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第6話 オリビア・ランドール男爵令嬢 ①
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結局アレクシアは帰宅後フォンデル公爵へ話を通した。
「そうか。帝国の第二王子がな」
少し間を置いた後、フォンデル公爵が口を開く。
「帝国は王太子が有能だから第二王子がすげ代わる可能性は低いな。だが、悪くはない」
その後、フォンデル公爵から王家へ話を持って行くことになった。
王家との婚約だったがユクトルの態度があまりにも悪すぎたことと、アレクシアの新しい縁談のめどがついたこともある。
ユージーンとの婚約の話はユクトルとの婚約破棄が済んでから話すことになった。
これは王家側が邪魔するかもしれない、という配慮も入っている。
「それでも王太子を諫められなかった王家の過失はある。そう言えば王太子の恋人とされているのは……オリビア・ランドール男爵令嬢とか言ったか?」
「はい」
フォンデル公爵は少し考え込んだ様子を見せたが、話はそこで終わりになった。
翌日、アレクシアはいつも通り公爵家の馬車で学園に向かっていた。
これも本当なら婚約者であるユクトルが迎えに来るべきだったが、ユクトルは一度も迎えに来たことなどなかった。
代わりにランドール男爵令嬢の元へは何度か迎えに行っていたようだったが、今はそうしていない。
報告によるとオリビア自身が止めたようだった。
仮にも王族のような身分の高い方が婚約者でもなく、身分も低い自分を迎えになど有り得ない、と言って。
一度目の生で見たオリビアはそんなことを言ったことなど一度もなかったはずである。
アレクシアは記憶を爪繰って一度目の生のオリビアの言葉を思い返した。
――あら、そんなところにいたんですか? 目立たない色合いなので少しも気付かなかったわ。
――今晩は隣国モントスの王太子夫妻との晩餐会なの。あなたの代わりに出席してあげるわね。
――明後日は舞踏会なの。本当に忙しいわ。じゃあね、何もしない正妃さん。
男性達から見れば『庇護欲をそそられるかわいらしい令嬢』だったが、女性のアレクシアから見ると印象は最悪だった。
ユクトルの側近達からも持てはやされ、舞踏会に必要だから、と高価なドレスや装飾品に湯水のように国庫の金を使う。
危機管理の予算にまで手を付けようとした際には流石にアレクシアも止めたが、誰も聞く耳を持たなかった。
――万一のための予算? そんなの起きるわけないでしょう。
――それより次の舞踏会が大事よ。早く注文しておかないとドレスが間に合わないわ。
――話はそれだけ? 髪飾りが決まらないのよ。全く忙しいんだから余計なことで来ないでね。
側妃という立場だとしても有り得ない発言ばかりだった。
そんなオリビアがユクトルの送迎を断った?
――一体何が起きているの?
この巻き戻りが起きて以降、訳のわからないことばかりが起きている気がする。
オリビアとはクラスが違うこともあり、あまり顔を合わせたことはない。
そして一度目の生の記憶が蘇ってからは、まだ一度も顔を合わせたことはなかった。
馬車が学園の馬車寄せに停まり、アレクシアはいつも通り御者のシモンの手を借りて降りようとしたが、そこで声を掛けられた。
「おはよう。フォンデル公爵令嬢」
声の主――ユージーン――はアレクシアの方へ手を伸ばす。
アレクシアはその手を物問いたげに見てから口を開いた。
「……帝国の第二王子ともあろう方がされることとは思えません」
通学時間帯のため、当然周囲には他の生徒達の姿もある。
ちらほらと視線を集めているのを感じているアレクシアはそう告げるとシモンの手を借りて馬車から降りた。
「おはようございます。第二王子殿下」
「おはよう。だけどその呼び方はもう少しなんとかならないのかな?」
困ったようにユージーンが微笑むがそれすらも様になっている。
――困ったわね。取りなした方がいいのに今の表情も素敵、なんて思ってしまうなんて。
そんなアレクシアの思いも知らないユージーンが再び口を開き掛けた時、新たな声が割って入った。
「朝からご令嬢を困らせるのは止めて下さい。ユージーン殿下」
マッテオの登場にアレクシアが体の力を抜きかけたのも束の間、ユージーンは面白くなさそうな表情になった。
「そこだよ。ねえ。フォンデル公爵令嬢。俺も名前で呼びたいからユージーンと呼んでくれないかな?」
令嬢が異性を名で呼ぶのは家族か伴侶のみ。
周囲で様子を窺っていた生徒達が騒めくのが分かった。
――どうしてこの方は。
ユクトルとの婚約解消はまだされていない。
今の時点でユージーンのことを名前呼びなどすれば一体どうなってしまうことか。
アレクシアは口もとを引き締め、固い声で答える。
「恐れながら私は婚約者がいる身にございます。帝国の慣習がどういったものかは存じませんが、我が国ではそう言ったことはできませんので、ご寛恕下さいますようお願いいたします」
周囲の目もあるため、わざと仰々しい言葉を選んだアレクシアにユージーンは苦笑したようだった。
「わかったよ。フォンデル公爵令嬢」
その後は混乱もなく教室へ移動できたが、問題はその後に起きた。
「これは一体どういうことなんだ?」
教室へ入るなり、ユクトルに詰問されたのである。
ユクトルも同じクラスのためここにいるのはおかしなことではないが、書類仕事等を押し付ける以外で声を掛けられたのは久々だったため、反応が遅れてしまった。
「なんのお話でしょうか?」
「どうしてそいつとは一緒に居るんだ!?」
詰問されたアレクシアの脳裏に疑問符が浮かぶ。
「どういう意味でしょうか?」
ユクトルはその王家独特の青い瞳で睨みながら告げた。
「俺とは共にいないくせにその帝国の奴とは親し気にしているな。誰が婚約者なのか分かっていないようだな」
その内容に教室内のあちらこちらから胡乱気な視線が飛び、それはこう言っているようだった。
――お前が言うか、と。
アレクシアとしてもあまりにも有り得ない内容と、仮にも帝国の第二王子相手にそんなことを言っていいのか、という気持ちが交差し、どちらを先に咎めるべきか、とこれまた反応が遅れてしまった。
「その『奴』とは俺のことかな?」
涼し気な声が割って入るがアレクシアの心の中はまったく涼しげではない。
声の主はユージーンであり、勿論彼も同じSクラスの生徒である。
コントワーズ国とシグルド帝国ではシグルド帝国の方が国力は上である。
今回の第二王子の留学も第二王子の希望もあったらしいが、コントワーズ国側がぜひに、と歓迎の意を表していた。
そこにこのユクトルの発言は頂けない。
外交問題になってはいけない、とアレクシアが口を開こうとしたとき、このクラスでは聞いたことのない声がした。
「ご歓談中のところ失礼いたします」
「そうか。帝国の第二王子がな」
少し間を置いた後、フォンデル公爵が口を開く。
「帝国は王太子が有能だから第二王子がすげ代わる可能性は低いな。だが、悪くはない」
その後、フォンデル公爵から王家へ話を持って行くことになった。
王家との婚約だったがユクトルの態度があまりにも悪すぎたことと、アレクシアの新しい縁談のめどがついたこともある。
ユージーンとの婚約の話はユクトルとの婚約破棄が済んでから話すことになった。
これは王家側が邪魔するかもしれない、という配慮も入っている。
「それでも王太子を諫められなかった王家の過失はある。そう言えば王太子の恋人とされているのは……オリビア・ランドール男爵令嬢とか言ったか?」
「はい」
フォンデル公爵は少し考え込んだ様子を見せたが、話はそこで終わりになった。
翌日、アレクシアはいつも通り公爵家の馬車で学園に向かっていた。
これも本当なら婚約者であるユクトルが迎えに来るべきだったが、ユクトルは一度も迎えに来たことなどなかった。
代わりにランドール男爵令嬢の元へは何度か迎えに行っていたようだったが、今はそうしていない。
報告によるとオリビア自身が止めたようだった。
仮にも王族のような身分の高い方が婚約者でもなく、身分も低い自分を迎えになど有り得ない、と言って。
一度目の生で見たオリビアはそんなことを言ったことなど一度もなかったはずである。
アレクシアは記憶を爪繰って一度目の生のオリビアの言葉を思い返した。
――あら、そんなところにいたんですか? 目立たない色合いなので少しも気付かなかったわ。
――今晩は隣国モントスの王太子夫妻との晩餐会なの。あなたの代わりに出席してあげるわね。
――明後日は舞踏会なの。本当に忙しいわ。じゃあね、何もしない正妃さん。
男性達から見れば『庇護欲をそそられるかわいらしい令嬢』だったが、女性のアレクシアから見ると印象は最悪だった。
ユクトルの側近達からも持てはやされ、舞踏会に必要だから、と高価なドレスや装飾品に湯水のように国庫の金を使う。
危機管理の予算にまで手を付けようとした際には流石にアレクシアも止めたが、誰も聞く耳を持たなかった。
――万一のための予算? そんなの起きるわけないでしょう。
――それより次の舞踏会が大事よ。早く注文しておかないとドレスが間に合わないわ。
――話はそれだけ? 髪飾りが決まらないのよ。全く忙しいんだから余計なことで来ないでね。
側妃という立場だとしても有り得ない発言ばかりだった。
そんなオリビアがユクトルの送迎を断った?
――一体何が起きているの?
この巻き戻りが起きて以降、訳のわからないことばかりが起きている気がする。
オリビアとはクラスが違うこともあり、あまり顔を合わせたことはない。
そして一度目の生の記憶が蘇ってからは、まだ一度も顔を合わせたことはなかった。
馬車が学園の馬車寄せに停まり、アレクシアはいつも通り御者のシモンの手を借りて降りようとしたが、そこで声を掛けられた。
「おはよう。フォンデル公爵令嬢」
声の主――ユージーン――はアレクシアの方へ手を伸ばす。
アレクシアはその手を物問いたげに見てから口を開いた。
「……帝国の第二王子ともあろう方がされることとは思えません」
通学時間帯のため、当然周囲には他の生徒達の姿もある。
ちらほらと視線を集めているのを感じているアレクシアはそう告げるとシモンの手を借りて馬車から降りた。
「おはようございます。第二王子殿下」
「おはよう。だけどその呼び方はもう少しなんとかならないのかな?」
困ったようにユージーンが微笑むがそれすらも様になっている。
――困ったわね。取りなした方がいいのに今の表情も素敵、なんて思ってしまうなんて。
そんなアレクシアの思いも知らないユージーンが再び口を開き掛けた時、新たな声が割って入った。
「朝からご令嬢を困らせるのは止めて下さい。ユージーン殿下」
マッテオの登場にアレクシアが体の力を抜きかけたのも束の間、ユージーンは面白くなさそうな表情になった。
「そこだよ。ねえ。フォンデル公爵令嬢。俺も名前で呼びたいからユージーンと呼んでくれないかな?」
令嬢が異性を名で呼ぶのは家族か伴侶のみ。
周囲で様子を窺っていた生徒達が騒めくのが分かった。
――どうしてこの方は。
ユクトルとの婚約解消はまだされていない。
今の時点でユージーンのことを名前呼びなどすれば一体どうなってしまうことか。
アレクシアは口もとを引き締め、固い声で答える。
「恐れながら私は婚約者がいる身にございます。帝国の慣習がどういったものかは存じませんが、我が国ではそう言ったことはできませんので、ご寛恕下さいますようお願いいたします」
周囲の目もあるため、わざと仰々しい言葉を選んだアレクシアにユージーンは苦笑したようだった。
「わかったよ。フォンデル公爵令嬢」
その後は混乱もなく教室へ移動できたが、問題はその後に起きた。
「これは一体どういうことなんだ?」
教室へ入るなり、ユクトルに詰問されたのである。
ユクトルも同じクラスのためここにいるのはおかしなことではないが、書類仕事等を押し付ける以外で声を掛けられたのは久々だったため、反応が遅れてしまった。
「なんのお話でしょうか?」
「どうしてそいつとは一緒に居るんだ!?」
詰問されたアレクシアの脳裏に疑問符が浮かぶ。
「どういう意味でしょうか?」
ユクトルはその王家独特の青い瞳で睨みながら告げた。
「俺とは共にいないくせにその帝国の奴とは親し気にしているな。誰が婚約者なのか分かっていないようだな」
その内容に教室内のあちらこちらから胡乱気な視線が飛び、それはこう言っているようだった。
――お前が言うか、と。
アレクシアとしてもあまりにも有り得ない内容と、仮にも帝国の第二王子相手にそんなことを言っていいのか、という気持ちが交差し、どちらを先に咎めるべきか、とこれまた反応が遅れてしまった。
「その『奴』とは俺のことかな?」
涼し気な声が割って入るがアレクシアの心の中はまったく涼しげではない。
声の主はユージーンであり、勿論彼も同じSクラスの生徒である。
コントワーズ国とシグルド帝国ではシグルド帝国の方が国力は上である。
今回の第二王子の留学も第二王子の希望もあったらしいが、コントワーズ国側がぜひに、と歓迎の意を表していた。
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