62 / 65
第62話 互いの想い
しおりを挟む
先に覚醒したのはベリルだった。
「壮大な物語だったな」
どこかちゃかすような口調にも聞こえたが、聞く者が聞けばそれほど深刻に捉えなくても大丈夫だ、と言外に告げているのが分かる言葉だった。
そうした様子を見たところではベリルに変わったものは見られない。
だが、運命の番であるローズには分かった。
「やはり、私のような者ではふさわしくないのですね」
どんよりと淀んだ口調で告げるローズを見たベリルが慌てたように否定する。
「いや、違う。そうではなくてだな、お前の物語はなかなか興味深かった。むしろ愛が増した方だが。なんというかそれに比べて俺のほうは、ちょっと、な」
最後のほうは言葉に力がなく、本当にそう思っているのが窺われた。
どうやら今度はベリルが自分の記憶に自信がないようである。
ローズは深く息を吸うと思い切ったように叫んだ。
「たとえ肥溜めに落ちたとしてもあなたへの想いは変わりませんから!!」
そのローズの言葉に聞いていた者達の動きが止まった。
「懸垂ができなくても、徒競走でうっかりゴール地点を間違えたとしてもあなたはあなたです!! 私はそんなことで評価を変えたりはしません!!」
ローズ言った内容をきいたアンヌがそっとギルに聞く。
「王妃様はどうされてしまったのか分かります?」
「恐らく術の反動かと。それと最愛の番の子供の頃からの記憶を見たのです。多少の興奮状態になってもおかしくありません」
そのギルの言葉で先ほどのギル達のやり取りを思い出したのだろう。
「なるほど」
「その思い切り納得したような目は止めて頂けませんか。なんでこっちまで被弾するんですか!?」
そんなやり取りの中ふいに噴き出すような笑い声が響いた。
「……いや、申し訳ない」
取り繕うように口元を押さえたルイス・サーペントがいた。
どうやらベリル達が意識を失った時間は、カントローサの客人を案内する時間もないほど短かったらしい。
「……客人を案内して差し上げろ」
ベリルがどこか迫力のある口調で告げるが、カントローサの客人には通用しなかったようだった。
「いやお構いなく。お二人の話し合いが済んでからでも大丈夫ですから」
なにやら上機嫌なサーペントは笑みを含んだ口調で続ける。
「いや、まさかシュガルト国王がこんな親しみやすい方とは思いませんでした。これで心置きなく先へ進めます」
――後のことはお願いします。
続けられた言葉を聞いたベリルが舌打ちした。
「長たちは皆、開戦を待ち望んでいる。俺が出て行けば収まるのだが、それでも行くのか?」
今の言葉はどういう意味なのか。
それではまるでサーペントひとりが長たちを説得しに行くように聞こえる。
ローズは式で長たちと挨拶を交わしたことはあったが、その人となりを知るまでは交流がなかった。
「もちろん。そのために来たのですから」
目の前で力強くうなずくサーペントの様子にはどこか気品さえ感じられた。
(この方は……)
「わかった。長たちはまだ城内にいる。リヨンが理屈をつけて留めたからな。だが、早馬を飛ばすのまでは止められなかった。案内をさせよう」
ベリルが合図を送ると従者のひとりが前へ出た。
「カントローサの客人だ。長たちのいる緋色の間へ案内を頼む」
「かしこまりまして」
そうしてカントローサから来たふたりが退出すると、室内になんとも言えない沈黙が流れたが、それを最初に破ったのはベリルだった。
「聞くが、結局これは効いているのだろうな?」
ギルがしっかりとうなずいた。
「それは保証します。一応後で確認を取りますが、おふたりのようすでしたら大丈夫でしょう」
だがベリルはどこか不満そうに告げる。
「替わりにローズの寿命が損なわれるのはかなり不本意だが、それでローズの心の安寧が得られるならしかたないな」
そこへローズがおずおずと話し掛ける。
「あの、離縁のお話は……」
「ないな」
にべもない返答にローズが叫ぶがそれは途中で消えてしまった。
「だめです!! それじゃあ――」
話の途中でベリルがローズの方を掴んで引き寄せたのだ。
「俺はローズ、お前を愛している」
お前はどうなんだ、と目で訴えられたローズがその瞬間、真っ赤になった。
「……私も、愛しています」
「ならこれ以上の議論は不要だな」
「――待っ」
慌てるローズを横抱きにしてベリルは宣言した。
「せっかく気持ちを確認できたのだから、もう少し確かめ合ってくる。後は任せた」
もしここに側近のリヨンがいたならば『後を任せるじゃありません!! まだやるべきことがあるでしょう!!』と怒鳴っていだろうが、彼は現在カントローサ国でベリルが丸投げした案件を必死に片付けている最中である。
物言いたげなアンヌを素通りし、非常時以外は呼ぶな、と言ってベリルは最愛の番と共に自室へ姿を消した。
「壮大な物語だったな」
どこかちゃかすような口調にも聞こえたが、聞く者が聞けばそれほど深刻に捉えなくても大丈夫だ、と言外に告げているのが分かる言葉だった。
そうした様子を見たところではベリルに変わったものは見られない。
だが、運命の番であるローズには分かった。
「やはり、私のような者ではふさわしくないのですね」
どんよりと淀んだ口調で告げるローズを見たベリルが慌てたように否定する。
「いや、違う。そうではなくてだな、お前の物語はなかなか興味深かった。むしろ愛が増した方だが。なんというかそれに比べて俺のほうは、ちょっと、な」
最後のほうは言葉に力がなく、本当にそう思っているのが窺われた。
どうやら今度はベリルが自分の記憶に自信がないようである。
ローズは深く息を吸うと思い切ったように叫んだ。
「たとえ肥溜めに落ちたとしてもあなたへの想いは変わりませんから!!」
そのローズの言葉に聞いていた者達の動きが止まった。
「懸垂ができなくても、徒競走でうっかりゴール地点を間違えたとしてもあなたはあなたです!! 私はそんなことで評価を変えたりはしません!!」
ローズ言った内容をきいたアンヌがそっとギルに聞く。
「王妃様はどうされてしまったのか分かります?」
「恐らく術の反動かと。それと最愛の番の子供の頃からの記憶を見たのです。多少の興奮状態になってもおかしくありません」
そのギルの言葉で先ほどのギル達のやり取りを思い出したのだろう。
「なるほど」
「その思い切り納得したような目は止めて頂けませんか。なんでこっちまで被弾するんですか!?」
そんなやり取りの中ふいに噴き出すような笑い声が響いた。
「……いや、申し訳ない」
取り繕うように口元を押さえたルイス・サーペントがいた。
どうやらベリル達が意識を失った時間は、カントローサの客人を案内する時間もないほど短かったらしい。
「……客人を案内して差し上げろ」
ベリルがどこか迫力のある口調で告げるが、カントローサの客人には通用しなかったようだった。
「いやお構いなく。お二人の話し合いが済んでからでも大丈夫ですから」
なにやら上機嫌なサーペントは笑みを含んだ口調で続ける。
「いや、まさかシュガルト国王がこんな親しみやすい方とは思いませんでした。これで心置きなく先へ進めます」
――後のことはお願いします。
続けられた言葉を聞いたベリルが舌打ちした。
「長たちは皆、開戦を待ち望んでいる。俺が出て行けば収まるのだが、それでも行くのか?」
今の言葉はどういう意味なのか。
それではまるでサーペントひとりが長たちを説得しに行くように聞こえる。
ローズは式で長たちと挨拶を交わしたことはあったが、その人となりを知るまでは交流がなかった。
「もちろん。そのために来たのですから」
目の前で力強くうなずくサーペントの様子にはどこか気品さえ感じられた。
(この方は……)
「わかった。長たちはまだ城内にいる。リヨンが理屈をつけて留めたからな。だが、早馬を飛ばすのまでは止められなかった。案内をさせよう」
ベリルが合図を送ると従者のひとりが前へ出た。
「カントローサの客人だ。長たちのいる緋色の間へ案内を頼む」
「かしこまりまして」
そうしてカントローサから来たふたりが退出すると、室内になんとも言えない沈黙が流れたが、それを最初に破ったのはベリルだった。
「聞くが、結局これは効いているのだろうな?」
ギルがしっかりとうなずいた。
「それは保証します。一応後で確認を取りますが、おふたりのようすでしたら大丈夫でしょう」
だがベリルはどこか不満そうに告げる。
「替わりにローズの寿命が損なわれるのはかなり不本意だが、それでローズの心の安寧が得られるならしかたないな」
そこへローズがおずおずと話し掛ける。
「あの、離縁のお話は……」
「ないな」
にべもない返答にローズが叫ぶがそれは途中で消えてしまった。
「だめです!! それじゃあ――」
話の途中でベリルがローズの方を掴んで引き寄せたのだ。
「俺はローズ、お前を愛している」
お前はどうなんだ、と目で訴えられたローズがその瞬間、真っ赤になった。
「……私も、愛しています」
「ならこれ以上の議論は不要だな」
「――待っ」
慌てるローズを横抱きにしてベリルは宣言した。
「せっかく気持ちを確認できたのだから、もう少し確かめ合ってくる。後は任せた」
もしここに側近のリヨンがいたならば『後を任せるじゃありません!! まだやるべきことがあるでしょう!!』と怒鳴っていだろうが、彼は現在カントローサ国でベリルが丸投げした案件を必死に片付けている最中である。
物言いたげなアンヌを素通りし、非常時以外は呼ぶな、と言ってベリルは最愛の番と共に自室へ姿を消した。
121
あなたにおすすめの小説
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!
ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。
貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。
実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。
嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。
そして告げられたのは。
「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」
理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。
…はずだったが。
「やった!自由だ!」
夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。
これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが…
これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。
生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。
縁を切ったはずが…
「生活費を負担してちょうだい」
「可愛い妹の為でしょ?」
手のひらを返すのだった。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした
三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。
書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。
ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。
屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』
ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく――
※他サイトにも掲載
※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる