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お昼休みの食堂には、今日も多くの生徒達が犇めいている。
この後フレデリカ、ニコラス、メイナードも一緒に昼食を取る約束をしていたので、私達は広めのテーブルに席を取った。
程無くして、残りの三人も合流する。
「席を確保してくださったんですね。
凄く混んでいるので、助かりました」
メイナードの言葉に、周囲へ視線を向けた。
私達が到着した時には、まだ幾つか空いているテーブルがあったけど、あっという間にほぼ満席状態。
しかしそんな中、一箇所だけ誰も近寄らない場所があり、不自然なまでにポッカリと空間が空いていた。
その真ん中には、元聖女候補プリシラ・ウェブスターが一人ポツンと座っている。
誰も彼女の近くには座りたがらないのだ。
遠巻きに彼女をチラチラ見ている生徒達の口からは、ヒソヒソ、クスクスと、悪口や嘲笑が漏れ聞こえていた。
泣かない様に我慢はしているみたいだけど、彼女の肩は少し震えている。
そして時折、唇を噛み締めながら俯いていた。
アレは本当にプリシラなのだろうか?
以前ならば、確実に『酷い酷い』と被害者ぶって泣く場面だろう。
実兄による再教育は思った以上に成果を上げているらしい。
大勢の生徒から自分へと向けられる非難の声をBGMに食事をするなんて、一体どんな気分なのだろうか?
味なんて、きっと全く感じないんだろうな。
そりゃあ、プリシラに関わりたくない気持ちは、私だって痛い程分かるよ。
だけど、態々本人に聞こえる様に噂をするのは如何な物なのか?
関わりたくなければ、無視すれば良いだけじゃん。
「見ていてあまり気持ちの良い物ではないわね」
私と同じ事を感じたのか、微かに眉根を寄せたベアトリスがポツリと呟く。
ニコラスもウンウンと小さく頷いているが……。
「まあ、それが彼女の償いなのだから、仕方がないよね」
アイザックはサラリと言って、肩を竦めた。
こんな状況であっても、彼女に同情してやる気なんて微塵もないらしい。
ブレないわぁ。
すると急に、入り口付近の騒めきが大きくなった。
何事かとそちらを見遣れば、艶やかな銀髪が目に飛び込んで来た。
クリスティアンである。
彼もまた、皆から遠巻きにされていた。
紺碧の瞳は鋭く周囲を睨み付け、無言で威圧をしているが、僅か半年で王族ではなくなる予定の者を、誰も怖がりはしない。
顰めっ面のままキョロキョロと空席を探すクリスティアンだが、生憎とプリシラの周囲以外に空きはなかった。
最近の二人は以前の様な関係ではないとアイザックに聞いたが、それでもその辺りに座る以外に選択肢はない。
クリスティアンは苦々しい表情を作って大きな溜息をつくと、プリシラから出来るだけ距離を置いた席に、彼女に背を向ける形で腰を下ろした。
まるで関わりたくないとでも言う様に、視界に入れようともしない。
今一番攻撃対象になりやすい二人が近くに座ったせいか、悪口BGMが更にそのボリュームを上げる。
王子という立場上、そんな扱いをされた事がなかったであろうクリスティアンは、苛立たし気にガシガシと頭を掻いていたが、その我慢も限界に達したのだろう。
バンッとテーブルを叩きながら立ち上がり、口を開きかけた。
しかし、何かに気付いて悔しそうに舌打ちをすると、食事もせずにそのまま大股で食堂から出て行く。
「ポンコツ殿下だって、一応まだ王族なのにね。
エスカレートしないと良いけど……。
それともポンコツがキレて暴れる方が先かしら?」
声を顰めて零されたフレデリカの懸念には、珍しくニコラスが答えた。
「サディアス殿下はそれも織り込み済みなのだろう。
今日はいつもより警備の騎士が多いと思わないか?」
「ああ、そう言えばそうですね」
メイナードが相槌を打つ。
言われてみれば確かに、食堂の壁際には騎士が沢山控えているし、廊下を巡回する騎士も多かった気がする。
「増員されたのは皆、王宮騎士だな。顔に見覚えがある。
さっきも騎士の一人が殺気を放ったから、殿下は口をつぐんだ」
「そうなの? お兄様」
ニコラスの言葉を受けて、フレデリカがアイザックに確認すると、彼は「ああ」と答えた。
「流石に暴力事件とか起きたら不味いからね。一応監視は強化している。
まあ、ある程度のトラブルが起こるのは、サディアス殿下の計画の一部なんだよ」
「「「「「計画?」」」」」
聞き返す声が綺麗に揃った事に、アイザックはフッと小さく笑ってから、話を続けた。
「ほら、然りげ無く見てごらん。
騎士の中に何人か、メモを取ってる奴がいるだろう?」
「あ、本当ですね」
「あれは貴族子女としてまともな者と、そうでない者を振り分けて記録している」
「呆れた。
それって自分の弟を生贄にして、生徒達が嬉々として食い付くかどうかを試してるって事でしょう?」
小さく溜息をつくベアトリス。
「分かり易く言えば、そういう事」
「使えない未来の臣下を排除する大義名分にしたいのね。
相変わらずエゲツない事を考える人だわ」
集団心理のせいなのか、一部の生徒達は、クリスティアンを堂々と中傷している。
それも、本人に聞こえる様に噂をするという、とても下品な手段で。
確かにクリスティアンが過去にした事は許し難いが、生徒達の言動は普通に不敬罪が適用出来る案件である。
だって、いくら廃籍される予定とはいえ、現時点でのクリスティアンは、まだ第二王子の立場なのだから。
当然ながら、何を言っても何をしても、許されるという訳ではないのだ。
そういう奴に限って、実際にクリスティアンが問題行動を起こしている時には、擁護していたりしたのだ。
勇気を出して諌める事さえしなかった癖に、王族じゃなくなると知った途端にこの態度。
確かに、そんな暗愚な臣下なんて要らないかも。
一方で、クリスティアンとすれ違う際、嫌悪感を滲ませた表情をしながらも、廊下の端に避けて頭を下げる者もいる。
表面上だけでも王子に対しての礼を尽くしている彼等は、きっと現状を良く理解していると判断されるのだ。
これはクリスティアンへの罰であると同時に、未来を担う貴族子女を篩にかける試験なのだ。
捨てる予定の弟をこんな形で使うとは……。
本当に、ベアトリスの言う通り、エゲツない。
「改めて、サディアス殿下って怖い方だったんですね」
「今更何を言ってるのさ?
そのサディアス殿下を殴った人が」
思わず本音を零した私を、クスクスと楽しそうにアイザックは笑った。
「「「「殴っ……!?」」」」
アイザックの一言で、全員が信じられないものを見る様な眼差しを、こちらへ向ける。
「いえね、この前失礼な事をされまして、『お詫びに殴って良い』と仰るので、軽くポカッと……」
実際は『ポカッ』ではなく『ドカッ』だったかもしれないけど……。
その位は誤差の範囲よね? 多分。
「『パチ』とか『ペチ』じゃなくて、『ポカッ』!?
え? もしかして、グーで行ったのっ!?」
素っ頓狂な声を上げたフレデリカに、周囲からの視線が刺さる。
私以外の四人が口元に人差し指を立てて、「シーッ!」とフレデリカを窘めた。
その時私は自分の失言に気付き、頭を抱えていた。
「……僕、オフィーリア嬢の事は、絶対に怒らせない様にしますね」
無駄に決意を込めた顔のメイナードが呟く。
いや、ちょっと怒ったくらいで、誰彼構わず殴ったりはしないからね!?
この後フレデリカ、ニコラス、メイナードも一緒に昼食を取る約束をしていたので、私達は広めのテーブルに席を取った。
程無くして、残りの三人も合流する。
「席を確保してくださったんですね。
凄く混んでいるので、助かりました」
メイナードの言葉に、周囲へ視線を向けた。
私達が到着した時には、まだ幾つか空いているテーブルがあったけど、あっという間にほぼ満席状態。
しかしそんな中、一箇所だけ誰も近寄らない場所があり、不自然なまでにポッカリと空間が空いていた。
その真ん中には、元聖女候補プリシラ・ウェブスターが一人ポツンと座っている。
誰も彼女の近くには座りたがらないのだ。
遠巻きに彼女をチラチラ見ている生徒達の口からは、ヒソヒソ、クスクスと、悪口や嘲笑が漏れ聞こえていた。
泣かない様に我慢はしているみたいだけど、彼女の肩は少し震えている。
そして時折、唇を噛み締めながら俯いていた。
アレは本当にプリシラなのだろうか?
以前ならば、確実に『酷い酷い』と被害者ぶって泣く場面だろう。
実兄による再教育は思った以上に成果を上げているらしい。
大勢の生徒から自分へと向けられる非難の声をBGMに食事をするなんて、一体どんな気分なのだろうか?
味なんて、きっと全く感じないんだろうな。
そりゃあ、プリシラに関わりたくない気持ちは、私だって痛い程分かるよ。
だけど、態々本人に聞こえる様に噂をするのは如何な物なのか?
関わりたくなければ、無視すれば良いだけじゃん。
「見ていてあまり気持ちの良い物ではないわね」
私と同じ事を感じたのか、微かに眉根を寄せたベアトリスがポツリと呟く。
ニコラスもウンウンと小さく頷いているが……。
「まあ、それが彼女の償いなのだから、仕方がないよね」
アイザックはサラリと言って、肩を竦めた。
こんな状況であっても、彼女に同情してやる気なんて微塵もないらしい。
ブレないわぁ。
すると急に、入り口付近の騒めきが大きくなった。
何事かとそちらを見遣れば、艶やかな銀髪が目に飛び込んで来た。
クリスティアンである。
彼もまた、皆から遠巻きにされていた。
紺碧の瞳は鋭く周囲を睨み付け、無言で威圧をしているが、僅か半年で王族ではなくなる予定の者を、誰も怖がりはしない。
顰めっ面のままキョロキョロと空席を探すクリスティアンだが、生憎とプリシラの周囲以外に空きはなかった。
最近の二人は以前の様な関係ではないとアイザックに聞いたが、それでもその辺りに座る以外に選択肢はない。
クリスティアンは苦々しい表情を作って大きな溜息をつくと、プリシラから出来るだけ距離を置いた席に、彼女に背を向ける形で腰を下ろした。
まるで関わりたくないとでも言う様に、視界に入れようともしない。
今一番攻撃対象になりやすい二人が近くに座ったせいか、悪口BGMが更にそのボリュームを上げる。
王子という立場上、そんな扱いをされた事がなかったであろうクリスティアンは、苛立たし気にガシガシと頭を掻いていたが、その我慢も限界に達したのだろう。
バンッとテーブルを叩きながら立ち上がり、口を開きかけた。
しかし、何かに気付いて悔しそうに舌打ちをすると、食事もせずにそのまま大股で食堂から出て行く。
「ポンコツ殿下だって、一応まだ王族なのにね。
エスカレートしないと良いけど……。
それともポンコツがキレて暴れる方が先かしら?」
声を顰めて零されたフレデリカの懸念には、珍しくニコラスが答えた。
「サディアス殿下はそれも織り込み済みなのだろう。
今日はいつもより警備の騎士が多いと思わないか?」
「ああ、そう言えばそうですね」
メイナードが相槌を打つ。
言われてみれば確かに、食堂の壁際には騎士が沢山控えているし、廊下を巡回する騎士も多かった気がする。
「増員されたのは皆、王宮騎士だな。顔に見覚えがある。
さっきも騎士の一人が殺気を放ったから、殿下は口をつぐんだ」
「そうなの? お兄様」
ニコラスの言葉を受けて、フレデリカがアイザックに確認すると、彼は「ああ」と答えた。
「流石に暴力事件とか起きたら不味いからね。一応監視は強化している。
まあ、ある程度のトラブルが起こるのは、サディアス殿下の計画の一部なんだよ」
「「「「「計画?」」」」」
聞き返す声が綺麗に揃った事に、アイザックはフッと小さく笑ってから、話を続けた。
「ほら、然りげ無く見てごらん。
騎士の中に何人か、メモを取ってる奴がいるだろう?」
「あ、本当ですね」
「あれは貴族子女としてまともな者と、そうでない者を振り分けて記録している」
「呆れた。
それって自分の弟を生贄にして、生徒達が嬉々として食い付くかどうかを試してるって事でしょう?」
小さく溜息をつくベアトリス。
「分かり易く言えば、そういう事」
「使えない未来の臣下を排除する大義名分にしたいのね。
相変わらずエゲツない事を考える人だわ」
集団心理のせいなのか、一部の生徒達は、クリスティアンを堂々と中傷している。
それも、本人に聞こえる様に噂をするという、とても下品な手段で。
確かにクリスティアンが過去にした事は許し難いが、生徒達の言動は普通に不敬罪が適用出来る案件である。
だって、いくら廃籍される予定とはいえ、現時点でのクリスティアンは、まだ第二王子の立場なのだから。
当然ながら、何を言っても何をしても、許されるという訳ではないのだ。
そういう奴に限って、実際にクリスティアンが問題行動を起こしている時には、擁護していたりしたのだ。
勇気を出して諌める事さえしなかった癖に、王族じゃなくなると知った途端にこの態度。
確かに、そんな暗愚な臣下なんて要らないかも。
一方で、クリスティアンとすれ違う際、嫌悪感を滲ませた表情をしながらも、廊下の端に避けて頭を下げる者もいる。
表面上だけでも王子に対しての礼を尽くしている彼等は、きっと現状を良く理解していると判断されるのだ。
これはクリスティアンへの罰であると同時に、未来を担う貴族子女を篩にかける試験なのだ。
捨てる予定の弟をこんな形で使うとは……。
本当に、ベアトリスの言う通り、エゲツない。
「改めて、サディアス殿下って怖い方だったんですね」
「今更何を言ってるのさ?
そのサディアス殿下を殴った人が」
思わず本音を零した私を、クスクスと楽しそうにアイザックは笑った。
「「「「殴っ……!?」」」」
アイザックの一言で、全員が信じられないものを見る様な眼差しを、こちらへ向ける。
「いえね、この前失礼な事をされまして、『お詫びに殴って良い』と仰るので、軽くポカッと……」
実際は『ポカッ』ではなく『ドカッ』だったかもしれないけど……。
その位は誤差の範囲よね? 多分。
「『パチ』とか『ペチ』じゃなくて、『ポカッ』!?
え? もしかして、グーで行ったのっ!?」
素っ頓狂な声を上げたフレデリカに、周囲からの視線が刺さる。
私以外の四人が口元に人差し指を立てて、「シーッ!」とフレデリカを窘めた。
その時私は自分の失言に気付き、頭を抱えていた。
「……僕、オフィーリア嬢の事は、絶対に怒らせない様にしますね」
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