完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

文字の大きさ
68 / 69
第二章

卒業パーティ②

しおりを挟む
「卒業生の皆、改めて学園の卒業おめでとう。卒業後は領地へ戻る者、王都に残り家督を継ぐ者、それぞれの仕事へと就く者など進路は様々だが、いずれも何かしらの形でこの国を背負って行く事になるだろう。私も王太子としての責務を全うし、この国をより良い国へと導ける様に邁進していくつもりだ。時には皆の力を借りる事もあるかもしれない。その時はどうか力を貸してほしい」

 王宮の広間にて始まった卒業パーティは自身も卒業生でもあるアルスト殿下の祝辞から開始された。皆からの信頼も厚く、この国の次期王となるアルスト殿下の言葉に黙って耳を傾ける。

「まぁ、堅苦しいのはここ迄にしよう。学生最後の日だ、今宵のパーティを思う存分楽しんでくれ」

 その言葉を合図に音楽家達が曲を奏でだした。壇上から降りて来た殿下に手を引かれ、ダンスホールの真ん中へと進んでいく。ファーストダンスは卒業生の中で一番地位の高い者が行う事が通例となっているので、王族である殿下とあたしが踊る事になっていた。

 クルクルと曲に合わせてステップを踏む。幼い頃からずっと殿下と踊って来たので慣れたものだ。あたしと身体を寄せ合う様にして一緒にステップを踏む殿下も余裕の表情で、ダンスホールをあちこちへと移動しながらそっと話し掛けて来た。

「あぁ、もうこれでティアナと一緒の学園生活を送れないと思うと少し寂しいよ。学園に来れば毎日会えたこの二年間はとても素晴らしかった」

 学園を卒業された殿下は王太子としての執務が本格的に始まり、時には何ヶ月も掛けて遠征して問題解決に尽力しなければならない。今迄の様に会いたい時は互いの住まいへ訪ねて行けば会えるという事はなくなるのだ。

「わたくしも寂しいです殿下」

 本音は毎日ずっと一緒に居たいくらいなのにこれから約一年間はあまり会えなくなると思うと寂しくて仕方がない。

「実は早速明日から暫く遠征なんだ」
「えっ……」
「隣国のコンフォーネに行ってくるよ」
「まぁ、コンフォーネに……」

 コンフォーネ王国はオルプルート王国から海を挟んだ北側に位置する友好国の一つだ。あたしもかなり昔、殿下と共に王太子の婚約者として訪れた事がある。フルーツの輸出が盛んで国の至る所に様々な果樹園がある甘い香りの漂う国だった。

「毎日手紙を書くよ」
「はい」
「夜には月を見上げて君へ想いを飛ばすから」
「……はい」
「お土産も毎日一つずつ買うからね、楽しみにしていて」
「…………は、い」

 殿下が色々とフォローの言葉をくれるけど、どんどんとあたしの気持ちはへこんで行くのが自分でも分かる。今はこうして殿下の身体に触れる事が出来ているけど、明日からは当分触れることは出来なくなるんだわ。そう思うと殿下の言葉を笑顔で受け止める事が出来なくなってきた。

「……っ!?」

 気が付いたら殿下の身体にギュッと抱き付いている自分が居た。ダンスはまだ終わっておらず、皆の視線はあたし達へと集中している。

「ティアナ?」

 音楽が止まりあたしの頭上から心配そうな殿下の声が聞こえて、思わずハッとする。

「も、申し訳ありませんっ!!」

 とんでもない事をしてしまった。大事なパーティの真っ最中に王太子に抱き付くだなんて。婚約者としても、公爵家の令嬢としてもあってはならない失態だ。周囲がザワついているのが分かる。

「す、少し気分が優れず……殿下に寄りかかってしまいました」

 何とか取り繕って言い訳をしてみたが、どう見ても苦しい言い逃れだろう。どうしよう、どうしよう! こんな失態初めてだ。動揺して足が震える。

「あのっ、控室で休憩して来ます。どうかお許し下さいませ」

 殿下の顔なんて見れない。もしかしたら呆れて幻滅されたかもしれない。俯いたままそう告げ、あたしはフロアから離れようとした。

「なら、私が送ろう。一人では行かせられない」

 すかさず殿下が待ったを掛けて、あたしの手首を掴んだ。振り返る事すら出来ず、泣きそうになるのを堪えて唇を固く結んで殿下の指示に従う。

「タクト、後は頼む」
「あぁ、任せておけ」

 ザワついた生徒達を気にもせず、殿下はあたしをサッと横抱きにして歩き始める。背後では音楽が再び流れ始めた。

「あっ!? だ、大丈夫ですから! 降ろして下さいませ」
「ダメだ。大人しく運ばれていなさい」
「……っ」

 こういう時の殿下には逆らう事は不可能だ。頭の中はグルグルとして考えがまとまらない。処罰されるかもしれない、最悪の場合は婚約破棄なんて事も……。抱き上げられて不安定な身体を支える為、殿下の首へ腕を回しつつも不安で押し潰されそうになるしかなかった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

目指せ、婚約破棄!〜庭師モブ子は推しの悪役令嬢のためハーブで援護します〜

森 湖春
恋愛
島国ヴィヴァルディには存在しないはずのサクラを見た瞬間、ペリーウィンクルは気付いてしまった。 この世界は、前世の自分がどハマりしていた箱庭系乙女ゲームで、自分がただのモブ子だということに。 しかし、前世は社畜、今世は望み通りのまったりライフをエンジョイしていた彼女は、ただ神に感謝しただけだった。 ところが、ひょんなことから同じく前世社畜の転生者である悪役令嬢と知り合ってしまう。 転生して尚、まったりできないでいる彼女がかわいそうで、つい手を貸すことにしたけれど──。 保護者みたいな妖精に甘やかされつつ、庭師モブ子はハーブを駆使してお嬢様の婚約破棄を目指します! ※感想を頂けるとすごく喜びます。執筆の励みになりますので、気楽にどうぞ。 ※『小説家になろう』様にて先行して公開しています。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...