【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

文字の大きさ
19 / 200

19 友達の友達は

しおりを挟む
『ご婚約者様の事がお好きなのですね』という私の言葉に、ベアトリスは何故かしきりに首を捻った。

「違うのですか?
 お好みじゃないプレゼントのドレスを態々お召しになるくらいだから、てっきりそうなのかと……」

「さあ、どうかしら? 幼い頃から決められていた相手だから、考えた事さえ無かったわ。
 でも改めて考えてみると、もっと小さな頃はともかく、最近の殿下には全然好きになる要素が無いわね。
 執務も勉強もサボって私に押し付けてばかりだし、婚約者としての義務も果たさないし、苦言を呈したら逆ギレするし……」

「うわぁ。最悪じゃないですか」

 思わず本音が口から飛び出した。

「そうよね。
 なんで私、好きでもないし、誠実でもない婚約者からの贈り物を、律儀に着ていたのかしら?
 お母様が『殿下から贈られたドレスを着なさい』って煩く言うから、それが当たり前だと思っていたけど……。
 そもそも、お母様は届いたドレスを確認していないし、殿下本人だってどんなドレスを贈ったかなんて知らないのだから、着なくても別にバレないわよね」

「え? 贈った本人も知らないのですか?」

「ええ。いつも従者が適当に選んでいるから」

 ベアトリスは何でも無い事の様にサラッとそう言ったが、私の中でクリスティアンの好感度はグングン下がって行く。

(ああ、だから『って事になっている』なのね。第二王子、やっぱり最悪だわ)

「それは、まさか殿下ご自身が仰ったのですか?」

「違うけど、聞きたくも無い話に限って、ご親切に態々教えてくれる人が居るのよ。
 王宮侍女の中には、殿下との関係が上手く行ってないからって、私を軽んじている者も多くてね。
 まあ、それを教えてくれた彼女は、二度と王都に足を踏み入れる事が無いと思うけど」

 あ、ちゃんと報復してた。
 しかも、王宮からじゃ無くて王都から追放してた。
 流石です。

「自業自得ですね。
 職務中に見聞きした事柄をペラペラと外部に漏らす様な人間なんて、危なくて王族の側には置いておけないですから」

「ふふっ。そうよね。
 お母様には『余計な問題を起こすな』って叱られたけど」

 うわぁ。侯爵夫人も、無いわぁ。

 それにしても、随分私の知っている設定と違うなぁ。

 今思えばゲームの中では、ベアトリスが自身の心情を吐露するシーンなんて無かった。
 もしかしたら、『重い愛があるから執着している』というのは、周囲から見た印象に過ぎなくて、事実とは異なるのかも。
 本当のベアトリスは、ただ、婚約者としての責務を果たそうと頑張っていたのに、それを踏み躙られたから怒って暴走したのかもしれない。

 婚約者を愛していないと改めて自覚したらしいベアトリスは、なんだかスッキリした顔をしていた。

 勿論、互いの努力によって婚約者と愛し合う事が出来るのなら、それに越した事はない。
 でも、相手が不誠実な態度を取るのならば、こちらばかりが誠意を見せ続ける必要は無いと思う。
 いくら身分の差があると言っても、そんなの馬鹿馬鹿しい。


「今日は貴女と話せて良かったわ。
 ねぇ、オフィーリア嬢。良かったら、私ともお友達になってくれない?」

「友達?」

 驚いて復唱すると、ベアトリスは期待と不安を混ぜ合わせた様な眼差しを向け、コクリと頷いた。


 その申し出は、私にとっては被滅への片道切符の様な気もする。

 でも……、もしもこの先自分一人が断罪を回避出来たとしても、この可愛らしい人が悪役令嬢となって処刑されてしまったら、多分、私は一生後悔するだろう。

 今、少し話しただけでも、ベアトリスの考え方は変わった様に見える。
 この世界では異物とも言える存在の私と、友人として交流する事で、ベアトリスの不幸な未来を変えられるとしたら───?

 そんな風に思ってしまうのは、傲慢なのだろうか?

 散々迷ったけれど、やっぱり私は彼女を見捨てられないと思った。
 ならば、ベアトリスと友達になって、一緒に断罪を回避するしかないだろう。
 きっと私のゲーム知識が、少しは役に立つ筈だ。

「身に余る光栄ですわ。
 私で良ければ、喜んでお友達にならせて頂きます」

 そう頷いて微笑めば、ベアトリスも満面の笑みを返してくれた。





 ベアトリスと友達になってからひと月程経った、ある晴れた日の事。

 その日は、以前からアイザックに誘われていた『街歩き』をする約束だった。

 昼過ぎにエヴァレット伯爵邸に迎えに来てくれたアイザックは、満面の笑みで馬車を降りるも、私の隣に並んだ人物を視界に捉えた途端にスンッと表情を凍らせる。

「何故、君がここに居る?」

「私もオフィーリアの友達だからよ」

 低い声で問うアイザックに、ドヤ顔で答えたのはベアトリスだ。

「いや、友達になったとは手紙で聞いていたけど……」

 アイザックは不満そうにブツブツ呟く。

「勝手に誘ってしまってごめんなさい。
 でも、皆んなでお出掛けした方が、きっと楽しいですよ」

 そう、私はアイザックとのお出掛けに、ベアトリスも誘ったのだ。
 だって、二人きりで出掛けてしまったら、きっと目撃者にデートだって勘違いされて、また面倒な事になるでしょう?

 ほら、かつて日本のお昼の顔だと言われていたサングラスがトレードマークのあの人も、『友達の友達は皆友達だ』という名言を残していたじゃないか。
 友達の輪、世界に広げようよ。

 元々、アイザックとベアトリスは私と知り合う前から幼馴染だったんだし、共通の友人と言っても間違いじゃない筈。

「ハァ……、分かったよ。
 良いよなぁ、女同士だと直ぐに仲良くなれて。
 僕の方が先にオフィーリアと友達になったのにさぁ」

 頷きつつも、溜息と共に恨み言を吐いたアイザック。

 ベアトリスはアイザックの手を借りて馬車へと乗り込む際、彼の耳元にスッと顔を寄せて何かを囁いた。

「………リアと………せ………………に」

 ニヤリと揶揄う様な笑みを浮かべたベアトリスに、アイザックの頬が一瞬で真っ赤になる。
 残念ながらベアトリスの声は、私の元までは届かなかった。

「何の話をしたのです?」

「ふふっ。それはねぇ……」

「ベアトリス、余計な事言うなよ」

 私の問いに口を開きかけたベアトリスを、慌てて制するアイザック。
 その頬は、まだほんのりと色付いたまま。
 それを見たベアトリスは、片手で口元を隠してクスクスと笑う。

 結局、何を言ったのかは教えてくれなかったけど、まあいいや。
 きっと、長い付き合いの二人にしか分からない話もあるのだろうから。

しおりを挟む
感想 1,006

あなたにおすすめの小説

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

処理中です...