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1 最悪の出会い
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いつもより空が高く見えるような、秋晴れの日だった。
当時12歳だった私は、お母様に連れられ、知らないお邸の庭園にお邪魔した。
「この方が、貴女の婚約者となる、ミゲル・べニート様よ。
さあナディア、ご挨拶して」
伯爵令嬢である私は、幼い頃から、いつか政略結婚の相手と婚約するのだと理解していた。
とうとうその時が来たのだと思い、ちょっぴり苦手なカテーシーを、ぎこちなく披露する。
「初めまして、ミゲル様。
ナディア・プレシアドと申します。
お会い出来て光栄です」
「ミゲル・べニートだ。
よろしく頼む」
不機嫌そうに短く答えたミゲルは、眉根を寄せて、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
彼は伯爵家の嫡男で、年齢は私と同じ歳だそうだ。
一通り紹介を終えると、大人達は邸の中へ戻ってしまい、私達は二人きりで、コスモスに囲まれたガゼボで、お茶でも飲みながら交流を図るようにと指示された。
周りに使用人しか居なくなった途端、ミゲルは面倒臭そうに、深く息を吐いた。
その青い瞳が、私を品定めするかの様に見る。
「折角来てもらって悪いけど、僕はもっと大人っぽい顔立ちの知的美人系の女性が好きなんだ。
君みたいな幼い顔立ちの子は好みじゃない」
前置きもそこそこに、件の少年はそう宣ったのだ。
ほほぅ、そうですか。成る程。
私は不快感に目を細める。
確かに私は、12歳と言う年齢を差し引いても幼い顔立ちだ。
将来は良い方に転べば〝可愛い〟と言われる容姿にはなれるかもしれないが、決して〝美人〟にはならないであろう。
しかしながら、それが事実であったとしても、初対面の婚約者に言って良い言葉ではなかろうに。
私は彼の言葉に唖然としたが、其方がそう来るなら、と口を開く。
「そんな風に仰るのでしたら、私だって言わせて頂きますが、私も貴方のように線の細いタイプの男性は好みではありません。
騎士様のように筋肉質で、頼れる殿方が好みなのです。
そもそも、この縁談は政略であり、私達の異性の好みは関係ありません」
苛立ちを抑えながら、キッパリと言い切り、何食わぬ顔でティーカップを口に運んだ。
ミゲルは、妖精と見まごうばかりの儚げな美貌で、確かに美しいと言えるだろう。
貴族の間で主に好まれる容姿であるけれど、全くもって私の好みではない。
ミゲルは目を丸くし、口を若干半開きにした間抜けな表情で、私を凝視した。
人の容姿をとやかく言っておいて、自分が同じ事を言われるとは、想像もしていなかったらしい。
暫く気まずい沈黙が続いた後、ミゲルが少し俯いて呟いた。
「・・・・・・すまなかった」
あら、まあ。
今度は、私が目を見開く番だった。
あんな傲慢な発言をする人物から、まさか謝罪が来るとは思わなかったのだ。
まだ胸に多少のモヤモヤは残るものの、ここで拗ねてしまっては、容姿だけでなく中身も子供っぽくなってしまう。
「いいえ。分かって頂けたのなら、結構ですわ。
私も少し言い過ぎました」
私は自分の中で眠っていたプライドを総動員させて、ニッコリと優雅に微笑んだ。
当時12歳だった私は、お母様に連れられ、知らないお邸の庭園にお邪魔した。
「この方が、貴女の婚約者となる、ミゲル・べニート様よ。
さあナディア、ご挨拶して」
伯爵令嬢である私は、幼い頃から、いつか政略結婚の相手と婚約するのだと理解していた。
とうとうその時が来たのだと思い、ちょっぴり苦手なカテーシーを、ぎこちなく披露する。
「初めまして、ミゲル様。
ナディア・プレシアドと申します。
お会い出来て光栄です」
「ミゲル・べニートだ。
よろしく頼む」
不機嫌そうに短く答えたミゲルは、眉根を寄せて、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
彼は伯爵家の嫡男で、年齢は私と同じ歳だそうだ。
一通り紹介を終えると、大人達は邸の中へ戻ってしまい、私達は二人きりで、コスモスに囲まれたガゼボで、お茶でも飲みながら交流を図るようにと指示された。
周りに使用人しか居なくなった途端、ミゲルは面倒臭そうに、深く息を吐いた。
その青い瞳が、私を品定めするかの様に見る。
「折角来てもらって悪いけど、僕はもっと大人っぽい顔立ちの知的美人系の女性が好きなんだ。
君みたいな幼い顔立ちの子は好みじゃない」
前置きもそこそこに、件の少年はそう宣ったのだ。
ほほぅ、そうですか。成る程。
私は不快感に目を細める。
確かに私は、12歳と言う年齢を差し引いても幼い顔立ちだ。
将来は良い方に転べば〝可愛い〟と言われる容姿にはなれるかもしれないが、決して〝美人〟にはならないであろう。
しかしながら、それが事実であったとしても、初対面の婚約者に言って良い言葉ではなかろうに。
私は彼の言葉に唖然としたが、其方がそう来るなら、と口を開く。
「そんな風に仰るのでしたら、私だって言わせて頂きますが、私も貴方のように線の細いタイプの男性は好みではありません。
騎士様のように筋肉質で、頼れる殿方が好みなのです。
そもそも、この縁談は政略であり、私達の異性の好みは関係ありません」
苛立ちを抑えながら、キッパリと言い切り、何食わぬ顔でティーカップを口に運んだ。
ミゲルは、妖精と見まごうばかりの儚げな美貌で、確かに美しいと言えるだろう。
貴族の間で主に好まれる容姿であるけれど、全くもって私の好みではない。
ミゲルは目を丸くし、口を若干半開きにした間抜けな表情で、私を凝視した。
人の容姿をとやかく言っておいて、自分が同じ事を言われるとは、想像もしていなかったらしい。
暫く気まずい沈黙が続いた後、ミゲルが少し俯いて呟いた。
「・・・・・・すまなかった」
あら、まあ。
今度は、私が目を見開く番だった。
あんな傲慢な発言をする人物から、まさか謝罪が来るとは思わなかったのだ。
まだ胸に多少のモヤモヤは残るものの、ここで拗ねてしまっては、容姿だけでなく中身も子供っぽくなってしまう。
「いいえ。分かって頂けたのなら、結構ですわ。
私も少し言い過ぎました」
私は自分の中で眠っていたプライドを総動員させて、ニッコリと優雅に微笑んだ。
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