【完結】さよなら、大好きだった

miniko

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8 彼の事情

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《side:ローレンス》


ルルーシアをデートに誘ったは良いが・・・・・・。
どこに連れて行けば、喜んでくれるのだろうか?


ルルーシアは俺の事を恋愛のエキスパートか何かみたいに思っているらしいが、実は全く違う。
どちらかと言えば、女性は苦手な方だ。
特に権力欲の強いタイプには、虫酸が走る。

真実を知られたら、ガッカリされるだろうか?




俺にはとても優秀な兄上がいる。

博識で、思慮深く、優しい。
兄上は俺の憧れだった。
将来侯爵家の当主となるべく、幼少の頃から勉強を欠かさなかった兄上を、影から支える事が俺の目標だった。

ただ、彼は一つだけ問題を抱えていた。
生まれつき呼吸器に疾患があり、体が弱かったのだ。

それでも幼い頃は、誰もが彼に期待していた。
体が弱いのも、成長と共に自然と治るかもしれないと、楽観的に考えられていたのだ。
だが、体が大人に近付いても、兄上の持病が良くなる事はなかった。

次第に周囲の俺達を見る目が変化してくる。


「弟のローレンスを後継に指名した方が良いんじゃないか?」

そんな声が出始めたのだ。


俺なんかよりも兄上の方が当主に相応しいのは明白だ。
両親も、兄上に継がせる事をまだ諦めてはいない。
それなのに、親族達は好き勝手に意見をしてくる。

しかも、兄上の婚約者だった伯爵令嬢は、少しづつ兄上に冷たく当たる様になり、反対に俺を籠絡しようと擦り寄ってくる様になった。
このまま兄上が病気を克服出来なければ、当主は俺になるとでも思ったのだろう。
きっと、将来の侯爵夫人の座を手放したくなかったのだ。
実に分かり易い。
吐き気がする。

俺は当然、その事実を両親に報告し、怒った両親は彼女と兄上の婚約を破棄した。
兄上も、彼女に対して恋愛感情を持っていなかったのは、不幸中の幸いだった。

婚約を解消後、

「権力欲の塊みたいな女だったからなぁ」

と、兄上は苦笑していたが、彼女に未練は無いとしても、その心中は色々と複雑だっただろう。



俺は学園に入学する一年ほど前から、当主として相応しく無い人間だと思われる様な行動をとり始めた。
間違っても兄上の代わりに祭り上げられる事が無い様に。

フラフラと遊び歩いて、真面目に勉強しない。

それは浅はかな俺が考えた、小さな抵抗だったのだ。

とは言え、頭が悪過ぎるのも家族に迷惑がかかる。
学園の授業はサボっていたが、最低限の学習はコッソリ続けていた。
また、物理的に兄上を守れる様に、剣術や体術の鍛錬も欠かさなかった。


そんな風に態と自身の評価を下げる行動を取っていたのだが、あの女のせいで軽く女性不信になっていたので、女遊びをする気は全く無かった。
しかし、エイムズ侯爵家の実情を小耳に挟んだ令嬢が、次男の俺が侯爵家を継ぐ可能性に賭けて擦り寄ってくる事例は後を経たない。
一体どこから聞き付けて来るのか?

真剣な告白にはこちらも誠実に応えねばならないだろうが、幸か不幸か俺に言い寄る女性達は利権を欲する者ばかりだった。
なので、適当にあしらっていたのだが、気紛れに夜会のエスコートをしたり、デートの誘いを受けたりするだけで、周囲は勝手に勘違いをする。
悪評をわざと立てようとしている俺にとっては好都合だった。

デートの際に強引に既成事実を作ろうとする女も居たが、
「もし無理矢理そういう関係になったとしても、責任を取るつもりは全く無い。
俺は悪評が立っても構わない。
そうなったら困るのは君の方だろう?」
と、最低な宣言をすると大概は大人しく離れて行った。
本音を言えば、俺だって家に迷惑がかかるほどの悪評は困るのだけど。

恋人を作った事も、女性と深い関係になった事も無いのに、噂ばかりが大きくなって行く。


こうして、女好きの遊び人である侯爵令息ローレンスが誕生したのだ。



作戦は概ね上手く行っていた。

うるさかった親族達も、俺を当主にとは言わなくなった。



だが、最近になって、我が家を取り巻く事情が大きく変わってしまった。

兄上が今迄で一番大きな発作を起こしたのだ。


「このままでは、命の危険に関わる。
アイツは、空気の綺麗な田舎で療養させる事にした。
当然、当主としての執務を行うのも難しいだろう。
だから、お前をエイムズ侯爵家の次期当主に指名する」

こうなってしまった以上、父上の決定は、仕方のない事だった。
父上も母上も目が赤く、少し窶れた様子だ。
両親にとっても、苦渋の決断だったのだろう。

否応無く後継の椅子に座る事になってしまった俺は、少々慌てた。
侯爵家の当主ともなるならば、学園も高成績で卒業しておきたい。
しかし、家を継ぐ為に新たに学ばねばならぬ事も多く、それと並行して学園の成績を急激に上げるのは難しい。

卒業まで約一年半。
その間に成績を上げるには、どうすれば良いか・・・・・・。


ルルーシアに声を掛けられたのは、そんな時だったのだ。
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