3 / 4
3 黒いアイツ?
しおりを挟む
「貴方が王太子様ですかぁ?」
私達がメルロー男爵令嬢の話をしていると、背後から間延びした呑気な声が聞こえて振り返る。
礼儀はなっていないが容姿だけはそこそこ整ったご令嬢が、ニコニコと嬉しそうに笑いながら、熱っぽい瞳で殿下を見詰めていた。
無礼にも突然背後から声を掛けて来た令嬢だが、私は彼女に全く見覚えが無かった。
年齢は、恐らく私達と同じくらいだろうか?
おかしいわね。
王太子殿下の婚約者として、国内貴族の顔は全て覚えているつもりだったのだけれど・・・。
特に同年代ならば、学園でも見かける事があるはずなのだ。
だから、殿下に対して『王太子様ですか?』と、確認してくる事自体も変な話である。
「そうだが、君は?」
(このタイプの令嬢は、駆除してもまた直ぐに現れるんだな。
ゴ○ブリみたいだ)
令嬢を駆除とか言わない!
嫌われ率No.1の黒い害虫に喩えない!
キラキラ眩しい微笑みを浮かべたまま、とんでもない事を考えているセドリック殿下に、思わず脳内でツッコミを入れる。
「あ、初めましてぇ。
エマって言いま~す。
私、最近になってラプラス子爵の娘だって分かって、お邸に引き取られたばかりなんですぅ」
ああ、成る程。
引き取られたばかりの庶子であれば、礼儀がなっていないのも、お互いに顔を知らなかったのも納得だ。
その無礼を許すかどうかは、また別の問題だけれど。
「そうか、ラプラス子爵令嬢。
貴族のルールを早く覚えられる様に励みなさい」
セドリック殿下は、流石にイライラして来たのだろうか。
微笑んではいるのだが目が笑っていないし、声も普段より一段低い。
「やだぁ、〝ラプラス子爵令嬢〟だなんて。
挨拶したら、もうお友達じゃ無いですかぁ。
エマって呼んで下さい!」
(呼ぶ訳ないだろ。
挨拶したら友達って、どういう理屈だ?舐めてんのか?)
心の声はかなりのお怒りモードなのに、王子様スマイルなのが逆に怖い。
この不機嫌なオーラを全く感じ取れない鈍感なラプラス子爵令嬢が羨ましい。
「君はもう少しマナーを身につけた方がいい様だ」
「え~?マナーなんて、堅苦しいだけじゃ無いですかぁ。
だってぇ、そこの無表情な女の人より、私みたいな方が、可愛くて魅力的じゃないですか?
ね、そう思うでしょ?」
私の顔をチラリと窺い、嘲笑を含んだ様な醜い笑みを浮かべる。
そして、クネクネとシナを作りながら、殿下の腕に触れようとするラプラス子爵令嬢。
こういう、殿方に媚びる令嬢が好きな人もいるのだろうけれど、生憎殿下の好みでは無い。
殿下はさり気なく一歩下がって、彼女を避けた。
なんとなくだが、このご令嬢は、セドリック殿下の地雷を思いっきり踏み抜いている様な気がする。
気のせいである事を祈っておこう・・・。
「君の美的感覚は、ちょっと特殊みたいだね。
私の婚約者は、誰よりも可愛くて魅力的だ」
微笑みを貼り付けたまま、謎の冷気を発し始めた殿下は、私を連れてその場を立ち去ろうとする。
(アンジェにまで、無礼な発言をするとは・・・。
よし、消そう。跡形も無く)
待って!!
ダメダメ!消しちゃダメ!
しかも『跡形も無く』って、どーゆー事なの!?
「あぁっ!
待って下さい、王太子様ぁ」
焦った子爵令嬢は、殿下の袖を掴んだ。
「ラプラス子爵令嬢、でしたかしら?
王太子殿下に、無断で触れてはいけませんよ」
もぉやめてぇぇ!
ラプラス子爵令嬢、お願いだから黙って!
大人しくして!
このままだと、男爵家に続いて子爵家も一つ潰れちゃうよ。
アルカイックスマイルを浮かべながら、彼女に注意を促した私だが、内心は大パニックである。
メルロー男爵令嬢が可愛く見えるくらい強烈なヤツが出て来ちゃったな。
後でラプラス子爵に、『ご息女を教育し直してから社交に出す様に』と忠告しなければ。
このタイプは教育しても無理かもしれないけど・・・。
なんとか頑張って、子爵!
お取り潰しにならない為に。
「もぉ!何なんですか?貴女。
私は王太子様とお話ししたいんですぅ!
邪魔しないで下さい」
『何なんですか』って、その王太子様の婚約者ですが。
さっき殿下が言っていたのに、聞いてなかったのか?
しかも、王太子殿下は『話したい時にいつでも話し掛けてオッケー!』みたいな立場の人じゃ無いんだよ。
そーゆーのは地下アイドルにでも求めなさいよ。
いや、地下アイドルでさえダメか。
取り敢えず、今は、この場をどう収めるかが問題よね。
困った私が殿下の護衛のクラウス様に視線を投げると、彼は頷き、キーキー喚く子爵令嬢を片手で拘束して、壁際に控えていた別の騎士へと引き渡した。
やっぱりクラウス様は頼りになるわぁ。
(クラウスめ!
アンジェの前だからって、カッコつけやがって・・・)
いやいや、彼はお仕事を全うしただけですから!
今日の夜会は、いつもの5倍は疲れる。
一晩で寿命が一気に縮まった思いだ。
「アンジェ、顔色が悪い。
一旦控室に戻ろう?」
(今日は最初から、いつもと少しアンジェの様子が違っていた。
どうしたのだろう?心配だな)
「ご心配をお掛けして、申し訳ありません。
なんだか疲れてしまったみたいです。
少し休ませて頂けば、すぐに良くなると思います。
一人で大丈夫ですので、少しだけ抜けさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ、勿論だ。
だが、出来れば私も君の側に付いていたい。
もしも、一人になりたいと言うのならば、遠慮するけれど・・・・・・。
今日はもう、主要な人物との挨拶は済んでいるから、私も君も、閉会の時に少しだけ顔を出せば大丈夫だよ」
(アンジェが疲弊したのは、あの無礼な令嬢のせいか?
やっぱり消そう)
いや、主に貴方のせいです。
私達がメルロー男爵令嬢の話をしていると、背後から間延びした呑気な声が聞こえて振り返る。
礼儀はなっていないが容姿だけはそこそこ整ったご令嬢が、ニコニコと嬉しそうに笑いながら、熱っぽい瞳で殿下を見詰めていた。
無礼にも突然背後から声を掛けて来た令嬢だが、私は彼女に全く見覚えが無かった。
年齢は、恐らく私達と同じくらいだろうか?
おかしいわね。
王太子殿下の婚約者として、国内貴族の顔は全て覚えているつもりだったのだけれど・・・。
特に同年代ならば、学園でも見かける事があるはずなのだ。
だから、殿下に対して『王太子様ですか?』と、確認してくる事自体も変な話である。
「そうだが、君は?」
(このタイプの令嬢は、駆除してもまた直ぐに現れるんだな。
ゴ○ブリみたいだ)
令嬢を駆除とか言わない!
嫌われ率No.1の黒い害虫に喩えない!
キラキラ眩しい微笑みを浮かべたまま、とんでもない事を考えているセドリック殿下に、思わず脳内でツッコミを入れる。
「あ、初めましてぇ。
エマって言いま~す。
私、最近になってラプラス子爵の娘だって分かって、お邸に引き取られたばかりなんですぅ」
ああ、成る程。
引き取られたばかりの庶子であれば、礼儀がなっていないのも、お互いに顔を知らなかったのも納得だ。
その無礼を許すかどうかは、また別の問題だけれど。
「そうか、ラプラス子爵令嬢。
貴族のルールを早く覚えられる様に励みなさい」
セドリック殿下は、流石にイライラして来たのだろうか。
微笑んではいるのだが目が笑っていないし、声も普段より一段低い。
「やだぁ、〝ラプラス子爵令嬢〟だなんて。
挨拶したら、もうお友達じゃ無いですかぁ。
エマって呼んで下さい!」
(呼ぶ訳ないだろ。
挨拶したら友達って、どういう理屈だ?舐めてんのか?)
心の声はかなりのお怒りモードなのに、王子様スマイルなのが逆に怖い。
この不機嫌なオーラを全く感じ取れない鈍感なラプラス子爵令嬢が羨ましい。
「君はもう少しマナーを身につけた方がいい様だ」
「え~?マナーなんて、堅苦しいだけじゃ無いですかぁ。
だってぇ、そこの無表情な女の人より、私みたいな方が、可愛くて魅力的じゃないですか?
ね、そう思うでしょ?」
私の顔をチラリと窺い、嘲笑を含んだ様な醜い笑みを浮かべる。
そして、クネクネとシナを作りながら、殿下の腕に触れようとするラプラス子爵令嬢。
こういう、殿方に媚びる令嬢が好きな人もいるのだろうけれど、生憎殿下の好みでは無い。
殿下はさり気なく一歩下がって、彼女を避けた。
なんとなくだが、このご令嬢は、セドリック殿下の地雷を思いっきり踏み抜いている様な気がする。
気のせいである事を祈っておこう・・・。
「君の美的感覚は、ちょっと特殊みたいだね。
私の婚約者は、誰よりも可愛くて魅力的だ」
微笑みを貼り付けたまま、謎の冷気を発し始めた殿下は、私を連れてその場を立ち去ろうとする。
(アンジェにまで、無礼な発言をするとは・・・。
よし、消そう。跡形も無く)
待って!!
ダメダメ!消しちゃダメ!
しかも『跡形も無く』って、どーゆー事なの!?
「あぁっ!
待って下さい、王太子様ぁ」
焦った子爵令嬢は、殿下の袖を掴んだ。
「ラプラス子爵令嬢、でしたかしら?
王太子殿下に、無断で触れてはいけませんよ」
もぉやめてぇぇ!
ラプラス子爵令嬢、お願いだから黙って!
大人しくして!
このままだと、男爵家に続いて子爵家も一つ潰れちゃうよ。
アルカイックスマイルを浮かべながら、彼女に注意を促した私だが、内心は大パニックである。
メルロー男爵令嬢が可愛く見えるくらい強烈なヤツが出て来ちゃったな。
後でラプラス子爵に、『ご息女を教育し直してから社交に出す様に』と忠告しなければ。
このタイプは教育しても無理かもしれないけど・・・。
なんとか頑張って、子爵!
お取り潰しにならない為に。
「もぉ!何なんですか?貴女。
私は王太子様とお話ししたいんですぅ!
邪魔しないで下さい」
『何なんですか』って、その王太子様の婚約者ですが。
さっき殿下が言っていたのに、聞いてなかったのか?
しかも、王太子殿下は『話したい時にいつでも話し掛けてオッケー!』みたいな立場の人じゃ無いんだよ。
そーゆーのは地下アイドルにでも求めなさいよ。
いや、地下アイドルでさえダメか。
取り敢えず、今は、この場をどう収めるかが問題よね。
困った私が殿下の護衛のクラウス様に視線を投げると、彼は頷き、キーキー喚く子爵令嬢を片手で拘束して、壁際に控えていた別の騎士へと引き渡した。
やっぱりクラウス様は頼りになるわぁ。
(クラウスめ!
アンジェの前だからって、カッコつけやがって・・・)
いやいや、彼はお仕事を全うしただけですから!
今日の夜会は、いつもの5倍は疲れる。
一晩で寿命が一気に縮まった思いだ。
「アンジェ、顔色が悪い。
一旦控室に戻ろう?」
(今日は最初から、いつもと少しアンジェの様子が違っていた。
どうしたのだろう?心配だな)
「ご心配をお掛けして、申し訳ありません。
なんだか疲れてしまったみたいです。
少し休ませて頂けば、すぐに良くなると思います。
一人で大丈夫ですので、少しだけ抜けさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ、勿論だ。
だが、出来れば私も君の側に付いていたい。
もしも、一人になりたいと言うのならば、遠慮するけれど・・・・・・。
今日はもう、主要な人物との挨拶は済んでいるから、私も君も、閉会の時に少しだけ顔を出せば大丈夫だよ」
(アンジェが疲弊したのは、あの無礼な令嬢のせいか?
やっぱり消そう)
いや、主に貴方のせいです。
応援ありがとうございます!
25
お気に入りに追加
960
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる