死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ

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第10話 婚約破棄宣言は舞踏会で ①

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 この王国の王宮には舞踏会が開かれる広間が五つある。

 外交を兼ねた大広間には正装した男女が百人踊ってもまだ余裕があるほどの広さがあり、また壁や天井は名画や名工の装飾品で隙間なく埋め尽くされ、国の威信と権威を示していた。

 またごく内輪でのお披露目、といった趣旨に合うよう二十人ほどが踊れば充分という広間もあるが、そちらは滅多に使われることはない。

 どの広間も装飾には凝っており、自分達が王宮にいるということを嫌でも自覚させられる作りになっていた。

 そんな大広間の内のひとつにユクトルのエスコートを受けてアレクシアは来ていた。

 今回の舞踏会は三か月に一度開かれるものであり、各貴族の動向に変化がないかどうかのチェックも兼ねているため、それらのことを知っている貴族側の出席率は高い。
 
 アレクシアは水色のドレスを着ていたが、それは自分で選んだものであり、婚約者のユクトルからドレスを送られたことは一度もなかった。

 このままでいいのかしら?

 ユクトルはエスコートはしてくれたものの、すぐにオリビアを探しに行ってしまった。

 君ならひとりでも大丈夫だろう、と告げて。

 このことからもユクトルの愛情がアレクシアにないことは明らかだ。

 オリビアは反省してくれたようだが、このまま婚約を維持して彼と婚姻を結ぶのは難しい気がする。

 それと最早この件は内々で済ませる訳には行かなくなっていた。

 だけどそれでいいのかしら。

 ユクトルとの婚約を破棄してユージーンと婚姻を結べばこの国から出られるだろう。

 だがそうなった場合、彼の息子ケインは産まれてくるのだろうか。

 アレクシアが思案に暮れた時、聞き慣れた声がした。

「こんばんは。フォンデル公爵令嬢。今宵のあなたはまた麗しいですね」

 ユージーンの声にアレクシアは振り向く。

「これは第二王子殿下。恐れ入ります」

 だがそういうユージーンも第二王子というだけだって正装が様になっている。

 すでに大広間のあちらこちらからは女性達の視線が集まってきていた。

 ユージーンがエスコートしたのは国内の公爵夫人だが、不惑の年をすぎた彼女はユージーンが断りを入れると早々に夫人達が集まっている方へ移動したらしい。

 畏まっているアレクシアにユージーンが残念そうに告げた。

「もう少し自信を持ってくれてもいいんだが。やはりさっさっと決めた方がいいかもしれないな」

 あの後、オリビアとも何回か話をしたがその内容を聞いたユージーン達は渋い表情をした。

『は? あいつとの婚約を継続? そんなことするわけないだろう』

『ユージーン殿下。黒いものが出かかってますよ。抑えて下さい』

 帝国の二人が言い合っていると今度はゾフィーが心配げに口を開く。

『アレクシア様。言うだけでしたら誰でもできますわ。よく状況を見て下さい』

『そうですよ。これまでの彼女の動向を見るとかなり胡散臭いですよ』

 マッテオも続き、婚約破棄の方向へ持って行くのが最も良い選択ではないか、という結論に至ったのだが、ここで問題が発生した。

 婚約破棄の話を持っていった父フォンデル公爵が執務室で渋い顔で告げたのだ。

『やはりすぐには難しいようだ』

 王や王妃はまだしも、宰相が大反対しているという。

『一応、今の王太子殿下の状況を伝え、今のままでは将来の王政に支障が出る、と告げたのだが』

 王族の仕事、それも次代の王ともなるとその仕事はかなりのものになる。

 それぞれの領主からの月ごとの報告書の確認や、王族が許可を出さねばならない治水事業など、最終決定権は王にあるものもあるが、それまでの書類は王太子が目を通しておくのが慣例となっていた。

 そうすることで王にもしものことがあってもすぐに引き継ぎができるようになっているのだが、現在ユクトルはそのほとんどの書類仕事をアレクシアに負担させている。

 それでは王に万が一のことが起きた場合、ユクトルでは対応できないことになる。

『今からでも遅くない。王太子殿下に公務をさせよ、と宰相に言われてしまってな』

 それができないからこんなことになっているのだが。

 今の宰相は先王の代からいる宰相で名をツイゲルト・クラスター公爵という。

 今年五六になる彼は若い頃は改革派とよばれていたが、近年は保守派と言われるほど守りの政策を打ち出すことが多い。

 先王の頃に災害や戦が多かったことを考えると当然の流れでもあるのだが、若い貴族の間には不満が溜まっているらしく、ユクトルが王位に就いた際には宰相から降りるのでは、と言われていた。

 実際、一度目の生ではユクトルが即位した後、彼は宰相の任を解かれている。

 だから、あの革命が起きたのよね。

 少しでも政に通じている者なら、革命を実行したのは辺境伯だが、その裏では宰相が糸を引いていたと思うのが普通だ。

 アレクシアは革命後ほとんどすぐに処刑されてしまったため、その後の記憶はない。

 なにか他に思い出せることはないかしら。

 アレクシアがそっと記憶を探っていた時、穏やかな声が掛けられた。

「今宵は我がコントワーズ国の舞踏会へご参加いただき誠に恐悦至極にございます。第二王子殿下」


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