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四皿目 どら焼きと離婚寸前の夫婦
その6 夫婦間の問題
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マリナは目頭を押さえながら、小さな声で事の顛末を説明しはじめた。
「……夫は、人界でリフォーム会社を経営していて、帰りが遅くて出張が多いんです。少し前から様子がおかしくて……あたしに隠れるようにして女の人と連絡を取りはじめたんです」
瑠璃が身を乗り出すようにした。
「浮気なんて最低な旦那さんですね。で、相手が女性って、なんでわかったの?」
「家に電話がかかってきたことがあって、あたしが出たんです。若い女性でした。それからあたしが留守の間に、家で夫とその女性が会っているようなんです」
マリナは女の勘で、夫とその女性がこそこそと会っていることに気づいてしまい、ショックを受けたと言う。
「ガツンと言えばよかったのに。遊びならすぐ会うのを止めろって。浮気を続けるなら離婚するからって。最初が肝心だと思うわ」
強気な瑠璃の言葉に、マリナは力なく首を横に振った。
「言えませんでした。本当に離婚になったらと思うと、すごく怖くて。あたしは夫のことをまだ愛しているんです。でも夫は、どんどん冷たくなっていきました」
想像していた以上に、マリナの話はドロドロして、聞いていて辛いものだった。
腕を組んで聞いていた咲人の顔がだんだんと強張り、菜々美の胸の中にもやもやした気持ちが広がっていく。
マリナは夫の浮気で苦しみ、とうとう食事が喉を通らず、体調を崩してしまったという。
「立ち上がれない日もあって……それで、咲人くんに息子をお願いしたんです。咲人くん、本当にごめんなさい」
彼女は夫の不貞に体調が崩れるまで悩み、友人である咲人を頼って、ひとり息子の鬼之丞をこの店に預けたのだった。
「俺に悪いと思わなくていい。鬼之丞がいてくれるのは楽しいし、あの子は仕事の邪魔もしない。それよりマリナ、まだ顔色が悪いが、体調は大丈夫なのか?」
今にも倒れそうなほど痩せて、雪女の瑠璃と同じくらい顔が真っ白で、全然大丈夫そうじゃないのに、咲人の問いに、マリナは無理に笑顔を作り、大丈夫ですと答えた。
「夫は、体調を崩したあたしに呆れたのでしょう。さらに冷たくなりました」
瑠璃がハッと顔を強張らせた。
「まさか、旦那さん、暴力を振るったりするとか?」
「いいえ、手を上げられたことは一度もないです。一応、あたしが体調を崩しているからと、鬼之丞を預けていることも理解してくれてましたし……でも、浮気相手と頻繁に会うようになってから、目も合わせてもらえなくて……」
「それじゃあ、浮気を止めさせるしかないわね。証拠を掴んで、話し合うのが一番じゃないかしら」
強い口調の瑠璃に、マリナはふるふると小さく首を横に振った。
「もう、遅いのかもしれません……」
「どういうこと?」
「実は……昨日、夫から離婚してくれと言われたんです。不倫相手を本気で好きになったからって」
「……!」
話を聞いたみんなが動きを止め、瑠璃が凍り付くような冷気を全身から放ちながらテーブルの上を叩いた。
「何よ、それ! 妻子のある身で不倫相手にうつつを抜かした挙句、離婚したい? 父親としての責任はどこへ行ったのよぅ! 最低っ! バカにつける薬はないわ。もう慰謝料をがっぽり請求して別れるしかないわね!」
「……」
咲人が眉根を寄せて、項垂れているマリナを見つめた。
「マリナは裏切られても、離婚したいと言われても、まだ夫のことが好きなんだな?」
「咲人くん……」
唇を噛みしめ、こくんと小さく頷くマリナにその場が静まり返った。瑠璃が大きく息を吐く。
「バカね、本当に……」
「……夫は、人界でリフォーム会社を経営していて、帰りが遅くて出張が多いんです。少し前から様子がおかしくて……あたしに隠れるようにして女の人と連絡を取りはじめたんです」
瑠璃が身を乗り出すようにした。
「浮気なんて最低な旦那さんですね。で、相手が女性って、なんでわかったの?」
「家に電話がかかってきたことがあって、あたしが出たんです。若い女性でした。それからあたしが留守の間に、家で夫とその女性が会っているようなんです」
マリナは女の勘で、夫とその女性がこそこそと会っていることに気づいてしまい、ショックを受けたと言う。
「ガツンと言えばよかったのに。遊びならすぐ会うのを止めろって。浮気を続けるなら離婚するからって。最初が肝心だと思うわ」
強気な瑠璃の言葉に、マリナは力なく首を横に振った。
「言えませんでした。本当に離婚になったらと思うと、すごく怖くて。あたしは夫のことをまだ愛しているんです。でも夫は、どんどん冷たくなっていきました」
想像していた以上に、マリナの話はドロドロして、聞いていて辛いものだった。
腕を組んで聞いていた咲人の顔がだんだんと強張り、菜々美の胸の中にもやもやした気持ちが広がっていく。
マリナは夫の浮気で苦しみ、とうとう食事が喉を通らず、体調を崩してしまったという。
「立ち上がれない日もあって……それで、咲人くんに息子をお願いしたんです。咲人くん、本当にごめんなさい」
彼女は夫の不貞に体調が崩れるまで悩み、友人である咲人を頼って、ひとり息子の鬼之丞をこの店に預けたのだった。
「俺に悪いと思わなくていい。鬼之丞がいてくれるのは楽しいし、あの子は仕事の邪魔もしない。それよりマリナ、まだ顔色が悪いが、体調は大丈夫なのか?」
今にも倒れそうなほど痩せて、雪女の瑠璃と同じくらい顔が真っ白で、全然大丈夫そうじゃないのに、咲人の問いに、マリナは無理に笑顔を作り、大丈夫ですと答えた。
「夫は、体調を崩したあたしに呆れたのでしょう。さらに冷たくなりました」
瑠璃がハッと顔を強張らせた。
「まさか、旦那さん、暴力を振るったりするとか?」
「いいえ、手を上げられたことは一度もないです。一応、あたしが体調を崩しているからと、鬼之丞を預けていることも理解してくれてましたし……でも、浮気相手と頻繁に会うようになってから、目も合わせてもらえなくて……」
「それじゃあ、浮気を止めさせるしかないわね。証拠を掴んで、話し合うのが一番じゃないかしら」
強い口調の瑠璃に、マリナはふるふると小さく首を横に振った。
「もう、遅いのかもしれません……」
「どういうこと?」
「実は……昨日、夫から離婚してくれと言われたんです。不倫相手を本気で好きになったからって」
「……!」
話を聞いたみんなが動きを止め、瑠璃が凍り付くような冷気を全身から放ちながらテーブルの上を叩いた。
「何よ、それ! 妻子のある身で不倫相手にうつつを抜かした挙句、離婚したい? 父親としての責任はどこへ行ったのよぅ! 最低っ! バカにつける薬はないわ。もう慰謝料をがっぽり請求して別れるしかないわね!」
「……」
咲人が眉根を寄せて、項垂れているマリナを見つめた。
「マリナは裏切られても、離婚したいと言われても、まだ夫のことが好きなんだな?」
「咲人くん……」
唇を噛みしめ、こくんと小さく頷くマリナにその場が静まり返った。瑠璃が大きく息を吐く。
「バカね、本当に……」
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