127 / 200
127 ゲームに無い行事
しおりを挟む
授業が終わった途端、アイザックは有無を言わさぬ笑顔で私を馬車まで連行する。
車内に乗り込むと、いつもの様に膝の上に抱き上げられてしまった。
「ねぇ、オフィーリア。
君はもっと僕に愛されている自覚を持つべきだと思うんだ」
優しい微笑みを浮かべているはずのアイザックと目が合うと、背筋がゾクゾクするのは何故だろう。
「あの…、一応、自覚しているつもりなのですが……」
自ら『愛されているって分かってますよ』と明言するのは結構恥ずかしくて、真っ直ぐに見詰めてくる彼の視線から逃れる様に顔を逸らした。
「そう? おかしいなぁ」
本能的に危機を察知して彼の膝の上から逃げ出したくなるが、ガッチリと腰に巻き付いた腕に固定されていてビクともしない。
「出来ればオフィーリアの行動を制限したくは無いんだけど、どうやら僕は凄く嫉妬深いみたいなんだよ。
君が他の男をほんの少し気にかけるだけで、胸の奥がモヤモヤする。
本当は他の男の名前も呼んで欲しく無いし、視線も合わせて欲しく無いし、同じ空気を吸わせるのも……」
「ストップ、ストーーップ!!!」
なんか話がヤバい感じの方向へ向かっている気がして、彼の口を両手で塞いだ。
仄かな闇を感じる。
アイザックってこんなキャラだったっけ?
ゲームの中ではヤンデレ監禁エンドとかは無かったと思うけど……。
まあ、元々目の前の彼は、ゲームの中の彼とは全く違う性格だったか。
「そこまで想われると流石に重いです」
私がそう言うと、アイザックはシュンと悲しそうに眉を下げた。
クッ……。こんな時にそんな可愛い顔をするなんて、ズルいじゃないの。
「……でも、言いたい事はちょっとだけ理解しました。
アイザックが嫌な思いをする事は、私も出来るだけ避けたいです。
あ、でも名前を呼ばないとか、目を合わせないとか、同じ空気を吸わないとかは無理ですけど。
常識的な範囲でなら、気を付けます」
アイザックはちょっと泣きそうな顔で笑うと、口を塞いでいた私の手を取り、手の平にチュッと口付けた。
「ごめんね、オフィーリア。
でも、君が可愛すぎるから悪いんだ」
耳元で甘く囁かれて、一気に顔が熱くなる。
「あぁ、本当に可愛い」
離れる前に耳たぶにまでチュッとキスを落とされた。
ふと視線を感じて、向かい側の座席を見ると、ニヨニヨした顔で私達を眺めていたアイザックの侍従が慌てて顔を逸らした。
今日もやっぱり救いの手を差し伸べてくれる気はないらしい。
薄情な侍従を恨みがましい目で睨んでいると、「余所見しないの」と言われて、今度は頬に口付けられた。
それから自邸に着くまでの間、私はアイザックに抱き締められながら愛を語られ続けた。
もう甘過ぎて本気で砂糖を吐きそうよ。
でも、ヤンデレの悪化を防ぐ為には、そのままのアイザックを受け入れた方が良さそうだよね。
大丈夫。ちょっと恥ずかしいのを我慢すれば良いだけだもの。
甘い台詞はもうお腹いっぱいだったので、翌朝の登校時は「膝枕をしましょうか?」と提案すると、喜んで受け入れられた。
最初こそ恥ずかしかった膝枕だが、慣れてしまえばなんて事なくて、最近は頻繁に提供している。
少しでもアイザックの疲れを癒せるといいなと思って。
それに、無防備で可愛い彼の寝顔を見るのは婚約者の特権だと思うと、ちょっと嬉しかったりもするのだ。
学園に到着して馬車を降りると、なんだかいつもより浮ついた空気が漂っているのを感じた。
すれ違う生徒達は楽しそうにキャッキャと燥いでいたり、逆に厄介事に巻き込まれたみたいな顔でヒソヒソと何か話し合ったりしている。
「ちょっと騒がしいですね」
「ああ、いつもと様子が違うな」
訝しみながら教室へ入ると、既に登校していたベアトリスが私達の姿を見付けて駆け寄って来た。
「おはよう、オフィーリア、アイザック」
「おはようございます。何かありましたか?」
私の質問を待ってましたとばかり、ベアトリスは喋り始めた。
「それがね、また奴等が面倒な事を言い出したのよ」
「今度は何だ?」
こめかみを押さえながら小さな溜息をつくアイザック。
『奴等』が誰を指すのかは敢えて聞かないつもりらしい。
「学園内で祭りを開催しようって学園長に提案したみたいなの」
「お祭り、ですか?」
「そうよ。
この学園の生徒は貴族子女だから、将来は国民の生活を支える立場になるでしょう?
それなのに、庶民の苦労を知らないのは如何なものか、とか言い出したみたいよ。
生徒主催で模擬店などを運営してみて、小売店を経営する難しさや、今の政策の問題点などについて考える切っ掛けを作ろうって事らしいわ」
「それだけ聞くと、珍しくマトモだな。
まあ、多分誰かの入れ知恵なんだろうけど……」
「私もそう思うわ。
なんか、ちゃんとした企画書まで提出したみたいで、テストケースとして今年開催してみる事がほぼ決定したみたい。
文化祭って呼ぶんですって」
「文化祭……?」
聞き返した私の声は、少し掠れていた。
『文化祭』
この国には、今迄無かったその行事の名称に、転生者の存在を強く感じたから。
車内に乗り込むと、いつもの様に膝の上に抱き上げられてしまった。
「ねぇ、オフィーリア。
君はもっと僕に愛されている自覚を持つべきだと思うんだ」
優しい微笑みを浮かべているはずのアイザックと目が合うと、背筋がゾクゾクするのは何故だろう。
「あの…、一応、自覚しているつもりなのですが……」
自ら『愛されているって分かってますよ』と明言するのは結構恥ずかしくて、真っ直ぐに見詰めてくる彼の視線から逃れる様に顔を逸らした。
「そう? おかしいなぁ」
本能的に危機を察知して彼の膝の上から逃げ出したくなるが、ガッチリと腰に巻き付いた腕に固定されていてビクともしない。
「出来ればオフィーリアの行動を制限したくは無いんだけど、どうやら僕は凄く嫉妬深いみたいなんだよ。
君が他の男をほんの少し気にかけるだけで、胸の奥がモヤモヤする。
本当は他の男の名前も呼んで欲しく無いし、視線も合わせて欲しく無いし、同じ空気を吸わせるのも……」
「ストップ、ストーーップ!!!」
なんか話がヤバい感じの方向へ向かっている気がして、彼の口を両手で塞いだ。
仄かな闇を感じる。
アイザックってこんなキャラだったっけ?
ゲームの中ではヤンデレ監禁エンドとかは無かったと思うけど……。
まあ、元々目の前の彼は、ゲームの中の彼とは全く違う性格だったか。
「そこまで想われると流石に重いです」
私がそう言うと、アイザックはシュンと悲しそうに眉を下げた。
クッ……。こんな時にそんな可愛い顔をするなんて、ズルいじゃないの。
「……でも、言いたい事はちょっとだけ理解しました。
アイザックが嫌な思いをする事は、私も出来るだけ避けたいです。
あ、でも名前を呼ばないとか、目を合わせないとか、同じ空気を吸わないとかは無理ですけど。
常識的な範囲でなら、気を付けます」
アイザックはちょっと泣きそうな顔で笑うと、口を塞いでいた私の手を取り、手の平にチュッと口付けた。
「ごめんね、オフィーリア。
でも、君が可愛すぎるから悪いんだ」
耳元で甘く囁かれて、一気に顔が熱くなる。
「あぁ、本当に可愛い」
離れる前に耳たぶにまでチュッとキスを落とされた。
ふと視線を感じて、向かい側の座席を見ると、ニヨニヨした顔で私達を眺めていたアイザックの侍従が慌てて顔を逸らした。
今日もやっぱり救いの手を差し伸べてくれる気はないらしい。
薄情な侍従を恨みがましい目で睨んでいると、「余所見しないの」と言われて、今度は頬に口付けられた。
それから自邸に着くまでの間、私はアイザックに抱き締められながら愛を語られ続けた。
もう甘過ぎて本気で砂糖を吐きそうよ。
でも、ヤンデレの悪化を防ぐ為には、そのままのアイザックを受け入れた方が良さそうだよね。
大丈夫。ちょっと恥ずかしいのを我慢すれば良いだけだもの。
甘い台詞はもうお腹いっぱいだったので、翌朝の登校時は「膝枕をしましょうか?」と提案すると、喜んで受け入れられた。
最初こそ恥ずかしかった膝枕だが、慣れてしまえばなんて事なくて、最近は頻繁に提供している。
少しでもアイザックの疲れを癒せるといいなと思って。
それに、無防備で可愛い彼の寝顔を見るのは婚約者の特権だと思うと、ちょっと嬉しかったりもするのだ。
学園に到着して馬車を降りると、なんだかいつもより浮ついた空気が漂っているのを感じた。
すれ違う生徒達は楽しそうにキャッキャと燥いでいたり、逆に厄介事に巻き込まれたみたいな顔でヒソヒソと何か話し合ったりしている。
「ちょっと騒がしいですね」
「ああ、いつもと様子が違うな」
訝しみながら教室へ入ると、既に登校していたベアトリスが私達の姿を見付けて駆け寄って来た。
「おはよう、オフィーリア、アイザック」
「おはようございます。何かありましたか?」
私の質問を待ってましたとばかり、ベアトリスは喋り始めた。
「それがね、また奴等が面倒な事を言い出したのよ」
「今度は何だ?」
こめかみを押さえながら小さな溜息をつくアイザック。
『奴等』が誰を指すのかは敢えて聞かないつもりらしい。
「学園内で祭りを開催しようって学園長に提案したみたいなの」
「お祭り、ですか?」
「そうよ。
この学園の生徒は貴族子女だから、将来は国民の生活を支える立場になるでしょう?
それなのに、庶民の苦労を知らないのは如何なものか、とか言い出したみたいよ。
生徒主催で模擬店などを運営してみて、小売店を経営する難しさや、今の政策の問題点などについて考える切っ掛けを作ろうって事らしいわ」
「それだけ聞くと、珍しくマトモだな。
まあ、多分誰かの入れ知恵なんだろうけど……」
「私もそう思うわ。
なんか、ちゃんとした企画書まで提出したみたいで、テストケースとして今年開催してみる事がほぼ決定したみたい。
文化祭って呼ぶんですって」
「文化祭……?」
聞き返した私の声は、少し掠れていた。
『文化祭』
この国には、今迄無かったその行事の名称に、転生者の存在を強く感じたから。
1,976
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。
ふまさ
恋愛
──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。
彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。
ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。
だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。
※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる