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第四話 心を許せる人
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再び屋敷に戻るため、今度はなるべく転ばないように急いでいると、町中にいた一人の男性に、声をかけられた。
「こんばんは、アイリーン。こんな夜遅くに会うなんて珍しいね」
「エルヴィン様、こんばんは」
声をかけてきたのは、私の唯一の……友達? ううん、とても大切な人の、エルヴィン・シャムル伯爵子息様。漆黒の髪を短く整えていて、シュッとして整った顔がとってもカッコいい男性なの。
いつも私は、ゲオルク様に決められた曜日以外は、屋敷を自由に出ることが禁じられている。
外出ができる曜日は、私の密かな夢のために、図書館で勉強をしているのだけど、彼とはそこで出会った。
それから何度か会ううちに、勉強を教えてあげるって言われて……勉強を教えてもらったり、たまに食事に行くくらい仲良くなったの。
屋敷で毎日酷い扱いをされていた私にとって、彼の存在や、彼との他愛もないやり取りは、心の拠り所になっている。彼といると楽しくて、嬉しくて、時間が経つのを忘れてしまうくらいだ。
本当なら、想定外なタイミングで会えたことを喜びたいし、お話したいけど……今はそんな時間は無いのよね。
「ふふっ、まさかアイリーンに会えるなんて、今日はとてもついてるな。って……なんだか急いでいるように見えるね?」
「はい、ちょっと色々ありまして……急いで屋敷に帰るところです」
「そうだったのか。夜道を急ぐのは危ないから、僕が近くまで送っていくよ」
「ありがとうございます。でも、そのお気持ちだけで十分です。またいつもの曜日にお会い出来ること、楽しみにしてますね。では!」
「あっ、アイリーン! 気を付けて帰るんだよ!」
私は、モンティス家に来てからすぐに叩きこまれた作法で、丁寧に頭を下げてから、駆け足で屋敷へと帰っていく。
私が屋敷に帰ってくるや否や、中は混乱していた。いきなり出ていった人間が帰って来たら、こうなるのも無理はない。
「ここでお待ちください」
使用人の一人に、私の使っているこぢんまりとした部屋に通された私は、椅子に座ってぼーっと考え事をしていた。
私は今回、ゲオルク様の言いつけを破って勝手に外に出た。だから物凄く叱られるか、罰を受けるかは避けられない。
それか可能性は低いけど、無事でよかったと喜ばれる……なんてこと、あるわけないか。
そんなことを考えていると、ゲオルク様とシンシア様、ミア様、そしてゲオルク様と腕を組んだルシア様がやってきた。
「貴様、勝手に外出をするとは、一体何を考えている? それも、こんなに夜遅くに帰ってくるなんて。どこに行っていたんだ?」
やっぱり、凄く怒っているみたい。変に言い訳なんてしないで、素直に白状した方がよさそうだ。
「実家に帰っていました」
「実家だと? 誰が勝手に帰っていいと言った?」
「私、聞いてしまったのです。婚約する時に約束した、実家への支援がされていないって。だから、急いで帰って確認をしに」
「はぁ? 一体何を言っているんだ。さては、頭がおかしくなったのか?」
明らかに悪いのは、ゲオルク様の方だというのに、まるで私の方がおかしくなったかのような言い草は、私に強いストレスを与えてきた。
「本当です! 食堂でゲオルク様達が食事をしている時に、たまたま通りかかったら、中からバカな女狐とか、従順に働く使用人だとか、散々な言いようではありませんでしたか!」
最初はとぼけていたゲオルク様だったが、私の話を聞くうちに、大きな手で顔を覆いながら、肩を震わせていた。
「ちょっと、ゲオルクお兄様が泣いちゃったじゃん! あんた、散々世話になっておいてこれとか、意味わかんないんだけど!?」
「私からしたら、こんな状況でもゲオルク様をかばっているミア様の方が、よっぽど意味が分からないです!」
「よしなさい、ミア。相手はしょせん人間じゃないの。ワタクシ達の言葉なんて、通じるはずがありませんわ」
「……普通の人間なら、孤族である私にも通じるでしょうね。でもあなた達は普通の人じゃなくて、ただの外道。そんな人達の野蛮な言葉なんて、通じるわけがありません!」
今まで散々我慢してきた鬱憤を、少しでも晴らそうと言い返していると、シンシア様が青筋を立てて怒りはじめた。
「女狐、言葉には気を付けなさい。屋敷に置いてやっているのは、誰だと思っておりますの? 以前のように、一週間も動けなくなるほど、徹底的に痛めつけてもよろしいのですよ」
「っ……!!」
随分前に体に消えない傷をつけられた時の痛みの記憶が、無意識に体を硬直させる。
以前、掃除をしている時に、シンシア様が大切にしていたオルゴールを壊してしまい、逆鱗に触れた私は、徹底的に罰を与えられて、一週間動くことが出来なくなったことがある。
あれをまたされると思うと、体が怖くて硬直するけど……に、逃げるものか!
「……お前ら、もういい……そうか……聞いてしまったか……くっ……あはははははは!!」
「ゲオルク様……?」
ずっと黙っていたゲオルク様が、姉妹を制止したと思ったら、突然大声で笑い始めた。
「聞いたのなら仕方がない! 良い機会だし言っておくか。俺様はルシアに一目惚れし、真実の愛に目覚めてしまってな! お前との婚約は、破棄することになったんだ。これは俺様の母も了承済みだ!」
「こんばんは、アイリーン。こんな夜遅くに会うなんて珍しいね」
「エルヴィン様、こんばんは」
声をかけてきたのは、私の唯一の……友達? ううん、とても大切な人の、エルヴィン・シャムル伯爵子息様。漆黒の髪を短く整えていて、シュッとして整った顔がとってもカッコいい男性なの。
いつも私は、ゲオルク様に決められた曜日以外は、屋敷を自由に出ることが禁じられている。
外出ができる曜日は、私の密かな夢のために、図書館で勉強をしているのだけど、彼とはそこで出会った。
それから何度か会ううちに、勉強を教えてあげるって言われて……勉強を教えてもらったり、たまに食事に行くくらい仲良くなったの。
屋敷で毎日酷い扱いをされていた私にとって、彼の存在や、彼との他愛もないやり取りは、心の拠り所になっている。彼といると楽しくて、嬉しくて、時間が経つのを忘れてしまうくらいだ。
本当なら、想定外なタイミングで会えたことを喜びたいし、お話したいけど……今はそんな時間は無いのよね。
「ふふっ、まさかアイリーンに会えるなんて、今日はとてもついてるな。って……なんだか急いでいるように見えるね?」
「はい、ちょっと色々ありまして……急いで屋敷に帰るところです」
「そうだったのか。夜道を急ぐのは危ないから、僕が近くまで送っていくよ」
「ありがとうございます。でも、そのお気持ちだけで十分です。またいつもの曜日にお会い出来ること、楽しみにしてますね。では!」
「あっ、アイリーン! 気を付けて帰るんだよ!」
私は、モンティス家に来てからすぐに叩きこまれた作法で、丁寧に頭を下げてから、駆け足で屋敷へと帰っていく。
私が屋敷に帰ってくるや否や、中は混乱していた。いきなり出ていった人間が帰って来たら、こうなるのも無理はない。
「ここでお待ちください」
使用人の一人に、私の使っているこぢんまりとした部屋に通された私は、椅子に座ってぼーっと考え事をしていた。
私は今回、ゲオルク様の言いつけを破って勝手に外に出た。だから物凄く叱られるか、罰を受けるかは避けられない。
それか可能性は低いけど、無事でよかったと喜ばれる……なんてこと、あるわけないか。
そんなことを考えていると、ゲオルク様とシンシア様、ミア様、そしてゲオルク様と腕を組んだルシア様がやってきた。
「貴様、勝手に外出をするとは、一体何を考えている? それも、こんなに夜遅くに帰ってくるなんて。どこに行っていたんだ?」
やっぱり、凄く怒っているみたい。変に言い訳なんてしないで、素直に白状した方がよさそうだ。
「実家に帰っていました」
「実家だと? 誰が勝手に帰っていいと言った?」
「私、聞いてしまったのです。婚約する時に約束した、実家への支援がされていないって。だから、急いで帰って確認をしに」
「はぁ? 一体何を言っているんだ。さては、頭がおかしくなったのか?」
明らかに悪いのは、ゲオルク様の方だというのに、まるで私の方がおかしくなったかのような言い草は、私に強いストレスを与えてきた。
「本当です! 食堂でゲオルク様達が食事をしている時に、たまたま通りかかったら、中からバカな女狐とか、従順に働く使用人だとか、散々な言いようではありませんでしたか!」
最初はとぼけていたゲオルク様だったが、私の話を聞くうちに、大きな手で顔を覆いながら、肩を震わせていた。
「ちょっと、ゲオルクお兄様が泣いちゃったじゃん! あんた、散々世話になっておいてこれとか、意味わかんないんだけど!?」
「私からしたら、こんな状況でもゲオルク様をかばっているミア様の方が、よっぽど意味が分からないです!」
「よしなさい、ミア。相手はしょせん人間じゃないの。ワタクシ達の言葉なんて、通じるはずがありませんわ」
「……普通の人間なら、孤族である私にも通じるでしょうね。でもあなた達は普通の人じゃなくて、ただの外道。そんな人達の野蛮な言葉なんて、通じるわけがありません!」
今まで散々我慢してきた鬱憤を、少しでも晴らそうと言い返していると、シンシア様が青筋を立てて怒りはじめた。
「女狐、言葉には気を付けなさい。屋敷に置いてやっているのは、誰だと思っておりますの? 以前のように、一週間も動けなくなるほど、徹底的に痛めつけてもよろしいのですよ」
「っ……!!」
随分前に体に消えない傷をつけられた時の痛みの記憶が、無意識に体を硬直させる。
以前、掃除をしている時に、シンシア様が大切にしていたオルゴールを壊してしまい、逆鱗に触れた私は、徹底的に罰を与えられて、一週間動くことが出来なくなったことがある。
あれをまたされると思うと、体が怖くて硬直するけど……に、逃げるものか!
「……お前ら、もういい……そうか……聞いてしまったか……くっ……あはははははは!!」
「ゲオルク様……?」
ずっと黙っていたゲオルク様が、姉妹を制止したと思ったら、突然大声で笑い始めた。
「聞いたのなら仕方がない! 良い機会だし言っておくか。俺様はルシアに一目惚れし、真実の愛に目覚めてしまってな! お前との婚約は、破棄することになったんだ。これは俺様の母も了承済みだ!」
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