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第4話 帝国の第二王子 ②
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相変わらずユクトルはオリビアと密会を繰り返しているようだった。
彼らは学園内でも同様のことをしており、証拠も証人も充分と言える。
――本当に有り得ないわね。
報告の内容を思い返しながらアレクシアはため息を堪えた。
このまま行けばユクトルとの婚約破棄はできそうだが、ではそれから先は?
ユクトルとは幼い頃から婚約が決められていて、そういった事情は他の令息達も変わりなかった。
現在アレクシアに釣り合う年齢と家柄の令息は皆縁談が纏まっており、アレクシアが入る隙などない状況である。
このまま行けば公爵家は親戚の中から跡取りを探すことになり、そしてアレクシアは――
修道院にでも行くのかしら?
そこでの生活は質素倹約は当たり前で、公爵令嬢であるアレクシアにはキツいかもしれないが、今のアレクシアには一度目の記憶がある。
寝る間もなく次々と舞いこむ書類仕事に加え、食事もろくに与えられない生活。
いっそ修道院へ入った方が楽かもしれない。
ふっと遠い目になったアレクシアに声がかかったのはその時だった。
「何を考えているのかな?」
意識を戻したアレクシアはここが学園内のガゼボであり、うららかな陽気のなか、ユージーンに求められた茶会の最中だということを思い出した。
「いえ。何でもありません」
そつなく答えるアレクシアの右隣りから心配げな声がかかった。
「殿下、無理強いはいけないと思いますわ。フォンデル公爵令嬢も戸惑いからまだ覚めていらっしゃらないようですし」
取りなすように口を挟んだのはこのコントワーズ王国の侯爵令嬢であるゾフィー・ランズベルト侯爵令嬢である。
赤茶色の髪を長く伸ばしており、翠の瞳とよく似あっている。彼女の家は織物を主に流通させており、帝国とも取引があった。
そこを見込まれてこの場に呼ばれたのだろう。
今回このガゼボにはランズベルト侯爵令嬢の他にもう一人の男子生徒がいた。
「殿下は無茶ぶりが多いですから。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。フォンデル公爵令嬢」
こちらは濃い焦げ茶の髪を項の辺りで括っており、水色の瞳を持っていた。
――マッテオ・アルケゾミス侯爵令息。
シグルド帝国から共に来たこの侯爵令息はユージーンの側近候補らしい。
学業や剣技はもちろん、共通語を始めとした四か国語をこなす逸材という評価である。
ユージーンも成績優秀であり、剣技もそつなくこなし、こちらは五か国語に秀でているらしい。
主がそうなら付き従う者もそうなるのかしら。
この茶会が開かれた経緯を知る二人の言葉にアレクシアは微笑んで答えた。
「いえ。お気になさらず。私も少し気晴らしができてほっとしておりますの」
アレクシアが置かれている状況を知っているのか、ああ、という空気が流れた。
どうやらユージーンがアレクシアに公務などを押しつけていることは周知の事実らしい。
微妙な雰囲気のなか、ユージーンがおもむろに口を開いた。
「そのことも気になっていたんだけれどね。フォンデル公爵令嬢はそれでいいのかい?」
他国の者が口を挟むのはお門違いだとわかっているんだけどね。
そう付け加えられて、少し話しておいてもいいのではないかと思い、他言無用として話すことにした。
――ユクトルがランドール男爵令嬢と懇意なこと。
――仕事を押し付けられていること。
――今度の舞踏会でエスコートができないと言われたこと。
「ですので、証拠も大分集まりまして。頃合いを見て王家と話し合いの場を設けたいと思っているところですの」
何故時期に関してはっきりした言葉を使わないのかというと、タイミングを見計らっていることもある。
コントワーズの王家にはユクトルしか王子がおらず、王妃の生家は伯爵家で後ろ盾としては少し弱い。
そのこともあり、我がフォンデル公爵家へ婚約の話が持ち込まれたというのに、ユクトルの愛人は男爵令嬢である。
――まさか、私に側室になって王家を支えろ、とか言って来ないわよね?
ユクトルの性格を考えると有り得ないとは言い切れない。
ランドール男爵令嬢は一度目の生ではパーティに参加することくらいしかしていなかった。
婚約破棄できたとしても、ユクトルの側室になってしまったら意味がない。
そんなことをつらつらと思い悩んでいるとユージーンが声を掛けてきた。
「確かにコントワーズの王太子は道を間違えているようだね。それでその後フォンデル公爵令嬢はどうするのかな?」
先を見越した問い掛けにアルディスは言葉を濁すしかなかった。
「それは……その時になったら考えますわ」
やはり修道院だろうか。
そんなことを思った時、ユージーンの青い瞳がアルディスを捕らえた。
「では、こういうのはどうだろう? コントワーズの王太子が真実の愛を見付けたため長年の婚約者であるフォンデル公爵令嬢が身を引いた。そしてその性根を気に入ったシグルド帝国の第二王子に見初められて婚約する、というのは?」
「「「は?」」」
彼らは学園内でも同様のことをしており、証拠も証人も充分と言える。
――本当に有り得ないわね。
報告の内容を思い返しながらアレクシアはため息を堪えた。
このまま行けばユクトルとの婚約破棄はできそうだが、ではそれから先は?
ユクトルとは幼い頃から婚約が決められていて、そういった事情は他の令息達も変わりなかった。
現在アレクシアに釣り合う年齢と家柄の令息は皆縁談が纏まっており、アレクシアが入る隙などない状況である。
このまま行けば公爵家は親戚の中から跡取りを探すことになり、そしてアレクシアは――
修道院にでも行くのかしら?
そこでの生活は質素倹約は当たり前で、公爵令嬢であるアレクシアにはキツいかもしれないが、今のアレクシアには一度目の記憶がある。
寝る間もなく次々と舞いこむ書類仕事に加え、食事もろくに与えられない生活。
いっそ修道院へ入った方が楽かもしれない。
ふっと遠い目になったアレクシアに声がかかったのはその時だった。
「何を考えているのかな?」
意識を戻したアレクシアはここが学園内のガゼボであり、うららかな陽気のなか、ユージーンに求められた茶会の最中だということを思い出した。
「いえ。何でもありません」
そつなく答えるアレクシアの右隣りから心配げな声がかかった。
「殿下、無理強いはいけないと思いますわ。フォンデル公爵令嬢も戸惑いからまだ覚めていらっしゃらないようですし」
取りなすように口を挟んだのはこのコントワーズ王国の侯爵令嬢であるゾフィー・ランズベルト侯爵令嬢である。
赤茶色の髪を長く伸ばしており、翠の瞳とよく似あっている。彼女の家は織物を主に流通させており、帝国とも取引があった。
そこを見込まれてこの場に呼ばれたのだろう。
今回このガゼボにはランズベルト侯爵令嬢の他にもう一人の男子生徒がいた。
「殿下は無茶ぶりが多いですから。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。フォンデル公爵令嬢」
こちらは濃い焦げ茶の髪を項の辺りで括っており、水色の瞳を持っていた。
――マッテオ・アルケゾミス侯爵令息。
シグルド帝国から共に来たこの侯爵令息はユージーンの側近候補らしい。
学業や剣技はもちろん、共通語を始めとした四か国語をこなす逸材という評価である。
ユージーンも成績優秀であり、剣技もそつなくこなし、こちらは五か国語に秀でているらしい。
主がそうなら付き従う者もそうなるのかしら。
この茶会が開かれた経緯を知る二人の言葉にアレクシアは微笑んで答えた。
「いえ。お気になさらず。私も少し気晴らしができてほっとしておりますの」
アレクシアが置かれている状況を知っているのか、ああ、という空気が流れた。
どうやらユージーンがアレクシアに公務などを押しつけていることは周知の事実らしい。
微妙な雰囲気のなか、ユージーンがおもむろに口を開いた。
「そのことも気になっていたんだけれどね。フォンデル公爵令嬢はそれでいいのかい?」
他国の者が口を挟むのはお門違いだとわかっているんだけどね。
そう付け加えられて、少し話しておいてもいいのではないかと思い、他言無用として話すことにした。
――ユクトルがランドール男爵令嬢と懇意なこと。
――仕事を押し付けられていること。
――今度の舞踏会でエスコートができないと言われたこと。
「ですので、証拠も大分集まりまして。頃合いを見て王家と話し合いの場を設けたいと思っているところですの」
何故時期に関してはっきりした言葉を使わないのかというと、タイミングを見計らっていることもある。
コントワーズの王家にはユクトルしか王子がおらず、王妃の生家は伯爵家で後ろ盾としては少し弱い。
そのこともあり、我がフォンデル公爵家へ婚約の話が持ち込まれたというのに、ユクトルの愛人は男爵令嬢である。
――まさか、私に側室になって王家を支えろ、とか言って来ないわよね?
ユクトルの性格を考えると有り得ないとは言い切れない。
ランドール男爵令嬢は一度目の生ではパーティに参加することくらいしかしていなかった。
婚約破棄できたとしても、ユクトルの側室になってしまったら意味がない。
そんなことをつらつらと思い悩んでいるとユージーンが声を掛けてきた。
「確かにコントワーズの王太子は道を間違えているようだね。それでその後フォンデル公爵令嬢はどうするのかな?」
先を見越した問い掛けにアルディスは言葉を濁すしかなかった。
「それは……その時になったら考えますわ」
やはり修道院だろうか。
そんなことを思った時、ユージーンの青い瞳がアルディスを捕らえた。
「では、こういうのはどうだろう? コントワーズの王太子が真実の愛を見付けたため長年の婚約者であるフォンデル公爵令嬢が身を引いた。そしてその性根を気に入ったシグルド帝国の第二王子に見初められて婚約する、というのは?」
「「「は?」」」
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