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11 オモチャの指輪
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《side:ローレンス》
植物園を出ても、まだ陽が高い時間だった。
「まだ時間が大丈夫なら、もう少し街歩きをしないか?」
「ええ、喜んで」
頷く彼女の腕の中から、分厚いファイルをヒョイっと取り上げて、小脇に抱えた。
「重たいだろう。
帰りまで預かるよ」
「そんな・・・、申し訳ないです」
「貴女は遠慮してばかりだな。
こういう時、恋人同士なら『ありがとう』って言う物だよ」
咎める様にそう言うと、彼女は戸惑いながらも微笑んだ。
「・・・ありがとうございます」
「そうそう。その方が俺も嬉しい」
彼女の手を引いて商店街をそぞろ歩いた。
週末なので、沢山の人が行き交い、露店なども多く出ている。
「何か欲しいものがあったら言って」
そうは言っても、彼女はきっと可愛くおねだりなんてしてくれないのだろうなぁ。
その事を残念に思って、ふと気付く。
・・・・・・っていうか、俺は物を強請る女性が苦手だったはずなのだが。
自分でもどんな心境の変化なのかは分からないが、何故か彼女にだけは甘えて欲しいと思っているのだ。
何とも不可解な自分の気持ちを持て余していると、背後から聞き慣れた声に名前を呼ばれた。
「あら、ローレンスじゃないの?」
思わず肩がピクっと反応した。
嫌々ながらも振り向くと、満面の笑みの母上が侍女と護衛を引き連れてこちらに手を振っていた。
「珍しく可愛らしいお嬢さんを連れてるのね。
紹介してくれないの?」
ニコニコと笑いながらルルーシアを見る目は好奇心に満ちている。
今日邸を出る時の様子も見られているので、余計にルルーシアが気になるのだろう。
俺を揶揄う気満々の母上の態度に溜息が出そうになった。
幼い頃から俺の家に仕えている侍女からも、生温かい視線を感じて居た堪れない。
俺は渋々ルルーシアを紹介する事にした。
「彼女はルルーシア・ブルーノ嬢です。
ルルーシア、俺の母だ」
恋人・・・と紹介するのは、彼女も困るかもしれない。
だが、友人と紹介するのもなんだか癪だ。
俺達の関係を何と説明するべきなのか迷った挙句、ただ彼女の名前だけを告げた。
「初めまして、ルルーシア・ブルーノと申します。
ローレンス様にはいつもお世話になっております」
ルルーシアが綺麗なカテーシーで挨拶をすると、母上は笑みを深めた。
「ルルーシアちゃん、これからもローレンスを宜しくね。
今度、ウチにも遊びにいらっしゃい。
美味しいお茶とお菓子を用意しておくから」
「はい。ありがとうございます」
満足そうに頷いた母上は、俺の方へと向き直った。
「ローレンス、彼女に指輪をプレゼントするなら、そこのお店がお勧めよ」
母上は先程自分が出て来たばかりの宝飾店を指差すと、悪戯っぽくウインクをする。
そして、「じゃあ、またね」とルルーシアに手を振って去って行った。
その後ろ姿を見つめながら、ルルーシアが溜息をついた。
「ローレンス様はお母様似なのですね。
凄い美女に急に声を掛けられて、緊張しました」
「美女かどうかはよく分からないけど、こんな所で会うなんて俺も驚いた。
折角だから、母のお勧めの店を見て行こうか?」
「いいえっっ!とんでもない!
あんな高級そうなお店は私には分不相応です」
慌ててブンブンと首を横に振られてしまった。
少し残念。
落胆する俺を他所に、ルルーシアは俺の手を引いて宝飾店とは反対の方向へ向かった。
高級店が立ち並ぶ通りから逸れて、露店が多く出ている路地へ。
色々な店を冷やかしながら歩いていたルルーシアが、ふと足を止めたのはガラス玉を使ったアクセサリーを売る露店だった。
彼女が手に取ったのは、シルバーの台座に俺の瞳の色と同じ藤色のガラス玉が嵌め込まれた指輪。
「綺麗・・・・・・。
・・・・・・これ、ください」
少しだけ悩む様子を見せたルルーシアは、店主に声を掛けて財布を取り出した。
「待って。
気に入ったなら、俺にプレゼントさせてくれ」
「ああ、いえ。そんなつもりでは・・・・・・」
「恋人にプレゼントをするのは当然だって言っただろ?
だけど、そんなガラス玉で良いのか?」
「ありがとうございます。
契約の恋人には、勿体無いくらいですよ」
「・・・・・・そうか」
日差しを反射してキラキラと煌めくガラス玉は確かに美しいし、俺の瞳の色を選んでくれたのは嬉しいけれど・・・・・・。
漸く彼女が強請ってくれた物が、イミテーションのアクセサリーだった事に、一抹の寂しさを覚えた。
『契約』
その言葉を彼女が口にする度に、何故か胸の奥がザワザワする。
偽物の恋人同士だから、プレゼントも偽物が丁度良いと言う事だろうか?
彼女の薬指にイミテーションの指輪を嵌めると、偶然にもそれは彼女の指にピッタリのサイズだった。
植物園を出ても、まだ陽が高い時間だった。
「まだ時間が大丈夫なら、もう少し街歩きをしないか?」
「ええ、喜んで」
頷く彼女の腕の中から、分厚いファイルをヒョイっと取り上げて、小脇に抱えた。
「重たいだろう。
帰りまで預かるよ」
「そんな・・・、申し訳ないです」
「貴女は遠慮してばかりだな。
こういう時、恋人同士なら『ありがとう』って言う物だよ」
咎める様にそう言うと、彼女は戸惑いながらも微笑んだ。
「・・・ありがとうございます」
「そうそう。その方が俺も嬉しい」
彼女の手を引いて商店街をそぞろ歩いた。
週末なので、沢山の人が行き交い、露店なども多く出ている。
「何か欲しいものがあったら言って」
そうは言っても、彼女はきっと可愛くおねだりなんてしてくれないのだろうなぁ。
その事を残念に思って、ふと気付く。
・・・・・・っていうか、俺は物を強請る女性が苦手だったはずなのだが。
自分でもどんな心境の変化なのかは分からないが、何故か彼女にだけは甘えて欲しいと思っているのだ。
何とも不可解な自分の気持ちを持て余していると、背後から聞き慣れた声に名前を呼ばれた。
「あら、ローレンスじゃないの?」
思わず肩がピクっと反応した。
嫌々ながらも振り向くと、満面の笑みの母上が侍女と護衛を引き連れてこちらに手を振っていた。
「珍しく可愛らしいお嬢さんを連れてるのね。
紹介してくれないの?」
ニコニコと笑いながらルルーシアを見る目は好奇心に満ちている。
今日邸を出る時の様子も見られているので、余計にルルーシアが気になるのだろう。
俺を揶揄う気満々の母上の態度に溜息が出そうになった。
幼い頃から俺の家に仕えている侍女からも、生温かい視線を感じて居た堪れない。
俺は渋々ルルーシアを紹介する事にした。
「彼女はルルーシア・ブルーノ嬢です。
ルルーシア、俺の母だ」
恋人・・・と紹介するのは、彼女も困るかもしれない。
だが、友人と紹介するのもなんだか癪だ。
俺達の関係を何と説明するべきなのか迷った挙句、ただ彼女の名前だけを告げた。
「初めまして、ルルーシア・ブルーノと申します。
ローレンス様にはいつもお世話になっております」
ルルーシアが綺麗なカテーシーで挨拶をすると、母上は笑みを深めた。
「ルルーシアちゃん、これからもローレンスを宜しくね。
今度、ウチにも遊びにいらっしゃい。
美味しいお茶とお菓子を用意しておくから」
「はい。ありがとうございます」
満足そうに頷いた母上は、俺の方へと向き直った。
「ローレンス、彼女に指輪をプレゼントするなら、そこのお店がお勧めよ」
母上は先程自分が出て来たばかりの宝飾店を指差すと、悪戯っぽくウインクをする。
そして、「じゃあ、またね」とルルーシアに手を振って去って行った。
その後ろ姿を見つめながら、ルルーシアが溜息をついた。
「ローレンス様はお母様似なのですね。
凄い美女に急に声を掛けられて、緊張しました」
「美女かどうかはよく分からないけど、こんな所で会うなんて俺も驚いた。
折角だから、母のお勧めの店を見て行こうか?」
「いいえっっ!とんでもない!
あんな高級そうなお店は私には分不相応です」
慌ててブンブンと首を横に振られてしまった。
少し残念。
落胆する俺を他所に、ルルーシアは俺の手を引いて宝飾店とは反対の方向へ向かった。
高級店が立ち並ぶ通りから逸れて、露店が多く出ている路地へ。
色々な店を冷やかしながら歩いていたルルーシアが、ふと足を止めたのはガラス玉を使ったアクセサリーを売る露店だった。
彼女が手に取ったのは、シルバーの台座に俺の瞳の色と同じ藤色のガラス玉が嵌め込まれた指輪。
「綺麗・・・・・・。
・・・・・・これ、ください」
少しだけ悩む様子を見せたルルーシアは、店主に声を掛けて財布を取り出した。
「待って。
気に入ったなら、俺にプレゼントさせてくれ」
「ああ、いえ。そんなつもりでは・・・・・・」
「恋人にプレゼントをするのは当然だって言っただろ?
だけど、そんなガラス玉で良いのか?」
「ありがとうございます。
契約の恋人には、勿体無いくらいですよ」
「・・・・・・そうか」
日差しを反射してキラキラと煌めくガラス玉は確かに美しいし、俺の瞳の色を選んでくれたのは嬉しいけれど・・・・・・。
漸く彼女が強請ってくれた物が、イミテーションのアクセサリーだった事に、一抹の寂しさを覚えた。
『契約』
その言葉を彼女が口にする度に、何故か胸の奥がザワザワする。
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