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166 新学期
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長かった夏期休暇はあっと言う間に過ぎ去り、今日から新学期が始まる。
「成る程。
そんな経緯で、エイリーンの死は偽装される事になったんですね」
私は登校中の馬車に揺られながら、久々にアイザックから事件の報告を受けていた。
エイリーンは指名手配されたが、死の偽装についての詳細は報道されていないので、その説明を聞いている所である。
「うん。猶予期間を過ぎても両親が見舞いに来なかったから、前男爵夫人の計画が実行に移されたらしい」
「ご両親が開けなかった棺の中には、何が入っていたんでしょう? まさか……」
嫌な想像が頭に浮かび、思わず眉を顰めてしまったが、その続きを言葉にする前に、アイザックがそれを否定した。
「あぁ、いや、違うよ。
エイリーンの遺体の代わりにしたのは、綿で包んだ石ころを麻袋に詰め込んだ物だったらしい。
綿と石のバランスで重さを調節し、棺を傾けても転がって変な音がしたりしない様に考えたそうだ」
私はホッと胸を撫で下ろす。
「良かった。
身代わりの遺体なんて、そんな簡単に手に入らないですよね」
「そうだね。
それに、よっぽど顔の似た遺体ならともかく、そうじゃないなら、どうせ棺の蓋を開ければバレてしまう。
別の遺体を用意するのは、メリットよりもデメリットの方が確実に大きいだろう」
「確かに」
言われてみれば、その通りだ。
エイリーンの遺体が入ってないだけでも大問題だが、別の遺体が入っていれば、『それは誰なのか?』『どうやって入手した遺体なのか?』という問題まで浮上する。
「業者が運び出す際に不審に思わない様にと、重さだけは態々調整したらしいが、そんな気遣いさえ必要なかったみたいだな」
「まさか、遺体の引き取りを拒否されるとは思わなかったでしょうね」
娘が病に臥していると連絡を受けても、見舞いにさえ行かなかった両親である。
おそらく、『感染の危険性が……』とか言えば、棺の蓋を開けないだろうという所までは、前男爵夫人が予想した通りだったのだろうけど……。
「エイリーンが乗馬クラブの事件の犯人であるなら許し難いが、あの両親のもとに生まれてしまった事だけは少し同情するよ」
「あの事件は、エイリーンが犯人だと思います?」
「分からない。
今の所、分かっているのは犯人の瞳の色だけだからね。
捜査本部では、エイリーンとレイラが同一人物である事は、ほぼ間違いないと思われてるけど、そうだとしてもサディアス殿下の失脚とオフィーリアに危害を加える事が、どうにも結び付かないんだよな」
「そうですよね……」
彼女の目的が、恋人であるリンメル先生に権力を与える事だったとして、単なる伯爵令嬢である私を排除したって、その目的に近付けるとは到底思えない。
もしかして、私の知らないゲームの設定が何かあるのかな?
それとも、私が転生者なんじゃないかと勘付いて、その存在が目的の邪魔になるとでも思ったのか……。
若しくは、私を狙った事件の犯人は、全く別の人物なのか。
「ところで、ジョエルに聞いたんだけど、肉が食べられなくなったんだって?
ごめん、あの時僕が、短剣なんか渡したから……」
「いえ、今でも美味しく食べられますよ。
切ったり刺したりするのが苦手になっただけです。それも生に近いお肉だけですし。
あの短剣があったからこそ助かったのですから、そんな顔をしないで下さい」
「だけど……」
「悪いと思うなら、一緒にステーキを食べる時は、私の分も一口大に切って下さいね。
これからず~っと、一生ですよ?」
悲し気な水色の瞳を覗き込んでそうお願いすると、アイザックは泣きそうな顔で、私を強く抱き締めた。
「……うん、うん。
オフィーリアのステーキを切るのは、これからずっと僕の仕事だ。
それに、オフィーリアを酷い目に遭わせたヴィクター・リンメルにも、ちゃんと相応の罰を与えるからね」
「相応の……?」
常識的な事しか言われていない筈なのに、なんだか不穏さを感じる。
「うん、相応の」
ニッコリ笑ったアイザックを見て、背筋がゾワッとするのはなぜかしら?
事件の話をしている内に、あっという間に私達を乗せた馬車は学園に到着した。
教室に入ると、既に登校していたベアトリスが小走りで寄って来る。
「オフィーリア、会いたかった!!」
「私もです、ベアトリス様!!」
両手を広げたベアトリスに、ムギュッとハグをして再会を喜び合った。
久し振りに会うベアトリスは、ちょっとテンションが高くて、とても可愛らしい。
幸せそうなその顔を見るに、どうやら領地でも楽しく過ごせたみたいだ。
「いつまで抱き合ってるの?
そろそろ僕の婚約者、返してよ」
ベアトリスと私がスキンシップをとると、アイザックがちょっと不機嫌になるのも相変わらずである。
そしてその日のお昼休み、私達はお花畑カップルの末路を見る事になる。
「成る程。
そんな経緯で、エイリーンの死は偽装される事になったんですね」
私は登校中の馬車に揺られながら、久々にアイザックから事件の報告を受けていた。
エイリーンは指名手配されたが、死の偽装についての詳細は報道されていないので、その説明を聞いている所である。
「うん。猶予期間を過ぎても両親が見舞いに来なかったから、前男爵夫人の計画が実行に移されたらしい」
「ご両親が開けなかった棺の中には、何が入っていたんでしょう? まさか……」
嫌な想像が頭に浮かび、思わず眉を顰めてしまったが、その続きを言葉にする前に、アイザックがそれを否定した。
「あぁ、いや、違うよ。
エイリーンの遺体の代わりにしたのは、綿で包んだ石ころを麻袋に詰め込んだ物だったらしい。
綿と石のバランスで重さを調節し、棺を傾けても転がって変な音がしたりしない様に考えたそうだ」
私はホッと胸を撫で下ろす。
「良かった。
身代わりの遺体なんて、そんな簡単に手に入らないですよね」
「そうだね。
それに、よっぽど顔の似た遺体ならともかく、そうじゃないなら、どうせ棺の蓋を開ければバレてしまう。
別の遺体を用意するのは、メリットよりもデメリットの方が確実に大きいだろう」
「確かに」
言われてみれば、その通りだ。
エイリーンの遺体が入ってないだけでも大問題だが、別の遺体が入っていれば、『それは誰なのか?』『どうやって入手した遺体なのか?』という問題まで浮上する。
「業者が運び出す際に不審に思わない様にと、重さだけは態々調整したらしいが、そんな気遣いさえ必要なかったみたいだな」
「まさか、遺体の引き取りを拒否されるとは思わなかったでしょうね」
娘が病に臥していると連絡を受けても、見舞いにさえ行かなかった両親である。
おそらく、『感染の危険性が……』とか言えば、棺の蓋を開けないだろうという所までは、前男爵夫人が予想した通りだったのだろうけど……。
「エイリーンが乗馬クラブの事件の犯人であるなら許し難いが、あの両親のもとに生まれてしまった事だけは少し同情するよ」
「あの事件は、エイリーンが犯人だと思います?」
「分からない。
今の所、分かっているのは犯人の瞳の色だけだからね。
捜査本部では、エイリーンとレイラが同一人物である事は、ほぼ間違いないと思われてるけど、そうだとしてもサディアス殿下の失脚とオフィーリアに危害を加える事が、どうにも結び付かないんだよな」
「そうですよね……」
彼女の目的が、恋人であるリンメル先生に権力を与える事だったとして、単なる伯爵令嬢である私を排除したって、その目的に近付けるとは到底思えない。
もしかして、私の知らないゲームの設定が何かあるのかな?
それとも、私が転生者なんじゃないかと勘付いて、その存在が目的の邪魔になるとでも思ったのか……。
若しくは、私を狙った事件の犯人は、全く別の人物なのか。
「ところで、ジョエルに聞いたんだけど、肉が食べられなくなったんだって?
ごめん、あの時僕が、短剣なんか渡したから……」
「いえ、今でも美味しく食べられますよ。
切ったり刺したりするのが苦手になっただけです。それも生に近いお肉だけですし。
あの短剣があったからこそ助かったのですから、そんな顔をしないで下さい」
「だけど……」
「悪いと思うなら、一緒にステーキを食べる時は、私の分も一口大に切って下さいね。
これからず~っと、一生ですよ?」
悲し気な水色の瞳を覗き込んでそうお願いすると、アイザックは泣きそうな顔で、私を強く抱き締めた。
「……うん、うん。
オフィーリアのステーキを切るのは、これからずっと僕の仕事だ。
それに、オフィーリアを酷い目に遭わせたヴィクター・リンメルにも、ちゃんと相応の罰を与えるからね」
「相応の……?」
常識的な事しか言われていない筈なのに、なんだか不穏さを感じる。
「うん、相応の」
ニッコリ笑ったアイザックを見て、背筋がゾワッとするのはなぜかしら?
事件の話をしている内に、あっという間に私達を乗せた馬車は学園に到着した。
教室に入ると、既に登校していたベアトリスが小走りで寄って来る。
「オフィーリア、会いたかった!!」
「私もです、ベアトリス様!!」
両手を広げたベアトリスに、ムギュッとハグをして再会を喜び合った。
久し振りに会うベアトリスは、ちょっとテンションが高くて、とても可愛らしい。
幸せそうなその顔を見るに、どうやら領地でも楽しく過ごせたみたいだ。
「いつまで抱き合ってるの?
そろそろ僕の婚約者、返してよ」
ベアトリスと私がスキンシップをとると、アイザックがちょっと不機嫌になるのも相変わらずである。
そしてその日のお昼休み、私達はお花畑カップルの末路を見る事になる。
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