婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき

文字の大きさ
21 / 44

第二十一話 実践あるのみ

しおりを挟む
 バーランド家にお世話になるようになってから、一週間の時が過ぎた。あの日から大きな問題は起こらず、なんとかこの家でやっていけている。

 あれからちょっとだけ変わったことがある。それは、自分が使っている部屋の掃除をしていることだ。

 普段から整理整頓をし、拭き掃除や掃き掃除をしておけば、ここの部屋の掃除に来る人の仕事が減らせるという寸法だ。

 これですらも、最初はミスをしてしまっていたが、何度かやるうちにミスは無くなっていた。

「…………」

 掃除も終わった後、読んでいた本の半分ぐらいを読み終えた私は、一度本を閉じて体を大きく伸ばした。

 今読んでいるのは、若い子の間で流行している、胸キュン仕草というものを集めた雑誌だ。

 色々な胸キュンがあったけど、読んでるだけだとイマイチわからない。こういう時に実践が出来る人がいれば……。

「実践っていってもな~……ラルフしかそんなのお願いする人がいないし……」
「お呼びですか?」
「うん、呼んだよ……えっ? ラルフ?」
「はい。ラルフでございます」
「ひにゃああ!?」

 隣にラルフがいるのに気が付かなかった私は、驚きすぎて飛び上がってしまい、本棚に勢いよくぶつかった。その勢いで本が何冊か落ちて来て……不幸にも、私の頭に直撃した。

「ふぎゃ!」
「し、シエル様!? お怪我は!」
「ひ、ヒヨコが目の前に……ピヨピヨ……ピヨピヨ……じゅるり……きゅう……」

 変な声を漏らしながら、私はそのまま意識を手放した――


 ****


 頭の痛みを感じながら目を覚ましたら、自分のベッドの上だった。どうやらラルフが運んでくれたようだ。

「シエル様、お目覚めになられたのですね」
「うん。心配かけてごめんね」

 まだ少しだけボーっとしているけど、ちゃんと返事を返したからか、ラルフはホッと胸を撫でおろしていた。

 ……あれ、なんでラルフの顔が、私の前にあるんだろう?  私はベッドに寝ているんだから、横から覗き込むような形になるよね?

「痛む所はございませんか?」
「大丈夫だよ。ところでラルフ、あなたは何をしているの?」
「シエル様の介抱をしつつ、以前本で読んだ膝枕というものを実践しております」

 ラルフはわかりやすく答えると、私の頭を優しく撫でた。

 なんかラルフの頭の位置が変だと思ったら、膝枕をされているからだったんだ! それにこの暖かくて、柔らかいような硬いような不思議な感触は、ラルフの膝ってこと!?

 確かに私が読んだ本にも、こういった描写はあった。読んでる時は、これの何が良いのかよくわからなかったけど、いざ実践すると想像以上にドキドキするんだけど!

「どうですか? なにか掴めそうですか?」
「ど、ドキドキして、よくわからない……とにかく、看病してくれてありがとうね!」
「頭を打ったのですから、まだ起きない方がよろしいかと」
「わわっ」

 このままだと恥ずかしいから、起きて離れようと思ったけど、ラルフに軽く押さえつけられて立てなかった。

 これ、私のことを心配しつつも、合法的に私に触れるための口実だと思うのは、気のせいかな? いや、ラルフの最近の直球な言動を見ていると、気のせいじゃない気がする。

「そういえば、ラルフはいつここに来たの?」
「シエル様がお気づきになる三十分程前です」
「えっ……? わ、私……そんなに長い間、ラルフに気づがないで読書してたの……?」
「はい。なので、お邪魔にならないようにしておりました」

 うわあぁぁぁ!? 私のバカバカ!! 普通なら近くに人がいたら気づくよね! それ以前に、ラルフがノックもせずに入ってくるわけがないんだから、その音でも気づくよね!?

「私のことはお気になさらず。シエル様が読書を始めたら夢中になってしまうのは、わかっておりましたから」
「その時から改善がない時点で、相当なバカなんだよ~! バカな私を叱って~!」
「シエル様、落ち付いてください」

 あまりにも酷い自分のバカっぷりに直面してしまい、ボロボロと涙を流していると、ラルフは私の涙を指で拭ってくれた。

「どんなことでも、夢中になれるというのはとても素晴らしい才能です。だから、己を貶すようなお言葉は控えてください」
「でも、ラルフにこうやって迷惑をかけちゃってるよ?」
「迷惑なんて思っておりません。むしろ私は、夢中でなにかをしているあなたが、大好きなのです」

 うっ……いきなりそんなことを言うなんて、すっごくズルいよ。嬉しさと恥ずかしさで、顔が熱くなっちゃう……。

「ラルフは本当に優しいね。そうだ、ラルフに気づかなかったお詫びに、なにかさせてほしいな」
「そのお気持ちだけで十分でございますよ」
「そういうわけにはいかないよ!」
「……では、お詫びというわけではございませんが……一つ提案がございます」

 ラルフは、私の頭をゆっくりとベッドに降ろしてから、机の上に置かれた本を手に取った。

「それ、さっき私が読んでた本だね」
「はい。この本に記載されていることを、実際にやってみませんか?」
「その本の? 随分唐突だね」
「シエル様が、これをやれるのは私だけと仰っていたのを覚えておりましたから。それと、実は私も少々興味がございます」

 なるほど、これなら私の恋心を学ぶ勉強にもなるし、ラルフの興味も満たすことが出来る。まさに互いに得がある提案だ。

「そうと決まれば、早速やってみよう! とりあえず、適当に開いたページに書いてあるのから試してみない?」
「運試しのようで、面白そうですね。それでやってみましょう」
「それじゃあ……このページだ!」

 まだ読んでいない後半の部分を開いて、そこに書いてあった胸キュン仕草を確認する。

 そこに書いてあったのは……カバドンというものだった。

「カバドン? なんか凄く強そうな名前だね。新種のカバかなにか?」
「よくご覧ください。カベドンでございます」
「あ、本当だ! って……カベドン? 壁を叩くの??」
「そのような物騒なものではないかと」
「ラルフは知ってる?」
「いえ。少なくとも、私が読んだ本には、このようなものは登場しておりません」
「私も!」

 一応胸キュンをまとめた本だから、壁を叩くなんてことは書いてないのはわかっているけど……この文字だけだと、そうにしか見えない。

「試しに二人で壁を叩いてみる?」
「それはやめておきましょう。まずは、どういったものか確認をするのが先決です」
「それもそうだね」

 二人で寄り添いながら雑誌を読み進めると、そこにはカベドンのやり方が書いてあった。

 なになに、女の子が壁側に行って、男のが片手を壁について……? えっと、これの何が胸キュンなんだろう?

「実践してみましょうか」
「そうだね」

 試しに書いてある通りに、ラルフに壁ドンをしてもらった。

 確かにかなり近くに来られると少しドキドキするけど、これなら抱きしめられたりとか、膝枕の方が胸キュンって感じだと思うなぁ。

「ふむ、しっくりきませんね。何か見落としがあるのかもしれません」

 ラルフも納得がいっていないのか、再び雑誌に目を通すと、再び私にカベドンをした。

 すると、なんとラルフは私の顎を優しく持ち上げて、じっと私の目を見つめてきた。

「ら、ラルフ……?」
「シエル様は本当に美しい方でございますね」
「え、えぇ……?」
「あなたのことを、心より愛しております」
「ラルフ……!?」

 とても真剣な表情、そして一切逸らさない視線。それは、今ここで私の全てを己の物にしようとするような感じがした。

 これがカベドン……!? さっきまでとは全然ドキドキが違う! 仕草や言葉を加えるだけで、こんなに破壊力が増すものなの!?

「シエル様……」
「っ……! だ、ダメだよ……」

 ゆっくりと、ラルフの顔が近づいてくる。いくらバカな私でも、この後になにをされるかの想像はできた。

 私は告白をされたし、ラルフのことは男性の中で一番信頼をしている。でも、まだ付き合ってすらもいないのに、こんなことはいけないと思う。

 思う、けど……私はカベドンのせいで逃げられない。それに、心のどこかで今の状況を受け入れている自分がいるのも確かで……。

 私は、受け入れるように目を固く閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした

er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

処理中です...