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第11話 婚約破棄宣言は舞踏会で ②
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まさに今アレクシアが思案していた人物の声だった。
「クラスター公爵。こちらこそ留学を快諾していただき、感謝しております。帝国としても貴国の繁栄を願いたいところです」
そつなく話が進むなか、ユクトルが壇上へ上がるのが見えた。何故か一緒にオリビアも連れて来られている。
オリビアはユクトルと一緒にいるというのにどこか浮かない表情に見えた。
ユクトルと一緒にいるのを嫌がっている? まさか。
「今宵は舞踏会への参列、有り難く思う。これでこのコントワーズ王国も安寧を迎えるだろう。だが」
そこまで言ってユクトルはアレクシアがいる方を睨んだ。
「この場にふさわしくない者が紛れこんでいるようだ」
思わぬユクトルの言葉に大広間がざわり、と揺れた。
国王夫妻は少し離れたところに居たが、その言葉を聞き、控えていた侍従へ合図を送る。
恐らくこれから何が起こるか国王夫妻は知らないのだろう。
王国主催の舞踏会で不手際は許されない。
しかも主催側の王太子であるユクトルが何かやらかした暁には王家の威信が地に落ちてしまう。
だが侍従が駆け寄るよりもユクトルの発言の方が早かった。
「リュック、報告を」
「はっ」
ユクトルに促されて傍らへ寄ったのはリュック・クラスター公爵令息だった。
彼は名の通りクラスター公爵の息子で四男である。ユクトルと同学年であるが後継には関りのない三男以降のため、卒業後はユクトルの側近となるのではないか、と噂されている。
どちらかというと学業の面で有能で、アレクシアがいなければ学年で一位を取れていたかもしれない。
そのため何かと険のある視線を向けられ、一度目の記憶が蘇ってからはできるだけ接触を避けていた人物でもある。
何やら書類を持ったリュックがちらり、とこちらへ視線を向けた後、報告する。
「この報告によりますと、アレクシア・フォンデル公爵令嬢はオリビア・ランドール男爵令嬢に対し、教科書を破る、配下の令嬢に陰口を叩かせ、不穏な噂を流す等、公爵令嬢としてあるまじき行為をしていたのは明らかです」
――は?
何を言っているのだろう。
アレクシアはそんなことをした覚えは全くないし、配下の令嬢とはいったい誰のことなのだろうか?
王宮での王太子妃教育に加え、学業、ユクトルの書類仕事、そして生徒会の仕事までこなすアレクシアは多忙であり、友人を作る時間など全くなかった。
報告とは一体誰が、と思わずオリビアの方を見るとユクトルの後ろで懸命に首を振っている。
その頃になってようやく侍従がユクトルの元へ駆けつけ、何やら小声で報告を上げているようだがユクトルはかぶりを振った。
「アレクシア・フォンデル公爵令嬢!! お前には王太子妃となる資格などない!! 今日この場をもってお前との婚約を破棄する!!」
婚約の破棄など、通常は当人ができるものではない。
しかも舞踏会という半ば公式の場である。
これは国王夫妻も納得のことなのか、と貴族達の視線が向かう先の国王夫妻の顔色は悪い。
それを見た一部の貴族は状況を正確に把握したようだったが、ユクトルの愚行は止まらなかった。
「衛兵!! この不届き者を捕らえよ!!」
王族の命令は絶対のため、何人か反応したが国王が即座に合図を送ると皆、元の配置へ戻った。
動きの悪い衛兵達にしびれを切らしたようにユクトルが叫ぶ。
「どうした? アルノ!! その女を捕らえろ!!」
アルノ・トライフル侯爵令息はユクトルと同学年であり、騎士団長の次男という立場もあり、側近候補として名が挙がっている。
学業はイマイチなものの、その気さくな人柄と快活な性格で万人受けはいい。そのアルノが茶色の眉を顰めてアレクシアの方へ駆け寄ってきた。
「女性に手荒なことはあまりしたくないんだけど。ま、殿下の命令なんでね」
アレクシアの腕を掴もうとしたその手が素早く止められる。
「家臣なら主へ忠言することも大事だと思うけれど?」
「……第二王子殿下。みっともないところを見せたのは申し訳ありませんがこれはこちらのことですので」
アルノが何とか敬語を駆使してユージーンへ引き下がって貰おうとしているようだが、それは逆効果だったようだ。
「こちらのこと? 婚約者というだけで公務をさんざん押し付けてこき使った挙句、不要になると罪をでっちあげて処罰しようとするのが貴国の通常なのか? 事と次第によっては帝国に報告した上、そちらとの付き合いも考えさせてもらう重要案件なんだけどね」
ユージーンはにこり、と笑みを浮かべているがそれを見た者は何故か皆、悪寒を感じたように震え出した。
「いや、そんなつもりでは……」
すっかり気圧されたアルノがユクトルの方へ助けを求めるように視線を向けるとそちらでも事態が動いていた。
「何をしているアルノさっさと……何だ?」
壇上へ上がって来た衛兵達がユクトルへ一礼して告げる。
「王太子殿下はここ最近の激務のせいか、大変お疲れかと。今すぐに休養されるようにとの国王陛下からのご命令にございます」
「なに!?」
ユクトルが反駁しようとするが有無を言わさず、という体で衛兵が連行して行く。
「まて、父上どうして――」
ユクトルが抵抗を試みるなか、リュックの傍らに宰相が寄ってくる。
「馬鹿なことをしたな」
「父上?」
「帰るぞ。お前も今日から邸で休養だ。何もしなくていいぞ。後のことはこちらでやっておく」
戸惑ったように視線を迷わせるリュックの腕を掴み、宰相も退出した。
「クラスター公爵。こちらこそ留学を快諾していただき、感謝しております。帝国としても貴国の繁栄を願いたいところです」
そつなく話が進むなか、ユクトルが壇上へ上がるのが見えた。何故か一緒にオリビアも連れて来られている。
オリビアはユクトルと一緒にいるというのにどこか浮かない表情に見えた。
ユクトルと一緒にいるのを嫌がっている? まさか。
「今宵は舞踏会への参列、有り難く思う。これでこのコントワーズ王国も安寧を迎えるだろう。だが」
そこまで言ってユクトルはアレクシアがいる方を睨んだ。
「この場にふさわしくない者が紛れこんでいるようだ」
思わぬユクトルの言葉に大広間がざわり、と揺れた。
国王夫妻は少し離れたところに居たが、その言葉を聞き、控えていた侍従へ合図を送る。
恐らくこれから何が起こるか国王夫妻は知らないのだろう。
王国主催の舞踏会で不手際は許されない。
しかも主催側の王太子であるユクトルが何かやらかした暁には王家の威信が地に落ちてしまう。
だが侍従が駆け寄るよりもユクトルの発言の方が早かった。
「リュック、報告を」
「はっ」
ユクトルに促されて傍らへ寄ったのはリュック・クラスター公爵令息だった。
彼は名の通りクラスター公爵の息子で四男である。ユクトルと同学年であるが後継には関りのない三男以降のため、卒業後はユクトルの側近となるのではないか、と噂されている。
どちらかというと学業の面で有能で、アレクシアがいなければ学年で一位を取れていたかもしれない。
そのため何かと険のある視線を向けられ、一度目の記憶が蘇ってからはできるだけ接触を避けていた人物でもある。
何やら書類を持ったリュックがちらり、とこちらへ視線を向けた後、報告する。
「この報告によりますと、アレクシア・フォンデル公爵令嬢はオリビア・ランドール男爵令嬢に対し、教科書を破る、配下の令嬢に陰口を叩かせ、不穏な噂を流す等、公爵令嬢としてあるまじき行為をしていたのは明らかです」
――は?
何を言っているのだろう。
アレクシアはそんなことをした覚えは全くないし、配下の令嬢とはいったい誰のことなのだろうか?
王宮での王太子妃教育に加え、学業、ユクトルの書類仕事、そして生徒会の仕事までこなすアレクシアは多忙であり、友人を作る時間など全くなかった。
報告とは一体誰が、と思わずオリビアの方を見るとユクトルの後ろで懸命に首を振っている。
その頃になってようやく侍従がユクトルの元へ駆けつけ、何やら小声で報告を上げているようだがユクトルはかぶりを振った。
「アレクシア・フォンデル公爵令嬢!! お前には王太子妃となる資格などない!! 今日この場をもってお前との婚約を破棄する!!」
婚約の破棄など、通常は当人ができるものではない。
しかも舞踏会という半ば公式の場である。
これは国王夫妻も納得のことなのか、と貴族達の視線が向かう先の国王夫妻の顔色は悪い。
それを見た一部の貴族は状況を正確に把握したようだったが、ユクトルの愚行は止まらなかった。
「衛兵!! この不届き者を捕らえよ!!」
王族の命令は絶対のため、何人か反応したが国王が即座に合図を送ると皆、元の配置へ戻った。
動きの悪い衛兵達にしびれを切らしたようにユクトルが叫ぶ。
「どうした? アルノ!! その女を捕らえろ!!」
アルノ・トライフル侯爵令息はユクトルと同学年であり、騎士団長の次男という立場もあり、側近候補として名が挙がっている。
学業はイマイチなものの、その気さくな人柄と快活な性格で万人受けはいい。そのアルノが茶色の眉を顰めてアレクシアの方へ駆け寄ってきた。
「女性に手荒なことはあまりしたくないんだけど。ま、殿下の命令なんでね」
アレクシアの腕を掴もうとしたその手が素早く止められる。
「家臣なら主へ忠言することも大事だと思うけれど?」
「……第二王子殿下。みっともないところを見せたのは申し訳ありませんがこれはこちらのことですので」
アルノが何とか敬語を駆使してユージーンへ引き下がって貰おうとしているようだが、それは逆効果だったようだ。
「こちらのこと? 婚約者というだけで公務をさんざん押し付けてこき使った挙句、不要になると罪をでっちあげて処罰しようとするのが貴国の通常なのか? 事と次第によっては帝国に報告した上、そちらとの付き合いも考えさせてもらう重要案件なんだけどね」
ユージーンはにこり、と笑みを浮かべているがそれを見た者は何故か皆、悪寒を感じたように震え出した。
「いや、そんなつもりでは……」
すっかり気圧されたアルノがユクトルの方へ助けを求めるように視線を向けるとそちらでも事態が動いていた。
「何をしているアルノさっさと……何だ?」
壇上へ上がって来た衛兵達がユクトルへ一礼して告げる。
「王太子殿下はここ最近の激務のせいか、大変お疲れかと。今すぐに休養されるようにとの国王陛下からのご命令にございます」
「なに!?」
ユクトルが反駁しようとするが有無を言わさず、という体で衛兵が連行して行く。
「まて、父上どうして――」
ユクトルが抵抗を試みるなか、リュックの傍らに宰相が寄ってくる。
「馬鹿なことをしたな」
「父上?」
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