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離れない意味《ソル視点》
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腕の中で小さく震えるリアナ様に目を向ける。その小さな手が、俺の胸元をぎゅっと握りしめると、まるで心臓を握られたような気がした。
アイリーン王家直属の暗部には、諜報部隊と暗殺部隊が所属する。
俺も、そして第1王子シオン殿下の護衛のカイも、暗殺部隊所属だった。
暗部の人間は、元々孤児の人間がほとんどだ。孤児院にいるのを引き取られたり、俺のように道端で浮浪児としていたのを拾われたりした者ばかりだ。
それは、家族のしがらみに囚われない人間を選んでいるということなのかもしれない。
暗部の仕事は過酷だ。
特に暗殺は人を殺めることが仕事なのだから、自分の弱点になるモノは限りなく少ない方がいい。
まぁ、例え家族を人質に取られても仕事を遂行できないような甘さを持った人間は暗部にはいないが、だからといって心が痛まないわけはない。
そのあたりを考慮してくれているんではないかと、俺たちは思っている。
殺人をさせるなんて、と言う大人もきっといるだろう。
だけど、いつまでも孤児院で過ごせるわけではない。ある程度の年齢になれば働きに出なければならない。
孤児院を出たような人間に、まともな仕事先などない。盗みに手を染める者や、命を落とす者も多くいる。
綺麗事で生きていけるほど、世の中は甘くない。
引き取られる時に、どうするか決めたのは俺たち本人だ。嫌だという者を無理矢理連れて行ったりしない。
仕事内容を話した上で、覚悟ができた人間だけを暗部へと引き取るのだ。
王族の護衛は、歴代暗部の人間が務めているらしい。有事の際は、躊躇わず相手を処断し、1人でも十分に対応できるからだろう。
暗部には、数名だが女性もいるため、まさか俺が第1王女の護衛になるとは思わなかった。
リアナ・アイリーン王女殿下。
現王妃様の実のご息女で、16歳。現王妃様と同じ、濡羽色の黒髪と黒曜石の瞳、白く透けるような肌に桜色の頬、赤く色づいた小さな唇を持つ小柄で華奢な少女だ。
ご本人は全然分かっていないようだが、第1王子であるシオン殿下も、ご友人の次期宰相候補のハロルド様も、騎士団長や魔術団長のご子息も、みんなリアナ様を溺愛なさっている。
わかっていないのはご本人と、シオン殿下の周辺をチョロチョロしているピンク色の鼠くらいだ。
最近は、シオン殿下に近づかせないように、カイがうまくシオン殿下を誘導しているらしく、鼠はリアナ様の周囲に出没し出した。
今日も何やら訳のわからないことを言いながら、リアナ様を追い回し、逃げたリアナ様と俺は、何故かロッカーの中に隠れることになった。
不安そうに揺れる瞳に、思わず指先を握りしめ、抱き寄せてしまう。
何か気にかかることがあるのかと尋ねても、何でもないというリアナ様に、もどかしくなる。
俺は、リアナ様付きになってまだ短い。リアナ様にとって信用に足る人間ではないのだろう。
この、誰もが焦がれる至宝が傷つくことがないように、カイと打ち合わせておくか。
腕の中にすっぽりはまる小さな体を抱きしめたまま、俺はそう決意した。
アイリーン王家直属の暗部には、諜報部隊と暗殺部隊が所属する。
俺も、そして第1王子シオン殿下の護衛のカイも、暗殺部隊所属だった。
暗部の人間は、元々孤児の人間がほとんどだ。孤児院にいるのを引き取られたり、俺のように道端で浮浪児としていたのを拾われたりした者ばかりだ。
それは、家族のしがらみに囚われない人間を選んでいるということなのかもしれない。
暗部の仕事は過酷だ。
特に暗殺は人を殺めることが仕事なのだから、自分の弱点になるモノは限りなく少ない方がいい。
まぁ、例え家族を人質に取られても仕事を遂行できないような甘さを持った人間は暗部にはいないが、だからといって心が痛まないわけはない。
そのあたりを考慮してくれているんではないかと、俺たちは思っている。
殺人をさせるなんて、と言う大人もきっといるだろう。
だけど、いつまでも孤児院で過ごせるわけではない。ある程度の年齢になれば働きに出なければならない。
孤児院を出たような人間に、まともな仕事先などない。盗みに手を染める者や、命を落とす者も多くいる。
綺麗事で生きていけるほど、世の中は甘くない。
引き取られる時に、どうするか決めたのは俺たち本人だ。嫌だという者を無理矢理連れて行ったりしない。
仕事内容を話した上で、覚悟ができた人間だけを暗部へと引き取るのだ。
王族の護衛は、歴代暗部の人間が務めているらしい。有事の際は、躊躇わず相手を処断し、1人でも十分に対応できるからだろう。
暗部には、数名だが女性もいるため、まさか俺が第1王女の護衛になるとは思わなかった。
リアナ・アイリーン王女殿下。
現王妃様の実のご息女で、16歳。現王妃様と同じ、濡羽色の黒髪と黒曜石の瞳、白く透けるような肌に桜色の頬、赤く色づいた小さな唇を持つ小柄で華奢な少女だ。
ご本人は全然分かっていないようだが、第1王子であるシオン殿下も、ご友人の次期宰相候補のハロルド様も、騎士団長や魔術団長のご子息も、みんなリアナ様を溺愛なさっている。
わかっていないのはご本人と、シオン殿下の周辺をチョロチョロしているピンク色の鼠くらいだ。
最近は、シオン殿下に近づかせないように、カイがうまくシオン殿下を誘導しているらしく、鼠はリアナ様の周囲に出没し出した。
今日も何やら訳のわからないことを言いながら、リアナ様を追い回し、逃げたリアナ様と俺は、何故かロッカーの中に隠れることになった。
不安そうに揺れる瞳に、思わず指先を握りしめ、抱き寄せてしまう。
何か気にかかることがあるのかと尋ねても、何でもないというリアナ様に、もどかしくなる。
俺は、リアナ様付きになってまだ短い。リアナ様にとって信用に足る人間ではないのだろう。
この、誰もが焦がれる至宝が傷つくことがないように、カイと打ち合わせておくか。
腕の中にすっぽりはまる小さな体を抱きしめたまま、俺はそう決意した。
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