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《side:ルルーシア》
「貴女がブルーノさん?
お話ししたい事があって・・・。
少しだけお時間よろしいかしら?」
放課後、既に恒例となった図書室勉強会にローレンス様と向かおうとしていた私に声を掛けて来たのは、別のクラスの女生徒だった。
面識は無いけれど、傷ひとつない白魚の様な指や艶やかな髪は良く手入れが行き届いており、彼女がある程度高位の令嬢だとひと目で分かる。
だが、一見友好的に見える美しい微笑みの奥には、微かに敵意の様な物が潜んでいるのが窺えた。
「ルルーシア、俺も一緒に行こう」
「いいえ、大丈夫です。
少し待っていてください」
ローレンス様も彼女の敵意を察したのだろう。
心配そうな彼を制して、私は女生徒と共に教室を出た。
案の定、空き教室に連れて行かれた私は、複数の女生徒に囲まれた。
「貴女、どうやって彼を騙したの?」
「貧乏子爵令嬢の癖にローレンス様に近寄るなんて、身の程知らずな・・・・・・」
「きっと、同情を買う様な真似でもしたのでしょう」
先程迄の友好的な仮面を脱ぎ捨てて、口々に私を罵り始めた彼女達。
こうなる事は、最初から想定の範囲内だ。
私は契約という裏技を使って、一時的ではあるが、ローレンス様の恋人の座に収まった。
彼を本気で想っている女性達に対しては、本当に申し訳なく思う。
だから、批判も嫌がらせもあまんじて受け入れようと思っている。
暴力を振るわれたりしたら流石に我慢する気はないけど、この程度の嫌味なら聞き流せば良いだけ。
私は彼女達が満足する様に、悲しそうな表情を作って俯いた。
そうして彼女達の罵倒をやり過ごしていたら、突然教室の扉が開いた。
驚いて固まった女生徒達を冷たく一瞥したのは、ローレンス様だった。
「そろそろ俺の彼女を返してくれない?
この後、約束があるんだよ」
「あ、はい・・・済みません」
急激にしおらしくなった女性達は、私から距離を取った。
ツカツカと私に歩み寄ったローレンス様は、私の手を引いて空き教室を出ようとしたのだが、思い直した様に扉の前で振り返った。
「さっきの君達の話、廊下まで聞こえていたんだけど」
その言葉に彼女達の肩がビクッと震えた。
「俺の好みはルルーシアの様に知性を感じられる女性だ。
その事を君達にとやかく言われる筋合いは無い。
悔しかったら、一度でもルルーシアの成績を抜いて見せろ。
まあ、無理だろうけど。
以前の俺と同じで、君達の成績は下から数えた方が早いもんな」
侮蔑の笑みを浮かべながらそう言ったローレンス様に、青い顔をした彼女達は少し泣きそうだった。
私達はそのまま図書室へ向かい、勉強を始めたのだが・・・・・・。
「不満そうだな。
さっきのは、余計なお世話だったか?」
「そう言う訳では・・・。
助けて頂いた事は、感謝しています」
「じゃあ、何が不満?」
私は深く息を吐き出して、口を開いた。
「私は彼女達に負い目が有ります。
正当では無い手段で、期間限定とは言え、貴方の恋人の座に座っているのですから。
そのせいで悲しんでいる女性もいると思うのです」
「俺に付き纏っている女性達は、権力と財力に惹かれているだけだと思うが・・・。
まあ良い、それで?」
「だから、あの程度は我慢するべきかと。
彼女達は、私を言葉で傷付けたいだけ。
決して物理的な危害を加えようとはしなかった。
だから、私が傷付いた振りをしていれば済むはずだった」
「傷付いた振り・・・・・・」
「そうです。彼女達は多分それだけで満足してくれたと思うのです。
だから、ちょっとだけ可哀想な気がして・・・」
私とローレンス様が本当に恋愛関係で将来婚姻も考えているならば、私も他者に舐められない様に立ち回る必要があるだろうけど、この関係は偽りなので半年間だけ凌げれば良いのだから・・・・・・。
私の意見を聞いて、ローレンス様は呆れた様に笑った。
「貴女は、狡猾なのかお人好しなのか良く分からない人だな・・・・・・。
とにかく、俺達の契約の件を負い目に感じる必要はない。
貴女は俺にそれを強要した訳じゃ無いんだから。
選択権は俺にあった。
普通の恋愛じゃ無かったとしても、貴女と付き合う事を選んだのは俺自身だよ。
それについて、ルルーシアが他人に批判されるなんておかしいだろう?」
「・・・・・・はい」
ローレンス様の言葉で、私の心は少しだけ軽くなった。
仮初とは言えせっかく彼が選んでくれたのだから、もっと堂々としなければいけない。
それでも、罪悪感が完全に消えた訳では無いけれど。
その後、陰口くらいは言われているけど、彼女達の様に私をあからさまに批判する者は居なくなった。
具体的に何をしたのかは分からないが、おそらくローレンス様が何らかの対策をしてくれたのだろう。
「貴女がブルーノさん?
お話ししたい事があって・・・。
少しだけお時間よろしいかしら?」
放課後、既に恒例となった図書室勉強会にローレンス様と向かおうとしていた私に声を掛けて来たのは、別のクラスの女生徒だった。
面識は無いけれど、傷ひとつない白魚の様な指や艶やかな髪は良く手入れが行き届いており、彼女がある程度高位の令嬢だとひと目で分かる。
だが、一見友好的に見える美しい微笑みの奥には、微かに敵意の様な物が潜んでいるのが窺えた。
「ルルーシア、俺も一緒に行こう」
「いいえ、大丈夫です。
少し待っていてください」
ローレンス様も彼女の敵意を察したのだろう。
心配そうな彼を制して、私は女生徒と共に教室を出た。
案の定、空き教室に連れて行かれた私は、複数の女生徒に囲まれた。
「貴女、どうやって彼を騙したの?」
「貧乏子爵令嬢の癖にローレンス様に近寄るなんて、身の程知らずな・・・・・・」
「きっと、同情を買う様な真似でもしたのでしょう」
先程迄の友好的な仮面を脱ぎ捨てて、口々に私を罵り始めた彼女達。
こうなる事は、最初から想定の範囲内だ。
私は契約という裏技を使って、一時的ではあるが、ローレンス様の恋人の座に収まった。
彼を本気で想っている女性達に対しては、本当に申し訳なく思う。
だから、批判も嫌がらせもあまんじて受け入れようと思っている。
暴力を振るわれたりしたら流石に我慢する気はないけど、この程度の嫌味なら聞き流せば良いだけ。
私は彼女達が満足する様に、悲しそうな表情を作って俯いた。
そうして彼女達の罵倒をやり過ごしていたら、突然教室の扉が開いた。
驚いて固まった女生徒達を冷たく一瞥したのは、ローレンス様だった。
「そろそろ俺の彼女を返してくれない?
この後、約束があるんだよ」
「あ、はい・・・済みません」
急激にしおらしくなった女性達は、私から距離を取った。
ツカツカと私に歩み寄ったローレンス様は、私の手を引いて空き教室を出ようとしたのだが、思い直した様に扉の前で振り返った。
「さっきの君達の話、廊下まで聞こえていたんだけど」
その言葉に彼女達の肩がビクッと震えた。
「俺の好みはルルーシアの様に知性を感じられる女性だ。
その事を君達にとやかく言われる筋合いは無い。
悔しかったら、一度でもルルーシアの成績を抜いて見せろ。
まあ、無理だろうけど。
以前の俺と同じで、君達の成績は下から数えた方が早いもんな」
侮蔑の笑みを浮かべながらそう言ったローレンス様に、青い顔をした彼女達は少し泣きそうだった。
私達はそのまま図書室へ向かい、勉強を始めたのだが・・・・・・。
「不満そうだな。
さっきのは、余計なお世話だったか?」
「そう言う訳では・・・。
助けて頂いた事は、感謝しています」
「じゃあ、何が不満?」
私は深く息を吐き出して、口を開いた。
「私は彼女達に負い目が有ります。
正当では無い手段で、期間限定とは言え、貴方の恋人の座に座っているのですから。
そのせいで悲しんでいる女性もいると思うのです」
「俺に付き纏っている女性達は、権力と財力に惹かれているだけだと思うが・・・。
まあ良い、それで?」
「だから、あの程度は我慢するべきかと。
彼女達は、私を言葉で傷付けたいだけ。
決して物理的な危害を加えようとはしなかった。
だから、私が傷付いた振りをしていれば済むはずだった」
「傷付いた振り・・・・・・」
「そうです。彼女達は多分それだけで満足してくれたと思うのです。
だから、ちょっとだけ可哀想な気がして・・・」
私とローレンス様が本当に恋愛関係で将来婚姻も考えているならば、私も他者に舐められない様に立ち回る必要があるだろうけど、この関係は偽りなので半年間だけ凌げれば良いのだから・・・・・・。
私の意見を聞いて、ローレンス様は呆れた様に笑った。
「貴女は、狡猾なのかお人好しなのか良く分からない人だな・・・・・・。
とにかく、俺達の契約の件を負い目に感じる必要はない。
貴女は俺にそれを強要した訳じゃ無いんだから。
選択権は俺にあった。
普通の恋愛じゃ無かったとしても、貴女と付き合う事を選んだのは俺自身だよ。
それについて、ルルーシアが他人に批判されるなんておかしいだろう?」
「・・・・・・はい」
ローレンス様の言葉で、私の心は少しだけ軽くなった。
仮初とは言えせっかく彼が選んでくれたのだから、もっと堂々としなければいけない。
それでも、罪悪感が完全に消えた訳では無いけれど。
その後、陰口くらいは言われているけど、彼女達の様に私をあからさまに批判する者は居なくなった。
具体的に何をしたのかは分からないが、おそらくローレンス様が何らかの対策をしてくれたのだろう。
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