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6 いつの間にか
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《side:ルルーシア》
ローレンス様に思い切ってあの契約を切り出してから、約ニヵ月が経過した。
私達の仲は比較的順調で、学園の休み時間や放課後は二人で過ごす事が多い。
最初の頃の緊張感も抜けて来て、スムーズに会話が出来るようになり、冗談を言って笑い合ったりする関係になれた。
そして、なんと先日、人生初のデートに誘われた。
用意出来た対価が予想問題と勉強のサポートという陳腐な物なので、学園内のみの関係でも仕方無いと思っていたのに。
貧乏な私は、侯爵令息が喜びそうな高価な対価など用意出来るはずもなく。
だが、彼が最近必死で勉強し始めたのを知っていたので、勝算が全く無かった訳ではない。
結果として、デートを経験出来る事になったのだから、大成功と言えるだろう。
そんな平和なある日、私は父の執務室へ呼ばれた。
まあ、あの男は執務など殆どやっていないので、執務室とは名ばかりなのだが・・・。
「お呼びでしょうか、お父様」
「お前の良く無い噂を聞いた。
エイムズ家の次男と懇意にしているそうじゃ無いか。
侯爵子息がお前を本気で相手にするとでも思うのか?
それに、その男は女好きで有名で、あまり評判が良く無いと聞く。
遊ばれて捨てられるのがオチだ。
早く目を覚ませ」
評判に関してはアンタにだけは言われたく無いだろう。
私の両親は、お世辞にも尊敬できる人物であるとは言えない。
無責任で怠惰な俗物である。
何も知らない癖にローレンス様を侮辱する言葉を吐く父に強い苛立ちを覚えるが、話が通じる相手では無いので、喉まで出かかった呪詛をグッと飲み込む。
「ご心配をなさらずとも、彼はただの友人の一人ですよ」
不快感を押し殺しながら、そう言った。
「ならば良いのだが。
身辺を綺麗にしておけよ。
どう抗っても、お前の未来は決まっているのだからな。
悪足掻きをするなよ」
「・・・・・・勉強がありますので、そろそろ失礼します」
「相変わらず、つまらない娘だ」
私はペコリと頭を下げると、執務室を後にした。
廊下に出た私に、家令と侍女達が心配そうな視線を向けてくる。
問題ないと言う代わりに、彼等にニコリと微笑んで見せて、私は自室へ足を向けたのだが・・・・・・。
嫌な事と言うのは重なるもので、廊下を歩いていると、ゴテゴテと下品に着飾った義母に遭遇してしまった。
彼女は会釈した私を蔑む様な目で一瞥すると、不愉快そうに顔を顰めて、言葉を発することもなく去って行った。
(今日は本当についてない)
彼女はいつも私をそこに居ないものとして扱う。
まあ、積極的に虐げられていないだけ、有難いと思わなければいけないのかもしれないけど。
部屋に入って一人きりになると、先程の父との会話を反芻した。
『お前の未来は決まっている』
知ってる。
『悪足掻きをするな』
わかってる。
当主の決定は絶対。
それがこの国の貴族社会の基本ルールだ。
例え、その当主がとても愚かな人間であったとしても。
今の私には、父の決定を覆せるほどの力は無い。
どんなに私が領地の為に頑張っても、どんなに父が仕事を放棄して遊び歩いていても、爵位を持っているのは父の方なのだから。
「はぁ・・・・・・、会いたいな」
大きな溜息に続いて、自分の口から零れた言葉に驚愕した。
会いたいって、誰に?
頭に浮かんだのは、彼の優しい眼差しだった。
その瞬間、この感情の正体が、ストンと理解出来た。
───ああ、人はこんなにも簡単に恋に落ちるのね。
私達は期間限定の恋人だ。
多くを望んではいけない。
私に向ける彼の優しさは、偽りなのだから。
『俺はブルーノ嬢のサラサラのストレートヘアも好きだけど』
恋人になった翌日、彼から貰った言葉を思い出す。
あの言葉が本心だったら良いのに。
ローレンス様に思い切ってあの契約を切り出してから、約ニヵ月が経過した。
私達の仲は比較的順調で、学園の休み時間や放課後は二人で過ごす事が多い。
最初の頃の緊張感も抜けて来て、スムーズに会話が出来るようになり、冗談を言って笑い合ったりする関係になれた。
そして、なんと先日、人生初のデートに誘われた。
用意出来た対価が予想問題と勉強のサポートという陳腐な物なので、学園内のみの関係でも仕方無いと思っていたのに。
貧乏な私は、侯爵令息が喜びそうな高価な対価など用意出来るはずもなく。
だが、彼が最近必死で勉強し始めたのを知っていたので、勝算が全く無かった訳ではない。
結果として、デートを経験出来る事になったのだから、大成功と言えるだろう。
そんな平和なある日、私は父の執務室へ呼ばれた。
まあ、あの男は執務など殆どやっていないので、執務室とは名ばかりなのだが・・・。
「お呼びでしょうか、お父様」
「お前の良く無い噂を聞いた。
エイムズ家の次男と懇意にしているそうじゃ無いか。
侯爵子息がお前を本気で相手にするとでも思うのか?
それに、その男は女好きで有名で、あまり評判が良く無いと聞く。
遊ばれて捨てられるのがオチだ。
早く目を覚ませ」
評判に関してはアンタにだけは言われたく無いだろう。
私の両親は、お世辞にも尊敬できる人物であるとは言えない。
無責任で怠惰な俗物である。
何も知らない癖にローレンス様を侮辱する言葉を吐く父に強い苛立ちを覚えるが、話が通じる相手では無いので、喉まで出かかった呪詛をグッと飲み込む。
「ご心配をなさらずとも、彼はただの友人の一人ですよ」
不快感を押し殺しながら、そう言った。
「ならば良いのだが。
身辺を綺麗にしておけよ。
どう抗っても、お前の未来は決まっているのだからな。
悪足掻きをするなよ」
「・・・・・・勉強がありますので、そろそろ失礼します」
「相変わらず、つまらない娘だ」
私はペコリと頭を下げると、執務室を後にした。
廊下に出た私に、家令と侍女達が心配そうな視線を向けてくる。
問題ないと言う代わりに、彼等にニコリと微笑んで見せて、私は自室へ足を向けたのだが・・・・・・。
嫌な事と言うのは重なるもので、廊下を歩いていると、ゴテゴテと下品に着飾った義母に遭遇してしまった。
彼女は会釈した私を蔑む様な目で一瞥すると、不愉快そうに顔を顰めて、言葉を発することもなく去って行った。
(今日は本当についてない)
彼女はいつも私をそこに居ないものとして扱う。
まあ、積極的に虐げられていないだけ、有難いと思わなければいけないのかもしれないけど。
部屋に入って一人きりになると、先程の父との会話を反芻した。
『お前の未来は決まっている』
知ってる。
『悪足掻きをするな』
わかってる。
当主の決定は絶対。
それがこの国の貴族社会の基本ルールだ。
例え、その当主がとても愚かな人間であったとしても。
今の私には、父の決定を覆せるほどの力は無い。
どんなに私が領地の為に頑張っても、どんなに父が仕事を放棄して遊び歩いていても、爵位を持っているのは父の方なのだから。
「はぁ・・・・・・、会いたいな」
大きな溜息に続いて、自分の口から零れた言葉に驚愕した。
会いたいって、誰に?
頭に浮かんだのは、彼の優しい眼差しだった。
その瞬間、この感情の正体が、ストンと理解出来た。
───ああ、人はこんなにも簡単に恋に落ちるのね。
私達は期間限定の恋人だ。
多くを望んではいけない。
私に向ける彼の優しさは、偽りなのだから。
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