7 / 13
7 久し振りの交流
しおりを挟む
学院には休まず行っているのだから、流石に体調不良という言い訳は通用しなくなって来た。
王子妃教育は再開されたが、その後のお茶会の回数は減らして貰っている。
気は進まないが、今日はそのお茶会がある日だ。
当初のショックは少し和らいできた気がするが、まだ、ふとした瞬間に胸が痛む。
出来れば、殿下とはもう少し距離を置きたいのだが、婚約者という立場上、それはなかなか難しい。
第二王子宮の庭園には、季節を問わず、青紫色の花が多く咲いている。
藤、菫、サルビア、ラベンダー、あやめ、アネモネ、他にも様々な花が時期をずらして順番に咲き乱れる。
「アルベルト殿下がご自分で選んで、植えさせたのですよ。
リリアナ様の瞳のお色を、いつも見ていたいからって」
王子付きの侍女が、いつか嬉しそうに話してくれた。
その時は、幸せだなって思ったのだけど・・・。
今となっては、その庭園でお茶をするのも、少々苦痛だ。
「リリ。久し振りに二人きりで会えて嬉しいよ」
アルベルト殿下は相変わらず、多分に熱を帯びた視線を私に向ける。
「光栄です」
俯きがちに答えたのは、笑顔が引き攣っていないか自信が無いから。
最近の私の態度に、殿下はいつも寂しそうな、悲しそうな表情をする。
もう愛している振りは必要ないのだと、言ってあげられたら、お互いに楽なのかもしれない。
しかし、それを伝えることによって、私達の関係がどう変わってしまうのかが怖くもある。
この婚約は王家からの打診だ。
ロイエンタール公爵家から解消を申し出る事も、不可能ではないかもしれないが、きっと家族の立場は悪くなるだろう。
婚約の解消を諦めるならば、これ以上関係を拗らせるのは避けたい。
そもそも、殿下のやり方が間違っている訳でもないという事は、私だって分かってる。
例え政略結婚であっても、ギスギスした夫婦になるよりは、偽りであっても仲睦まじい方がいい。
そのうち、本物の愛情が育つ事もあるかもしれないし、今回の立ち聞きさえ無ければ、私は騙されたまま幸せに暮らせたのだ。
そう、騙し続けてくれていれば。
ため息を殺して、香り立つティーカップに口を付ける。
「来週は新入生歓迎パーティーがあるだろう?
リリにドレスを用意したから、是非着て欲しい。
勿論エスコートもさせて貰うよ」
ーーー出来る事なら、全力でお断りしたい。
「でも、アルベルト殿下はミランダ王女殿下のエスコートをなさるお役目があるのでは?
ご無理なさらないで下さい」
「何故?僕の婚約者はリリだ。
王女のエスコートは校長に頼んである。
ただ、ファーストダンスだけは、王女と踊れと陛下に命令されているんだ。
ごめんね」
普通の夜会では、王と王妃が一番に、その次に他の王族やその婚約者がダンスを踊る。
学院でのパーティーは、社交の練習の場でもあるので、普通の夜会と同じようなルールが用いられる事が多い。
勿論陛下は出席しないので、一番に踊るのはライナルト殿下とアルベルト殿下、賓客であるミランダ王女、そしてそのパートナーだ。
王女様をエスコートする校長先生は、確か少し足が悪い。
歩くのは不自由無いが、ダンスは踊れないだろう。
誰かがダンスだけパートナー代理を務めねばならないが、身分が釣り合う者は少ない。
で、あれば、婚約者よりも、他国の王族である王女様への接待を優先させるのは当然か・・・。
「美男美女ですから、お二人のダンスはきっと、絵になるでしょうね。
楽しみです」
荒れる内心を隠して微笑めば、殿下が少し不快そうな表情になった。
「そうかな?
王女よりリリの方が、遥かに美しいし、僕はリリと踊りたい。
我儘王女に振り回されてばかりで、いい加減ウンザリだよ」
後半の、吐き捨てるような言い方に『愛してない』と言われた時の記憶が蘇り、自分に向けられた言葉でも無いのに、胸がザワザワする。
宣言通り、殿下からドレスと宝飾品が届いた。
殿下の瞳の色と同じ、深いグリーンのドレス。
柔らかい顔立ちの私は、濃い色のドレスがあまり似合わない。
しかし、このドレスは、上半身に金糸と銀糸を混ぜた刺繍がふんだんに施されていて、顔周りの色味を抑えてある。
殿下の髪はプラチナブロンドだから、刺繍は髪色をイメージしているのかもしれない。
宝飾品には、翡翠が使われていた。
「流石はアルベルト殿下ですね。
お嬢様の事を良くご存知だわ。
とってもお綺麗ですよ」
試着を手伝ってくれた侍女が、目をキラキラ輝かせて、嬉しそうに褒めてくれる。
「・・・・・・そうね。ありがとう」
鏡の中を見れば、確かにそのドレスは私によく似合っていた。
愛されてもいないのに、婚約者の色を纏う事には抵抗を感じるのだが、プレゼントされてしまった物を、着ない訳にもいかないだろう。
気が重いなぁ。
パーティー、休んじゃダメかしら?
王子妃教育は再開されたが、その後のお茶会の回数は減らして貰っている。
気は進まないが、今日はそのお茶会がある日だ。
当初のショックは少し和らいできた気がするが、まだ、ふとした瞬間に胸が痛む。
出来れば、殿下とはもう少し距離を置きたいのだが、婚約者という立場上、それはなかなか難しい。
第二王子宮の庭園には、季節を問わず、青紫色の花が多く咲いている。
藤、菫、サルビア、ラベンダー、あやめ、アネモネ、他にも様々な花が時期をずらして順番に咲き乱れる。
「アルベルト殿下がご自分で選んで、植えさせたのですよ。
リリアナ様の瞳のお色を、いつも見ていたいからって」
王子付きの侍女が、いつか嬉しそうに話してくれた。
その時は、幸せだなって思ったのだけど・・・。
今となっては、その庭園でお茶をするのも、少々苦痛だ。
「リリ。久し振りに二人きりで会えて嬉しいよ」
アルベルト殿下は相変わらず、多分に熱を帯びた視線を私に向ける。
「光栄です」
俯きがちに答えたのは、笑顔が引き攣っていないか自信が無いから。
最近の私の態度に、殿下はいつも寂しそうな、悲しそうな表情をする。
もう愛している振りは必要ないのだと、言ってあげられたら、お互いに楽なのかもしれない。
しかし、それを伝えることによって、私達の関係がどう変わってしまうのかが怖くもある。
この婚約は王家からの打診だ。
ロイエンタール公爵家から解消を申し出る事も、不可能ではないかもしれないが、きっと家族の立場は悪くなるだろう。
婚約の解消を諦めるならば、これ以上関係を拗らせるのは避けたい。
そもそも、殿下のやり方が間違っている訳でもないという事は、私だって分かってる。
例え政略結婚であっても、ギスギスした夫婦になるよりは、偽りであっても仲睦まじい方がいい。
そのうち、本物の愛情が育つ事もあるかもしれないし、今回の立ち聞きさえ無ければ、私は騙されたまま幸せに暮らせたのだ。
そう、騙し続けてくれていれば。
ため息を殺して、香り立つティーカップに口を付ける。
「来週は新入生歓迎パーティーがあるだろう?
リリにドレスを用意したから、是非着て欲しい。
勿論エスコートもさせて貰うよ」
ーーー出来る事なら、全力でお断りしたい。
「でも、アルベルト殿下はミランダ王女殿下のエスコートをなさるお役目があるのでは?
ご無理なさらないで下さい」
「何故?僕の婚約者はリリだ。
王女のエスコートは校長に頼んである。
ただ、ファーストダンスだけは、王女と踊れと陛下に命令されているんだ。
ごめんね」
普通の夜会では、王と王妃が一番に、その次に他の王族やその婚約者がダンスを踊る。
学院でのパーティーは、社交の練習の場でもあるので、普通の夜会と同じようなルールが用いられる事が多い。
勿論陛下は出席しないので、一番に踊るのはライナルト殿下とアルベルト殿下、賓客であるミランダ王女、そしてそのパートナーだ。
王女様をエスコートする校長先生は、確か少し足が悪い。
歩くのは不自由無いが、ダンスは踊れないだろう。
誰かがダンスだけパートナー代理を務めねばならないが、身分が釣り合う者は少ない。
で、あれば、婚約者よりも、他国の王族である王女様への接待を優先させるのは当然か・・・。
「美男美女ですから、お二人のダンスはきっと、絵になるでしょうね。
楽しみです」
荒れる内心を隠して微笑めば、殿下が少し不快そうな表情になった。
「そうかな?
王女よりリリの方が、遥かに美しいし、僕はリリと踊りたい。
我儘王女に振り回されてばかりで、いい加減ウンザリだよ」
後半の、吐き捨てるような言い方に『愛してない』と言われた時の記憶が蘇り、自分に向けられた言葉でも無いのに、胸がザワザワする。
宣言通り、殿下からドレスと宝飾品が届いた。
殿下の瞳の色と同じ、深いグリーンのドレス。
柔らかい顔立ちの私は、濃い色のドレスがあまり似合わない。
しかし、このドレスは、上半身に金糸と銀糸を混ぜた刺繍がふんだんに施されていて、顔周りの色味を抑えてある。
殿下の髪はプラチナブロンドだから、刺繍は髪色をイメージしているのかもしれない。
宝飾品には、翡翠が使われていた。
「流石はアルベルト殿下ですね。
お嬢様の事を良くご存知だわ。
とってもお綺麗ですよ」
試着を手伝ってくれた侍女が、目をキラキラ輝かせて、嬉しそうに褒めてくれる。
「・・・・・・そうね。ありがとう」
鏡の中を見れば、確かにそのドレスは私によく似合っていた。
愛されてもいないのに、婚約者の色を纏う事には抵抗を感じるのだが、プレゼントされてしまった物を、着ない訳にもいかないだろう。
気が重いなぁ。
パーティー、休んじゃダメかしら?
1,074
あなたにおすすめの小説
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです
山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。
それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。
私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる