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第5話 帝国の第二王子 ③
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思わずその場にいたユージーン以外の声が揃った。
「何を考えてるんですか!?」
マッテオがそう突っ込むがユージーンは頓着していないようである。
「証拠どころか証人も揃えているのだろう? ここまでくると王太子というメンツを保ったまま、穏やかに婚約解消に持って行くのがいいだろう」
「その後です!! それでどうしてフォンデル公爵令嬢が貴方に嫁さなければならないんですか!?」
確か一度目の生ではユージーンは隣国の王女と婚姻していたはずだ。
だが、王女は病弱で王子を産んだ後、しばらくして亡くなったと聞いている。
その方はどうされたのかしら?
アレクシアの疑問に答えるようにユージーンが口を開いた。
「ちょうどよく俺はまだ婚約が調っていないからね。フォンデル公爵令嬢なら帝国のうるさがたも黙るだろう」
婚約が調っていない?
ではあの王女とは一体どうしたのかしら?
そう思っても一度目の生のことは話せないため、聞くに聞けない。
もどかしい思いを抱えているとマッテオがほえた。
「何がちょうどよく、ですか。持ち込まれる縁談を端から断ってるくせに」
まあ、と聞いていたゾフィーが口元を軽く押さえた。
王族としてそれはいいのだろうか。
そんな視線を集めたユージーンがさらりと答える。
「その辺はちゃんと考えているよ。縁談を断る代わりに兄上の外交の仕事を肩代わりしたり、ね」
仕事はしている、というユージーンにマッテオが呆れたように告げた。
「それでも有力な国との縁談は王族の義務ですよ。貴方が断るお陰で国内の一部の令嬢が行き遅れになりそうなんですが」
聞いてみると、第二王子であるユージーンを諦めきれない令嬢達が自分の縁談を先延ばしにしているという。
「だからね。ここで真実の愛に身を引いたフォンデル公爵令嬢が婚約者になってくれるととても嬉しいのだけど」
どうかな?
柔らかく笑みを含んだ問い掛けにとっさにアレクシアは返答ができなかった。
一見すると理屈は通っているようだが、これはアレクシアの一存で決められることではない。
マッテオが見かねたように話に割って入った。
「何無理強いされてるんですか!? というか、ご結婚される意思があったんですね」
「ひどい言い草だな。そんなに人を独り身にしたいのか?」
「いいえ。ですがこれまでどこの国のどれほどよい縁談を持ってきても頷いてくれなかったユージーン殿下がこれほど素直に求婚されていらっしゃるので少し驚いただけです」
マッテオの言葉にゾフィーが期待するような視線をアルディスに向けたが、アレクシアはそっと視線を逸らした。
「お気持ちはたいへん嬉しいのですが、私ひとりで決めることはできませんので、家へ持ち帰ってもよろしいでしょうか?」
「勿論構わないよ」
「まあそうでしょうね」
シグルド帝国の主従はそう頷いたがゾフィーの反応は少し違った。
「あら残念」
「ランズベルト侯爵令嬢?」
アレクシアが問い掛けるとゾフィーは翠の瞳を瞬かせた。
「あら、ゾフィーと呼んで下さい。聞いた限りでは王太子殿下はひどすぎますわ。アレクシア様――とお呼びしてもよろしいでしょうか? も少しはご自分の意思を露わにした方がよろしいのではないかと思いました」
そう告げた後、ごめんなさい、と謝辞を示されてしまったのはアレクシアが公爵令嬢で、ゾフィーがその下の侯爵令嬢だからだろう。
気になさらないで下さい、と先に告げてアレクシアは口を開いた。
「ご助言ありがとうございます。ゾフィー様。ですが婚約は家の大事になりますので、個人での判断はできませんわ」
一度目の生でアレクシアには友人ができなかった。
ランズベルト侯爵令嬢は確か国内の有力貴族であるシャトー辺境伯と婚約していたはずである。
シャトー辺境伯は国境を任されるだけのことはあって、皆武芸に秀でいると聞く。
そこへ嫁したゾフィーも肝が据わっていたようでアレクシアの記憶が確かなら一男二女の子供に恵まれ、社交界には滅多にこないものの、その仲睦まじさは通いの商人たちや辺境へ演練で向かった騎士団たちがよく噂していた。
――羨ましい。
そんなことを思い返したアレクシアの前でゾフィーが申し訳なさそうな顔をした。
「申し訳ありません。つい気が急いてしまったようですわね。でも、アレクシア様でしたらシグルド帝国でもきっとご活躍されそうな気がして」
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいですわ」
ゾフィーの言葉には表面だけではない誠実さがあるように思えた。
彼女のような友人がいれば一度目の生であれほど酷い思いをしなくても済んだのかしら?
相手は王族のため、実質的な対処は難しかったかもしれないが、よい相談相手にはなってくれただろう。
「ゾフィー様、できればでよろしいのですがまた会って下さいますか?」
「アレクシア様?」
できれば友人になりたい、と告げるとゾフィーが目を見開く。
その反応を見たアレクシアは早まったか、と思ったが実際は違った。
「勿論ですわ!! と言いますかもうお友達ですわ!!」
「まあ、ありがとうございます」
アレクシアがにこり、と微笑むとユージーンが、うっ、と胸を押さえた。
「威力が凄い」
「ええまあ、これが恋のなせる業ですかね」
小声でユージーンとマッテオが何か話していたがアレクシアにはあまり届かなかった。
「殿下、どうされましたか?」
「何でもありませんよ。フォンデル公爵令嬢」
そう返すユージーンの表情には先ほどまでの動揺はないように見えた。
――気のせいかしら?
アレクシアの困惑をよそに会話は続く。
「では、フォンデル公爵の了承が得られれば婚約を結んでいただけるのですね?」
重ねてユージーンに聞かれてアレクシアは頷いた。
「ええ」
本当は生家より身分の高い家へ嫁ぐのは気が進まなかったが、この場で断るのは不自然である。
無難な返答をするアレクシアをゾフィーが心配げに見ていたことにアレクシアは気付かなかった。
「何を考えてるんですか!?」
マッテオがそう突っ込むがユージーンは頓着していないようである。
「証拠どころか証人も揃えているのだろう? ここまでくると王太子というメンツを保ったまま、穏やかに婚約解消に持って行くのがいいだろう」
「その後です!! それでどうしてフォンデル公爵令嬢が貴方に嫁さなければならないんですか!?」
確か一度目の生ではユージーンは隣国の王女と婚姻していたはずだ。
だが、王女は病弱で王子を産んだ後、しばらくして亡くなったと聞いている。
その方はどうされたのかしら?
アレクシアの疑問に答えるようにユージーンが口を開いた。
「ちょうどよく俺はまだ婚約が調っていないからね。フォンデル公爵令嬢なら帝国のうるさがたも黙るだろう」
婚約が調っていない?
ではあの王女とは一体どうしたのかしら?
そう思っても一度目の生のことは話せないため、聞くに聞けない。
もどかしい思いを抱えているとマッテオがほえた。
「何がちょうどよく、ですか。持ち込まれる縁談を端から断ってるくせに」
まあ、と聞いていたゾフィーが口元を軽く押さえた。
王族としてそれはいいのだろうか。
そんな視線を集めたユージーンがさらりと答える。
「その辺はちゃんと考えているよ。縁談を断る代わりに兄上の外交の仕事を肩代わりしたり、ね」
仕事はしている、というユージーンにマッテオが呆れたように告げた。
「それでも有力な国との縁談は王族の義務ですよ。貴方が断るお陰で国内の一部の令嬢が行き遅れになりそうなんですが」
聞いてみると、第二王子であるユージーンを諦めきれない令嬢達が自分の縁談を先延ばしにしているという。
「だからね。ここで真実の愛に身を引いたフォンデル公爵令嬢が婚約者になってくれるととても嬉しいのだけど」
どうかな?
柔らかく笑みを含んだ問い掛けにとっさにアレクシアは返答ができなかった。
一見すると理屈は通っているようだが、これはアレクシアの一存で決められることではない。
マッテオが見かねたように話に割って入った。
「何無理強いされてるんですか!? というか、ご結婚される意思があったんですね」
「ひどい言い草だな。そんなに人を独り身にしたいのか?」
「いいえ。ですがこれまでどこの国のどれほどよい縁談を持ってきても頷いてくれなかったユージーン殿下がこれほど素直に求婚されていらっしゃるので少し驚いただけです」
マッテオの言葉にゾフィーが期待するような視線をアルディスに向けたが、アレクシアはそっと視線を逸らした。
「お気持ちはたいへん嬉しいのですが、私ひとりで決めることはできませんので、家へ持ち帰ってもよろしいでしょうか?」
「勿論構わないよ」
「まあそうでしょうね」
シグルド帝国の主従はそう頷いたがゾフィーの反応は少し違った。
「あら残念」
「ランズベルト侯爵令嬢?」
アレクシアが問い掛けるとゾフィーは翠の瞳を瞬かせた。
「あら、ゾフィーと呼んで下さい。聞いた限りでは王太子殿下はひどすぎますわ。アレクシア様――とお呼びしてもよろしいでしょうか? も少しはご自分の意思を露わにした方がよろしいのではないかと思いました」
そう告げた後、ごめんなさい、と謝辞を示されてしまったのはアレクシアが公爵令嬢で、ゾフィーがその下の侯爵令嬢だからだろう。
気になさらないで下さい、と先に告げてアレクシアは口を開いた。
「ご助言ありがとうございます。ゾフィー様。ですが婚約は家の大事になりますので、個人での判断はできませんわ」
一度目の生でアレクシアには友人ができなかった。
ランズベルト侯爵令嬢は確か国内の有力貴族であるシャトー辺境伯と婚約していたはずである。
シャトー辺境伯は国境を任されるだけのことはあって、皆武芸に秀でいると聞く。
そこへ嫁したゾフィーも肝が据わっていたようでアレクシアの記憶が確かなら一男二女の子供に恵まれ、社交界には滅多にこないものの、その仲睦まじさは通いの商人たちや辺境へ演練で向かった騎士団たちがよく噂していた。
――羨ましい。
そんなことを思い返したアレクシアの前でゾフィーが申し訳なさそうな顔をした。
「申し訳ありません。つい気が急いてしまったようですわね。でも、アレクシア様でしたらシグルド帝国でもきっとご活躍されそうな気がして」
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいですわ」
ゾフィーの言葉には表面だけではない誠実さがあるように思えた。
彼女のような友人がいれば一度目の生であれほど酷い思いをしなくても済んだのかしら?
相手は王族のため、実質的な対処は難しかったかもしれないが、よい相談相手にはなってくれただろう。
「ゾフィー様、できればでよろしいのですがまた会って下さいますか?」
「アレクシア様?」
できれば友人になりたい、と告げるとゾフィーが目を見開く。
その反応を見たアレクシアは早まったか、と思ったが実際は違った。
「勿論ですわ!! と言いますかもうお友達ですわ!!」
「まあ、ありがとうございます」
アレクシアがにこり、と微笑むとユージーンが、うっ、と胸を押さえた。
「威力が凄い」
「ええまあ、これが恋のなせる業ですかね」
小声でユージーンとマッテオが何か話していたがアレクシアにはあまり届かなかった。
「殿下、どうされましたか?」
「何でもありませんよ。フォンデル公爵令嬢」
そう返すユージーンの表情には先ほどまでの動揺はないように見えた。
――気のせいかしら?
アレクシアの困惑をよそに会話は続く。
「では、フォンデル公爵の了承が得られれば婚約を結んでいただけるのですね?」
重ねてユージーンに聞かれてアレクシアは頷いた。
「ええ」
本当は生家より身分の高い家へ嫁ぐのは気が進まなかったが、この場で断るのは不自然である。
無難な返答をするアレクシアをゾフィーが心配げに見ていたことにアレクシアは気付かなかった。
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