はい!喜んで!

みおな

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シリル・イグリットの場合

アルトガン公爵の焦燥

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「くそっ!あの愚息が!」

 ガン!とマホガニー製の机を蹴飛ばすと、アルトガン公爵は痛みと腹立たしさに顔を顰めた。

 ロバート・アルトガン。
ガーデンプレイス王国アルトガン公爵家の当主であり、ウォルターの父親である。

 濃紺の髪と瞳をした父親に、ウォルターはよく似ていた。

「旦那様・・・」

「マチルダ、やむを得ないことだ」

 マチルダと呼ばれた女性、ウォルターの母親である。

 ロバートに寄り添ったマチルダも、濃い青の瞳を曇らせてゆっくりとかぶりを振った。

「学園の成績もいいので、油断していましたわ」

「ああ。親の前では聞き分けのいい子供だったから、まさか外で傲慢に振る舞っていたとは思わなかった」

「女性蔑視の傾向があったのでしょうか?いえ、違いますわね。自分よりも優秀な女性を厭うのですわね。ソフィに対してもそうですもの」

 ソフィとはウォルターの三歳年下の妹で、学園に首席入学するだろうとすでに噂されている才女である。

 両親はソフィの才をとても喜んだが、ウォルターだけは苦々しげにソフィを睨んでいた。

 ガーデンプレイス王国では、爵位を継ぐのは男性と決まっているので自分を押しのけて妹が公爵位を継ぐことはない。

 首席入学はしていないが、特別クラスに入れるほど優秀なのだ。

 ウォルターは、自分に何度もそう言い聞かせなければならないほど、ソフィの影に怯えていた。

 その怯えが、自分より優秀な女性への傲慢な態度に変わったのだ。

「ハァ、仕方ない。契約は契約だ。ウォルターとシリル・イグリット伯爵令嬢との婚約の白紙撤回を求めよう。そして、ソフィを後継に据える。婚約者は確かウィリス伯爵家の嫡男だったな。あそこには弟がいたな?」

「・・・ええ。二歳年下の弟君がいらっしゃるわ。ウォルターはどうなさるの?」

「あれは、領地の伯母上のところに送って再教育だ。教育が終われば、しっかり者の嫁を探す。伯母上のところの子爵家を継がせればいいだろう。元々、ウォルターの第二子かソフィの子にやるつもりだった爵位だ」

「お手紙を出しますわ。旦那様は婚約の手続きをなさらないと」

「ああ」

 両親のため息は、ウォルターには届かない。

 ロバートに呼ばれ部屋に訪れた家令は、王家に謁見の打診をするために部屋を出る時に主人夫婦をチラリと見た。

 二人とも一気に十歳も歳をとったように見えた。

 家令は何があったのか不安を抱きながら、自分の職務を全うするために急いで王宮へと連絡を入れるのだった。
 
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