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第三十三話 一流の職人
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「あの、これが外に落ちてたんです」
「外? あー! どうもどうも! 昨日飲み過ぎて、外に置きっぱなしにしちまったみたいだわ! がはは!」
一人でテーブルに向き合っていた、がっしりとした体の男性は、楽しそうに笑っていた。お歳はそれなりに召しているだろうけど、なんだかナディア様のような元気さがある。
「まさか、それだけのために来たんか? おたくら暇だなぁ!」
「実は、私の妻である彼女のドレスを仕立ててくれる職人を探しておりまして。何件も周ったのですが、めぼしいものが見当たらず、帰ろうとしていた時に、偶然通りかかった次第です」
「なるほどな。それならおたくら、かなり運が良いぜ! 俺はユーゴっていう、腕利きの裁縫師だ! んで、おたくらは?」
「私はラルフ・バーランドです。彼女は……」
「シエル・バーランドです!」
まだ結婚していないのに、バーランドの名前を使ってしまったことに少し浮かれながらも、なるべく真剣な表情で、ユーゴ様を見つめる。
「バーランド? なんだい、こんな所に貴族様たぁ、驚いたぜ! 是非俺の作品を見てってくれ!」
「良いんですか?」
「おうよ! 場所はこんなボロ小屋だが、作品には絶対の自信ありだぜ!」
「それは素晴らしい。もしよろしければ、見本を見せてもらえると、大変ありがたいのですが」
「ちょっと待ってな! 少し前のになるけど、見本で作ったやつがあるからよ!」
ユーゴ様は作業場の奥から、素敵な真っ赤なドレスを着たマネキンを持ってきてくれた。
「素晴らしい出来です。生地が素晴らしいのもありますが、その特性を余すことなく扱っている!」
赤いドレスは、フリフリや胸元についた花がとても美しい。胸元が少し出てて、着る人の色気を存分に引き出してくれそうだ。私にはそんな色気は無いけど……。
触った感じも違うのかな? どれどれ……わぁ、さっきまで触らせてもらったドレスと全然違う。なんていうか……なめらかっていうの? とにかく、触り心地がとても良いよ!
「デザインも、派手過ぎず地味過ぎずで丁度良い。まさに完璧だ! 布も手に入りにくくなっているのに、ここまで上質な物を仕入れられるとは!」
「本当に綺麗なドレス……」
私にはドレスの知識なんて無いから、子供みたいな感想しか出てこないのが情けない。一応貴族の令嬢なんだから、こういうものの知識も、もう少しつけるべきだった。
「わかる奴にはわかるってこった! 布は全部、俺の弟が俺のために仕上げた特注さ! あいつの腕は、俺と同じで天下一品でな!」
「大変気に入りました。是非妻のドレスを仕立ててくださいませんか」
「おうおう、俺に任せておきな! なにか要望があるか? あるなら今のうちに言っておけ! 俺がキッチリ応えて作ってやるからよ! それと、後で奥さんの体のサイズを教えてくれ」
「わかりました。では要望をいくつか……」
ラルフはユーゴ様と一緒に、机に置かれた紙を見ながら、何かを話し始めた。一方の私は、ちょっと手持ち無沙汰になったから、邪魔にならないように、端っこにあった椅子に座った。
よかった、せっかく一日使って探し回ったのに、収穫が無しだったら悲しいもんね……いや、ラルフとお店を周るのは楽しかったから、収穫自体はあったんだけどさ。
「ちょっと気になったんですけど、どうしてこんな森の中で仕事してるんですか? もっと町の近い所で開いた方が、お客さんも来るんじゃないですか?」
「お前ぇ……それぇ……聞いちゃうのかぁ……??」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?!?」
紙にペンを走らせていたユーゴ様は、ピタリとその手を止めると、真顔で私を見つめてきた。その顔が、怖いのなんの! 思わず体を強張らせちゃったよ!
「ユーゴ殿、シエル様をいじめないでください」
「がははっ、悪かったよ! 冗談だから本気にすんなって!」
あ、冗談だったんだ……触れちゃいけないところに触れたのかと思って、やらかしたって思っちゃったよ!
「ここは元々、死んだ俺の親父の店でよ。廃棄された古屋を安く買って店を開いたそうだ」
お父様のお店……だから森の中なのに離れずに仕事をしていたんだね。
「俺は親父の技を見て育ったんだ。頑固な野郎でよ、全然教えてくれなかった。だが、見る機会だけは与えられた俺は、技術を見て、盗んで覚えた……っと、話がそれまくったな。俺の話はどうでもいいってな!」
「そんなことないですよ!」
「嬢ちゃんは優しいな。んで、親父が死んだあと、俺が店を継いで、弟は布職人になった。この場所を守り、いつかこの店をビッグにしてやるって約束をしたんだ。まあ現実は甘くなかったけどよ! こんなへんぴな所に、人なんかくるわけないってな!」
亡くなったご家族のために頑張っているだなんて、とても立派だね。だって、口ではいくらでも言えるけど、それを心を折らずに実行し続けるのって、難しいことだと思うもん。
「そんな事情を抱えていたのですね……あ、ここの部分は少しフリルを多くしてください」
「はいよ。ていうか、兄ちゃんよ。さすがに要望が多すぎねーか? いくつかって言ってたよな?」
「愛する妻が着るドレスなので」
ユーゴ様の手元にある紙は、すでにメモでびっしりと埋め尽くされてしまっていた。それも、両面ともだ。
この短時間で、一体どれくらい要望を言ったんだろう……聞くのがちょっと怖い。
「まあこんなべっぴんさんだったら、綺麗なドレスを着せたくなる気持ちも、わからんでもねーわ」
「べ、べっぴんさんだなんてそんな……あっ、このドレスはどれくらいで完成するんですか?」
「今のところ、急ぎの仕事は無いから……一週間もあればいけんな」
「い、一週間!? ドレスってそんなに早く出来るんですか!?」
「ふっ、俺の腕がいいってことよ! ってのは半分くらい冗談で……タイミングが良かったってことよ」
いくらタイミングが良いといっても、やっぱり驚きを隠せないよ。すぐにやってもらえる人で、腕の良い人を見つけられるなんて、凄く運が良かったんだね。
これも、私の日頃の行いが良かったから……なーんてね。きっとラルフが諦めずに探してくれたから、ご褒美が来たんだね。
「んじゃ、完成したらバーランド家に持っていくから、のんびり待っててくれや」
「場所はわかりますか?」
「昔からある、かの有名な侯爵家の家くらい、余裕でわかるわ」
「わかりました。お金はいつ払えばよろしいでしょうか?」
「渡しに行った時に請求書も持っていくから、その時に貰えると助かるぜ」
「ではその通りにさせていただきます」
「よろしくお願いしますね!」
無事に注文が済んだ私達は、ユーゴ様の仕事場を離れ、再び帰路についた。
さっきまでは少しだけ重かった足取りも、今は羽のように軽くなっている。今なら、虫が出てきてもきっと大丈夫な気がする! うん、きっと!
……うん、やっぱり出てこないでほしいな!
「外? あー! どうもどうも! 昨日飲み過ぎて、外に置きっぱなしにしちまったみたいだわ! がはは!」
一人でテーブルに向き合っていた、がっしりとした体の男性は、楽しそうに笑っていた。お歳はそれなりに召しているだろうけど、なんだかナディア様のような元気さがある。
「まさか、それだけのために来たんか? おたくら暇だなぁ!」
「実は、私の妻である彼女のドレスを仕立ててくれる職人を探しておりまして。何件も周ったのですが、めぼしいものが見当たらず、帰ろうとしていた時に、偶然通りかかった次第です」
「なるほどな。それならおたくら、かなり運が良いぜ! 俺はユーゴっていう、腕利きの裁縫師だ! んで、おたくらは?」
「私はラルフ・バーランドです。彼女は……」
「シエル・バーランドです!」
まだ結婚していないのに、バーランドの名前を使ってしまったことに少し浮かれながらも、なるべく真剣な表情で、ユーゴ様を見つめる。
「バーランド? なんだい、こんな所に貴族様たぁ、驚いたぜ! 是非俺の作品を見てってくれ!」
「良いんですか?」
「おうよ! 場所はこんなボロ小屋だが、作品には絶対の自信ありだぜ!」
「それは素晴らしい。もしよろしければ、見本を見せてもらえると、大変ありがたいのですが」
「ちょっと待ってな! 少し前のになるけど、見本で作ったやつがあるからよ!」
ユーゴ様は作業場の奥から、素敵な真っ赤なドレスを着たマネキンを持ってきてくれた。
「素晴らしい出来です。生地が素晴らしいのもありますが、その特性を余すことなく扱っている!」
赤いドレスは、フリフリや胸元についた花がとても美しい。胸元が少し出てて、着る人の色気を存分に引き出してくれそうだ。私にはそんな色気は無いけど……。
触った感じも違うのかな? どれどれ……わぁ、さっきまで触らせてもらったドレスと全然違う。なんていうか……なめらかっていうの? とにかく、触り心地がとても良いよ!
「デザインも、派手過ぎず地味過ぎずで丁度良い。まさに完璧だ! 布も手に入りにくくなっているのに、ここまで上質な物を仕入れられるとは!」
「本当に綺麗なドレス……」
私にはドレスの知識なんて無いから、子供みたいな感想しか出てこないのが情けない。一応貴族の令嬢なんだから、こういうものの知識も、もう少しつけるべきだった。
「わかる奴にはわかるってこった! 布は全部、俺の弟が俺のために仕上げた特注さ! あいつの腕は、俺と同じで天下一品でな!」
「大変気に入りました。是非妻のドレスを仕立ててくださいませんか」
「おうおう、俺に任せておきな! なにか要望があるか? あるなら今のうちに言っておけ! 俺がキッチリ応えて作ってやるからよ! それと、後で奥さんの体のサイズを教えてくれ」
「わかりました。では要望をいくつか……」
ラルフはユーゴ様と一緒に、机に置かれた紙を見ながら、何かを話し始めた。一方の私は、ちょっと手持ち無沙汰になったから、邪魔にならないように、端っこにあった椅子に座った。
よかった、せっかく一日使って探し回ったのに、収穫が無しだったら悲しいもんね……いや、ラルフとお店を周るのは楽しかったから、収穫自体はあったんだけどさ。
「ちょっと気になったんですけど、どうしてこんな森の中で仕事してるんですか? もっと町の近い所で開いた方が、お客さんも来るんじゃないですか?」
「お前ぇ……それぇ……聞いちゃうのかぁ……??」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?!?」
紙にペンを走らせていたユーゴ様は、ピタリとその手を止めると、真顔で私を見つめてきた。その顔が、怖いのなんの! 思わず体を強張らせちゃったよ!
「ユーゴ殿、シエル様をいじめないでください」
「がははっ、悪かったよ! 冗談だから本気にすんなって!」
あ、冗談だったんだ……触れちゃいけないところに触れたのかと思って、やらかしたって思っちゃったよ!
「ここは元々、死んだ俺の親父の店でよ。廃棄された古屋を安く買って店を開いたそうだ」
お父様のお店……だから森の中なのに離れずに仕事をしていたんだね。
「俺は親父の技を見て育ったんだ。頑固な野郎でよ、全然教えてくれなかった。だが、見る機会だけは与えられた俺は、技術を見て、盗んで覚えた……っと、話がそれまくったな。俺の話はどうでもいいってな!」
「そんなことないですよ!」
「嬢ちゃんは優しいな。んで、親父が死んだあと、俺が店を継いで、弟は布職人になった。この場所を守り、いつかこの店をビッグにしてやるって約束をしたんだ。まあ現実は甘くなかったけどよ! こんなへんぴな所に、人なんかくるわけないってな!」
亡くなったご家族のために頑張っているだなんて、とても立派だね。だって、口ではいくらでも言えるけど、それを心を折らずに実行し続けるのって、難しいことだと思うもん。
「そんな事情を抱えていたのですね……あ、ここの部分は少しフリルを多くしてください」
「はいよ。ていうか、兄ちゃんよ。さすがに要望が多すぎねーか? いくつかって言ってたよな?」
「愛する妻が着るドレスなので」
ユーゴ様の手元にある紙は、すでにメモでびっしりと埋め尽くされてしまっていた。それも、両面ともだ。
この短時間で、一体どれくらい要望を言ったんだろう……聞くのがちょっと怖い。
「まあこんなべっぴんさんだったら、綺麗なドレスを着せたくなる気持ちも、わからんでもねーわ」
「べ、べっぴんさんだなんてそんな……あっ、このドレスはどれくらいで完成するんですか?」
「今のところ、急ぎの仕事は無いから……一週間もあればいけんな」
「い、一週間!? ドレスってそんなに早く出来るんですか!?」
「ふっ、俺の腕がいいってことよ! ってのは半分くらい冗談で……タイミングが良かったってことよ」
いくらタイミングが良いといっても、やっぱり驚きを隠せないよ。すぐにやってもらえる人で、腕の良い人を見つけられるなんて、凄く運が良かったんだね。
これも、私の日頃の行いが良かったから……なーんてね。きっとラルフが諦めずに探してくれたから、ご褒美が来たんだね。
「んじゃ、完成したらバーランド家に持っていくから、のんびり待っててくれや」
「場所はわかりますか?」
「昔からある、かの有名な侯爵家の家くらい、余裕でわかるわ」
「わかりました。お金はいつ払えばよろしいでしょうか?」
「渡しに行った時に請求書も持っていくから、その時に貰えると助かるぜ」
「ではその通りにさせていただきます」
「よろしくお願いしますね!」
無事に注文が済んだ私達は、ユーゴ様の仕事場を離れ、再び帰路についた。
さっきまでは少しだけ重かった足取りも、今は羽のように軽くなっている。今なら、虫が出てきてもきっと大丈夫な気がする! うん、きっと!
……うん、やっぱり出てこないでほしいな!
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全54話、完結保証つき。
毎日4話更新:朝7:00/昼12:00/夕17:00/夜20:00→3回更新に変えました。
どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。
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