【完結】さよなら、大好きだった

miniko

文字の大きさ
4 / 28

4 呼び出し

しおりを挟む
《side:ルルーシア》


「貴女がブルーノさん?
お話ししたい事があって・・・。
少しだけお時間よろしいかしら?」

放課後、既に恒例となった図書室勉強会にローレンス様と向かおうとしていた私に声を掛けて来たのは、別のクラスの女生徒だった。
面識は無いけれど、傷ひとつない白魚の様な指や艶やかな髪は良く手入れが行き届いており、彼女がある程度高位の令嬢だとひと目で分かる。

だが、一見友好的に見える美しい微笑みの奥には、微かに敵意の様な物が潜んでいるのが窺えた。

「ルルーシア、俺も一緒に行こう」

「いいえ、大丈夫です。
少し待っていてください」

ローレンス様も彼女の敵意を察したのだろう。
心配そうな彼を制して、私は女生徒と共に教室を出た。



案の定、空き教室に連れて行かれた私は、複数の女生徒に囲まれた。

「貴女、どうやって彼を騙したの?」

「貧乏子爵令嬢の癖にローレンス様に近寄るなんて、身の程知らずな・・・・・・」

「きっと、同情を買う様な真似でもしたのでしょう」

先程迄の友好的な仮面を脱ぎ捨てて、口々に私を罵り始めた彼女達。

こうなる事は、最初から想定の範囲内だ。
私は契約という裏技を使って、一時的ではあるが、ローレンス様の恋人の座に収まった。
彼を本気で想っている女性達に対しては、本当に申し訳なく思う。
だから、批判も嫌がらせもあまんじて受け入れようと思っている。

暴力を振るわれたりしたら流石に我慢する気はないけど、この程度の嫌味なら聞き流せば良いだけ。

私は彼女達が満足する様に、悲しそうな表情を作って俯いた。

そうして彼女達の罵倒をやり過ごしていたら、突然教室の扉が開いた。
驚いて固まった女生徒達を冷たく一瞥したのは、ローレンス様だった。

「そろそろ俺の彼女を返してくれない?
この後、約束があるんだよ」

「あ、はい・・・済みません」

急激にしおらしくなった女性達は、私から距離を取った。

ツカツカと私に歩み寄ったローレンス様は、私の手を引いて空き教室を出ようとしたのだが、思い直した様に扉の前で振り返った。

「さっきの君達の話、廊下まで聞こえていたんだけど」

その言葉に彼女達の肩がビクッと震えた。

「俺の好みはルルーシアの様に知性を感じられる女性だ。
その事を君達にとやかく言われる筋合いは無い。
悔しかったら、一度でもルルーシアの成績を抜いて見せろ。
まあ、無理だろうけど。
以前の俺と同じで、君達の成績は下から数えた方が早いもんな」

侮蔑の笑みを浮かべながらそう言ったローレンス様に、青い顔をした彼女達は少し泣きそうだった。



私達はそのまま図書室へ向かい、勉強を始めたのだが・・・・・・。

「不満そうだな。
さっきのは、余計なお世話だったか?」

「そう言う訳では・・・。
助けて頂いた事は、感謝しています」

「じゃあ、何が不満?」

私は深く息を吐き出して、口を開いた。

「私は彼女達に負い目が有ります。
正当では無い手段で、期間限定とは言え、貴方の恋人の座に座っているのですから。
そのせいで悲しんでいる女性もいると思うのです」

「俺に付き纏っている女性達は、権力と財力に惹かれているだけだと思うが・・・。
まあ良い、それで?」

「だから、あの程度は我慢するべきかと。
彼女達は、私を言葉で傷付けたいだけ。
決して物理的な危害を加えようとはしなかった。
だから、私が傷付いた振りをしていれば済むはずだった」

「傷付いた振り・・・・・・」

「そうです。彼女達は多分それだけで満足してくれたと思うのです。
だから、ちょっとだけ可哀想な気がして・・・」

私とローレンス様が本当に恋愛関係で将来婚姻も考えているならば、私も他者に舐められない様に立ち回る必要があるだろうけど、この関係は偽りなので半年間だけ凌げれば良いのだから・・・・・・。

私の意見を聞いて、ローレンス様は呆れた様に笑った。

「貴女は、狡猾なのかお人好しなのか良く分からない人だな・・・・・・。
とにかく、俺達の契約の件を負い目に感じる必要はない。
貴女は俺にそれを強要した訳じゃ無いんだから。
選択権は俺にあった。
普通の恋愛じゃ無かったとしても、貴女と付き合う事を選んだのは俺自身だよ。
それについて、ルルーシアが他人に批判されるなんておかしいだろう?」

「・・・・・・はい」

ローレンス様の言葉で、私の心は少しだけ軽くなった。
仮初とは言えせっかく彼が選んでくれたのだから、もっと堂々としなければいけない。

それでも、罪悪感が完全に消えた訳では無いけれど。


その後、陰口くらいは言われているけど、彼女達の様に私をあからさまに批判する者は居なくなった。
具体的に何をしたのかは分からないが、おそらくローレンス様が何らかの対策をしてくれたのだろう。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】君を迎えに行く

とっくり
恋愛
 顔だけは完璧、中身はちょっぴり残念な侯爵子息カインと、 ふんわり掴みどころのない伯爵令嬢サナ。  幼い頃に婚約したふたりは、静かに関係を深めていくはずだった。 けれど、すれ違いと策略により、婚約は解消されてしまう。 その別れが、恋に鈍いカインを少しずつ変えていく。 やがて彼は気づく。 あの笑顔の奥に、サナが隠していた“本当の想い”に――。 これは、不器用なふたりが、 遠回りの先で見つけた“本当の気持ち”を迎えに行く物語

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。 彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。 そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。 ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。 彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。 しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。 それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。 私はお姉さまの代わりでしょうか。 貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。 そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。 8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。 https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE MAGI様、ありがとうございます! イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

次は絶対に幸せになって見せます!

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。 “もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…” そう願いながら眠りについたのだった。 翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。 もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる! そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい… 恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。

婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。 そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。 死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……

優柔不断な公爵子息の後悔

有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。 いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。 後味悪かったら申し訳ないです。

処理中です...