【完結】どうか私を思い出さないで

miniko

文字の大きさ
21 / 23

21 やっぱり真っ暗森

しおりを挟む
 マクダウェル侯爵が罪を犯した事で、侯爵家は子爵家に降爵となっていた。
 その上、元侯爵の子息がその爵位を継ぐ事は許されず、遠縁の子息が新たにマクダウェル子爵の名を賜った。
 市井へと放たれた元夫人は平民の生活に耐えられず心を壊してしまい、私達を逆恨みして凶行に及んだようだ。

 元マクダウェル侯爵の関係者の中には、私達を恨んでいる者がまだいるかも知れない。
 しかし、アルドリッジ公爵の手配でエルウッド子爵邸の周辺の警邏を強化して貰えた。

 私一人の時も防御の魔術が有効である事が分かったし、アルバートも騎士として優秀なので自衛は出来るはずだから、今の所、それ程心配していない。


 また、領地経営も順調で収益が増えて来ているし、アルバートは騎士として昇進の話も出ている。
 家族が増える迄には収入も増えそうだし、その頃には常駐の使用人や警備の騎士を雇おうと話し合った。






 結論から言えば、その後私達が襲撃される事件は起きなかった。

 そして、穏やかに時が過ぎていき───。





 小さな家の玄関の扉を開けて中に入ろうとした黒いローブの女性が、家の中に居た私と娘を視界に映してギョッとした様に立ち尽くした。

「あら、お帰りなさい。何処に行ってたの?」

「…ちょっと薬草畑の手入れをしに……って、そんな事はどうでも良いんだよっ!
 何、勝手に私の家に入ってるんだい!?
 こういうのを不法侵入って言うんだろうがっっ! 犯罪だぞ」

「マジョさま、まっくら森にもホウリツがテキヨウされるのですか?」

 まだ幼い私の娘が、キョトンとした顔で魔女さんに疑問を呈する。

「ガキのくせに痛い所を突いてくるんじゃないよっ!」

 小さな子供に言い負かされてムキになってる魔女さんが可笑しくて、フフッと笑うと、彼女は諦めた様にガックリと肩を落として溜息をついた。

「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着いて」

 紅茶が入ったマグカップを魔女さんに差し出す。

「勝手にお茶まで……自由過ぎる……。
 アンタ、子供産んでから益々図々しくなったんじゃないかい」

「勝手知ったる他人の家ね」

「真っ暗森の高貴な魔女のイメージが……」

 確かに巷の噂では、『真っ暗森に住んでいるのは、人嫌いの高貴な魔女だ』なんて言われているけど、その実態がコレとはね…。

「かあさま、コウキって何ですか?」

 知らない言葉に首を傾げる娘。
 幼い彼女に『高貴』の意味を理解させるのは、まだ難しいだろう。

「う~ん、取り敢えず、魔女さんみたいじゃ無い人のことかな?」

「はぁ……。本当に嫌味な親娘だよ。
 アンタが淹れたお茶が美味いのがまた腹立たしい!
 大体にして、普通の人間は、こんなに頻繁に真っ暗森に入ったりはしないんだ。
 もう来るなって、何度言ったら分かるんだい」

 私が淹れたお茶を飲みながら、魔女さんは呆れた様に呟いた。

「だって、森の入り口まで行くと、黒ウサギさんが出迎えてくれるのだもの。
 だから、来ても良いのかと思って」

「お前のせいだったのか。
 くたばれ、くそウサギ!」

 魔女さんにギロリと睨まれた黒ウサギは、慌てた様子で私の娘の背後に隠れた。

「マジョさま、ウサギさんをいじめちゃダメよっ」

「ぐっ……」

「大丈夫よ。
 魔女さんとウサギさんは本当はとっても仲良しなんだから」

「ほんとうに?」

「ええ、本当よ」

 娘は訝しげな顔で私と魔女さんを交互に見た。

 子供が生まれてからも私は度々真っ暗森を訪れる。
 ここに来ると、実家に帰って来たみたいな気持ちになって落ち着くのだ。
 魔女さんには迷惑がられているけれど。
 でも、彼女は意外と子供に優しい。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された

夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。 それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。 ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。 設定ゆるゆる全3話のショートです。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

塩対応の婚約者に婚約解消を提案したらおかしなことになりました

宵闇 月
恋愛
侯爵令嬢のリリアナは塩対応ばかりの婚約者に限界がきて婚約解消を提案。 すると婚約者の様子がおかしくなって… ※ 四話完結 ※ ゆるゆる設定です。

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

私の婚約者様には恋人がいるようです?

鳴哉
恋愛
自称潔い性格の子爵令嬢 と 勧められて彼女と婚約した伯爵    の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日一話、予約投稿します。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

処理中です...