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8 歓迎パーティー
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私がどんなに嫌がろうとも、時間は勝手に進んでしまう物で。
すぐに新入生歓迎パーティーの当日はやってきた。
数日前から侍女達に磨き上げられた私は、殿下に頂いたドレスに身を包み、殿下のエスコートで会場入りした。
「エスコートと呼ぶには、少し距離が近いのでは?」
会場に入り、立ち止まった途端にグッと腰を引き寄せられて、思わず小さく抗議の声を上げる。
「美しく着飾ったリリを、他の男に取られないように、しっかり牽制しておかないとね」
「王子殿下から婚約者を奪える者などいないでしょう。
殿下がそう望まない限りは」
「確かに婚約者の座を奪える者は、ほぼ居ないだろうね。
でも、僕が欲しいのは君の心だ。
君の心が他の誰かの物になるのを、常に恐れている」
そう言った彼の瞳は、いつもよりほんの少しだけ翳って見えた。
彼の言葉をどう捉えたら良いのか分からない。
愛があるフリなのか、それとも愛してなくても、婚約者の心が他に向くのは許せないのか。
どちらにしても、身勝手過ぎると言いたい。
「あぁ、離れたく無いけど、そろそろ行かなくては。
直ぐに戻るから、良い子にしていて」
そう言うと、殿下はいつもの様に私の頬に素早くキスをして、王女様の元へ向かった。
ミランダ王女の本日の装いは、全身グリーンである。
明らかにアルベルト殿下の瞳の色に合わせた装い。
実に分かり易いアピール。
私と違って大人びた顔立ちの王女には、濃い色のドレスが良く似合っていて、私と目が合うと勝ち誇った様に笑みを浮かべる。
嫌な感じ。
『我儘王女に振り回されている』
以前、彼はそう言っていたけれど、二人が手を取り合って踊る姿は、まるで一枚の絵画のように美しい。
周りで見ている生徒達からも「ほぅっ」と、ため息が溢れた。
踊りながら、時折視線を交わす様子は、疑心暗鬼になっている私の胸を抉るには充分だった。
眉間に皺が寄りそうになるのを必死で抑えていると、目の前に果実水のグラスが差し出された。
「どうぞ。お姫様」
「フェリクス兄様。
ありがとう。丁度、喉が渇いていた所なの」
「ちょっと顔色悪いみたいだけど、大丈夫か?」
「気の所為じゃないですか?
私は至って元気です。
まったく、相変わらず過保護なんだから」
クスクス笑って見せると、兄様も安心した様に笑った。
実際、フェリクス兄様が来てくれたから、少し心が落ち着いた。
絶対に自分の味方でいてくれると信じられる人がいる事は、とてもありがたい。
受け取ったグラスに口を付けながら、再びダンスに視線を向けると、アルベルト殿下と目が合った気がした。
「ははっ・・・。凄い睨んでる」
「何の話です?」
「なんでもないよ」
首を傾げた私の肩に、フェリクス兄様がポンと手を乗せた。
「リリアナ」
いつの間にか、一曲目のダンスを終えた殿下が戻って来て、フェリクス兄様を押し除けるように、私と向かい合った。
「踊って頂けますか?」
「喜んで」
ーーー嫌だけど。
婚約者とダンスを踊らないという選択肢は無いのだから、仕方がない。
慣れた手付きでエスコートされて、ホールの中央に進み出る。
演奏が始まり、彼のリードに合わせて、滑らかにステップを踏んだ。
「さっきは、フェリクス殿と何を話してたの?」
話しかけられて顔を上げると、細められた翡翠の瞳がこちらを見ていた。
「特別な事は、何も・・・」
「・・・・・・そう」
この日、殿下はパーティーが終わるまで、私の側から片時も離れなかった。
すぐに新入生歓迎パーティーの当日はやってきた。
数日前から侍女達に磨き上げられた私は、殿下に頂いたドレスに身を包み、殿下のエスコートで会場入りした。
「エスコートと呼ぶには、少し距離が近いのでは?」
会場に入り、立ち止まった途端にグッと腰を引き寄せられて、思わず小さく抗議の声を上げる。
「美しく着飾ったリリを、他の男に取られないように、しっかり牽制しておかないとね」
「王子殿下から婚約者を奪える者などいないでしょう。
殿下がそう望まない限りは」
「確かに婚約者の座を奪える者は、ほぼ居ないだろうね。
でも、僕が欲しいのは君の心だ。
君の心が他の誰かの物になるのを、常に恐れている」
そう言った彼の瞳は、いつもよりほんの少しだけ翳って見えた。
彼の言葉をどう捉えたら良いのか分からない。
愛があるフリなのか、それとも愛してなくても、婚約者の心が他に向くのは許せないのか。
どちらにしても、身勝手過ぎると言いたい。
「あぁ、離れたく無いけど、そろそろ行かなくては。
直ぐに戻るから、良い子にしていて」
そう言うと、殿下はいつもの様に私の頬に素早くキスをして、王女様の元へ向かった。
ミランダ王女の本日の装いは、全身グリーンである。
明らかにアルベルト殿下の瞳の色に合わせた装い。
実に分かり易いアピール。
私と違って大人びた顔立ちの王女には、濃い色のドレスが良く似合っていて、私と目が合うと勝ち誇った様に笑みを浮かべる。
嫌な感じ。
『我儘王女に振り回されている』
以前、彼はそう言っていたけれど、二人が手を取り合って踊る姿は、まるで一枚の絵画のように美しい。
周りで見ている生徒達からも「ほぅっ」と、ため息が溢れた。
踊りながら、時折視線を交わす様子は、疑心暗鬼になっている私の胸を抉るには充分だった。
眉間に皺が寄りそうになるのを必死で抑えていると、目の前に果実水のグラスが差し出された。
「どうぞ。お姫様」
「フェリクス兄様。
ありがとう。丁度、喉が渇いていた所なの」
「ちょっと顔色悪いみたいだけど、大丈夫か?」
「気の所為じゃないですか?
私は至って元気です。
まったく、相変わらず過保護なんだから」
クスクス笑って見せると、兄様も安心した様に笑った。
実際、フェリクス兄様が来てくれたから、少し心が落ち着いた。
絶対に自分の味方でいてくれると信じられる人がいる事は、とてもありがたい。
受け取ったグラスに口を付けながら、再びダンスに視線を向けると、アルベルト殿下と目が合った気がした。
「ははっ・・・。凄い睨んでる」
「何の話です?」
「なんでもないよ」
首を傾げた私の肩に、フェリクス兄様がポンと手を乗せた。
「リリアナ」
いつの間にか、一曲目のダンスを終えた殿下が戻って来て、フェリクス兄様を押し除けるように、私と向かい合った。
「踊って頂けますか?」
「喜んで」
ーーー嫌だけど。
婚約者とダンスを踊らないという選択肢は無いのだから、仕方がない。
慣れた手付きでエスコートされて、ホールの中央に進み出る。
演奏が始まり、彼のリードに合わせて、滑らかにステップを踏んだ。
「さっきは、フェリクス殿と何を話してたの?」
話しかけられて顔を上げると、細められた翡翠の瞳がこちらを見ていた。
「特別な事は、何も・・・」
「・・・・・・そう」
この日、殿下はパーティーが終わるまで、私の側から片時も離れなかった。
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