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12 自覚
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《side:ローレンス》
「ローレンス・エイムズ様ですね」
学園の休み時間。
実習室から教室に戻っている所を不意に呼び止められた。
振り返った先に居たのは、見覚えのある騎士科の制服の男だった。
「そうだけど」
「先日お会いしましたが、ご挨拶させて頂くのは初めてですね。
ルルーシアの従兄弟で、ダリル・メイジャーと申します。
ルルの事でお話ししたい事があります。
少しだけお時間頂けますでしょうか?」
「で?話って何?」
そのまま校舎裏に連れて行かれたのだが、なかなか口火を切らない彼に焦れて、俺の方から用件を問いただす。
「ルルと付き合っていると言うのは、本当ですか?」
「ああ」
「・・・・・・」
俺の答えに、彼は感情を押し殺す様にギュッと目を閉じて長く息を吐く。
そして躊躇う素振りを見せながら、徐に口を開いた。
「・・・ルルの事をどう思っているのですか?」
「どう、とは?」
「愛して・・・いますか?」
「・・・・・・」
直球過ぎる質問に、どう答えるべきなのか迷った。
どんな答えを返しても、間違っている様な気がしたから。
「貴方が今迄付き合って来たのは、遊び慣れた女性達なのかもしれませんが、彼女は違います。
数々の浮名を流して来た貴方が、気軽に手を出して良いタイプじゃない。
このままでは彼女も深く傷付くし、貴方にとっても面倒な事になるでしょう。
貴方は責任を取る覚悟がありますか?」
「確かにルルーシアとは付き合っているが、俺達の関係は、君が思っている様な物ではない」
彼の瞳は驚く程に真剣だった。
だから、俺も真面目に答えなければ。
ルルーシアとの約束で、契約の全容を明かす事は出来ないが、話せる範囲で真実を伝えようと思った。
「・・・俺が思っている関係じゃない?
・・・・・・どう言う意味ですか?」
「それは、ルルーシアに聞いて・・・」
「ダリル!!!」
視覚の外から突然鋭い声が響く。
ビクッと肩を揺らしたダリル・メイジャーが、恐る恐るといった感じで声のした方向へゆっくりと目を向けた。
その視線の先に立っていたのは、ルルーシアだった。
口元が弧を描いているのに、目が全く笑っていない。
冷んやりとした空気を纏っている彼女には、有無を言わさぬ迫力があった。
「ちょっと一緒に来て。話があるのよ。
今!直ぐ!!!」
「・・・・・・・・・は、い・・・」
顔を青くしたダリル・メイジャーはコクコクと頷いた。
「ローレンス様、お話中に突然割り込んでしまって申し訳ありません。
ですが、急を要する用件ですので、何卒ご容赦くださいませ」
「・・・ああ、構わない」
「では、失礼致します」
ルルーシアは、俺に作り笑顔で挨拶をすると、ダリルの腕をむんずと掴んで、大股で去って行く。
連れ去られながら、ダリルが俺に向かって困った様な表情でペコリと頭を下げた。
あんな風に強い感情を露わにした彼女を初めて見た。
やはり、長い付き合いの親戚同士だから、気心が知れているのだろう。
彼は俺の知らない彼女の素顔を、沢山知っているのかもしれない。
彼女がなんの躊躇もなく、無造作に彼の腕を掴んだ光景を思い出すと、胸が騒めいて妙に落ち着かない気持ちになった。
翌朝、なんとなく早い時間に目が覚めてしまった俺は、いつもより少し早く登校した。
まだ生徒が少ない教室の窓際の席に座り、校門を見下ろしていると、別々の馬車から降りて来たルルーシアとダリルが偶然合流する場面を目にした。
二人は挨拶を交わすと、自然に並んで話しながら校舎に向かって歩き出す。
ルルーシアが手招きすると、ダリルが身を屈めた。
彼の耳元に彼女が何かを囁いて、顔を見合わせて笑い合っている。
妙に距離感が近い。
昨日は険悪な様子だったが、無事に仲直りをした様だ。
(あの二人、仲が良いよな・・・)
今更ながら、〝何故俺だったのか〟と言う疑問が頭をよぎる。
恋を知りたいと言うのなら、相手はあの男に頼めば良かったんじゃ無いだろうか?
従兄弟だから家族の様にしか思えなくて、恋愛対象として見るのが難しいと思ったのかも知れないが・・・。
少なくとも、あの男は彼女を愛している様に俺には見えた。
俺を見る目に、嫉妬心から来る敵意の様な物をヒシヒシと感じるのだ。
そうだとしたら、きっと恋人になったら宝物の様に大切にして貰えただろう。
それこそ、手取り足取り丁寧に、恋を教えてくれたはず・・・・・・。
あの男が彼女を抱き締めている所を想像する。
甘く熱っぽい視線を交わし、あの白い頬に触れて、いつの間にか顔が近付き、唇が───。
気が付いたら、脳裏に浮かんだ光景をかき消す様に、強くかぶりを振っていた。
「おおっっ!?急にどうした!?」
隣の席の学友が驚いて声を掛けてくる。
「・・・いや、なんでもない」
胸の中に、吐き気にも似た強烈な不快感が渦巻いていた。
何だコレ。
気持ち悪い。
堪らなく苛々する。
これじゃあ、まるで、
───恋でもしてるみたいじゃないか。
「ローレンス・エイムズ様ですね」
学園の休み時間。
実習室から教室に戻っている所を不意に呼び止められた。
振り返った先に居たのは、見覚えのある騎士科の制服の男だった。
「そうだけど」
「先日お会いしましたが、ご挨拶させて頂くのは初めてですね。
ルルーシアの従兄弟で、ダリル・メイジャーと申します。
ルルの事でお話ししたい事があります。
少しだけお時間頂けますでしょうか?」
「で?話って何?」
そのまま校舎裏に連れて行かれたのだが、なかなか口火を切らない彼に焦れて、俺の方から用件を問いただす。
「ルルと付き合っていると言うのは、本当ですか?」
「ああ」
「・・・・・・」
俺の答えに、彼は感情を押し殺す様にギュッと目を閉じて長く息を吐く。
そして躊躇う素振りを見せながら、徐に口を開いた。
「・・・ルルの事をどう思っているのですか?」
「どう、とは?」
「愛して・・・いますか?」
「・・・・・・」
直球過ぎる質問に、どう答えるべきなのか迷った。
どんな答えを返しても、間違っている様な気がしたから。
「貴方が今迄付き合って来たのは、遊び慣れた女性達なのかもしれませんが、彼女は違います。
数々の浮名を流して来た貴方が、気軽に手を出して良いタイプじゃない。
このままでは彼女も深く傷付くし、貴方にとっても面倒な事になるでしょう。
貴方は責任を取る覚悟がありますか?」
「確かにルルーシアとは付き合っているが、俺達の関係は、君が思っている様な物ではない」
彼の瞳は驚く程に真剣だった。
だから、俺も真面目に答えなければ。
ルルーシアとの約束で、契約の全容を明かす事は出来ないが、話せる範囲で真実を伝えようと思った。
「・・・俺が思っている関係じゃない?
・・・・・・どう言う意味ですか?」
「それは、ルルーシアに聞いて・・・」
「ダリル!!!」
視覚の外から突然鋭い声が響く。
ビクッと肩を揺らしたダリル・メイジャーが、恐る恐るといった感じで声のした方向へゆっくりと目を向けた。
その視線の先に立っていたのは、ルルーシアだった。
口元が弧を描いているのに、目が全く笑っていない。
冷んやりとした空気を纏っている彼女には、有無を言わさぬ迫力があった。
「ちょっと一緒に来て。話があるのよ。
今!直ぐ!!!」
「・・・・・・・・・は、い・・・」
顔を青くしたダリル・メイジャーはコクコクと頷いた。
「ローレンス様、お話中に突然割り込んでしまって申し訳ありません。
ですが、急を要する用件ですので、何卒ご容赦くださいませ」
「・・・ああ、構わない」
「では、失礼致します」
ルルーシアは、俺に作り笑顔で挨拶をすると、ダリルの腕をむんずと掴んで、大股で去って行く。
連れ去られながら、ダリルが俺に向かって困った様な表情でペコリと頭を下げた。
あんな風に強い感情を露わにした彼女を初めて見た。
やはり、長い付き合いの親戚同士だから、気心が知れているのだろう。
彼は俺の知らない彼女の素顔を、沢山知っているのかもしれない。
彼女がなんの躊躇もなく、無造作に彼の腕を掴んだ光景を思い出すと、胸が騒めいて妙に落ち着かない気持ちになった。
翌朝、なんとなく早い時間に目が覚めてしまった俺は、いつもより少し早く登校した。
まだ生徒が少ない教室の窓際の席に座り、校門を見下ろしていると、別々の馬車から降りて来たルルーシアとダリルが偶然合流する場面を目にした。
二人は挨拶を交わすと、自然に並んで話しながら校舎に向かって歩き出す。
ルルーシアが手招きすると、ダリルが身を屈めた。
彼の耳元に彼女が何かを囁いて、顔を見合わせて笑い合っている。
妙に距離感が近い。
昨日は険悪な様子だったが、無事に仲直りをした様だ。
(あの二人、仲が良いよな・・・)
今更ながら、〝何故俺だったのか〟と言う疑問が頭をよぎる。
恋を知りたいと言うのなら、相手はあの男に頼めば良かったんじゃ無いだろうか?
従兄弟だから家族の様にしか思えなくて、恋愛対象として見るのが難しいと思ったのかも知れないが・・・。
少なくとも、あの男は彼女を愛している様に俺には見えた。
俺を見る目に、嫉妬心から来る敵意の様な物をヒシヒシと感じるのだ。
そうだとしたら、きっと恋人になったら宝物の様に大切にして貰えただろう。
それこそ、手取り足取り丁寧に、恋を教えてくれたはず・・・・・・。
あの男が彼女を抱き締めている所を想像する。
甘く熱っぽい視線を交わし、あの白い頬に触れて、いつの間にか顔が近付き、唇が───。
気が付いたら、脳裏に浮かんだ光景をかき消す様に、強くかぶりを振っていた。
「おおっっ!?急にどうした!?」
隣の席の学友が驚いて声を掛けてくる。
「・・・いや、なんでもない」
胸の中に、吐き気にも似た強烈な不快感が渦巻いていた。
何だコレ。
気持ち悪い。
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これじゃあ、まるで、
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