【完結】私の婚約者はもう死んだので

miniko

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10 客観的に見た私達

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約束のデート当日。

東の空が朝焼けに染まる頃に、私達は邸を出発した。
目的地の街が一番賑わうのは午前中だと聞いたからだ。
そこでは毎日、朝市と言うイベントが行われていて、港町ならではの新鮮な魚介類や、輸入小物を扱う店、食べ歩き出来る軽食など、様々な露店が軒を連ねるらしい。

馬車の中でピッタリと寄り添う様に、私の隣に座ったブライアンは、なんだか上機嫌だった。
彼も港町へ行くのを楽しみにしていたのかもしれない。

長い時間馬車を走らせ、その間車窓の景色を楽しんだり、ブライアンとお喋りをしたりしていたのだが、目的地が近付いた頃に急に眠気が襲って来た。
欠伸を噛み殺している私に、彼は心配そうな視線を向ける。

「早起きしたから、眠いんじゃ無いですか?」

ずっと忙しく働いていたブライアンに気を使わせてしまった。
彼の方がずっと疲れているはずなのに。

「ブライアンの方が眠いでしょ?
昨日も仕事で遅かったし。
もうすぐ目的地に着いてしまうけど、少しだけでも寝たら?」

「そうですね・・・。
じゃあ、膝枕して下さい」

「は?」

ちょっと何言ってるか分からないんですけど!?

「嫌ですか?」

「嫌とかじゃ無いけど、」

言った途端に、膝の上にブライアンの頭がポスンと落ちて来た。
彼は、戸惑う私の顔を見上げて、嬉しそうに微笑む。

「あぁ、これは癒されますね」

そうなの?
とても寝辛そうな体勢に見えるけど?
まあ、ブライアンが満足しているのならば、良いのだけど・・・。
銀色の髪をそっと撫でると、彼は気持ち良さそうに目を閉じた。



領地の伯爵邸から馬車で三時間程。
途中休憩を入れたり、ブライアンの枕にされたりしながら、私達は目的地の街へと辿り着いた。
早朝に出発した甲斐あって、九時頃には到着した。
これならノンビリと朝市を見学出来るだろう。


ブライアンのエスコートで馬車を降りると、潮の香りが漂って来る。

この街には、他国から人や物資を運んで来る大型船が着く港があり、少し離れた場所には漁港もある。
異国の言葉が飛び交ったり、見慣れぬ服装の人がいたり、色々な文化が混じり合っていて面白い。
様々な国籍の観光客や港の関係者など、多くの人で賑わう街は、私にとっては非日常の世界だ。


「先ずは朝市を見に行きましょうか」

「そうね」

蕩ける様な笑みを浮かべる夫に手を引かれて、港町の人混みの中を歩く。

(う~ん・・・。
これは、なかなか恥ずかしいわね)

互いの指を絡める様に、しっかりと握られた手。
所謂、恋人繋ぎと言う奴だ。

こんな風に彼と手を繋いで街を歩くのは初めての経験で・・・。

(まるで想い合う恋人同士みたいじゃない?)

そんな風に思ってしまって、ほんのりと頬が熱くなる。

既に結婚しており、勿論、閨も共にしているし、社交の場では仲良し夫婦のアピールの為に、マナー違反にならない程度に親密な触れ合いをしているにも関わらず、なんだか照れてしまう。
思春期に戻ってしまったかの様だ。


だが、道沿いの建物の大きなガラスの扉に写った自分達の姿が目に入ると、ふと冷静になった。

実年齢よりも老けて見られる容姿に加えて四歳も歳上の私と、若さ特有の溌剌とした魅力のあるブライアンが、なんだかアンバランスに見えて・・・。

(客観的に見れば、恋人と言うよりはブラコンの姉って所かしらね・・・)

乾いた笑いが漏れそうになる。
胸の奥に刺さった棘が、チクリと痛んだ。

遠い異国では、『年上の女房は金のわらじを履いてでも探せ』と言う諺があると聞く。
要するに、『年上の女性はしっかり者で気配りが出来るので、妻にするのに適しており、苦労してでも探し回れ』と言う意味なのだそうだ。

(この国にもそんな考え方があれば良かったのになぁ)

残念ながら、『妻にするなら、出来るだけ若い方が良い』と考える男性が大半なのだ。
特に、血統を重視し、次代を残す義務を負う貴族においては、その傾向が顕著である。

「アイリス?」

名を呼ばれて自己嫌悪の渦から抜け出すと、気遣わしげなエメラルドの瞳が私に向けられていた。
考え込んでいる内に、いつの間にか足が止まっていたらしい。

「ごめんなさい、なんでもないの。
さあ、行きましょう」

気を取り直して、今度は私がブライアンの手を引いて歩き出した。

たまにしか取れないお休みに、せっかくデートに連れて来てくれたのだ。
落ち込んでいる場合じゃ無い。
思いっきり楽しまなければ、ブライアンに申し訳ないわよね。
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