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今年も学園に新しい風が吹く季節がやって来た。
私達は最終学年に進級し、メイナードは二年生に、そしてフレデリカが新たに入学した。
遂に乙女ゲームのシナリオも終盤戦に突入である。
アイザックとメイナードのルートは潰れ、ベアトリスとクリスティアンも早期に婚約破棄が叶い、もう断罪の危機は脱したかに思われる。
だが、第二の転生者がいる可能性や、王位簒奪を企む者の存在、リンメル先生の怪し気な動きなど、不確定な要素が多いので油断は禁物だ。
ここ最近は、私達の婚約発表、ベアトリスの新たな婚約の成立、フレデリカの入学など、お祝い事が連続していて幸せ気分だったが、ここへ来てあまり喜ばしくない出来事も一つ。
クリスティアンの謹慎が解かれ、学園に復帰したのだ。
再び学園に通い始めたクリスティアンは、自身の婚約者の席が空いた事もあってか、今迄以上に堂々とプリシラを側におく様になった。
クリスティアンがいない間は落ち込んでいた様子のプリシラも、今ではすっかり無駄な元気と無駄な自信を取り戻してしまった様だ。
友人にしては近過ぎる距離で接する二人に、彼等の愚行を鮮明に記憶している者達は眉を顰めていた。
しかし、事情を知らない一年生の下位貴族達の中には、キラキラと見目麗しい王子と、教皇の庇護下にある特別な力を持った美しい令嬢が寄り添う姿に、憧れを抱いた者もいたらしい。
以前程では無いけれど、プリシラの周辺に再び人が集まり出した。
腐ってもヒロインだから、人に好かれる才能みたいな物を持っているのだろうか?
残念ながら、私は全く彼女の魅力を感じる事が出来ないのだが。
ちょっと勉強が苦手らしいフレデリカの為に、私達は放課後の図書室で、勉強会を開く事にした。
この学園の図書室はとても広く、一つ一つのテーブルがかなり離れて設置されていて、小さな声でならお喋りも許容されているので、勉強会に使う生徒も多い。
中庭を見下ろせる窓際の明るい席を陣取り、それぞれ参考書を広げたりしていると、少し遅れてメイナードが合流した。
「あら、メイナード。
ニコラスは誘わなかったの?」
ベアトリスの問いに、メイナードは残念そうに首を横に振った。
「一応誘ってみましたが、遠慮すると……」
「……そう。気にしなくて良いと言ったのに」
最近、ニコラスは私達と別行動を取る事が多くなった。
私はそれを、ベアトリスの婚約が決まったせいかと思っていたのだが、どうやらそうではない様で……。
フレデリカの話によれば、最近一年生の生徒の一部に、ベアトリスに関する良くない噂が広がりつつあるのだ。
『元婚約者である王子の側近候補や護衛候補を奪って侍らせている』
まあ、これ迄の経緯を一切考慮せずに現状だけ見れば、そう見えなくもないのだろう。
その噂を聞いたニコラスは、自分のせいでベアトリスが悪く言われるのが嫌で、私達と距離を置く事にしたらしい。
とは言え、勿論クリスティアンの所へ戻った訳ではなく、アイザックやメイナードとは普通に交流しているし、学園の外で顔を合わせる事があれば、ベアトリスとも今迄通りに話をしているみたいだけど。
折角ニコラスとも友人になれそうだと思っていたのに、少し残念だ。
噂の出所は判明していないが、大方またプリシラが悲劇のヒロインぶって、周囲に相談でもしたのだろう。
「私達はもう第二王子殿下とは無関係なのだから、放って置いてくれれば良いのに」
そう呟いたベアトリスは悩まし気な吐息を零した。
「ニコラス様がいないと、なんだか淋しいですね」
私がそう言った瞬間、何処からかピリッとした空気が漂った。
「オフィーリア、お兄様の前で不用意な事は言わない方が良いわよ」
「え? どう言う意味です?」
フレデリカの助言の意味が分からず首を傾げていると、アイザックが私の肩を抱き寄せた。
「それについては、帰りの馬車の中で僕がしっかり分からせてあげるから、今は考えなくても良いよ」
「えっと、……はい」
アイザックの瞳の奥に不穏な光を感じたのは、気のせいだと思いたい。
暫く各自が問題集に取り組む静かな時間が続いた。
「ん゛~~~?
ねぇ、お兄様。コレってどう言う意味?」
たまにヒソヒソとフレデリカがアイザックに教えを乞う声がする。
「あぁ、それは引っ掛け問題だな。
重要なのは、この部分じゃなくて───」
仲良し兄妹の姿を微笑ましく眺めていたら、なんだか急に窓の外が騒がしくなった。
窓の外へと視線を向けると、取り巻きを引き連れて中庭のガゼボに現れたクリスティアンとプリシラの姿が、嫌でも目に入った。
「あの二人、すっかり復活したみたいだな。
無駄に生命力が強くて嫌になる」
忌々し気に呟くアイザック。
「気のせいか、取り巻きの人数がまた増えてません?」
私が首を傾げると、ベアトリスも窓の外を見て眉根を寄せた。
「親教会派の家の子達が多いわね」
『親教会派』と言うと以前は『信心深い者達』を指す言葉だったが、近年は教会のトップである教皇と近しい者達を揶揄する名称に成り下がっている。
「ああ、サディアス殿下が親教会派の奴等をどんどん切り捨てているから、焦っているのだろう」
ともすれば『宗教弾圧だ』と言われかねない状況だが、本当に信心深いだけの者は要職に留まっているし、排除された者達は明らかに能力が低かったので、反発の声はほんの一部からしか上がっていない。
排除された者達が再び王家に重用される事は、恐らく無いだろう。
だから彼等は勝てる確率が極めて低くても、プリシラ達に賭けるしかないのかもしれない。
サディアス殿下は何を狙っているのかな?
姫殿下の事件でも疑ってるみたいだから、単に、王宮から危険分子を取り除きたいだけに見えるけど……。
もしかしたら、焦らせてボロを出させようと罠を張っているのかもしれない。
なんかサディアス殿下って、あの人の良さそうな笑顔が胡散臭いのよね。
私達は最終学年に進級し、メイナードは二年生に、そしてフレデリカが新たに入学した。
遂に乙女ゲームのシナリオも終盤戦に突入である。
アイザックとメイナードのルートは潰れ、ベアトリスとクリスティアンも早期に婚約破棄が叶い、もう断罪の危機は脱したかに思われる。
だが、第二の転生者がいる可能性や、王位簒奪を企む者の存在、リンメル先生の怪し気な動きなど、不確定な要素が多いので油断は禁物だ。
ここ最近は、私達の婚約発表、ベアトリスの新たな婚約の成立、フレデリカの入学など、お祝い事が連続していて幸せ気分だったが、ここへ来てあまり喜ばしくない出来事も一つ。
クリスティアンの謹慎が解かれ、学園に復帰したのだ。
再び学園に通い始めたクリスティアンは、自身の婚約者の席が空いた事もあってか、今迄以上に堂々とプリシラを側におく様になった。
クリスティアンがいない間は落ち込んでいた様子のプリシラも、今ではすっかり無駄な元気と無駄な自信を取り戻してしまった様だ。
友人にしては近過ぎる距離で接する二人に、彼等の愚行を鮮明に記憶している者達は眉を顰めていた。
しかし、事情を知らない一年生の下位貴族達の中には、キラキラと見目麗しい王子と、教皇の庇護下にある特別な力を持った美しい令嬢が寄り添う姿に、憧れを抱いた者もいたらしい。
以前程では無いけれど、プリシラの周辺に再び人が集まり出した。
腐ってもヒロインだから、人に好かれる才能みたいな物を持っているのだろうか?
残念ながら、私は全く彼女の魅力を感じる事が出来ないのだが。
ちょっと勉強が苦手らしいフレデリカの為に、私達は放課後の図書室で、勉強会を開く事にした。
この学園の図書室はとても広く、一つ一つのテーブルがかなり離れて設置されていて、小さな声でならお喋りも許容されているので、勉強会に使う生徒も多い。
中庭を見下ろせる窓際の明るい席を陣取り、それぞれ参考書を広げたりしていると、少し遅れてメイナードが合流した。
「あら、メイナード。
ニコラスは誘わなかったの?」
ベアトリスの問いに、メイナードは残念そうに首を横に振った。
「一応誘ってみましたが、遠慮すると……」
「……そう。気にしなくて良いと言ったのに」
最近、ニコラスは私達と別行動を取る事が多くなった。
私はそれを、ベアトリスの婚約が決まったせいかと思っていたのだが、どうやらそうではない様で……。
フレデリカの話によれば、最近一年生の生徒の一部に、ベアトリスに関する良くない噂が広がりつつあるのだ。
『元婚約者である王子の側近候補や護衛候補を奪って侍らせている』
まあ、これ迄の経緯を一切考慮せずに現状だけ見れば、そう見えなくもないのだろう。
その噂を聞いたニコラスは、自分のせいでベアトリスが悪く言われるのが嫌で、私達と距離を置く事にしたらしい。
とは言え、勿論クリスティアンの所へ戻った訳ではなく、アイザックやメイナードとは普通に交流しているし、学園の外で顔を合わせる事があれば、ベアトリスとも今迄通りに話をしているみたいだけど。
折角ニコラスとも友人になれそうだと思っていたのに、少し残念だ。
噂の出所は判明していないが、大方またプリシラが悲劇のヒロインぶって、周囲に相談でもしたのだろう。
「私達はもう第二王子殿下とは無関係なのだから、放って置いてくれれば良いのに」
そう呟いたベアトリスは悩まし気な吐息を零した。
「ニコラス様がいないと、なんだか淋しいですね」
私がそう言った瞬間、何処からかピリッとした空気が漂った。
「オフィーリア、お兄様の前で不用意な事は言わない方が良いわよ」
「え? どう言う意味です?」
フレデリカの助言の意味が分からず首を傾げていると、アイザックが私の肩を抱き寄せた。
「それについては、帰りの馬車の中で僕がしっかり分からせてあげるから、今は考えなくても良いよ」
「えっと、……はい」
アイザックの瞳の奥に不穏な光を感じたのは、気のせいだと思いたい。
暫く各自が問題集に取り組む静かな時間が続いた。
「ん゛~~~?
ねぇ、お兄様。コレってどう言う意味?」
たまにヒソヒソとフレデリカがアイザックに教えを乞う声がする。
「あぁ、それは引っ掛け問題だな。
重要なのは、この部分じゃなくて───」
仲良し兄妹の姿を微笑ましく眺めていたら、なんだか急に窓の外が騒がしくなった。
窓の外へと視線を向けると、取り巻きを引き連れて中庭のガゼボに現れたクリスティアンとプリシラの姿が、嫌でも目に入った。
「あの二人、すっかり復活したみたいだな。
無駄に生命力が強くて嫌になる」
忌々し気に呟くアイザック。
「気のせいか、取り巻きの人数がまた増えてません?」
私が首を傾げると、ベアトリスも窓の外を見て眉根を寄せた。
「親教会派の家の子達が多いわね」
『親教会派』と言うと以前は『信心深い者達』を指す言葉だったが、近年は教会のトップである教皇と近しい者達を揶揄する名称に成り下がっている。
「ああ、サディアス殿下が親教会派の奴等をどんどん切り捨てているから、焦っているのだろう」
ともすれば『宗教弾圧だ』と言われかねない状況だが、本当に信心深いだけの者は要職に留まっているし、排除された者達は明らかに能力が低かったので、反発の声はほんの一部からしか上がっていない。
排除された者達が再び王家に重用される事は、恐らく無いだろう。
だから彼等は勝てる確率が極めて低くても、プリシラ達に賭けるしかないのかもしれない。
サディアス殿下は何を狙っているのかな?
姫殿下の事件でも疑ってるみたいだから、単に、王宮から危険分子を取り除きたいだけに見えるけど……。
もしかしたら、焦らせてボロを出させようと罠を張っているのかもしれない。
なんかサディアス殿下って、あの人の良さそうな笑顔が胡散臭いのよね。
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