる者は居なかったのだが、そのせいで私と彼女が親しい関係であるというデマが、隣国でも流れていたらしくてね。
それを鵜呑みにしたスパイが、彼女に接触したみたいなんだ」

スパイ、間抜け過ぎない?

(まあ、その噂を隣国にまで流して、奴等にだけ信じ込ませる様に情報操作したのは、私なのだけどね)

思いっきり罠に嵌めているじゃないですか!?
『だけどね』じゃ無いですよ!
あまりの驚きに氷の仮面が崩れそうになって、慌てて表情を引き締めた。

(大体、何故私が、愛するアンジェを悲しませてまで、あんな頭のおかしな女を選ばなければならないのか。
意味が分からん。理解に苦しむ。
そんな話、普通は信じる訳ないよな)

『愛するアンジェ』
・・・・・・~~っっ!!
今迄の心の声で、殿下が私を想って下さっている事は充分に理解したが、やはりこういう台詞は慣れない。

「この後、彼女はどの様な処分になるのでしょうか?」

私は、動揺を誤魔化す為、なんとか思考をメルロー男爵令嬢の件に集中させた。

「実際、彼女は何も有益な情報を知らなかったので、被害は無かったのだが、そうは言っても一歩間違えば国家反逆罪だからな。
スパイとかなり親密になっていた様だから、お咎め無しとはいかないだろうね。
一番軽い処分でも、修道院から出る事は出来ないだろう。
最悪は、男爵家が取り潰しになるかもしれないな」

(男爵は少し可哀想な気もするけれど、あの令嬢を育てた製造責任者なのだから仕方ないだろう。
アンジェの胃痛の原因を取り除く事が出来て、良かった×2)

良くねぇよっっ!!
排除の仕方が物騒過ぎる!

・・・・・・おっと、いけないわ。
動揺し過ぎて脳内の言葉使いが悪くなってしまった。反省×2  ←伝染った。

確かにあの女にはイライラさせられたけど、私も殿下も物理的な被害を受けた訳では無いのだから、もう少し穏便に解決する方法があったのではないだろうか・・・。

(まあ、彼女のお陰で隣国のスパイも根こそぎ捕まえる事が出来たのだから、こちらとしてはラッキーだったけれど)

それって、もしかして、囮に使ったって言う事ではないかしら?

満足そうに笑みを深める殿下。
うわぁ。この人、絶対に敵に回したらいけない人だわ。

彼の意外な腹黒さを知ってしまった私は、新たな胃痛が発生しそうな予感に、思わず身震いした。
まあ、一国を背負う王になるのだから、多少は腹黒さも計算高さも冷酷さも必要なのだろうけれど・・・。


「貴方が王太子さまですかぁ?」

その時、突然背後から、媚びる様な甘ったるい女性の声がした。




────────────────────

※メルロー男爵令嬢についての詳細は、『氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話』をご参照ください。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう
恋愛
 伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。  貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?  すれ違いから始まる逆転ラブコメ。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

そのフラグをへし折りまくっていることに気づかなかったあなたの負け

藤田あおい
恋愛
卒業パーティーで、婚約破棄を言い渡されたアリエッタ。 しかし、そこにアリエッタの幼馴染の男が現れる。 アリエッタの婚約者の殿下を奪った少女は、慌てた様子で、「フラグは立っているのに、なんで?」と叫ぶ。 どうやら、この世界は恋愛小説の世界らしい。 しかし、アリエッタの中には、その小説を知っている前世の私の人格がいた。 その前世の私の助言によって、フラグをへし折られていることを知らない男爵令嬢は、本命ルート入りを失敗してしまったのだった。

全てから捨てられた伯爵令嬢は。

毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。 更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。 結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。 彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。 通常の王国語は「」 帝国語=外国語は『』

婚約破棄? あら、それって何時からでしたっけ

松本雀
恋愛
――午前十時、王都某所。 エマ=ベルフィールド嬢は、目覚めと共に察した。 「…………やらかしましたわね?」 ◆ 婚約破棄お披露目パーティーを寝過ごした令嬢がいた。 目を覚ましたときには王子が困惑し、貴族たちは騒然、そしてエマ嬢の口から放たれたのは伝説の一言―― 「婚約破棄されに来ましたわ!」 この事件を皮切りに、彼女は悪役令嬢の星として注目され、次々と舞い込む求婚と、空回る王子の再アタックに悩まされることになる。 これは、とある寝坊令嬢の名言と昼寝と誤解に満ちた優雅なる騒動録である。

処理中です...