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5 デートの約束

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《side:ローレンス》


契約をしてからほぼ毎日、昼休みには学園の食堂のテラス席でルルーシアと一緒に食事をしている。
いつの間にか暗黙の了解の様になっていたが、それは俺にとっても存外楽しい時間だった。

ルルーシアとの交際は、学園の中でなるべく一緒に過ごすと言うママゴトの様な物であったが、彼女はそれで満足しているみたいだった。



「それ、そんなに好きなのか?」

彼女がテーブルに置いたトレーには、ハムとキュウリのサンドイッチが乗っていた。

「好き、と言う訳でも無いですが・・・」

「だが、いつもそれを食べてる気がする」

「・・・・・・まあ、これが一番安いですし。
もうご存知でしょうけど、ウチは領地の経営状態が芳しく無くて」

「ああ、噂に聞いた事がある」

「ブルーノ領は、あまり気象条件も土壌も良くなくて、作物がなかなか育ちません。
土壌の改良方法を試したり、厳しい環境でも育つ野菜を調べたり、色々対策は考えているのですが、上手くいかないのです」

彼女は恥じ入る様に瞳を伏せてそう言ったが、領地経営について真剣に考えている彼女が俺にとっては新鮮に映った。

俺の周りにいた女性は、自領の特産品さえ知らない者ばかりだったから。

確か、ブルーノ子爵家にはルルーシアしか子が居ないので、彼女の夫になる男が子爵家を継ぐのだろう。
彼女は未来の夫を支え、自領を守る為に色々と勉強をしているのかもしれない。

真面目な彼女は、きっと優秀で誠実な男を婿に選ぶのだろうな───。


しかし、ブルーノ子爵は財政状況が良くない割に派手な生活をしていると聞く。
何度か見かけたことがある子爵夫人も、いつも趣味の悪い大きな宝石を身に付けていた。

この国の下位貴族は王都にタウンハウスを持ってない家が多のだが、ルルーシアは寮に入って無いので、子爵家はおそらくタウンハウスも所有している。

(それなのに、ルルーシアだけが節約を心掛けているなんて・・・・・・)

何か家庭環境に問題があるのかもしれないと気になったが、その辺りは俺が口を挟んで良い事では無い。


「言ってくれれば、昼飯くらい毎日でもご馳走するのに」

「う~ん・・・。
日常の昼食代を払って頂くのは、なんだか違う気がします。
なんて言うか・・・、それは恋人じゃなくて、パトロンでは?」

微かに眉根を寄せて考え込む様な表情を見せる彼女に、フッと笑いが零れた。
そんなに硬く考えなくて良いのに。
なんだか、意地でも彼女に美味しいものを食べさせたくなってきた。

「真面目かよ。
じゃあ、次の週末、デートしようか。
日常の食事じゃなければ、ご馳走しても問題ないんだよな?」

「え・・・、デート、ですか?」

「そう。
まさか、デート代割り勘にするとか言って、俺に恥をかかせたりはしないだろ?」

彼女は少しだけ逡巡する様子を見せたが、最終的には小さく頷いた。

「はい。
デート、楽しみにしてます」

そう答えた彼女の口元には、微かに笑みが浮かんでいる。
俺は拒絶されなかった事に、少しだけホッとした。



昼食を食べ終わって教室へ戻ろうと廊下を歩いていると、一人の男がルルーシアに声を掛けた。

「ルル、もう食事は済んだのか?」

(・・・ルル?)

その親しげな呼び掛けに、ピクリと頬が引き攣った。

「うん。ダリルはこれから?」

(・・・ダリル?)

ルルーシアもその男の名を呼び捨てで呼んだ。

「ああ、ちょっと用事があって、遅くなった」

「早く食べないと、昼休み終わっちゃうよ」

「お前みたいにゆっくり食わないから大丈夫だよ」

見た事がない男だが、騎士科の制服を着ている。
やけにリラックスした二人の遣り取りに、何故か胸の奥がモヤッとした。

「で?何か私に用があった?」

「あ、そうそう。
母上が、今日の晩飯食いに来いって」

「え?この前もお邪魔したばかりなのに・・・・・・、悪いわ」

「そんなの気にするなよ。
母上がルルに会いたいだけなんだから。
ルルを連れて行かないと、誘い方が悪いだのなんだの僕がグチグチ言われるんだから、協力してくれよ。
じゃあ、待ってるからな」

男は少々強引に約束を取り付けた。
そして、俺に微かな敵意を滲ませた視線を向けながらもペコリと会釈をして、急ぎ足で食堂へ入って行った。

愛称で呼んで、気軽に邸へ招待される様な仲なのか?
益々モヤモヤする。

「・・・・・・誰?」

発した声が予想以上に低くて、自分でも内心困惑した。

「ダリル・メイジャー。
私の従兄弟です。
科が違うから、ローレンス様とは面識がないかもしれませんね」

従兄弟か・・・。
親族ならば、親しげに話したり愛称で呼ぶのは珍しくもないけれど・・・。

「よく彼の邸に行くの?」

「彼のご両親が、私の事を何かと気遣ってくれていて、頻繁に呼んでくれるんですよ」


ふーん・・・。頻繁に、ねぇ。


微かに感じる不快感の原因は、結局わからないままだった。
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