【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき

文字の大きさ
11 / 75

第十一話 証拠を求めて

しおりを挟む
 翌日、お城に来ていた商人から、無事に目的の物を購入した私は、一度小屋に戻って来て、準備を始めた。

「なんとか買えて一安心ですわ。おかげで、自由に使えるお金は、ほとんど無くなってしまいましたが……」

 これも目的のためなら、安い出費だ。そう自分に言い聞かせて準備を終えた私は、お父様の部屋を訪れ、見張りをしていた男性に掃除をしに来たと嘘を伝えると、素直に通してくれた。

 以前にも、お父様の部屋の掃除をしたことがあるから、怪しまれずに済んだわね。とはいっても、時間をかけていたら怪しまれるだろうから、手早く済ませましょう。

「確か、以前お掃除に来た時に、この辺は触るなと言われましたわね。ということは……」

 お父様の部屋に入るや否や、机の引き出しの三段目を開け、中を確認すると、二重底になっているのを発見した。そしてそこには、レバーのようなものがあった。

「これを引けばいいのかしら……?」

 考えていても仕方がない。とりあえず引いてみよう……えいっ!

「きゃっ……! すごい、本棚が動き出した!」

 部屋に置かれていた大きな本棚が、音もなく横に動くと、そこには別の本棚が隠されていた。そこから一冊取り出し、中身を確認した。

「これは、帳簿? それに、こっちは領収書……専門の人が見ればわかるのかしら?」

 とりあえず、ここにあるものはしっかり記録しておかなければ。そう思った私は、水の入ったバケツから、水晶玉を取り出した。

 これが、商人から買ったもの。これには、記録魔法の力が宿っている。
 この水晶を起動させると、細い光が発せられ、それを記録したいものに当てることで、なんでも記録することができる。

 一見便利な力ではあるが、この水晶では記録できる期間に限りがあったり、記録をする量が少なかったりと、不便な点が多い。だから、なるべく有用な情報だけを集めて、早く使う必要がある。

「こういう時に、素早いお仕事を求められていたことが役立ちますわ」

 使用人のお仕事を押し付けられると、いつももっと早く、もっと丁寧にやれと叱られる。おかげさまで、人よりも動きは機敏な方だと自負している。

「これで帳簿は終わりですわね。後は領収書を……って、随分と宝石の領収書が多いですわね。それに、こっちはアクセサリーに、こっちはドレス……」

 どれもこれも、お義母様やお姉様が身につけているものや、着ているものばかりだ。中には有名店もあるが、名前を聞いたことがないお店や、あまり良い噂を聞かない、怪しい集団のものもある。

 こういうのって、不正な取引だったりする可能性もある。これもしっかり記録して持ち帰ろう。

「これでよしっと。改めて考えると、揃いも揃って危機管理能力が低すぎませんこと……?」

 まあ、情報が漏洩したとしても権力でねじ伏せるだろうし、そもそも一国の長に逆らおうとする人間がいるとも考えにくいわ。
 なによりも、聖女という存在を使って民の信頼は勝ち取れている以上、疑う方もいないということね。

「次は、お義母様のお部屋に行ってみましょう。確か本日は、とある貴族のお茶会に参加していて、不在だったはずですわ」

 変に疑われないように、テキパキと掃除をして時間を潰してから、同じ方法でお義母様の部屋に入ろうとしたが、今度は門前払いをされてしまった。

 そういえば、お義母様は私のような汚い人間なんて、絶対に部屋に入れないと、常々言っていたのを失念していた。これでは、部屋に入ることが出来ない。

「何かいい方法は……そういえば、今日の見張りをしている彼って、大のネズミ嫌いでしたわね……」

 ……あまり性格の良い方法ではないが、背に腹は代えられない。彼は昔、私の食事に虫を入れたことがあったし、その仕返しということで。

「さすがに生きているネズミを手に入れるのは、気が引けますわね……そうだ、先程見せていただいた品の中に、使えそうなものが……まだいらっしゃるといいのだけど……あっ、よかった。まだいらしたわ」

 私は、あの見張りに退いてもらうための秘策を行うために、水晶を売ってくれた商人を探してお城の中を歩いていると、ちょうど出ていこうとする後ろ姿を見つけた。

「おや、セリア様。ちょうど商談も終わって帰るところだったのですが……どうかされましたか?」

「先程見せていただいた商品にあった、とあるおもちゃを一つ、いただきたいのですが」

「おもちゃ、ですか。それは構いませんが……どれをお求めで?」

「ゼンマイ式のネズミのおもちゃですわ」

「これですかい? 随分と物好きですねぇ……リアルに作り過ぎて、全然売れなくて困ってたのですよ。先程高価な水晶を購入いただきましたし、サービスしますよ」

「まあ、それは嬉しいですわ」

 提示された金額は、私の手持ちのお金でギリギリ買えるものだった。サービスをしてもらえてなければ、購入できなかったわね。危なかった。

「では、それをいただきますわ」

「ありがとうございます。他になにか入用で?」

「他には特にございませんわ」

「かしこまりました。では、またごひいきに」

 お城から去っていく商人を見送ってから、再びお義母様の部屋までやってきた私は、物陰に隠れながら、ネズミのおもちゃを取り出した。

「えっと、ここにゼンマイを差して、グルグル回して……これくらい回せばいいかしら?」

 情けないことに、私はこういったおもちゃにほとんど触れたことがない。両親は、お姉様にはおもちゃも含めて色々と与えていたのに、私には教育に悪いという適当な理由をつけて、一切与えてくれなかった。

「これでよし。さあネズミちゃん、お願いしますわ」

 ネズミのおもちゃを床に置くと、少し左右にブレながらではあったが、見張りの元に向かって進んでいく。

 そして、ネズミのおもちゃは見張りの視界に入って……。

「うぎゃあぁぁぁぁ!? ね、ネズミぃぃぃぃぃ!?」

 おもちゃなのに、本物のネズミと間違えてしまった見張りは、まるでネコから逃げるネズミのように、物凄い勢いで走り去っていった。

 ふふっ、無様な姿だこと。昔の私も、あんなふうに凄く驚かされましたし、これでおあいこね。

「さてと、今のうちに中に入らせてもらいましょう」

 急がないと、あの見張りが戻ってきてしまう。そう考えた私は、そそくさとお義母様の部屋に入る。すると、そこにあったのは、目を疑うほどのたくさんの宝石や、アクセサリーだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

処理中です...