【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき

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第六十八話 さようなら、婚約者様

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「何をしたって無駄だ! 貴様ら全員、ここで終わりだ!!」

「させるもんですか!!」

 ゲオルクの魔力がどんどんと彼の中心に集まる一方、私は元々あったモフモフの尻尾が九本になり、魔力でゆらゆらと揺れている。

「私が、守る! 誰一人として犠牲者を出すもんかぁぁぁぁ!!」

 私は、まだ魔法が得意と自信を持って言えるほどの域には達していない。だから、持てる全ての魔力をがむしゃらに使ってゲオルクを止めようとした。

 すると、急に現れた九本の尻尾が、この場に残っていた全員に伸びていき、私の後ろに運んでくれた。

「貴様などに、守るだなんて片腹痛いわ! 死ねぇぇぇぇ!!」

 私は再び尻尾を使い、ゲオルクの禁術に対抗するために、九本の尻尾で巨大な壁を作った。それから間も無く、とてつもない衝撃が尻尾に襲いかかっていた。

 な、なんて衝撃なの……!? 尻尾がこの世の物とは思えないほどの力と超高温の熱で、焼かれているような感覚だ。あまりにも痛すぎて、逆に痛みを感じる余裕がすぐになくなった。

 でも、かえってその方が都合がいい。痛みなんかに気を取られている暇があったら、少しでも魔力を尻尾に込めて、ゲオルクの魔法からみんなを守れる!

「うぐっ……ま、負けないんだから……!!」

 ゲオルクの魔法と衝突してから、なんとか少しは持っていたんだけど、だんだんと押され始めていく。

 それと同時に、衝撃による痛みと共に、魔法の練習の時にありすぎて困っていたくらい膨大な魔力が、どんどんと削られていき……練習の時に何度もあった、あの意識を失う前のような感覚を覚えた。

 このままでは、魔力と体力が尽きて、ゲオルクの魔法に押し負けてしまう。そうなれば、私の後ろにいる人達は、助からないかもしれない。少なくとも、最前線の私はまず助からないだろう。

 そんなの……冗談じゃない! こんなところで犠牲者なんて出したくないし、私には宮廷魔術師になるという目標がある! そして、エルヴィン様と一緒に幸せな未来を歩みたい!
 それを、こんな身勝手な人に邪魔をされてたまるもんですか!

「ま、負け……まけ、ない……まっ……!?」

 衝撃に体が耐えきれなくなってきて、体の至る所から出血している。特に酷いのは尻尾と体を支えている足で、もう立っていることもままならなくなってきた。

 そんな私に、救いの手が二つも伸びて来て、私の背中をそっと支えてくれた。

「わ、わたしにはこれくらいしか出来ませんけど……わたし、アイリーンさんとずっと一緒にいますから!」

「あれだけ啖呵を切った奴が、こんな所で諦めるなんてだせ―こと、あるわけねぇよな?」

「ソーニャちゃん、ヴァーレシア先生……!」

「ソーニャ、お前の残ってる魔力を全部アイリーンに渡せ! 手から魔力を流すイメージだ! 俺は残った魔力で、アイリーンの治療と魔力の受け渡しを行う」

「わかりました!」

 泣きながら私を支えるソーニャちゃんと、血まみれのヴァーレシア先生の手から、私の体に魔力が供給されていく。
 それと同時に、ヴァーレシア先生が治癒魔法を使い、私の傷ついた体を癒してくれた。

 ……私は一人じゃない。たくさんの大切な人達がいる。それが、あそこで一人で絶望し、大切な家族を見捨てたゲオルクとの決定的な違いだ!

「私は……一人じゃない!」

「その通りだ、アイリーン。君には、大切な友や恩師……そして、僕がいる」

 とても心強く、なによりも安心する声と共に、背中から私の体を優しく包み込まれた。

「エルヴィン様……! 無茶をしないでください!」

「無茶だって……? 君が……世界で一番愛している人が、僕たちのために頑張っているのに……それを黙ってみていられるなんて、酷なことをさせるのかい?」

「そ、それって……」

「帰ったら、文化祭で止めてしまった言葉を……聞かせてほしい。そのために、僕も残った魔力を最後の一滴まで振り絞り、君に託す!」

「エルヴィン様……! はい、私に任せてください!」

 私の体を包み込むエルヴィン様の体を通して、暖かい魔力が私の中に流れ込んでくる。その魔力量は、あまり多くはなかったけど……そんなのは気にならないくらい、エルヴィン様の暖かい気持ちが込められていた。

「私はもう、魔法が使えない落ちこぼれじゃない! みんなのおかげで、私は一人前の魔法使いになれた! それを証明するために……この窮地から生きて帰ってみせる!」

 私はさらなる魔力を尻尾に込めると、尻尾はさらに太く、強固なものになって、ゲオルクの魔法を完全に抑え込んだ。

 なんとか抑え込めたことはいいけど、ここからどうすればいいのだろう? 元凶であるゲオルクを止めない限り、勝機は無い。

「大丈夫だよ、アイリーン。彼が使っているのは禁術……強力ではあるが、いずれは発動者の命が尽きる。そうすれば、魔法は自動的に止まる」

 なるほど、それなら……我慢勝負ということね。これでも、ゲオルクの屋敷にいた時は、ずっとずっと我慢をしてきた。

 ゲオルクの理不尽ないじめに耐え、シンシアの暴力で体に消えない傷を刻まれても耐え、ミアに精神的なトラウマを植え付けられそうになっても耐えてきた実績がある。

 でもゲオルク、あなたはどうかしら? 自分は常に勝者で、他者より上にいるのが当たり前だった。欲しいものが何でも手に入った。だから、我慢なんてしていないでしょう?
 そんなあなたが、我慢勝負で勝てるはずが無い!

「あぁぁぁぁぁ!!!」

「――――」

 三人に抑えてもらいながら、私は雄たけびを上げて最後の勝負に入る。
 一方のゲオルクは、声になっていない叫びを上げながら、必死に禁術を使っていたが……その勢いは段々と弱まり、ついに沈黙した。

「と、止まった……? も、もういいのかな……?」

「ああ、もう大丈夫だ。よく頑張ったね、アイリーン。本当に……よく……ありがとう、アイリーン……」

「エルヴィン様……」

 涙ぐみながら、私を背中からギュッとハグをするエルヴィン様の手に、自分の手を乗せる。

 エルヴィン様の鼓動、熱、吐息……ああ、生きている。よかった、私は大切な人達を守ることが出来たんだ……!

「アイリーン、無事でなによりだよ。あたしとパパを……ううん、両国と民まで助けてくれたこと、本当に感謝している」

「そ、そんな!? 王女様に感謝されるだなんて……あわわ、どうしよう……!」

 安堵の息を漏らしていると、ミトラ様が労いの言葉をかけてくれた。

 王女様とは初対面だから、どうやって返せば失礼に当たらないかわからないよ! こんなことなら、ゲオルクの屋敷にいる時に、もっと丁寧な言葉遣いを学んでおくべきだった!

「そ、そうだ……ゲオルクさんは、どうなったのでしょう?」

「確かに……確認しに行ってみようよ」

「そうだね。僕も行くよ。僅かに魔力は残っているから、何かあっても何とかなる」

 心身に加えて、魔力もほとんど残っていない私は、エルヴィン様に肩を貸してもらって何とか歩くと、瓦礫の中心に倒れているゲオルクの姿があった。

「うぐっ……あ、アイリーン……」

「驚いた、まだ生きているとは……物凄い執念と生命力だ」

「この魔法でも……ダメなら……もう、俺様に打つ手はない……諦める……だから、たすけて……くれ……俺様は、このままでは……間もなく死ぬ……いやだ……なにも得ることなく、一人で死ぬのは……いやだ……早く、助けろ……!」

 打つ手が無くなって随分としおらしい態度になってるけど、最後の最後まで、結局自分のことしか考えていないのね。本当にあなたは、最低の人間だ。

「そうですね、ゲオルク様。私はあなたの婚約者としての立場だったら、助けるでしょう」

「そ、それなら……」

 一瞬だけ、先程の攻防の衝撃で気絶しているルシアを見たゲオルクは、すぐに私に視線を動かした。

「生きるためには、やむを得ない。また貴様を……婚約者にしてやる。泣いて喜ぶがいい……!」

 自分が助かりたいがために、ルシアを裏切るの? 私が婚約者になるのを喜べ? どこまで腐れば気が済むのよ……!

「なんていうか、ここまで来ると呆れを通り越して、感心すら持たなくなるね……」

「な、何が言いたい?」

「こういうことだよ」

 私はゆっくりとした動きで、エルヴィン様の頬にちゅっと優しいキスをした。当然私の頬は紅潮し、されたエルヴィン様も紅潮している。

「また婚約者になるなんて、冗談じゃない。もうただの他人であるあなたに私ができることは、なにもない」

「ふざけるな……! 俺様を見捨てるというのか!?」

「そうよ。さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など、二度と見たくありません」

 私の過去の過った選択から始まった、ゲオルク達とのつらく苦しい過去とはお別れだ。
 私はセレクディエ学園での素敵な今を過ごし、将来は……宮廷魔術師になって、エルヴィン様と……。

 そんな素敵な未来に、あなたのような不純物はいらないの。だから……さようなら。
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