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2 お花畑は排除済み
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夜会の会場である王宮の巨大なホールには、既に参加者が全員揃っている。
華やかに着飾った彼等は、思い思いに歓談していた。
人々の笑いさざめく声と、むせ返る様な香水の匂い。
その浮ついた空気を切り裂く様に、王族の入場を示すラッパの音が鳴り響く。
緊張を氷の仮面の下へと隠し、セドリック殿下にエスコートされた私は、王族の皆様と共に、煌びやかな会場へと足を踏み入れる。
国王陛下が入場すると、ホールの騒めきが一瞬でピタリと止んだ。
大勢の人間がいるとは思えない程にシンと静まり返った会場に、陛下の声だけが響く。
陛下の開会の言葉を聞いた後は、ダンスタイムだ。
「さあ、アンジェ、行こうか」
差し出されたセドリック殿下の手を取る。
彼の大きな手から、いつもと同じ温もりを感じると、漸く緊張が少し解れた。
手を引かれながらホールの中央へと向かう。
(幼い頃から長く婚約しているのに、アンジェと踊るのは、いつもドキドキするな)
楽団の演奏に合わせて踊り始めると、殿下の心の声が聞こえて来た。
私もですよ、殿下。
(ああ、やっぱりアンジェは可愛い。
小さい。柔らかい。温かい。
しかも、いい匂いがする・・・)
スゥ~~~~~~・・・・・・
ねぇ、めっちゃ吸ってない?
・・・・・・なんだか、聞いちゃいけない事まで聞いてしまった気がする。
匂いを嗅ぐのは是非ともご遠慮頂きたい。
セクハラで訴えますよ?
若干変態っぽい心の声と、キラキラ王子様スマイルのギャップが凄くて、ちょっと引くわ~。
ダンスを終えて、殿下にご挨拶に来る皆様に対応していたのだが・・・・・・
今日の夜会は、いつもと何かが違う気がする。
何だろう?この違和感は・・・・・・
ああ、そうか。
何か物足りないと思ったら、学園でも夜会や茶会でも、図々しく殿下に纏わり付いていた男爵令嬢が、今日は一切姿を見せないのだわ。
数々の不敬を無意識に繰り出す彼女は、居たら居たで胃痛の原因になる煩わしい存在なのだが、居ないと逆に気になってしまう。
キョロキョロと辺りを見回してみるが、見当たらない。
いつも、派手でゴテゴテした趣味の悪いドレスを着ているので、会場に居れば直ぐに気が付くはずなのだが・・・・・・。
「どうかしたのか、アンジェ。
何か気になる事でも?
誰かを探しているのかい?」
殿下が気遣わし気に私の顔を覗き込む。
「何だか静かだなと思ったら、今日はメルロー男爵令嬢がいらっしゃらないのですね。
今迄こういう夜会では必ず殿下に突撃して来ていたのに、どうなさったのでしょうか・・・」
(あんな女の事まで心配するなんて、私のアンジェは本当に心まで美しいな。
排除したと知ったら、同情してしまうだろうか?)
排除って・・・・・・まさか殺・・・っ!?
不穏な空気を感じた私は、思わずゴクリと喉を鳴らした。
「彼女ならば、地下牢に押し込められているのだと思うよ」
・・・されてなかった。
良かった。生きてたわ。
コッソリと安堵の息を吐く。
しかし、何だか聞き捨てならない言葉が飛び出した様な気が・・・・・・
「地下牢、ですか?」
「そうなのだよ。
実は、彼女は隣国のスパイと通じていたみたいでね。
昨日捕縛されて、沙汰を待っている所だ。
今頃は、騎士団が男爵邸の捜索を行っているんじゃないかな?」
「何故、そんな事に・・・」
自分を可愛いと信じているお花畑なだけで、そんなに大胆な事を仕出かすタイプでは無かったと思うのだが。
私は微かに眉根を寄せた。
「どうやらあのご令嬢は、私の寵愛を受けているという嘘を、あちこちで吹聴していたようだ。
幸い、国内貴族にそんな馬鹿な話を信じる者は居なかったのだが、そのせいで私と彼女が親しい関係であるというデマが、隣国でも流れていたらしくてね。
それを鵜呑みにしたスパイが、彼女に接触したみたいなんだ」
スパイ、間抜け過ぎない?
(まあ、その噂を隣国にまで流して、奴等にだけ信じ込ませる様に情報操作したのは、私なのだけどね)
思いっきり罠に嵌めているじゃないですか!?
『だけどね』じゃ無いですよ!
あまりの驚きに氷の仮面が崩れそうになって、慌てて表情を引き締めた。
(大体、何故私が、愛するアンジェを悲しませてまで、あんな頭のおかしな女を選ばなければならないのか。
意味が分からん。理解に苦しむ。
そんな話、普通は信じる訳ないよな)
『愛するアンジェ』
・・・・・・~~っっ!!
今迄の心の声で、殿下が私を想って下さっている事は充分に理解したが、やはりこういう台詞は慣れない。
「この後、彼女はどの様な処分になるのでしょうか?」
私は、動揺を誤魔化す為、なんとか思考をメルロー男爵令嬢の件に集中させた。
「実際、彼女は何も有益な情報を知らなかったので、被害は無かったのだが、そうは言っても一歩間違えば国家反逆罪だからな。
スパイとかなり親密になっていた様だから、お咎め無しとはいかないだろうね。
一番軽い処分でも、修道院から出る事は出来ないだろう。
最悪は、男爵家が取り潰しになるかもしれないな」
(男爵は少し可哀想な気もするけれど、あの令嬢を育てた製造責任者なのだから仕方ないだろう。
アンジェの胃痛の原因を取り除く事が出来て、良かった×2)
良くねぇよっっ!!
排除の仕方が物騒過ぎる!
・・・・・・おっと、いけないわ。
動揺し過ぎて脳内の言葉使いが悪くなってしまった。反省×2 ←伝染った。
確かにあの女にはイライラさせられたけど、私も殿下も物理的な被害を受けた訳では無いのだから、もう少し穏便に解決する方法があったのではないだろうか・・・。
(まあ、彼女のお陰で隣国のスパイも根こそぎ捕まえる事が出来たのだから、こちらとしてはラッキーだったけれど)
それって、もしかして、囮に使ったって言う事ではないかしら?
満足そうに笑みを深める殿下。
うわぁ。この人、絶対に敵に回したらいけない人だわ。
彼の意外な腹黒さを知ってしまった私は、新たな胃痛が発生しそうな予感に、思わず身震いした。
まあ、一国を背負う王になるのだから、多少は腹黒さも計算高さも冷酷さも必要なのだろうけれど・・・。
「貴方が王太子さまですかぁ?」
その時、突然背後から、媚びる様な甘ったるい女性の声がした。
────────────────────
※メルロー男爵令嬢についての詳細は、『氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話』をご参照ください。
華やかに着飾った彼等は、思い思いに歓談していた。
人々の笑いさざめく声と、むせ返る様な香水の匂い。
その浮ついた空気を切り裂く様に、王族の入場を示すラッパの音が鳴り響く。
緊張を氷の仮面の下へと隠し、セドリック殿下にエスコートされた私は、王族の皆様と共に、煌びやかな会場へと足を踏み入れる。
国王陛下が入場すると、ホールの騒めきが一瞬でピタリと止んだ。
大勢の人間がいるとは思えない程にシンと静まり返った会場に、陛下の声だけが響く。
陛下の開会の言葉を聞いた後は、ダンスタイムだ。
「さあ、アンジェ、行こうか」
差し出されたセドリック殿下の手を取る。
彼の大きな手から、いつもと同じ温もりを感じると、漸く緊張が少し解れた。
手を引かれながらホールの中央へと向かう。
(幼い頃から長く婚約しているのに、アンジェと踊るのは、いつもドキドキするな)
楽団の演奏に合わせて踊り始めると、殿下の心の声が聞こえて来た。
私もですよ、殿下。
(ああ、やっぱりアンジェは可愛い。
小さい。柔らかい。温かい。
しかも、いい匂いがする・・・)
スゥ~~~~~~・・・・・・
ねぇ、めっちゃ吸ってない?
・・・・・・なんだか、聞いちゃいけない事まで聞いてしまった気がする。
匂いを嗅ぐのは是非ともご遠慮頂きたい。
セクハラで訴えますよ?
若干変態っぽい心の声と、キラキラ王子様スマイルのギャップが凄くて、ちょっと引くわ~。
ダンスを終えて、殿下にご挨拶に来る皆様に対応していたのだが・・・・・・
今日の夜会は、いつもと何かが違う気がする。
何だろう?この違和感は・・・・・・
ああ、そうか。
何か物足りないと思ったら、学園でも夜会や茶会でも、図々しく殿下に纏わり付いていた男爵令嬢が、今日は一切姿を見せないのだわ。
数々の不敬を無意識に繰り出す彼女は、居たら居たで胃痛の原因になる煩わしい存在なのだが、居ないと逆に気になってしまう。
キョロキョロと辺りを見回してみるが、見当たらない。
いつも、派手でゴテゴテした趣味の悪いドレスを着ているので、会場に居れば直ぐに気が付くはずなのだが・・・・・・。
「どうかしたのか、アンジェ。
何か気になる事でも?
誰かを探しているのかい?」
殿下が気遣わし気に私の顔を覗き込む。
「何だか静かだなと思ったら、今日はメルロー男爵令嬢がいらっしゃらないのですね。
今迄こういう夜会では必ず殿下に突撃して来ていたのに、どうなさったのでしょうか・・・」
(あんな女の事まで心配するなんて、私のアンジェは本当に心まで美しいな。
排除したと知ったら、同情してしまうだろうか?)
排除って・・・・・・まさか殺・・・っ!?
不穏な空気を感じた私は、思わずゴクリと喉を鳴らした。
「彼女ならば、地下牢に押し込められているのだと思うよ」
・・・されてなかった。
良かった。生きてたわ。
コッソリと安堵の息を吐く。
しかし、何だか聞き捨てならない言葉が飛び出した様な気が・・・・・・
「地下牢、ですか?」
「そうなのだよ。
実は、彼女は隣国のスパイと通じていたみたいでね。
昨日捕縛されて、沙汰を待っている所だ。
今頃は、騎士団が男爵邸の捜索を行っているんじゃないかな?」
「何故、そんな事に・・・」
自分を可愛いと信じているお花畑なだけで、そんなに大胆な事を仕出かすタイプでは無かったと思うのだが。
私は微かに眉根を寄せた。
「どうやらあのご令嬢は、私の寵愛を受けているという嘘を、あちこちで吹聴していたようだ。
幸い、国内貴族にそんな馬鹿な話を信じる者は居なかったのだが、そのせいで私と彼女が親しい関係であるというデマが、隣国でも流れていたらしくてね。
それを鵜呑みにしたスパイが、彼女に接触したみたいなんだ」
スパイ、間抜け過ぎない?
(まあ、その噂を隣国にまで流して、奴等にだけ信じ込ませる様に情報操作したのは、私なのだけどね)
思いっきり罠に嵌めているじゃないですか!?
『だけどね』じゃ無いですよ!
あまりの驚きに氷の仮面が崩れそうになって、慌てて表情を引き締めた。
(大体、何故私が、愛するアンジェを悲しませてまで、あんな頭のおかしな女を選ばなければならないのか。
意味が分からん。理解に苦しむ。
そんな話、普通は信じる訳ないよな)
『愛するアンジェ』
・・・・・・~~っっ!!
今迄の心の声で、殿下が私を想って下さっている事は充分に理解したが、やはりこういう台詞は慣れない。
「この後、彼女はどの様な処分になるのでしょうか?」
私は、動揺を誤魔化す為、なんとか思考をメルロー男爵令嬢の件に集中させた。
「実際、彼女は何も有益な情報を知らなかったので、被害は無かったのだが、そうは言っても一歩間違えば国家反逆罪だからな。
スパイとかなり親密になっていた様だから、お咎め無しとはいかないだろうね。
一番軽い処分でも、修道院から出る事は出来ないだろう。
最悪は、男爵家が取り潰しになるかもしれないな」
(男爵は少し可哀想な気もするけれど、あの令嬢を育てた製造責任者なのだから仕方ないだろう。
アンジェの胃痛の原因を取り除く事が出来て、良かった×2)
良くねぇよっっ!!
排除の仕方が物騒過ぎる!
・・・・・・おっと、いけないわ。
動揺し過ぎて脳内の言葉使いが悪くなってしまった。反省×2 ←伝染った。
確かにあの女にはイライラさせられたけど、私も殿下も物理的な被害を受けた訳では無いのだから、もう少し穏便に解決する方法があったのではないだろうか・・・。
(まあ、彼女のお陰で隣国のスパイも根こそぎ捕まえる事が出来たのだから、こちらとしてはラッキーだったけれど)
それって、もしかして、囮に使ったって言う事ではないかしら?
満足そうに笑みを深める殿下。
うわぁ。この人、絶対に敵に回したらいけない人だわ。
彼の意外な腹黒さを知ってしまった私は、新たな胃痛が発生しそうな予感に、思わず身震いした。
まあ、一国を背負う王になるのだから、多少は腹黒さも計算高さも冷酷さも必要なのだろうけれど・・・。
「貴方が王太子さまですかぁ?」
その時、突然背後から、媚びる様な甘ったるい女性の声がした。
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