【完結】さよなら、大好きだった

1 さよなら

《side：ルルーシア》


始まりの日と同じ、夕陽に染まった二人きりの教室は、この恋の終わりを飾るのに相応しい。


「約束の半年には少し早いですが、契約終了です。
お疲れ様でした」

少し早口でそう言い切る。
決心が鈍らない様に。

いつもよりも丁寧にカテーシーをして顔を上げると、ローレンス様がポカンと口を開けて唖然とした様子で私を見詰めていた。

こんな表情でも素敵に見えてしまうなんて、恋とはなんと厄介な感情なのか。

引き裂かれる様な胸の痛みに堪えつつ、なんとか微笑みを浮かべたのは、少しでも綺麗な自分を彼に覚えていて欲しかったから。

───まだ泣くな。

奥歯を噛み締め、くるりと背を向けると、私は逃げる様に教室を後にした。

誰も居ない夕暮れの廊下を足早に進む。
校舎を出た時、ふと振り向いて教室の窓を見上げたら、沢山の思い出が胸に込み上げて来た。

契約が成立した、あの日の事。
毎日、学食で一緒にお昼を食べた事。
放課後の図書室での勉強会。
初めてのデート。

全て、二度と手に入らない幸せな日常だ。


私がここに戻る事は、もう、無い。


頬に一筋の涙が伝う。

嗚咽が漏れてしまわない様に、強く唇を引き結びつつ、私は馬車に乗り込んだ。


（さよなら、ローレンス様。
貴方の事が･･････、大好きでした）


一度も伝えられなかった彼への想いを、心の中で呟きながら。