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9 刺繍のハンカチ
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「こんな所に呼び出して、何?」
「今日はアルベルト様にお渡ししたい物があって・・・」
委員会の仕事で帰りが遅れてしまった放課後。
人気が少なくなった廊下を歩いていたら、空き教室から微かに険を帯びたアルベルト殿下の声と、媚びるような甘ったるい女性の声がした。
女性の声は、恐らくミランダ王女だ。
何故こうも変なタイミングで、話が聞こえてしまうのか。
また立ち聞きしてしまうなんて、良くないと分かっているのだけれど、どうにも足が動かない。
「アルベルト様のお誕生日がもうすぐだと伺ったので、これを」
「・・・これは、見事な刺繍だね」
嬉しそうに告げる王女だが、アルベルト殿下は少し戸惑った様な雰囲気。
「ええ。わたくしが頑張って刺しましたの。
聞けば、この国では愛する殿方の息災を祈って、誕生日に家紋を刺繍したハンカチを渡す風習があるのだとか」
ああ、本当に嫌な女。
婚約者がいる男性に、堂々とそれを渡すなんて。
「は?知っててこれを用意したの?
そうだよ。我が国では、刺繍のハンカチは愛する者へ贈る物だ。
だから、ミランダ王女からは受け取れない。
こういうプレゼントは迷惑でしか無い」
「何故ですの?
リリアナさんは刺繍が苦手だと噂に聞きました。
きっと、こんなに立派なハンカチは、用意出来ないでしょう?
ですから、わたくしが代わりに・・・」
「リリアナの代わりは要らないよ。
僕はリリアナしか欲しくない。
ハンカチも、例え立派じゃ無かったとしても、リリアナから貰うのでなければ意味が無い」
「そんな・・・わたくしは、ずっと貴方の事を・・・・・・!」
ーーーーーやめて。
もう良いのに。
受け取れば良い。
そんなに望まれているのだから、彼女の手を取れば良いじゃない。
ただ都合の良いだけの相手ならば、ミランダ王女でも構わないハズだ。
他国の王女様ならば、この国の貴族にだって、影響力は絶大だ。
彼女と結婚すれば、きっとアルベルト殿下が王太子になれる。
彼女ならば、既に王族としての教育を受けてきているのだ。
アルベルト殿下が『大事な人にはさせたくない』と言っていた、王子妃教育だって殆ど必要無いじゃないか。
なのに、
何故、私に拘るのか。
何故、手離してくれないのか。
何故?
ーーーアイシテナンカ、イナイクセニ
その場を離れようと、後ろに足を踏み出した時、ギシッと床が軋む音がした。
二人が、同時に私を見る。
「あ・・・」
「ーーーっっリリ!待ってっ!」
気が付いたら、全力で走っていた。
あんなに誠実そうに見えるのに、あれが全部演技なのだと言う事が、とても怖い。
何を信じれば良いのか、もう全然分からなかった。
愛しているフリをされる度に、正反対の言葉を思い出して、塞がりかけた傷が開き、血が流れる。
愛される幸せを忘れてしまえれば、悲しみや寂しさに気付かなくて済むはず。
なのに、どうして思い出させるの?
私は、フェリクス兄様と待ち合わせしていた図書室に駆け込んだ。
「リリ?どうしたの?」
驚いた兄様の顔を見た途端、私の目から涙が溢れた。
ーーーあぁ、やっと泣けた。
「今日はアルベルト様にお渡ししたい物があって・・・」
委員会の仕事で帰りが遅れてしまった放課後。
人気が少なくなった廊下を歩いていたら、空き教室から微かに険を帯びたアルベルト殿下の声と、媚びるような甘ったるい女性の声がした。
女性の声は、恐らくミランダ王女だ。
何故こうも変なタイミングで、話が聞こえてしまうのか。
また立ち聞きしてしまうなんて、良くないと分かっているのだけれど、どうにも足が動かない。
「アルベルト様のお誕生日がもうすぐだと伺ったので、これを」
「・・・これは、見事な刺繍だね」
嬉しそうに告げる王女だが、アルベルト殿下は少し戸惑った様な雰囲気。
「ええ。わたくしが頑張って刺しましたの。
聞けば、この国では愛する殿方の息災を祈って、誕生日に家紋を刺繍したハンカチを渡す風習があるのだとか」
ああ、本当に嫌な女。
婚約者がいる男性に、堂々とそれを渡すなんて。
「は?知っててこれを用意したの?
そうだよ。我が国では、刺繍のハンカチは愛する者へ贈る物だ。
だから、ミランダ王女からは受け取れない。
こういうプレゼントは迷惑でしか無い」
「何故ですの?
リリアナさんは刺繍が苦手だと噂に聞きました。
きっと、こんなに立派なハンカチは、用意出来ないでしょう?
ですから、わたくしが代わりに・・・」
「リリアナの代わりは要らないよ。
僕はリリアナしか欲しくない。
ハンカチも、例え立派じゃ無かったとしても、リリアナから貰うのでなければ意味が無い」
「そんな・・・わたくしは、ずっと貴方の事を・・・・・・!」
ーーーーーやめて。
もう良いのに。
受け取れば良い。
そんなに望まれているのだから、彼女の手を取れば良いじゃない。
ただ都合の良いだけの相手ならば、ミランダ王女でも構わないハズだ。
他国の王女様ならば、この国の貴族にだって、影響力は絶大だ。
彼女と結婚すれば、きっとアルベルト殿下が王太子になれる。
彼女ならば、既に王族としての教育を受けてきているのだ。
アルベルト殿下が『大事な人にはさせたくない』と言っていた、王子妃教育だって殆ど必要無いじゃないか。
なのに、
何故、私に拘るのか。
何故、手離してくれないのか。
何故?
ーーーアイシテナンカ、イナイクセニ
その場を離れようと、後ろに足を踏み出した時、ギシッと床が軋む音がした。
二人が、同時に私を見る。
「あ・・・」
「ーーーっっリリ!待ってっ!」
気が付いたら、全力で走っていた。
あんなに誠実そうに見えるのに、あれが全部演技なのだと言う事が、とても怖い。
何を信じれば良いのか、もう全然分からなかった。
愛しているフリをされる度に、正反対の言葉を思い出して、塞がりかけた傷が開き、血が流れる。
愛される幸せを忘れてしまえれば、悲しみや寂しさに気付かなくて済むはず。
なのに、どうして思い出させるの?
私は、フェリクス兄様と待ち合わせしていた図書室に駆け込んだ。
「リリ?どうしたの?」
驚いた兄様の顔を見た途端、私の目から涙が溢れた。
ーーーあぁ、やっと泣けた。
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