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二皿目 黄身時雨と初恋の人に会いたい鎌いたち
その7 婚活の依頼
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彼――ノリヒサは、笑みを浮かべて立ち上がると、律儀にも鬼之丞や菜々美たちに向かい、サラリーマン風のお辞儀をした。
「僕は渡部ノリヒサです。本来の姿は鎌いたちで、サラリーマンをしています」
(鎌いたち……)
各地に伝承が残っている鎌いたちは、つむじ風の妖怪として知られている。
菜々美が見たところ、ノリヒサは穏やかな性格をして、子供好きのようで、彼は鬼之丞と楽しそうに話している。
「ノリたんは、シャラリーマンなの?」
「そうだよ。大手文房具店の岡山支社で働いている」
「かっこいいね。ななたん」
「本当に……」
あやかしが人間に混じって仕事をしていることに驚いている菜々美を見て、話を聞いていた瑠璃が、ふふふと笑った。
「あたしたちあやかしの多くは、人界で人間として暮らしているの。あたしは化粧品会社に勤めているのよ」
瑠璃は優雅な所作で、有名な化粧品会社の岡山支店長と書かれた名刺を上着の内ポケットから取り出すと、菜々美に手渡した。
「瑠璃さんもノリヒサさんもすごいですね。あやかしだと気づかれないものなのですか?」
「もちろん、気づかれないわ」
うふふと瑠璃が優雅に笑った。
「あやかしは人型を取るのが得意なの。でも違いはあるのよ。基本的に妖怪は睡眠や食事を必要としないの。人間にとっておやつのような感覚で、人間の食べ物を摂ることはあるわ。こうした和菓子は疲れが取れるのよ。一番大きな人間との違いは寿命なの。種類によって個体差があるけれど、人間に比べるとずっと長寿で年を取らない。結婚生活も、とても長いものになるの」
ノリヒサの頬が朱色を帯び、高揚して上ずった声を上げた。
「そうなんです。だからこそ皆、伴侶を慎重に選び、最期まで添い遂げたいと思っているんです! 僕も、実は……け、結婚を……っ」
興奮して真っ赤になり、言葉を呑み込んだノリヒサに、みんなの視線が集中した。
「す、すみません。つい興奮してしまって。実はこちらの『甘味堂夕さり』は婚活を手伝ってくれると聞きまして……。その……探してほしい女性がいるんです。和菓子好きな二口女のあやかしなんですが……別れてしまって」
(別れた女性を忘れられなくて、ノリヒサさんは来店されたんだ……)
初めての婚活のお客を前に、ドキドキと菜々美の胸の鼓動が高鳴っていく。こうして婚活のお手伝いができることが嬉しく誇らしいと思うのだ。
「わかりました。和菓子を食べ終わったら、探してほしいという女性について、詳しくお話を聞かせてください」
咲人の言葉に頷いたノリヒサが、「はい……」と言いかけて、ほぅっとため息をついた。
「店長さんはずいぶん美形ですね。九尾のあやかしは妖力が強いし、うらやましいです。僕の容姿は普通で……だから自信がなくて……その、よろしくお願いします」
ネガティブなノリヒサの気持ちは、美月という美しい双子の妹を持つ菜々美にはよくわかる。ぜひ、この婚活の手伝いを頑張りたいと思った。
「担当の者を呼びますので少々お待ちください」
咲人が携帯電話で二階にいる蘭丸を呼んだ。
急いで階段を下りてきた蘭丸は、笑顔でノリヒサにお辞儀をする。
「僕は婚活担当の熊野蘭丸です。それでは、こちらの用紙にご記入ください」
蘭丸が身上書をテーブルの上に置くと、ノリヒサは頷き、緊張した面持ちで書類に記載した。
「僕は渡部ノリヒサです。本来の姿は鎌いたちで、サラリーマンをしています」
(鎌いたち……)
各地に伝承が残っている鎌いたちは、つむじ風の妖怪として知られている。
菜々美が見たところ、ノリヒサは穏やかな性格をして、子供好きのようで、彼は鬼之丞と楽しそうに話している。
「ノリたんは、シャラリーマンなの?」
「そうだよ。大手文房具店の岡山支社で働いている」
「かっこいいね。ななたん」
「本当に……」
あやかしが人間に混じって仕事をしていることに驚いている菜々美を見て、話を聞いていた瑠璃が、ふふふと笑った。
「あたしたちあやかしの多くは、人界で人間として暮らしているの。あたしは化粧品会社に勤めているのよ」
瑠璃は優雅な所作で、有名な化粧品会社の岡山支店長と書かれた名刺を上着の内ポケットから取り出すと、菜々美に手渡した。
「瑠璃さんもノリヒサさんもすごいですね。あやかしだと気づかれないものなのですか?」
「もちろん、気づかれないわ」
うふふと瑠璃が優雅に笑った。
「あやかしは人型を取るのが得意なの。でも違いはあるのよ。基本的に妖怪は睡眠や食事を必要としないの。人間にとっておやつのような感覚で、人間の食べ物を摂ることはあるわ。こうした和菓子は疲れが取れるのよ。一番大きな人間との違いは寿命なの。種類によって個体差があるけれど、人間に比べるとずっと長寿で年を取らない。結婚生活も、とても長いものになるの」
ノリヒサの頬が朱色を帯び、高揚して上ずった声を上げた。
「そうなんです。だからこそ皆、伴侶を慎重に選び、最期まで添い遂げたいと思っているんです! 僕も、実は……け、結婚を……っ」
興奮して真っ赤になり、言葉を呑み込んだノリヒサに、みんなの視線が集中した。
「す、すみません。つい興奮してしまって。実はこちらの『甘味堂夕さり』は婚活を手伝ってくれると聞きまして……。その……探してほしい女性がいるんです。和菓子好きな二口女のあやかしなんですが……別れてしまって」
(別れた女性を忘れられなくて、ノリヒサさんは来店されたんだ……)
初めての婚活のお客を前に、ドキドキと菜々美の胸の鼓動が高鳴っていく。こうして婚活のお手伝いができることが嬉しく誇らしいと思うのだ。
「わかりました。和菓子を食べ終わったら、探してほしいという女性について、詳しくお話を聞かせてください」
咲人の言葉に頷いたノリヒサが、「はい……」と言いかけて、ほぅっとため息をついた。
「店長さんはずいぶん美形ですね。九尾のあやかしは妖力が強いし、うらやましいです。僕の容姿は普通で……だから自信がなくて……その、よろしくお願いします」
ネガティブなノリヒサの気持ちは、美月という美しい双子の妹を持つ菜々美にはよくわかる。ぜひ、この婚活の手伝いを頑張りたいと思った。
「担当の者を呼びますので少々お待ちください」
咲人が携帯電話で二階にいる蘭丸を呼んだ。
急いで階段を下りてきた蘭丸は、笑顔でノリヒサにお辞儀をする。
「僕は婚活担当の熊野蘭丸です。それでは、こちらの用紙にご記入ください」
蘭丸が身上書をテーブルの上に置くと、ノリヒサは頷き、緊張した面持ちで書類に記載した。
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