12 / 75
第十二話 魔法も使い方次第
「凄い数……輝きもさることながら、大きさが凄い……」
素人の私がそう思うくらいなのだから、きっともの凄い価値があるのだろう。
それに、この宝石って確か、何年か前に美術館から盗まれて、その後行方が分からなくなったと言われる、凄く価値のある宝石じゃないかしら?
「盗品にまで手を出すなんて……さすがに人としてどうなのかしら」
綺麗なのはわかるが、だからと言って悪いことをするのは……って、今は感想を考えている場合ではない。早く記録をして、この部屋を後にしないと。
「さすがに全部記録する時間は無さそうですわね。それに、まだ行くところがあるのに、そろそろ水晶の記録できる量も限界が近づいているようですし……」
とりあえず、ある程度の記録は取れた。次に記録をしたいものは、夜に行われるものだから、今は一旦戻って、この水晶が見つからないように隠さないと。
****
特に何事もなく迎えた同日の夜。私はお城の外をこっそり通って、とある部屋の窓の下へとやってきた。
その部屋とは、もちろんお姉様の部屋だ。今日の聖女のお仕事で、お姉様はとても好みの男性を見つけたと言っていたから、その連れ込みの現場を記録をするつもりだ。
「確か、相手はあまり裕福ではない、大人しそうな若い男性……お姉様のことだから、一度自室で遊んでみて、気に入ったら例の部屋に連れていくでしょうね。それまでの記録を取れれば……」
表向きのお姉様は、まさに聖女のような、気品あふれる素敵な女性な振る舞いをしている。そんなお姉様の醜い姿を晒し、今まで築き上げてきたものを、一気に瓦解させるのが目的だ。
「ここなら、見つからないかしら……集中、集中……」
一度大きく深呼吸をしてから、私は手に持った水晶を抱き抱える。すると、私の足元に緑色の魔法陣が描かれ……そして、水晶がフワッと宙に浮いた。
これは、風魔法の一種で、物を持ち上げる魔法だ。
凄い魔法使いなら、もっと大きくて重い物を持ち上げられるが、残念ながら私は魔法の才能があるわけではない。むしろ、平均よりも大きく下回っていると思う。
だから、水晶程度の物を浮かせるだけでも、とても集中しなければならない。そこを誰かに見つかったら大変だから、隠れているというわけだ。
「落ち着いて、意識を集中させるのです、私……」
宙に浮かんだ水晶は、フワフワと上昇していき、お姉様の部屋にあるバルコニーへと向かっていく。
よし、とりあえず無事にバルコニーまで浮かすことは出来た。弱い魔法でも、使い方によっては、役に立つものね。後はバルコニーを転がして、少しでも中の光景が記録できれば……。
「これでよし。後はしばらく経ってから、回収をしましょう」
本当なら、水晶がちゃんと記録できているか確認が出来ればいいのだけど、残念ながら、それを確認する術はない。今の私に出来ることは、きちんと記録出来ていることを祈りながら、見回りに見つからないことだけだ。
「…………」
はぁ、待っているだけというのは、何とももどかしいわね。いつも以上に、一分一秒が凄く長く感じる。
そんなことを考えていると、突然バルコニーから、誰かの声が聞こえてきた。
「あら、なにかあると思ったら、水晶玉? 誰かの忘れ物かしら……?」
「この声……! もしかして、見つかってしまいましたの……!?」
バルコニーから聞こえてきたお姉様の一言で、一瞬にして体中から冷たい汗が流れ始めた。
私としたことが、少しでも記録したくて、水晶の位置取りを間違えてしまった!? これで水晶が壊されてしまったら、せっかく集めた記録が……!
「まあいいですわ。こんなものよりも、早く彼をもっともっといたぶって差し上げませんと。ほら、いつまで休んでおりますの?」
「あっ……!」
完全に失敗してしまったと思っていたら、突然水晶が宙を舞い、そのまままっすぐ落ちてきた。
気づかれなかったのは不幸中の幸いとはいえ、このままでは水晶は地面に落ち、砕けてしまう。そうなれば、気づかれたのと何ら変わりない。
「くっ、一か八かですわ!」
私は咄嗟に先ほどと同じ魔法を使い、落ちてくる水晶を操って、落下を防ごうとする。
「い、勢いが止まりませんわ……!」
普通に動かすだけでも大変なのに、落ちてくる水晶を操るなんて、私にはあまりにも難題すぎた。水晶は、無情にも勢いをそのままに、落下していく。
……私には、無理? そんなの関係ない。私は復讐は絶対に復讐をする。そのためにも、絶対にあの水晶を無事に回収してみせる!
「止まるのです! 止まりなさい! 止まってぇぇ!」
必死の呼びかけも虚しく、水晶は落ちる。落ちる。落ちる。もう間もなく、地面に激突して、割れてしまう。
それでも諦めずに魔法をかけていると、ほんの少しだけ勢いが緩んでいた。
まさにこれは絶好の機会だ。私は、残りの魔力と集中を限界まで高めて、水晶のコントロールをすると、地面にあたる前に勢いが著しく落ち、ぽとんっ……という表現がピッタリなくらい、優しく落ちてきた。
「ああ、よかった……さすがに疲れましたわ……帰って、休みましょう……」
これでほしいものは大体揃った。後は、また開かれるであろう、婚約者を決める会議に参加をして、この記録を公表する。
ということで、このまま小屋に帰ろうとしたが、そこで重大な事件が起こってしまった。
「おい、なにかこっちから声が聞こえなかったか?」
素人の私がそう思うくらいなのだから、きっともの凄い価値があるのだろう。
それに、この宝石って確か、何年か前に美術館から盗まれて、その後行方が分からなくなったと言われる、凄く価値のある宝石じゃないかしら?
「盗品にまで手を出すなんて……さすがに人としてどうなのかしら」
綺麗なのはわかるが、だからと言って悪いことをするのは……って、今は感想を考えている場合ではない。早く記録をして、この部屋を後にしないと。
「さすがに全部記録する時間は無さそうですわね。それに、まだ行くところがあるのに、そろそろ水晶の記録できる量も限界が近づいているようですし……」
とりあえず、ある程度の記録は取れた。次に記録をしたいものは、夜に行われるものだから、今は一旦戻って、この水晶が見つからないように隠さないと。
****
特に何事もなく迎えた同日の夜。私はお城の外をこっそり通って、とある部屋の窓の下へとやってきた。
その部屋とは、もちろんお姉様の部屋だ。今日の聖女のお仕事で、お姉様はとても好みの男性を見つけたと言っていたから、その連れ込みの現場を記録をするつもりだ。
「確か、相手はあまり裕福ではない、大人しそうな若い男性……お姉様のことだから、一度自室で遊んでみて、気に入ったら例の部屋に連れていくでしょうね。それまでの記録を取れれば……」
表向きのお姉様は、まさに聖女のような、気品あふれる素敵な女性な振る舞いをしている。そんなお姉様の醜い姿を晒し、今まで築き上げてきたものを、一気に瓦解させるのが目的だ。
「ここなら、見つからないかしら……集中、集中……」
一度大きく深呼吸をしてから、私は手に持った水晶を抱き抱える。すると、私の足元に緑色の魔法陣が描かれ……そして、水晶がフワッと宙に浮いた。
これは、風魔法の一種で、物を持ち上げる魔法だ。
凄い魔法使いなら、もっと大きくて重い物を持ち上げられるが、残念ながら私は魔法の才能があるわけではない。むしろ、平均よりも大きく下回っていると思う。
だから、水晶程度の物を浮かせるだけでも、とても集中しなければならない。そこを誰かに見つかったら大変だから、隠れているというわけだ。
「落ち着いて、意識を集中させるのです、私……」
宙に浮かんだ水晶は、フワフワと上昇していき、お姉様の部屋にあるバルコニーへと向かっていく。
よし、とりあえず無事にバルコニーまで浮かすことは出来た。弱い魔法でも、使い方によっては、役に立つものね。後はバルコニーを転がして、少しでも中の光景が記録できれば……。
「これでよし。後はしばらく経ってから、回収をしましょう」
本当なら、水晶がちゃんと記録できているか確認が出来ればいいのだけど、残念ながら、それを確認する術はない。今の私に出来ることは、きちんと記録出来ていることを祈りながら、見回りに見つからないことだけだ。
「…………」
はぁ、待っているだけというのは、何とももどかしいわね。いつも以上に、一分一秒が凄く長く感じる。
そんなことを考えていると、突然バルコニーから、誰かの声が聞こえてきた。
「あら、なにかあると思ったら、水晶玉? 誰かの忘れ物かしら……?」
「この声……! もしかして、見つかってしまいましたの……!?」
バルコニーから聞こえてきたお姉様の一言で、一瞬にして体中から冷たい汗が流れ始めた。
私としたことが、少しでも記録したくて、水晶の位置取りを間違えてしまった!? これで水晶が壊されてしまったら、せっかく集めた記録が……!
「まあいいですわ。こんなものよりも、早く彼をもっともっといたぶって差し上げませんと。ほら、いつまで休んでおりますの?」
「あっ……!」
完全に失敗してしまったと思っていたら、突然水晶が宙を舞い、そのまままっすぐ落ちてきた。
気づかれなかったのは不幸中の幸いとはいえ、このままでは水晶は地面に落ち、砕けてしまう。そうなれば、気づかれたのと何ら変わりない。
「くっ、一か八かですわ!」
私は咄嗟に先ほどと同じ魔法を使い、落ちてくる水晶を操って、落下を防ごうとする。
「い、勢いが止まりませんわ……!」
普通に動かすだけでも大変なのに、落ちてくる水晶を操るなんて、私にはあまりにも難題すぎた。水晶は、無情にも勢いをそのままに、落下していく。
……私には、無理? そんなの関係ない。私は復讐は絶対に復讐をする。そのためにも、絶対にあの水晶を無事に回収してみせる!
「止まるのです! 止まりなさい! 止まってぇぇ!」
必死の呼びかけも虚しく、水晶は落ちる。落ちる。落ちる。もう間もなく、地面に激突して、割れてしまう。
それでも諦めずに魔法をかけていると、ほんの少しだけ勢いが緩んでいた。
まさにこれは絶好の機会だ。私は、残りの魔力と集中を限界まで高めて、水晶のコントロールをすると、地面にあたる前に勢いが著しく落ち、ぽとんっ……という表現がピッタリなくらい、優しく落ちてきた。
「ああ、よかった……さすがに疲れましたわ……帰って、休みましょう……」
これでほしいものは大体揃った。後は、また開かれるであろう、婚約者を決める会議に参加をして、この記録を公表する。
ということで、このまま小屋に帰ろうとしたが、そこで重大な事件が起こってしまった。
「おい、なにかこっちから声が聞こえなかったか?」
あなたにおすすめの小説
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
聖女は歌う 復讐の歌を
奏千歌
恋愛
[悠久を生きる魔女①]
*②と②´まとめました。バッドエンドです。後味が悪い部分があります。ご注意ください。
幼なじみの令嬢との婚約を解消して、新たに聖女と王太子が婚約した。といった騒動があった事は私には関係の無いことだと思っていた。
ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、薬草を調合する手を止め、エプロンを外しながら玄関に向かった。
こんな森の中の辺鄙な場所に誰がきたのかと、首を傾げながら取っ手を掴んだ。
そもそも、人避けの結界を張っているのに、そんな場所に侵入できるのは限られている。
カチャっと扉を開くと、予想通りの人の姿を認めた。
「エカチェリーナ、助けて!」
開けるなり飛び込んで来たのは、この国の王太子と婚約したばかりの聖女、ヴェロニカさんだった。
コテンと首を傾げた私に彼女が頼んできたことは、第二王子を救うことをだった。
彼女に同行して、城で私が見たものは…………
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。