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第24話 焦燥 (ユージーンside)
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例の舞踏会から五日後。
まだ彼女の消息は分からなかった。
第二騎士団の報告によると、彼女らしき女性が王都を出たという情報はないから、まだ王都の内にいると思うのだが。
クラスター公爵の派閥はそれほど多くはないが、街道の要所要所を収める領主はほぼ抑えているあたり、やり手だと思われる。
面倒な相手を向こうにしてしまったな。
派閥の中でもクラスター公爵に最も近い貴族達の邸や別邸等はとっくに調査済みだった。
一体どこにいるんだ。
もし浚ったのが宰相であるクラスター公爵ならば、彼女の血筋を考えればそうひどいことにはなっていないかもしれないが、それでも――
ぐっ、と拳を握りしめたとき、執務室の扉が開いた。
「早いな」
寝不足と見られる顔で入ってきたのはフォンデル公爵だった。
「そちらこそ」
時刻はまだ早朝。日が早くなったとはいえ、まだ空に明るい色味はない。
俺は立ち上がるとフォンデル公爵へ席を譲った。
「お借りしていました」
そんな俺を手でフォンデル公爵が押し留める。
「構わんよ。もういつものことだろう」
俺はフォンデル公爵邸へ泊まり込んで捜索をしていた。
これが帝国であれば話は別だったが、今の立場では手足に使える者達の数も圧倒的に足りず、いくら『帝国の第二王子』とはいっても実践となるとここではほとんど役に立たなかった。
それでも一度目の生の記憶から彼女を誘拐しそうな貴族を挙げていったのだが、今のところ空振りに終わっている。
これが帝国内ならまだやりようがあったものを。
ふがいなさを感じているとフォンデル公爵の目の下に隈があるのが見えた。
「これで王都内のほとんどのクラスター公爵が関わる邸は当たったが」
直接アレクシアのことを聞く訳にもいかないため、別件の調査としてそれぞれの邸に探りを入れたのだが、収穫はなかった。
もしかしたら懇意にしている商人の館の方か、と第二騎士団に捜索させたのだが、そちらも同様だった。
だからフォンデル公爵の顔色が悪く見えるのは当然なのだが、なにかが違うような気がした。
「早く見つかるといいのだが」
ここ数日のフォンデル公爵はそこまで感情を露わにしていなかった。
だがここに来て焦ってきたのだろう。
アレクシアが行方不明、ということはすでに国王へ報告済みだった。
というよりあの舞踏会の翌日には王宮からの勅使が来たため、隠すもなにもなくなってしまった。
仕方なくフォンデル公爵自ら赴き、現状を説明した後、アレクシアはユクトルの言葉に衝撃を受け寝込んでいる、ということになった。
だがそれもいつまで持つか。
俺も学園があるが、熱を出したということにして休んでいた。
あまり休んでもマズいな。
留学生という立場もあるが、それでも俺はここから動けなかった。
そんな俺の胸中を見透かしたようにフォンデル公爵が声をかける。
「第二王子殿下には申し訳ないのですが、そろそろ学生としての本分をまっとうされてはいかがですかな」
「わかっている」
俺が学生寮ではなく、このフォンデル公爵邸から通っているというのがバレるのも時間の問題だろう。
そんなことを思っていると執務室の扉が叩かれた。
「入れ」
入室してきたのはフォンデル公爵の侍従だった。
「失礼いたします。取り急ぎ旦那様との面談を望む者が来ております」
「こんな時間にか。相手は誰だ?」
「それが……第三騎士団の者にございまして」
第三騎士団は王都の守りを任されているが主に最下層の貧民街が多い。
「そうか。会ってみるか」
「かしこまりました」
そこでフォンデル公爵が俺の方を見たがそれに対して首を振って答えた。
恐らく彼女に関する報告の可能性が高い。
「もし俺が思っているのと違う用件でしたらすぐに退出します」
そう言うともうなにも言われなかった。
侍従に案内されてきたのは、中肉中背のどこにでもいるような男だった。
「お忙しいところ失礼いたします。第三騎士団団長を務めますカイン・フリンクと申します。本日はお時間を取っていただきありがとうございます」
「フォンデルだ。それでこちらに用件とはなにかな?」
姓だけ名乗るところを見ると、第三騎士団の団長とは初対面らしい。
「はっ、この度探し人がおられるとのことで第三騎士団にて捜索にあたっていたところ、つい最近若い女性が出入りした邸を見付けまして」
俺は立ち上がりそうになるのを必死に抑え、湧き上がる感情を押し込めた。
それはフォンデル公爵も同じだったようだ。
「それはどこだ?」
社交辞令もなにもかもすっとばした問い掛けに第三騎士団の団長が答える。
「はっ、西地区の空き家なのですが、場所が場所でしてなかなか買い手がつかないところについ最近手が入れられ、数日前には馬車の出入りが頻繁にあったとのことです」
話を要約すると、その馬車のうちの一台が作りが質素な割に護衛の者たちの雰囲気が物々しく、さらに馬車から降りた女性は頭からフードをつけた外套で姿を隠していたにも関わらず、どこか上品な空気を纏っているように見えたという。
フォンデル公爵が壁際に控えていた侍従に合図すると侍従がすぐに書棚から地図を取り出し、机に広げた。
「それでどこだ?」
再びの問い掛けに男の武骨な指が地図上のある一点を指す。
「ここです」
まだ彼女の消息は分からなかった。
第二騎士団の報告によると、彼女らしき女性が王都を出たという情報はないから、まだ王都の内にいると思うのだが。
クラスター公爵の派閥はそれほど多くはないが、街道の要所要所を収める領主はほぼ抑えているあたり、やり手だと思われる。
面倒な相手を向こうにしてしまったな。
派閥の中でもクラスター公爵に最も近い貴族達の邸や別邸等はとっくに調査済みだった。
一体どこにいるんだ。
もし浚ったのが宰相であるクラスター公爵ならば、彼女の血筋を考えればそうひどいことにはなっていないかもしれないが、それでも――
ぐっ、と拳を握りしめたとき、執務室の扉が開いた。
「早いな」
寝不足と見られる顔で入ってきたのはフォンデル公爵だった。
「そちらこそ」
時刻はまだ早朝。日が早くなったとはいえ、まだ空に明るい色味はない。
俺は立ち上がるとフォンデル公爵へ席を譲った。
「お借りしていました」
そんな俺を手でフォンデル公爵が押し留める。
「構わんよ。もういつものことだろう」
俺はフォンデル公爵邸へ泊まり込んで捜索をしていた。
これが帝国であれば話は別だったが、今の立場では手足に使える者達の数も圧倒的に足りず、いくら『帝国の第二王子』とはいっても実践となるとここではほとんど役に立たなかった。
それでも一度目の生の記憶から彼女を誘拐しそうな貴族を挙げていったのだが、今のところ空振りに終わっている。
これが帝国内ならまだやりようがあったものを。
ふがいなさを感じているとフォンデル公爵の目の下に隈があるのが見えた。
「これで王都内のほとんどのクラスター公爵が関わる邸は当たったが」
直接アレクシアのことを聞く訳にもいかないため、別件の調査としてそれぞれの邸に探りを入れたのだが、収穫はなかった。
もしかしたら懇意にしている商人の館の方か、と第二騎士団に捜索させたのだが、そちらも同様だった。
だからフォンデル公爵の顔色が悪く見えるのは当然なのだが、なにかが違うような気がした。
「早く見つかるといいのだが」
ここ数日のフォンデル公爵はそこまで感情を露わにしていなかった。
だがここに来て焦ってきたのだろう。
アレクシアが行方不明、ということはすでに国王へ報告済みだった。
というよりあの舞踏会の翌日には王宮からの勅使が来たため、隠すもなにもなくなってしまった。
仕方なくフォンデル公爵自ら赴き、現状を説明した後、アレクシアはユクトルの言葉に衝撃を受け寝込んでいる、ということになった。
だがそれもいつまで持つか。
俺も学園があるが、熱を出したということにして休んでいた。
あまり休んでもマズいな。
留学生という立場もあるが、それでも俺はここから動けなかった。
そんな俺の胸中を見透かしたようにフォンデル公爵が声をかける。
「第二王子殿下には申し訳ないのですが、そろそろ学生としての本分をまっとうされてはいかがですかな」
「わかっている」
俺が学生寮ではなく、このフォンデル公爵邸から通っているというのがバレるのも時間の問題だろう。
そんなことを思っていると執務室の扉が叩かれた。
「入れ」
入室してきたのはフォンデル公爵の侍従だった。
「失礼いたします。取り急ぎ旦那様との面談を望む者が来ております」
「こんな時間にか。相手は誰だ?」
「それが……第三騎士団の者にございまして」
第三騎士団は王都の守りを任されているが主に最下層の貧民街が多い。
「そうか。会ってみるか」
「かしこまりました」
そこでフォンデル公爵が俺の方を見たがそれに対して首を振って答えた。
恐らく彼女に関する報告の可能性が高い。
「もし俺が思っているのと違う用件でしたらすぐに退出します」
そう言うともうなにも言われなかった。
侍従に案内されてきたのは、中肉中背のどこにでもいるような男だった。
「お忙しいところ失礼いたします。第三騎士団団長を務めますカイン・フリンクと申します。本日はお時間を取っていただきありがとうございます」
「フォンデルだ。それでこちらに用件とはなにかな?」
姓だけ名乗るところを見ると、第三騎士団の団長とは初対面らしい。
「はっ、この度探し人がおられるとのことで第三騎士団にて捜索にあたっていたところ、つい最近若い女性が出入りした邸を見付けまして」
俺は立ち上がりそうになるのを必死に抑え、湧き上がる感情を押し込めた。
それはフォンデル公爵も同じだったようだ。
「それはどこだ?」
社交辞令もなにもかもすっとばした問い掛けに第三騎士団の団長が答える。
「はっ、西地区の空き家なのですが、場所が場所でしてなかなか買い手がつかないところについ最近手が入れられ、数日前には馬車の出入りが頻繁にあったとのことです」
話を要約すると、その馬車のうちの一台が作りが質素な割に護衛の者たちの雰囲気が物々しく、さらに馬車から降りた女性は頭からフードをつけた外套で姿を隠していたにも関わらず、どこか上品な空気を纏っているように見えたという。
フォンデル公爵が壁際に控えていた侍従に合図すると侍従がすぐに書棚から地図を取り出し、机に広げた。
「それでどこだ?」
再びの問い掛けに男の武骨な指が地図上のある一点を指す。
「ここです」
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